| 労務トピックス |
働く人の74.6%が「職場にフキハラをする人がいる」 「不機嫌ハラスメント」は法律上どう扱われるか――パワハラ3要素と安全配慮義務から読み解く |
| 2026年10月19日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士) |
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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。
2026年10月2日、日刊SPA!が「舌打ち、溜め息、無視…全国の職場に蔓延する『不機嫌ハラスメント』の深刻な実態」と題する記事を配信しました。挨拶を無視する、報告に溜め息や舌打ちで応じる、渡した書類を机に放り投げる。こうした不機嫌な態度で周囲を萎縮させる言動は「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」と呼ばれ、株式会社エムフロの調査では、働く人の74.6%が「職場にフキハラをする人がいる」と答えています。
一方で、この言葉は法律上の用語ではなく、法令にも指針にも定義がありません。「法律に定義がないのだから会社は何もしなくてよい」のか、「名前がないだけで、すでに法律の射程に入っている」のか。本記事では、2つの調査の数値を確認し、2025年から2026年にかけて報じられた3つの事案(警視庁の警視正の注意処分、栃木県内の自治体職員の和解、東京ガス子会社出向社員の労災認定判決)を整理したうえで、パワハラ防止法の3要素と安全配慮義務の観点から、経営者が押さえるべき線引きを示します。
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| 📌 この記事でわかること |
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✓ 株式会社エムフロの調査(2026年5月、500人)では、働く人の74.6%が「職場にフキハラをする人がいる」と回答しました。KiteRa社の調査(2025年6月、1,196人)では、職場で不快な言動を受けた人の45.8%が退職を検討しており、「ため息や舌打ち、挨拶を返さないなどの不機嫌な態度」は、経験した言動のうち最も多い26.2%でした。
✓ 「フキハラ」は法律上の用語ではなく、定義もありません。しかし、労働施策総合推進法30条の2が定める3要素――優越的な関係を背景とした言動、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、就業環境が害されること――を満たせば、名称にかかわらず職場のパワーハラスメントに当たります。
✓ 「優越的な関係」は職位の上下で決まりません。パワハラ防止指針は、業務上必要な知識や経験を持ち、その協力がなければ業務が円滑に進まない同僚・部下の言動も含むと定め、厚生労働省の解釈Q&A(2026年9月30日改訂)も、同僚や部下からの言動が該当し得ると明記しています。
✓ 2025年12月に警視庁の警視正が4年間の不機嫌な態度で注意処分を受け、2025年11月には栃木県内の自治体職員が部下の舌打ちや顔背けで休職し本人訴訟の末3万円で和解、2026年4月には東京地裁が「明確なパワハラ」の認定なしに出向社員の自死を労災と認めました。いずれも、不機嫌という「態度」が組織の責任や金銭解決に転化した事案です。
✓ 当法人は、フキハラを「新しいハラスメント」としてではなく、「態度」を「行為」に翻訳して記録し対応する問題として捉えることをお勧めします。規程の定義、記録の方法、相談窓口の受付範囲、管理職への支援の4点を点検項目として示します。
法律に名前がないことと、会社に責任がないことは、別の問題です。
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| 1 本記事の情報源と確認できた範囲 |
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本記事の出発点は、日刊SPA!が2026年10月2日に配信した記事(取材・文 齊藤武宏氏)です。同記事は、株式会社エムフロとKiteRa社の調査、慶應義塾大学の満倉靖恵教授、神奈川県立保健福祉大学大学院の津野香奈美教授、弁護士の藤原規眞氏のコメント、3つの事案を紹介しています。本記事では、同記事が引用する調査について、株式会社エムフロのプレスリリース(PR TIMES、2026年6月23日)とKiteRa社のプレスリリース(2025年6月26日)の本文を確認しました。KiteRa社の調査のうち、言動の種類別の退職検討割合は、プレスリリースではグラフで示されており、本文に数値の記載がない項目があります。
3つの事案のうち、警視庁の警視正の注意処分は、毎日新聞(2026年3月10日)の報道を引用した弁護士JPニュース(2026年4月28日)とプレジデントオンライン(2026年3月13日)で確認しました。栃木県内の自治体職員の和解は、毎日新聞(2025年11月28日)の報道によるものですが、本記事では同記事の本文を直接確認できておらず、公開されているリード部分と日刊SPA!の記述に依拠しています。請求額、裁判所名、和解の日付は確認できていません。東京ガス子会社出向社員の労災認定判決は、当法人が2026年5月29日に解説記事を公開しており、判決原文は確認できていないこと、国側の控訴の有無は本稿執筆時点でも確認できていないことをお断りしておきます。
