| 労務トピックス |
| 北海道職員の「就活セクハラ」疑い報道――インターン生との個人LINEの交換は禁止すべきか。改正均等法13条の施行直後に報じられた事案から、会社の管理体制と、被害を申告した学生の採用選考の扱いを考える |
| 2026年10月21日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士) |
|
|
おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。
2026年10月21日、毎日新聞は、北海道が主催したインターンシップで、道の男性職員が参加した女子学生とLINEの連絡先を交換し、食事に誘うなどの連絡を繰り返し、学生が断った後も連絡を重ねていたと報じました。道は学生に謝罪して職員をインターン担当から外し、「就活セクハラ」に該当する可能性があるとして処分を検討しているとのことです。
この報道が出たのは、改正男女雇用機会均等法13条が施行され、就活生やインターン生などの「求職者等」に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が全事業主の義務になった2026年10月1日から3週間後です。報じられた行為自体は8月で施行前ですが、同じことが施行後の会社で起きれば、改正法と指針に沿った対応が求められます。本記事では、この事案を改正法施行後の会社に置き換えて、3つの論点を考えます。担当者と学生の個人間の連絡先交換は認めてよいか、会社の管理体制はどこを点検すべきか、そして被害を申告した学生の採用選考をどう扱うべきか、です。
改正法と指針の全体像は、求職者等セクハラ防止指針の解説記事と厚生労働省の解釈Q&Aの解説記事で扱っています。本記事は事案を起点に、3つの論点に絞ります。
|
| 📌 この記事でわかること |
|
✓ 毎日新聞の報道によれば、北海道主催のインターンシップ(8月から9月、計291人参加)で、インターン生の指導等を担当していた男性職員が8月に女子学生とLINEを交換し、食事に誘うなどの連絡を繰り返した。学生は断ったが連絡は続き、学生が道の担当部局に相談して発覚した。道は謝罪して職員を担当から外し、10月20日時点で事実関係を調査中、職員はおおむね認めているとされること
✓ 2026年10月1日施行の改正均等法13条は、インターンシップ参加者を含む「求職者等」へのセクハラ防止措置を事業主に義務付け、指針(令和8年厚生労働省告示第52号)は「面談時間及び場所の指定、実施体制並びにやり取りに用いるSNSの種類の指定」を事前にルール化して労働者と求職者等の双方に周知することを求めている。都道府県などの地方公共団体も民間企業と同じく措置義務を負うこと
✓ 論点1(連絡先交換):担当者個人のLINEや私用の連絡先の交換は原則として禁止し、学生との連絡は記録が残り担当者以外も確認できる会社管理の手段に一本化すべきである。愛知県は10月1日付で職員の私的な連絡先による交換と私的な接触を禁じる方針を公表し、厚生労働省の周知文例は連絡手段を「Emailのみ」としている。実効性を決めるのは禁止ではなく代替手段の設計であること
✓ 論点2(管理体制):指針の4区分(方針・ルールの明確化、相談窓口の求職者等への周知、事後の迅速な対応、プライバシー保護・不利益取扱い禁止)で点検する。報道の範囲では、道の謝罪、担当からの引き離し、調査、処分検討という流れは指針の事後対応の順序に沿う。中小企業では担当者の選任と複数体制、インターン終了後の連絡制限が要になること
✓ 論点3(採用選考):法13条2項が禁じる不利益取扱いの対象は相談対応や事実確認に「協力した労働者」であり、申告した学生本人を採用しないことを直接禁じる明文は法律にも指針にも見当たらない。それでも会社は、選考に影響させない、行為者を選考から外す、申告の情報を選考担当者から遮断する、不利な扱いも特別扱いもしない、選考過程を記録する、の5原則で対応すべきこと
個人LINEは、採用活動を会社の目が届かない場所へ移す装置です。改正法が求めているのは、採用活動を会社の目が届く場所で行うことです。
|
|
|
出典について
本件の事実関係は、毎日新聞が2026年10月21日に配信した記事(Yahoo!ニュース掲載、小林大輝記者)に基づいています。本記事の執筆時点(10月21日)で、他の報道機関による報道と北海道の公式発表は確認できていません。単一の報道に依拠している記述であることを前提にお読みください。職員の所属部局、学生の所属、連絡の回数や期間、相談から謝罪までの日数、道が学生に採用選考上どのような説明をしたかは報じられておらず、本記事はこれらを補いません。
