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作成日:2026/05/08
【法改正】求職者等セクハラ防止指針(令和8年2月26日公布) 「採用」段階のハラスメント対策が義務化 ― 企業は何を整備すべきか
法改正 2026年10月施行

求職者等セクハラ防止指針(令和8年2月26日公布)
「採用」段階のハラスメント対策が義務化 ― 企業は何を整備すべきか

2026年5月4日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya
📌 本記事のポイント
2025年6月11日公布(令和7年法律第63号)の改正法により、求職者等セクハラ・カスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務に。
2026年2月26日、求職者等セクハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第52号)が公布。施行は2026年10月1日。
これまでセクハラ防止措置義務の対象は「労働者」のみだったが、求職者・就活生・インターン生にも拡大される。
企業は施行までの約5か月で、規程整備・相談窓口設置・採用情報への相談先明記・採用関係者研修を完了する必要がある。

はじめに ― 「就活セクハラ」の時代に終止符

「会社説明会の後、リクルーターから個人的に食事に誘われ、断ると面接結果に影響しそうで断れなかった」――。「OB訪問でホテルのラウンジに呼び出され、不適切な発言を受けた」――。「インターンシップの最終日に、人事担当者から不適切な要求を受けた」――。

こうした「就活セクハラ」の被害は、就職活動を経験した若者のおよそ3人に1人が経験したと報告されています(厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」)。被害者の多くは「就活への影響を恐れて声を上げられなかった」と回答しており、構造的に弱い立場にある求職者の保護が急務となっていました。

これまで男女雇用機会均等法のセクハラ防止措置義務は「労働者」のみを対象としていたため、求職者・就活生・インターン生・OB/OG訪問者などは法的保護の枠外に置かれてきました。改正労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法によって、この空白がついに埋められることになります。

2025年6月11日に改正法が公布され、2026年2月26日に求職者等セクハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第52号)およびカスタマーハラスメント防止指針(同告示第51号)が公布されました。施行日は2026年10月1日。施行まで残り約5か月、企業は採用プロセスの全面的な見直しが求められています。

1. 改正の概要 ― 改正前後の比較

本改正の全体像を、改正前後の対比で整理します。

項目 改正前(現行) 改正後(2026年10月1日〜)
セクハラ防止措置の対象 事業主が雇用する労働者のみ(均等法第11条) 労働者に加え、求職者・就活生・インターン生・内定者等にも拡大(均等法第13条新設)
就活セクハラへの対応 指針上「望ましい取組」にとどまる(法的義務なし) 事業主の法的義務として明確化
カスタマーハラスメント 法律上の定義・防止措置義務なし 改正労働施策総合推進法で定義され、防止措置が事業主の義務となる
相談窓口の周知 社内向け労働者への周知が中心 求職者の目に触れる形で外部にも相談先を周知(採用HP・募集要項等)
不利益取扱いの禁止 労働者が相談したことを理由とする不利益取扱い禁止 求職者が相談したことを理由とする採用選考結果への影響・内定取消等を禁止

2. 改正の背景 ― 「就活セクハラ」被害の深刻さ

厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、就職活動またはインターンシップ中にセクシュアルハラスメント被害を経験した者は、令和2年度の調査時点(約4人に1人)から令和5年度にはおよそ3人に1人へと増加しており、就活セクハラは深刻化しています。

▼ 被害が発生する典型的場面
会社説明会・面接後の個別接触(食事・飲み会への誘い)
OB/OG訪問(カフェ・ホテルラウンジ等での個別面談)
インターンシップ期間中(業務指導の延長としての接触)
内定者懇親会・内々定後の接触
行為者として最も多いのは「インターンシップで知り合った従業員」、被害内容で最多なのは「性的な冗談やからかい」とされています。

2025年の通常国会で労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・女性活躍推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)が成立し、6月11日に公布されました。同法には次の3つの柱が含まれます。