法令と指針については、パワーハラスメント防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)と、厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年4月24日公表、同年9月30日改訂、10月1日適用)のPDFを確認しています。専門家のコメントは、いずれも日刊SPA!の記事で報じられた内容であり、当法人が直接取材したものではありません。
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| 2 2つの調査が示す実像――「いる」が74.6%、「辞めたい」が45.8% |
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まず、報道の見出しになった数値を、調査の設計とあわせて確認します。株式会社エムフロの調査は、仕事をしている500人(女性345人、男性155人)を対象に、2026年5月20日から21日にかけてインターネットで任意回答を集めたものです。「職場にフキハラをする人がいる」と答えた割合が74.6%でした。
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| 株式会社エムフロ「フキハラが及ぼす悪影響ランキング」 |
回答割合 |
| 職場にフキハラをする人がいる |
74.6% |
| 悪影響1位 雰囲気が悪くなる |
28.4% |
| 悪影響2位 コミュニケーションが減る |
20.6% |
| 悪影響3位 仕事の効率が下がる |
17.0% |
| 悪影響4位 不安感が大きくなる/5位 本来業務以外で気を遣う |
(本文に数値の記載なし) |
出典:株式会社エムフロ「【フキハラが及ぼす悪影響ランキング】男女500人アンケート調査」(PR TIMES、2026年6月23日公開)。調査期間2026年5月20日から21日、インターネットによる任意回答、500人(女性345人、男性155人)。
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もう1つは、社内規程の作成・管理サービスを提供するKiteRa社が2025年6月に公表した「職場のグレーゾーンハラスメントに関する実態調査」です。18歳から65歳のビジネスパーソン1,196人を対象に、2025年6月13日から17日にかけてインターネットで行われました。この調査は「フキハラ」という言葉を使っておらず、法律上のハラスメントに当たるかどうかが明確でない「グレーゾーン」の言動全般を扱っています。
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| KiteRa社「職場のグレーゾーンハラスメントに関する実態調査」 |
回答割合 |
| 職場で不快な言動を受けたことがある |
50.2% |
| 経験した言動で最多 ため息や舌打ち、挨拶を返さないなどの不機嫌な態度 |
26.2% |
| 経験した言動の2位 社内の飲み会や接待への参加強制 |
16.2% |
| 経験した言動の3位 過去の慣習や個人的な価値観に基づいた発言 |
14.5% |
| 受けた言動が原因で退職を検討した |
45.8% |
| 退職を検討した割合(言動別) 無視・仲間外れ |
70.2% |
| 同 社外の飲み会・接待への参加強制 |
66.4% |
| 同 ため息・舌打ち・挨拶を無視(日刊SPA!の記述による) |
51.8% |
| 不快な言動を抑制する規定を(一部を含め)設けている企業 |
34.7% |
出典:KiteRa社「【職場のグレーゾーンハラスメント実態調査実施】」(2025年6月26日公開)。調査期間2025年6月13日から17日、18歳から65歳のビジネスパーソン1,196人。言動別の退職検討割合のうち「ため息・舌打ち・挨拶を無視」の51.8%は、プレスリリース本文に数値の記載がなく、日刊SPA!の記事の記述に依拠しています。
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2つの調査を重ねると、次のことが読み取れます。不機嫌な態度は、グレーゾーンの言動の中で最も「よくある」もの(経験者の26.2%)でありながら、退職検討につながる割合(51.8%)は、無視・仲間外れ(70.2%)や飲み会の強制(66.4%)より低い。つまり、頻度は高いが、単体では「辞める」までの決定打になりにくい言動です。ただし、不機嫌な態度が「無視」に発展すれば、退職検討割合は7割に跳ね上がります。日刊SPA!の記事が満倉教授の脳波研究を引いて、人は他人の不機嫌に無意識に同調してしまうと述べているとおり、1人の不機嫌が職場全体の雰囲気を悪化させるというエムフロ調査の悪影響1位(28.4%)とも整合します。