法令と指針は、改正均等法の施行通達(雇均発0424第1号、令和8年4月24日)、求職者等セクハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第52号)、厚生労働省の解釈Q&A(令和8年4月24日付、同年9月30日改訂)を厚生労働省のウェブサイトで確認しました。統計は厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書と正誤表によります。愛知県の方針は愛知県のウェブサイト、北海道のインターンシップの実施期間と相談窓口の案内は北海道のウェブサイトで確認しました。
「当法人の見解」「当法人の整理」と記した部分は当法人の意見であり、行政や報道機関の見解ではありません。
|
|
| 1 報道の概要――何が起きたのか |
|
毎日新聞の記事から読み取れる経緯を、時系列に整理します。
|
| 時期 |
報じられた事実 |
| 2026年8月から9月 |
道が、道への就職を希望する大学生らを対象にインターンシップを開催。計291人が参加。男性職員は所属部局でインターン生の指導などを担当 |
| 8月 |
男性職員が、8月のインターンシップに参加した女子学生とLINEの連絡先を交換 |
| その後 |
職員が学生にメッセージを送り、食事に誘うなどした。学生は断ったが、職員はさらに連絡を重ねた |
| 時期は報道なし |
学生が道の担当部局に相談し、問題が発覚。道は学生に謝罪し、職員をインターン担当から外した |
| 10月20日時点 |
道は事実関係を調査中として職員を処分しておらず、就活セクハラに該当する可能性があるとして処分を検討。職員は学生に対する行為をおおむね認めている。道人事課は毎日新聞の取材に、参加した学生の期待を裏切る行為であり再発防止に努めるとコメント |
|
| 出典:毎日新聞「北海道職員が『就活セクハラ』か 女子学生に不適切なLINE繰り返す」(Yahoo!ニュース、2026年10月21日配信)。 |
|
報道で確認できるのはここまでです。これに加えて、当法人が北海道のウェブサイトで確認したところ、令和8年度の北海道庁インターンシップ(一般行政)の募集ページには、実施期間が2026年8月17日から9月11日までの4週のうち1週間程度とされ、インターンシップや業務説明会等で道職員からセクシュアル・ハラスメントを受けたと思われる方は道庁のハラスメント相談窓口に相談するよう案内が載っています。相談窓口の周知自体は、募集の段階で行われていたことになります。学生が相談した「担当部局」がこの窓口と同じかどうかは、報道からは分かりません。
|
| 2 なぜインターンシップで起きるのか――実態調査が示す行為者の内訳 |
|
本件の構図は、珍しいものではありません。厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」(委託先PwCコンサルティング合同会社、報告書は令和6年3月)は、就職活動等におけるセクシュアルハラスメントについて次の結果を示しています。
|
| 項目 |
結果 |
| 就活等セクハラを受けた者の割合(2020年度から2022年度の卒業者) |
インターンシップ中に1回以上受けた者30.1%、インターンシップ以外の就職活動中に受けた者31.9% |
| 行為者(インターンシップ中に受けた者の回答) |
「インターンシップ先で知り合った従業員」47.4%(最多) |
| 行為者(インターンシップ以外の就職活動中に受けた者の回答) |
「大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員」38.3%(最多) |
| 企業が把握した事案の行為者(企業調査) |
「インターンシップを担当した自社従業員」40.0%(最多。正誤表による訂正後の値で、訂正前は38.1%。回答数が少なく参考値とされている) |
| 企業の就活等セクハラ防止の取組 |
「特にない」53.0%(最多)。就活等セクハラの相談があった企業は0.7% |
|
| 出典:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」報告書および正誤表。企業調査の取組状況は改正法施行前のもの。 |