@ カスタマーハラスメント防止措置の義務化(労働施策総合推進法改正)
A 求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止措置の義務化(男女雇用機会均等法第13条新設)
B 女性活躍推進法の改正(情報公表強化、認定基準改正等)

3. 改正の要点 ― 事業主に課される5つの義務

改正法および求職者等セクハラ防止指針により、事業主は次の5つの措置を講じることが義務化されます。

義務@ 事業主の方針の明確化と周知・啓発

就業規則・服務規律・ハラスメント防止規程等に次の事項を明記することが求められます。

求職者等に対するセクハラを行ってはならない旨
行為者には厳正に対処する旨(就業規則上の懲戒対象となること)
求職者等にも方針を周知すること
「求職者等」の範囲:求人に応募した者・選考過程にある者・会社説明会やOB/OG訪問の参加者・インターンシップ参加者・内々定者を含む内定者まで、幅広く対象となります。

義務A 相談(苦情を含む)に応じる体制の整備

求職者等が利用できる相談窓口を設置し、窓口担当者を定め、適切に対応できるよう研修を実施する必要があります。特に重要なのが「外部に対して見える形での相談先周知」です。社内向けの就業規則だけでは足りず、求職者の目に触れる場所(採用ホームページ・募集要項・説明会資料等)に相談先を明示する必要があります。

義務B ハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者および行為者への適切な措置(行為者への懲戒・配置転換等/被害者への配慮)、再発防止に向けた措置を講じる義務があります。求職者等が被害者である場合、自社の労働者ではないため、被害者ケアの方法(謝罪・選考プロセスへの再アクセス保障・心身のケア窓口紹介等)を別途設計する必要があります。

義務C プライバシー保護と不利益取扱いの禁止

相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な措置を講じるとともに、相談したこと・事実確認に協力したことを理由とする不利益取扱い(採用選考結果への影響、内定取消、内々定取消等)が禁止されます。「相談したことを理由に不採用にしてはならない」というルールは、社内のハラスメント相談と同様、相談したこと自体が不利益取扱いの理由になることを禁ずるものです。

義務D 採用関係者への研修・教育

採用に関与するすべての者(人事担当者・面接官・OB/OG訪問対応社員・インターン指導担当者等)に対し、研修を実施します。研修内容には以下を含めるべきです。

求職者等セクハラの典型例
採用プロセス特有の構造的不均衡(求職者は弱い立場にある)
SNSでの個別連絡・私的な食事誘い等の禁止
違反した場合の懲戒等の取扱い

4. 企業の対応 ― 5か月のロードマップ

2026年10月1日の施行に向け、5月の本日から逆算した実務スケジュールを示します。

時期 アクション 具体的内容
〜2026年6月 Step 1
規程整備
就業規則・ハラスメント防止規程の改訂。求職者等セクハラの定義条項新設、懲戒事由への明記、採用担当者・OB/OG訪問対応者の禁止行為(個人的連絡・私的食事誘い等)の明記
〜2026年7月 Step 2
相談窓口整備
求職者等が利用可能な相談窓口設置。既存の社内窓口を活用する場合は「求職者等も利用可」と周知。中小企業は外部機関(社労士事務所・弁護士事務所等)の活用も有効。匿名相談の仕組み(メール・専用フォーム)が望ましい
〜2026年8月 Step 3
採用情報整備
採用ホームページ・募集要項・採用パンフレット・会社説明会資料・インターンシップ募集要項・OB/OG訪問返信メールテンプレートに相談先を明記
〜2026年9月 Step 4
採用関係者研修
人事・面接官・OB/OG訪問対応者・インターン指導担当者全員に研修実施。「採用プロセスの構造的不均衡」「やってはいけない言動チェックリスト」「SNS・私的連絡の取扱い」「相談を受けた場合の対応フロー」
2026年9月下旬 Step 5
最終確認
規程の施行日適用準備、相談窓口の稼働確認、採用HPの相談先表示確認、採用関係者全員の研修受講確認