もう1つ注目すべきは、不快な言動を抑制する規定を設けている企業が34.7%にとどまるという数値です。パワハラ防止法の措置義務は2022年4月から中小企業にも全面適用されていますが、「法律上のパワハラ」の手前にある言動を規程で扱っている会社は3社に1社にすぎないということです。なお、いずれの調査もインターネットの任意回答であり、回答者の偏りがあり得ることは念頭に置く必要があります。
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| 3 報じられた3つの事案――「態度」が組織の責任に転化した場面 |
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日刊SPA!の記事は、フキハラが「グレーゾーン」であり、被害者は泣き寝入りを強いられていると結んでいます。しかし、2025年から2026年にかけての報道を並べると、態度そのものが処分、金銭解決、労災認定に結び付いた事案が、少なくとも3つあります。
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| 事案 |
行為者と相手 |
報じられた言動 |
結果 |
警視庁の警視正 2025年12月 注意処分 |
警視庁本部の課長だった男性警視正(60歳)から部下へ |
2021年9月から2025年9月まで、日常的に不機嫌な態度で接し、部下を萎縮させ、職場環境を悪化させた |
警務部長注意。警視庁はパワハラとは認定していない(被害者とされる側にパワハラを受けている認識がなかったため)。2026年3月9日付で辞職 |
栃木県内の自治体職員 2025年11月 和解 |
経験の長い女性の部下から、30歳の男性上司へ |
顔を背ける、数字の根拠を尋ねると舌打ちをする、意見が対立すると周囲に聞こえるように「顔も見たくない」と言う。上司は心身の不調で休職 |
弁護士2人に前例が少ないとして依頼を断られ、生成AIで訴状を作成して本人訴訟。部下が3万円を支払う内容で和解 |
東京ガス子会社出向社員 東京地裁令和8年4月13日判決 |
出向先の上司から、入社2年目の社員(当時24歳)へ |
報道で「フキハラ」と評された上司の言動に加え、指導体制の欠落、会社の事後対応。社員は2018年に自死 |
労基署長の遺族補償給付不支給処分を取消し。判決は上司の言動単独では明確なパワハラとまでは認定せず、出来事を一体的に評価して心理的負荷「強」と判断。控訴の有無は確認できていない |
出典:警視庁の事案は毎日新聞(2026年3月10日)の報道を引用した弁護士JPニュース(2026年4月28日)およびプレジデントオンライン(2026年3月13日)。栃木県内の自治体職員の事案は毎日新聞(2025年11月28日)および日刊SPA!(2026年10月2日)。休職期間は日刊SPA!では2か月とされています。東京ガスの事案は当法人の2026年5月29日記事。
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3つの事案は、法的な位置付けがそれぞれ異なります。警視庁の事案は、パワハラの認定を経ずに、態度そのものが服務上の問題として処分の対象になった例です。処分は「警務部長注意」という軽いものでしたが、組織が「不機嫌な態度で部下を萎縮させたこと」を処分理由として公表した意味は小さくありません。栃木の事案は、部下から上司への「態度」が、金額は小さいながら金銭解決に至った例です。弁護士に断られ、本人訴訟で和解に至った経緯は、日刊SPA!の記事で藤原弁護士が指摘するとおり、この種の事案で証拠を集めることの難しさを示しています。
そして東京ガスの事案は、裁判所が「明確なパワハラ」とは認定しないまま、業務起因性を認めた例です。当法人の5月の記事で詳しく解説したとおり、労基署は出来事を1つずつ評価して心理的負荷を「中」としましたが、判決はこれらを一体的に評価して「強」と判断しました。「パワハラと認定されなかった」ことと「会社に責任がない」こととは、同じではない。この構図は、フキハラを考えるうえで最も重要な前提になります。
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| 4 法律はフキハラをどう扱うか――パワハラ3要素へのあてはめ |
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日刊SPA!の記事で津野教授は、現行法はフキハラを定義しておらず、対等な同僚の間で起きても企業に対策義務はない、と述べています。この指摘は、法律の建付けとしては正確です。労働施策総合推進法30条の2第1項が事業主に措置義務を課しているのは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」であり、この3要素を全て満たさない言動は、法律上のパワーハラスメントではありません。
しかし、「フキハラ」と呼ばれる言動の多くは、3要素のあてはめをすると、法律上のパワーハラスメントに当たるか、少なくともその周縁にあります。順に見ていきます。
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パワハラ3要素とフキハラの関係