|
インターンシップ中に被害を受けた人が挙げる行為者で最も多いのは、インターンシップ先で知り合った従業員です。企業側が把握した事案でも、インターンシップを担当した自社従業員が最多です。本件の職員は所属部局でインターン生の指導などを担当していたと報じられており、調査が示す最も多い型に当たります。
当法人の整理を加えれば、インターンシップの指導担当者は、学生から見れば評価者であり、採用の入口に立つ人です。数日から数週間の期間に1対1で接する時間が長く、職場の人間関係より親しくなりやすい一方で、終了後の連絡は会社の目が届きません。ここに個人の連絡先の交換が加わると、学生が断っても連絡が続く状況を、会社が把握できないまま続くことになります。本件で学生が相談に至るまでにどれだけの連絡があったかは報じられていませんが、構造としてはこの型です。
|
| 3 改正均等法13条――2026年10月1日から何が義務になったか |
|
令和7年法律第63号による改正で、男女雇用機会均等法に13条が新設され、2026年10月1日に施行されました。改正前と改正後の違いは次のとおりです。
|
| 項目 |
改正前(2026年9月30日まで) |
改正後(2026年10月1日から) |
| 保護の対象 |
措置義務(11条)の対象は自社が雇用する労働者。就活生・インターン生への言動は、セクハラ防止指針で注意を払う「望ましい取組」にとどまる |
13条1項が「求職者等」を対象に追加。求職者(応募者・面接を受ける者)のほか、就職説明会・インターンシップ・OB・OG訪問など採用に資する活動の参加者と、教育実習・看護実習その他の実習生(施行規則2条の3) |
| 事業主の義務 |
求職者等に関しては法律上の措置義務なし |
相談に応じ適切に対応する体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずる義務。企業規模を問わず全事業主。違反には報告徴収・助言・指導・勧告、勧告に従わない場合の企業名公表 |
| 求職活動等のルール |
定めなし |
「面談時間及び場所の指定、実施体制並びにやり取りに用いるSNSの種類の指定」などをあらかじめ明確化し、労働者と求職者等の双方に周知(指針4⑴ハ) |
| 相談窓口 |
労働者向けの窓口 |
窓口をあらかじめ定め、ホームページやパンフレット等で求職者等に周知(指針4⑵)。人事担当者以外を担当者とすることも可 |
| 事後の対応 |
定めなし |
事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への配慮の措置、行為者への措置(懲戒等)、再発防止措置(指針4⑶) |
| 不利益取扱いの禁止 |
11条2項:労働者が相談したこと等を理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止 |
13条2項:労働者が求職者等からの相談対応や事実関係の確認に協力したことを理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止。相談した求職者等本人に関する明文の規定はない |
|
| 出典:改正均等法の施行通達(雇均発0424第1号)、求職者等セクハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第52号)。 |
|
本件の女子学生は、道のインターンシップの参加者ですから、改正法の下では「採用に資する活動に参加する者」として求職者等に当たります。なお、インターンシップを授業の一環として行う社会科見学のような専ら教育目的の活動は除かれますが(施行通達)、道のプログラムは道への就職を希望する学生を対象とするものと報じられており、この除外には当たらないと考えられます。
道は地方公共団体ですが、均等法のセクハラ防止措置義務は地方公務員にも適用されます。均等法の公務員に関する適用除外規定(令和元年改正法時点の32条)は、措置義務を含む第2章第2節の規定を一般職の国家公務員等には適用しないとする一方で、地方公務員を除外していません。新設の13条も同じ節に置かれていますから、都道府県や市町村は民間企業と同じく措置義務を負うと解されます。実際に愛知県は、2026年10月1日付で令和7年法律第63号に基づく求職者等へのセクシュアル・ハラスメント防止方針を公表しています(第4章で触れます)。