5. カスタマーハラスメント防止指針との関係

同日(令和8年2月26日)公布されたカスタマーハラスメント防止指針も、2026年10月1日施行です。両指針は別物ですが、企業は両方を同時並行で整備する必要があります。

項目 求職者等セクハラ カスタマーハラスメント
守る対象 求職者・就活生・インターン生 自社の労働者
想定される加害者 自社の労働者・採用関係者 顧客・取引先
規程整備の場所 就業規則・ハラスメント防止規程 就業規則・カスハラ対応規程
相談窓口 求職者向け+労働者向け(外部に開く) 労働者向け(内部のみ)

両者の最大の違いは、求職者等セクハラは「社外の人を社内の加害から守る」、カスハラは「社外の人による加害から労働者を守る」点にあります。方向性が逆であることを意識した規程整備が必要です。

6. 中小企業の対応 ― リソース不足をどう乗り越えるか

中小企業にとって、5か月で両ハラスメント対策を整備するのは容易ではありません。当法人がご提案する効率化のポイントは次のとおりです。

▼ 中小企業向けリソース活用策
@ 規程テンプレートの活用:厚生労働省のモデル規程・モデル就業規則をベースに、自社の実情に合わせてカスタマイズ
A 相談窓口の外部委託:社労士事務所・弁護士事務所・専門カウンセリング機関等への外部委託を検討
B 研修の集合実施・eラーニング活用:商工会議所・業界団体等の集合研修や、市販eラーニング教材の活用
C 助成金の活用:両立支援等助成金(職場環境改善コース)、人材確保等支援助成金等で研修費用・規程整備費用が対象となるケースを確認

7. 「採用」と「労務」の境界が消える

これまで、採用業務(人事・採用担当)と労務業務(労務管理・社労士)は別の領域として運用されてきた企業が多いと思います。しかし、求職者等セクハラ防止指針の施行により、採用プロセスそのものが労務管理の対象となります。

▼ 採用領域に広がる労務管理の対象
採用ホームページ・募集要項の労務観点でのチェック
面接官・採用担当者の研修
インターンシップ・OB/OG訪問の運用ルール整備
内定者対応規程の整備

おわりに ― 「人を採用する」という行為への責任

採用は、企業が外部の人材に対して影響力を行使する場面です。求職者は応募した瞬間から、その企業に対して構造的に弱い立場に置かれます。この非対称性を悪用した行為が、就活セクハラとして長年放置されてきました。

2026年10月1日からの新ルールは、この構造を変え、「人を採用する」という行為に伴う倫理的責任を、企業が法的に負うことを明確化するものです。ゴールデンウィーク明け、人事担当者が採用活動に本腰を入れる時期に、本指針の内容をご確認いただき、夏までに規程整備・研修・相談窓口設置を完了されることを強くおすすめいたします。

経営者の皆様、人事担当者の皆様におかれては、「採用は単なる選考ではなく、企業文化を社外に開示する場である」という視点で、本改正を前向きに捉え、健全な採用文化の構築につなげていただきたく存じます。

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根拠法令・参考資料

【根拠法令】
●労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)
●改正男女雇用機会均等法第13条(求職活動等における性的な言動に関する措置義務)【新設】
●労働施策総合推進法(カスタマーハラスメント防止措置義務)【新設】

【告示・指針】
●事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号、令和8年2月26日公布)
●事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号、令和8年2月26日公布)

【施行】2026年(令和8年)10月1日

【参考資料】
●厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
●厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
●厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」
【免責事項】本記事は2026年5月4日時点の情報に基づき作成しております。今後の通達・Q&A等により解釈が補足される可能性があります。具体的な実務対応にあたっては、最新の公式情報を確認のうえ、当法人または専門家にご相談ください。
執筆
監修
三重 英則 / Mie Hidenori
社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士・経営心理士・経営法曹会議賛助会員
〔IPO労務監査/M&A労務デューデリジェンス/ハラスメント防止規程整備支援/外部相談窓口受託〕
所在地:愛知県名古屋市中区/https://www.mh5.jp/