1 優越的な関係を背景とした言動――職位の上下では決まらない。パワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、優越的な関係の例として、上司の言動のほかに、「同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの」と「同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」を挙げています。厚生労働省の解釈Q&A(2026年9月30日改訂版の問21)も、同僚や部下からの言動であっても優越的な関係を背景とした言動に該当し得ると明記しました。栃木の事案の「経験の長い部下」、日刊SPA!の記事に登場する介護施設の「10歳ほど先輩の同僚」や「業績を挙げている営業社員」は、いずれもこの類型に入り得ます。
2 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動――頻度と継続性が分かれ目。指針は、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮するとしています。業務が立て込んだときに1度溜め息をつくことは、この範囲を超えません。しかし、報告のたびに無視する、共同作業を機嫌次第で拒む、挨拶を返さない状態が数か月続くといった言動は、「業務上明らかに必要性のない言動」であり、「回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動」に当たり得ます。警視庁の事案で4年間という期間が処分理由に挙げられたことは、この考え方と整合します。
3 就業環境が害されること――無視は指針に明記された類型。指針が示す6類型のうち「人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)」には、「一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること」が該当例として挙げられています。1人の行為者による無視でも、態様と継続性によっては「精神的な攻撃」や「人間関係からの切り離し」の周縁に位置します。KiteRa社の調査で、無視・仲間外れを受けた人の70.2%が退職を検討したという結果は、就業環境が害されていることの端的な表れです。
「フキハラ」は法律上の新しい類型ではなく、既存の3要素のあてはめの問題です。態度が「行為」として特定でき、優越的な関係と継続性があれば、名称にかかわらず法律上のパワーハラスメントになります。
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他方で、3要素を満たさないフキハラも確かに存在します。優越的な関係のない対等な同僚の間での不機嫌、単発で終わる態度、業務上の指導に伴う一時的な険しい表情などです。これらに対して、会社がパワハラ防止法上の措置義務を負わないことは、津野教授の指摘のとおりです。問題は、措置義務の外にあることが、会社の責任の外にあることを意味するのかという点です。次章で検討します。
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| 5 「対策義務がない」は「責任がない」ではない――安全配慮義務・不法行為・労災 |
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会社の責任は、パワハラ防止法の措置義務だけで決まるわけではありません。労働契約法5条は、使用者に対し、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を課しています。この義務は、相手が上司か同僚か、言動が法律上のパワーハラスメントに当たるかどうかを問いません。特定の社員の態度によって他の社員が心身の不調を訴えていることを会社が知りながら放置すれば、安全配慮義務違反として損害賠償責任(民法415条)を問われ得ます。行為者本人には不法行為責任(民法709条)が、会社には使用者責任(民法715条)が、それぞれ問題になります。
労災の場面でも同様です。心理的負荷による精神障害の労災認定基準(令和5年9月1日改正)は、パワーハラスメントの6類型を具体的出来事に明記するとともに、上司・同僚・部下とのトラブルを別の出来事として評価しています。東京ガスの事案が示したとおり、1つ1つの出来事が「明確なパワハラ」に達しなくても、出来事を一体として評価したときに心理的負荷が「強」に至れば、業務起因性は認められます。労災が認定されれば、会社は安全配慮義務違反による民事賠償の請求を受ける可能性が高まります。
さらに、労働施策総合推進法30条の3は、事業主に対し、労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう研修その他の必要な配慮を行う責務を、労働者に対し、他の労働者に対する言動に必要な注意を払う責務を、それぞれ定めています。法律上のパワハラに当たらない言動であっても、「会社は関知しない」という立場は、この責務規定とも整合しません。
