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作成日:2026/10/09
11月は「過労死等防止啓発月間」――厚生労働省が10月8日に概要を公表 「過重労働解消キャンペーン」の重点監督は月80時間超が疑われる事業場と離職率が極端に高い事業場。
労務トピックス
11月は「過労死等防止啓発月間」――厚生労働省が10月8日に概要を公表
「過重労働解消キャンペーン」の重点監督は月80時間超が疑われる事業場と離職率が極端に高い事業場。11月7日(土)に無料の特別労働相談。中小企業が11月1日までに点検すべき5項目
2026年10月9日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

厚生労働省は2026年(令和8年)10月8日、11月の「過労死等防止啓発月間」に行う取組の概要を公表しました。全国48会場でのシンポジウムに加え、11月1日(日)から30日(月)までを「過重労働解消キャンペーン」の期間として、長時間労働が疑われる事業場への重点監督、11月1日から7日までの相談受付集中期間、11月7日(土)の無料の特別労働相談が実施されます。

過重労働解消キャンペーンは毎年11月の恒例の取組ですが、重点監督の対象は無作為に選ばれるわけではありません。厚生労働省のキャンペーンページによれば、対象は、過労死等に係る労災請求が行われた事業場、各種情報から時間外・休日労働が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場、そして労働基準監督署やハローワークに寄せられた相談等から離職率が極端に高いなどの問題があると考えられる事業場です。中小企業にとって11月は、労働基準監督署の調査が入りやすい時期です。本記事では、公表された取組の内容を厚生労働省の報道発表とキャンペーンページで確認したうえで、11月1日までの約3週間で点検しておくべきことを整理します。

なお、当法人は9月16日の記事で、令和7年度に長時間労働が疑われる29,150事業場に行われた監督指導の結果(違法な時間外労働が確認された事業場は11,228、38.5%)を取り上げています。本記事はその続報として、今年11月に行われる取組そのものを扱います。

📌 この記事でわかること

✓ 11月は過労死等防止対策推進法5条に基づく「過労死等防止啓発月間」であり、厚生労働省は10月8日、47都道府県48会場(東京は2会場)でのシンポジウム(無料・事前申込・動画配信あり)と、11月1日(日)から30日(月)までの「過重労働解消キャンペーン」の実施を公表したこと

✓ 重点監督の対象は、過労死等の労災請求が行われた事業場、各種情報から時間外・休日労働が月80時間を超えていると考えられる事業場、相談等から離職率が極端に高いなどの問題があると考えられる事業場の3類型。主な監督指導事項は、36協定の範囲内か、賃金不払残業がないか、労働時間の適正な把握、長時間労働者への医師の面接指導等の健康福祉確保措置の4つであること

✓ 重大・悪質な法違反は送検・公表され、1年間に2回以上同一条項の違反で是正勧告を受けた場合等は、ハローワークが一定期間求人を受理しないこと(職業安定法5条の6第1項3号)

✓ 11月1日(日)から7日(土)まで(1日と3日を除く)が過重労働相談受付集中期間で、11月7日(土)は「過重労働解消相談ダイヤル」(0120-794-713、9時から17時、労働基準監督官が対応)と「労働条件相談ほっとライン」(0120-811-610、9時から21時)で無料の電話相談が行われること

✓ 愛知会場のシンポジウムは11月10日(火)14時から名古屋市中小企業振興会館(名古屋市千種区吹上)で開催されること。令和8年版の過労死等防止対策白書は、本記事の執筆時点で公表を確認できていないこと

重点監督の端緒は、労災請求、相談、離職率という「会社の中から外へ出ていく情報」です。11月1日までに、36協定、労働時間の記録、面接指導、離職の状況を自社で確かめておくことが最も確実な備えです。

1 「過労死等防止啓発月間」と過重労働解消キャンペーンの全体像

過労死等防止啓発月間は、過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)5条に定められています。同条1項は「国民の間に広く過労死等を防止することの重要性について自覚を促し、これに対する関心と理解を深めるため、過労死等防止啓発月間を設ける」とし、2項で月間を11月と定め、3項で国と地方公共団体に、月間の趣旨にふさわしい事業の実施に努めることを求めています。11月のシンポジウムもキャンペーンも、この条文を根拠とする取組です。

同法2条は「過労死等」を、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡、そしてこれらの脳血管疾患・心臓疾患・精神障害(死亡に至らないものを含む)と定義しています。死亡に至らない脳・心臓疾患や精神障害も「過労死等」に含まれるという点は、見落とされがちです。