改正に伴い、従来の11条の2(事業主・労働者の責務)は12条に、11条の3と11条の4(妊娠・出産等に関するハラスメント)は15条と16条に繰り下がったと、労働局のパンフレットで説明されています。就業規則やハラスメント防止規程で均等法の条番号を引用している会社は、引用先の確認が必要です。改正後の条番号については当法人が条文の原文で確認できていない部分がありますので、最終的には官報またはe-Gov法令検索でご確認ください。
|
| 4 論点1 担当者と学生の個人間の連絡先交換は認めてよいか |
|
本件の出発点は、LINEの連絡先の交換です。法律は連絡先の交換そのものを禁じていませんが、行政は連絡手段をルール化の対象として明確に示しています。
|
| 資料 |
連絡手段・接触に関する記載 |
| 求職者等セクハラ防止指針4⑴ハ |
求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者と求職者等に周知・啓発する。例として「面談時間及び場所の指定、実施体制並びにやり取りに用いるSNSの種類の指定」 |
| 厚生労働省 解釈Q&A 問33 |
面談等の規則の例として、面談時間・場所の指定、複数人で対応するなどの実施体制、求職者等とのやり取りに用いるSNSの種類の指定を挙げる。労働者には研修等で周知し、求職者等にはホームページやパンフレット等で面談等の留意事項を周知する必要がある |
| 厚生労働省の周知文例(例3「求職者等への周知を会社ホームページやリーフレット等で行う例」) |
連絡手段は「やり取りにはEmailのみを使用します」。面談は会社が指定した場所で、閉じられた空間では必ず複数人で実施。相談したことや事実確認に協力したことが採用選考の判断に影響を与えることはない旨を明記 |
| 愛知県知事部局の方針(2026年10月1日更新) |
面接・面談その他の接触は勤務時間内に庁舎その他の適切な場所で行う。原則として複数名の職員で対応する。職員が私的に利用するメールアドレス、SNSアカウント、電話番号等で連絡先を交換せず、私的な接触は行わない。相談窓口は人事局人事課監察室(専用フォームとメール) |
|
| 出典:指針本文、解釈Q&A(令和8年9月30日改訂)、労働局ウェブサイト掲載の規定例・周知文例、愛知県「求職者等に対するセクシュアル・ハラスメントの防止について(知事部局)」。 |
|
指針とQ&Aは「SNSの種類の指定」までを例示し、厚生労働省の周知文例は「Emailのみ」、愛知県は「私的な連絡先の交換禁止」と、具体化が進むほど個人の連絡先を排除する方向に向かっています。当法人の見解も同じ方向です。
|
|
当法人の見解――禁止するのは「個人の連絡先」であって「個別の連絡」ではない
担当者個人のLINE、私用の携帯電話番号、私用のメールアドレスの交換は原則として禁止し、学生との連絡は、会社のメールアドレス、採用管理システムのメッセージ機能、会社が開設した公式アカウントなど、記録が残り、担当者以外も確認できる会社管理の手段に一本化するのが適切と考えます。理由は3つあります。
1 本件の経過が示すとおり、個人の連絡先は、会社が把握できない場所で連絡が続くことを可能にします。学生が断っても連絡が続くという状況は、会社管理の手段であれば記録から把握でき、学生が相談する前に会社が止められます。個人LINEでは、学生が相談して初めて会社が知ることになります。
2 学生の連絡先は、職業安定法5条の5が定める求職者等の個人情報であり、求人者は採用業務の目的の達成に必要な範囲内で収集し、保管し、使用しなければなりません。担当者が食事に誘う目的で使うことは、この範囲の外にあります。会社管理の手段に一本化することは、個人情報の目的外使用を構造的に防ぐことでもあります。
3 指針は、ルールを労働者だけでなく求職者等にも周知することを求めています。学生が「担当者から個人の連絡先を聞かれたら断ってよい」「聞かれたこと自体を相談窓口に伝えてよい」と募集の段階で知っていることが、本件の型の抑止になります。禁止ルールは、学生に周知して初めて効きます。