なお、日刊SPA!の記事は、2026年10月1日に改正法が施行され、カスタマーハラスメントと求職者等へのハラスメントの対策義務が課されたと述べています。条文で確認すると、カスタマーハラスメントの措置義務は労働施策総合推進法33条、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの措置義務は同じ改正法による男女雇用機会均等法の改正に基づくものです。この施行とフキハラとの関係を、次の表で整理します。
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| 言動の類型 |
事業主の措置義務 |
措置義務の外でも残る責任 |
| パワーハラスメント |
あり(労働施策総合推進法30条の2。大企業2020年6月、中小企業2022年4月から) |
― |
| カスタマーハラスメント |
あり(労働施策総合推進法33条。2026年10月1日から) |
― |
| 求職者等に対するセクシュアルハラスメント |
あり(男女雇用機会均等法の改正。2026年10月1日から) |
― |
| フキハラ(3要素を満たすもの) |
あり(パワーハラスメントとして30条の2の対象) |
安全配慮義務(労働契約法5条)、不法行為・使用者責任(民法709条・715条)、労災の業務起因性 |
| フキハラ(3要素を満たさないもの) |
なし(法律上の定義もない) |
安全配慮義務(労働契約法5条)、不法行為・使用者責任(民法709条・715条)、労災の業務起因性、30条の3の責務 |
当法人作成。措置義務の有無は条文に基づき、「措置義務の外でも残る責任」は事案によって成否が分かれる一般的な整理です。
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| 6 会社がいま点検すべき4つのこと |
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以上を踏まえ、当法人が経営者と人事担当者にお勧めする点検項目を4つに絞って示します。共通する考え方は、「不機嫌」という感情を規律するのではなく、「態度」を「行為」に翻訳して、規程・記録・相談・支援の4つの入口を整えることです。
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チェックポイント1 規程のパワハラの定義が「上司から部下へ」に限定されていないか
就業規則やハラスメント防止規程の定義が「職務上の地位を利用して」といった職位の上下を前提にした書き方になっていると、ベテラン社員や部下からの言動が規程の外に落ちます。指針の「優越的な関係」の定義(同僚・部下による言動で、その協力を得なければ業務が円滑に進まないもの等)を規程に取り込んでください。あわせて、法律上のパワハラに当たるかどうかにかかわらず「挨拶や業務上の連絡・報告に応じない」「正当な理由なく業務上の協力を拒む」といった行為を服務規律に明記しておくと、警視庁の事案のように、パワハラ認定を経ずに注意・指導の根拠にできます。KiteRa社の調査では、こうした規定を設けている企業は34.7%にとどまっています。
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チェックポイント2 「態度」を「行為」として記録する運用があるか
フキハラの事案で最も難しいのは証拠です。「いつも不機嫌」という申告だけでは、注意も処分もできません。「10月1日の業務報告に対して返答がなかった」「10月3日の共同作業の依頼を理由を示さずに断った」というように、日時、相手、行為、業務への影響を具体的に記録する運用を、相談を受けた管理職と人事に求めてください。記録の対象は感情ではなく行為です。この記録があれば、本人への事実確認、注意、改善指導、必要に応じた懲戒処分へと段階的に進めることができ、逆に申告が誇張されている場合にも、それを見極めることができます。
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チェックポイント3 相談窓口が「パワハラかどうか分からない相談」を受け付ける建付けか
パワハラ防止指針は、相談窓口について、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応することを求めています。「これはパワハラではないので受け付けない」という運用は、指針に反するだけでなく、東京ガスの事案で問題になった「事後対応」の不備につながります。相談窓口の案内文に「パワハラに当たるか分からない言動についても相談できる」旨を明記してください。
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チェックポイント4 部下からの不機嫌に直面する管理職を、会社が支えているか
栃木の事案と、当法人が5月に取り上げた吹田市の逆パワハラ事案に共通するのは、部下の態度に上司が1人で向き合わされていた点です。吹田市の事案では、当時の管理監督者も処分を受けました。管理職が部下の態度を上に報告できる経路、報告を受けた上位者が同席して事実確認を行う手順、必要に応じて配置を見直す判断を、管理職個人の力量に委ねないでください。厚生労働省の解釈Q&Aは、パワハラの原因や背景を解消する取組として、コミュニケーションの活性化のための研修と、適正な業務目標の設定等の職場環境の改善を挙げています。管理職研修だけでなく、一般社員を含めた周知が必要です。