最も強い反論は、採用の現場から出てきます。若手社員による個別のフォロー、いわゆるリクルーターは、知名度で劣る中小企業の採用競争力であり、学生の側がLINEでのやり取りを望むことも多い。全面禁止は現実的でなく、守られないルールは無いのと同じだ、という反論です。当法人は、この反論の前提を認めたうえで、禁止の対象を取り違えないことが答えだと考えます。禁止するのは「個人の連絡先」であって「個別の連絡」ではありません。会社の公式アカウントや採用管理システムの個別メッセージを使えば、1対1の連絡は可能で、記録は会社に残ります。OB・OG訪問などでどうしても個人の連絡先が要る場合は、上司の承認と記録を条件とする例外にします。インターンシップ終了後の連絡は、採用選考に関する会社からの正式な連絡に限ります。
失敗要因ははっきりしています。禁止だけして代替手段を用意しない会社では、連絡先の交換が隠れて続きます。簡易な確かめ方を1つ挙げれば、採用担当者とインターン担当者に、この1年で学生と個人のLINEや電話番号を交換したことがあるかを匿名で尋ねることです。1人でも「ある」と答えれば、ルールの前に代替手段の整備が要ります。
|
|
| 5 論点2 会社の管理体制――本件を施行後の民間企業に置き換えると |
|
指針が事業主に求める措置は4つに区分されます。本件を施行後の民間企業に置き換えたときの点検項目と併せて整理します。
|
| 区分 |
指針が求める措置 |
本件に即した点検項目 |
| �@方針・ルールの明確化と周知 |
求職者等セクハラを行ってはならない方針。行為者への対処方針と内容を就業規則等に規定。求職活動等のルールの明確化。いずれも労働者と求職者等に周知(4⑴) |
就業規則の服務規律と懲戒事由に「求職者等に対するセクハラ」が入っているか。連絡手段のルールがあるか。インターン担当者が研修を受けているか |
| �A相談体制 |
窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知。人事担当者以外を担当者にすることも可(4⑵、Q&A問34) |
採用ページとインターンシップの募集要項に窓口が載っているか(道の募集ページには記載あり)。担当者が対応できる状態か |
| �B事後の迅速・適切な対応 |
事実関係の迅速かつ正確な確認。被害者への配慮の措置(引き離し、謝罪等)。行為者への措置(懲戒等)。再発防止(4⑶) |
誰が双方から聴取するかを決めてあるか。本件で道が行った謝罪、担当からの引き離し、調査、処分検討は、この順序に沿う |
| �Cプライバシー保護・不利益取扱い禁止 |
相談者・行為者等のプライバシー保護の措置を講じ、労働者と求職者等に周知。事実確認等に協力した労働者が不利益取扱いを受けない旨を定め周知(4⑷) |
相談記録の保管者と閲覧範囲が決まっているか。選考担当者に申告の情報が流れない仕組みがあるか(第6章) |
|
| 出典:求職者等セクハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第52号)4⑴から⑷。「本件に即した点検項目」は当法人の整理。 |
|
報道の範囲で道の初動を見ると、学生への謝罪、職員をインターン担当から外すこと(被害者と行為者の引き離し)、事実関係の調査、処分の検討という流れは、指針4⑶が求める事後対応の順序に沿っています。他方で、連絡先の交換を禁じるルールがあったか、インターン担当者に研修をしていたか、学生に採用選考上の説明をしたかは、報道からは分かりません。
中小企業の実務で付け加えるべきことは3つあると当法人は考えます。1つ目は担当者の選任で、インターン担当者は研修を受けた者に限り、複数担当制として、担当者の上司が学生との接触の状況を確認できるようにします。2つ目はインターンシップ終了後の連絡制限で、終了時に学生へ「今後の連絡は採用選考に関する会社からの正式な連絡のみ」と伝えます。3つ目は終了時のアンケートで、無記名で答えられるハラスメントの設問を入れます。本件では学生が自ら相談しましたが、実態調査が示すとおり、相談に至らない学生の方が多いと考えるべきです。
行為者への措置は、民間企業では就業規則の懲戒事由が根拠になります。指針4⑴ロは、行為者への対処方針と内容を就業規則等に規定して周知することを求めています。本件のように断られた後も食事に誘う連絡を続ける行為は、厚生労働省の規定例で「食事・交際を執拗に求めること」として禁止行為に挙げられている類型です。処分の重さは、行為の内容、反復性、相手の拒否の有無、行為者の地位などで決まります。セクシュアルハラスメントを理由とする出勤停止と降格を有効とした最高裁判決(海遊館事件・最高裁第一小法廷平成27年2月26日判決)では、相手が明確な拒否の姿勢を示していなかったことを行為者に有利に考慮すべきではないとされました。本件では学生が明確に断っており、その後も連絡が続いたという点で、行為者に不利な事情が報道上は多いことになります。ただし、処分の前提は事実確認です。本件の職員は行為をおおむね認めていると報じられるにとどまり、道も調査中としています。民間企業でも、本人の弁明を聴き、LINEの記録を保全し、学生からの聴取は窓口担当者が行ってから処分を決めるのが順序です。公務員の場合は地方公務員法29条1項に基づく懲戒処分となり、道が定める懲戒処分の指針によります。
なお、行為者個人は不法行為責任(民法709条)を、会社は使用者責任(民法715条)や措置義務を怠ったことに基づく責任を問われ得ます。地方公共団体の場合は国家賠償法1条の問題となります。本件で損害賠償の請求があったとは報じられていません。
|
| 6 論点3 被害を申告した学生の採用選考をどう扱うか |
|
本件の学生が道の採用試験を受けるかどうかは報じられていません。しかし、インターンシップは採用に資する活動ですから、被害を申告した学生がその後その会社の選考を受けることは、民間企業では当然に想定すべき場面です。ここに法律の空白があります。
13条2項が禁じているのは、労働者が求職者等からの相談対応や事実関係の確認に協力したことを理由とする解雇その他の不利益取扱いです(施行通達)。指針4⑷ロも、対象は労働者です。相談した求職者等本人を採用しないことを直接禁じる規定は、当法人が確認した範囲では、法律にも指針にも見当たりません。採用の自由(三菱樹脂事件・最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)があり、採用しない理由は外形からは分からないため、法律が「選考から外すな」と命じにくかったことが背景にあると当法人は推測します。
ただし、空白は自由ではありません。3つの理由があります。1つ目に、労働局のパンフレットには、相談したことを理由とする不利益取扱いとして「選考から外す等」を禁止と説明するものがあり、行政が助言・指導の場面でそのように扱うおそれがあります。2つ目に、厚生労働省の周知文例には、相談を行ったことや事実確認に協力したことが採用選考の判断に影響を与えることはない旨の一文があり、この文例に沿って会社が自ら公表した以上、その方針に反する選考は信義則上許されません。3つ目に、相談の内容は職業安定法5条の5の個人情報であり、相談対応の目的で得た情報を選考に使えば目的外使用です。加えて、申告を理由に不採用とすれば、採用の自由の範囲を超える違法な動機による不採用として不法行為(民法709条)に基づく損害賠償の対象になり得ます。
|
|
当法人の整理――被害を申告した学生の選考で守るべき5原則
原則1 情報を遮断する。申告の事実と内容を、面接官・評価者など選考の判断に関わる者に伝えません。相談窓口の記録は選考の記録と分けて保管し、閲覧者を限定します。配慮に必要な情報は、窓口担当者と人事の責任者が動線の設計に使うにとどめます。
原則2 行為者を選考から外す。行為者とされる従業員を、面接、評価、リクルーター、説明会など学生と接する一切の役割から外し、学生が行為者と顔を合わせない動線を確保します。事実確認が終わる前であっても、引き離しは指針4⑶ロの配慮措置として先に行います。
原則3 学生に文書で伝える。相談したことが選考に影響しないこと、選考を受けるか辞退するかは自由であること、入社後の配属で行為者と離す配慮を希望できることを、口頭ではなく文書で伝えます。学生が安心して判断できる材料を会社が提供することが、相談窓口を周知した会社の責任です。
原則4 不利な扱いも、特別扱いもしない。内定を確約するなどの優遇は、口止めや取引と受け取られ、他の応募者との公正も損ないます。選考の基準は能力と適性に限ります。
原則5 選考過程を記録する。評価の根拠を、第三者が見ても説明できる形で残します。不採用となった場合に、申告と無関係に判断したことを示せるのは記録だけです。
|
|
|
反論も想定しておきます。「選考担当者に申告の事実を知らせなければ配慮ができない」という反論に対しては、配慮は行為者を外すことと動線の設計であり、それは窓口担当者と人事の責任者が行えばよく、選考の判断者が知る必要はない、と答えます。「被害に遭った学生に内定を出せば丸く収まる」という反論に対しては、それは選考ではなく取引であり、学生にとっても他の応募者にとっても公正ではない、と答えます。もう1つ、学生側の視点からの反論があります。会社がどれだけ原則を掲げても、学生は「申告したら落とされる」と考えて申告しない、という指摘です。これは実態調査の数字が裏づけており、だからこそ原則3の文書による説明と、原則2の目に見える引き離しが要ります。