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| 7 当法人の視点 |
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「フキハラ」という言葉が広まることには、功と罪の両方があると当法人は考えています。
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当法人の見解
功は、これまで「性格の問題」「本人の受け止め方の問題」として片付けられてきた言動に名前が付き、被害を受けている側が声を上げやすくなったことです。74.6%という数字は、多くの職場でこの問題が「あるのに扱われていない」状態にあることを示しています。罪は、「フキハラは法律に定義がない」という説明が独り歩きし、「定義がないから会社は関係ない」という誤った安心を経営者に与えかねないことです。本記事で整理したとおり、フキハラと呼ばれる言動の多くは、パワハラ3要素のあてはめの問題であり、3要素を満たさない場合でも安全配慮義務の内側にあります。
当法人の見解に対する最も強い反論は、「感情の統制まで会社が規律するのは行き過ぎであり、不機嫌を理由に注意や処分をすれば、管理職は萎縮して必要な指導ができなくなる。労働者の問題行動に対する正当な指導が『不機嫌』として申告される危険もある」というものです。この反論には理由があります。だからこそ当法人は、規律の対象を感情ではなく行為に置くことを勧めています。「報告に応答しない」「正当な理由なく協力を拒む」という行為は、不機嫌であってもなくても服務上の問題であり、逆に、険しい表情で行われたとしても、業務上必要かつ相当な範囲の指導は指導です。解釈Q&Aも、労働者に問題行動があった場合にはその内容・程度と指導の態様との相対的な関係が重要な要素になると述べる一方で、人格を否定する言動は問題行動の有無にかかわらずパワハラに当たり得るとしています。線引きは、感情ではなく行為と態様で行うべきです。
簡易な確かめ方を1つ挙げます。直近1年間に相談窓口や管理職に寄せられた相談のうち、「態度」に関するもの(無視、溜め息、舌打ち、挨拶を返さない等)が何件あり、そのうち「行為・日時・影響」が記録として残っているものが何件あるかを数えてみてください。相談はあるのに記録がほとんどない会社は、申告があったときに事実確認ができず、放置か過剰反応かのどちらかに振れる危険が高いと考えられます。
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| まとめ |
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株式会社エムフロの調査では、働く人の74.6%が「職場にフキハラをする人がいる」と答え、KiteRa社の調査では、不快な言動を受けた人の45.8%が退職を検討していました。「フキハラ」は法律上の用語ではありませんが、優越的な関係は職位ではなく業務上の依存関係で決まり、無視や協力拒否が継続すれば業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害します。3要素を満たせば名称にかかわらず法律上のパワーハラスメントであり、満たさない場合でも、安全配慮義務、不法行為・使用者責任、労災の業務起因性という形で会社の責任は残ります。警視庁の注意処分、栃木県内の自治体職員の和解、東京ガス子会社出向社員の労災認定判決は、いずれもそのことを示しています。
当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。「態度」を「行為」に翻訳し、規程・記録・相談・支援の4つの入口を整えることが、フキハラへの現実的な対応です。規程の定義の見直しについては就業規則作成・改訂、申告を受けた後の事実確認と対応の設計については労働紛争解決のページもご覧ください。
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「態度」の相談を、「行為」の記録に変えられていますか
ハラスメント防止規程の定義の見直し、相談窓口の運用設計、申告を受けた後の事実確認まで、 社会保険労務士法人T&M Nagoya がご相談をお受けします。
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| この記事を書いた人 |
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三重 英則(HIDENORI MIE)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)
法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。
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