なお、採用内定により労働契約が成立したと認められる段階からは、学生は11条の「労働者」として保護され、不利益取扱いの禁止も及びます(施行通達)。入社後の配属で行為者と同じ部署にしないといった配慮は、内定後も続きます。
|
| 7 当法人の視点 |
|
「連絡先の交換は是か非か」という問いは、本当は「採用活動のどこまでを会社の目が届く場所に置くか」という問いです。
|
|
当法人の見解
当法人は、本件が示す最も重要なことは、個人LINEが採用活動を会社の目が届かない場所へ移す装置になるという点だと考えます。改正法と指針が求めるルールの明確化、窓口の周知、迅速な事実確認は、いずれも採用活動が会社の見える場所にあることを前提にしています。個人の連絡先で続く連絡は、その前提を外します。道の募集ページには相談窓口の案内があり、学生は相談できました。それでも、連絡が続いている間、道は知らなかったのです。相談窓口は事後の装置であり、連絡手段のルールは事前の装置です。改正法施行後の会社に求められるのは、後者を先に整えることです。
この見解には、根拠が十分でない前提があります。本件の事実は毎日新聞の報道だけに基づいており、道の公式発表は確認できていません。道に連絡先交換を禁じるルールがあったかどうか、職員が研修を受けていたかどうかは分かりません。改正後の均等法の条番号にも、当法人が原文で確認できていない部分があります。
最も強い反論は、学生側の視点から出てきます。ルールと窓口を整えても、学生が相談しなければ会社は気づけない、という指摘です。実態調査では、就活等セクハラ防止の取組が「特にない」企業が53.0%ある一方で、相談があった企業は0.7%にすぎません。相談がないことは、起きていないことを意味しません。会社が「うちは相談が1件もないから大丈夫だ」と考えるなら、それが最大の失敗要因になると当法人は考えます。
簡易な確かめ方を1つ挙げます。自社の採用ページとインターンシップの募集要項を今開いて、求職者等向けの相談窓口が載っているかを確認してください。載っていなければ、10月1日以降の措置義務を満たしていません。載っていれば次に、担当者と学生の連絡手段を会社が指定しているかを確認してください。
|
|
| まとめ |
|
毎日新聞の報道によれば、北海道主催のインターンシップで指導を担当した男性職員が女子学生とLINEを交換し、食事に誘うなどの連絡を学生が断った後も続け、学生の相談で発覚しました。道は謝罪して職員を担当から外し、10月20日時点で調査中です。2026年10月1日施行の改正均等法13条の下では、インターンシップ参加者は「求職者等」として保護され、事業主は連絡手段を含む求職活動等のルールの明確化と周知、相談窓口の求職者等への周知、迅速な事後対応を義務付けられます。地方公共団体も同じです。連絡先の交換については、個人の連絡先を禁じて会社管理の手段に一本化すること、管理体制については指針の4区分で点検すること、被害を申告した学生の選考については、法律に明文がないからこそ、情報の遮断、行為者の除外、文書による説明、特別扱いの禁止、記録の5原則で会社が自ら公正さを担保することが要ります。
当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。採用活動を会社の目が届く場所に置くための規程と運用を、経営者と一緒に設計してまいります。就業規則やハラスメント防止規程への反映については就業規則作成・改訂、申告があった後の対応については労働紛争解決、継続的なご相談については高難度業務対応型顧問のページもご覧ください。
|
|
インターンシップと採用活動のハラスメント対策を点検しませんか
連絡手段のルール、求職者等向け相談窓口の設計、就業規則への反映、申告があった後の選考の進め方まで、 社会保険労務士法人T&M Nagoya がご相談をお受けします。
▶ 無料相談のお申し込みはこちら
|
|
|
|
| この記事を書いた人 |
|
三重 英則(HIDENORI MIE)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)
法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。
|
|