厚生労働省の10月8日の報道発表によれば、11月に行われる取組は次のとおりです。

時期 取組 内容
11月1日(日)から30日(月)まで 過重労働解消キャンペーン 長時間労働が疑われる事業場への重点監督、都道府県労働局長によるベストプラクティス企業への職場訪問、厚生労働大臣名での使用者団体・労働組合への協力要請
11月1日(日)から7日(土)まで(1日と3日を除く) 過重労働相談受付集中期間 都道府県労働局・労働基準監督署で、過重労働に関する相談と、労働基準関係法令違反が疑われる事業場の情報を受付
11月7日(土) 特別労働相談(電話・無料) 過重労働解消相談ダイヤル(9時から17時、労働基準監督官が対応)、労働条件相談ほっとライン(9時から21時、相談員が対応)
11月中(会場ごとに日程が異なる) 過労死等防止対策推進シンポジウム 47都道府県48会場(東京は2会場)。参加無料、専用ページからの事前申込(先着順)、講演等の動画配信あり。愛知会場は11月10日(火)
10月から翌年1月まで 過重労働解消のためのセミナー(委託事業) 会場またはオンラインで実施、無料。特別企画として「業務効率化セミナー」をオンラインで実施
11月 周知・啓発 ポスター、パンフレット、リーフレット、インターネット広告による周知

このうち、会社の実務に直接関わるのは重点監督と、その端緒となり得る相談受付・特別労働相談です。以下、順に確認します。

2 重点監督――誰が対象になり、何を見られるか

厚生労働省のキャンペーンページは、重点監督の対象を2つの文で示しています。1つは「長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場や各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場等」、もう1つは「労働基準監督署及びハローワークに寄せられた相談等から、離職率が極端に高いなどの問題があると考えられる事業場等」です。整理すると、労災請求、月80時間超の疑い、離職率の3類型になります。

ここで注意したいのは、「各種情報」と「離職率が極端に高い」の中身が公表資料では定義されていないことです。各種情報には、労働者からの申告(労働基準法104条)、相談受付集中期間や特別労働相談で寄せられた情報、労災請求に伴う情報などが含まれると考えられますが、これは当法人の推論であり、厚生労働省が範囲を明示しているわけではありません。離職率についても、数値の基準は示されていません。対象の3類型のいずれも、会社が自分で選べるものではなく、労働者や元労働者の行動を通じて外に出た情報から決まるという点が、この監督の特徴です。

重点監督で主に確認される事項は、キャンペーンページに4つ挙げられています。

重点監督で主に確認される4つの事項(厚生労働省キャンペーンページによる)

1 時間外・休日労働が「時間外・休日労働に関する協定届」(いわゆる36協定)の範囲内であるか等について確認し、法違反が認められた場合は是正指導する

2 賃金不払残業が行われていないかについて確認し、法違反が認められた場合は是正指導する

3 不適切な労働時間管理については、労働時間を適正に把握するよう指導する

4 長時間労働者に対しては、医師による面接指導等、36協定(特別条項)で定めた健康福祉確保措置が確実に講じられるよう指導する

4つの事項は独立していません。労働時間の記録が正確でなければ、36協定の範囲内かどうかも、賃金不払残業の有無も、面接指導の対象者も判定できません。監督指導は記録の確認から始まります。

4つ目の事項は、2026年9月1日から見直された労働基準監督署の監督指導の方向と重なります。厚生労働省は8月19日、時間外・休日労働の時間数のみに着目して月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、各事業場が36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認すると発表しました。見直しの内容は当法人の記事「「残業45時間」一律指導の見直しは長時間労働の容認なのか」で解説しています。11月の重点監督でも、特別条項で定めた健康福祉確保措置が実際に講じられ、その記録が残っているかが見られることになります。

違反が見つかった場合の帰結も、キャンペーンページに明記されています。重大・悪質な法違反が認められた場合は送検し、公表するとされています。加えて、監督指導の結果、1年間に2回以上同一条項の違反について是正勧告を受けた場合等は、ハローワークにおいて一定期間求人を受理しないとされています。これは職業安定法5条の6第1項3号に基づく求人の不受理で、労働基準法や最低賃金法など政令で定める労働関係法令の違反について一定の処分や公表等の措置が講じられた事業主からの求人が対象です。人手不足のもとでハローワーク経由の採用ができなくなることは、中小企業にとって送検以上に直接的な打撃になり得ます。

3 相談受付集中期間と11月7日の特別労働相談

キャンペーンの最初の1週間、11月1日(日)から7日(土)までは「過重労働相談受付集中期間」です。報道発表とキャンペーンページはいずれも、11月1日(日)と3日(火・祝)を除くとしています。11月1日は期間の初日でありながら除外日にも挙げられているため、実質的には2日(月)から7日(土)までの平日と土曜が受付日と読めますが、原文の表記に不整合があることをそのままお伝えしておきます。この期間、都道府県労働局と労働基準監督署は、過重労働に関する相談と、労働基準関係法令違反が疑われる事業場の情報を積極的に受け付けるとしています。

11月7日(土)には、電話による無料の特別労働相談が行われます。窓口は2つです。

窓口 電話番号 日時 対応者
過重労働解消相談ダイヤル 0120-794-713(フリーダイヤル) 2026年11月7日(土)9時から17時まで 労働基準監督官
労働条件相談ほっとライン(委託事業) 0120-811-610(フリーダイヤル) 2026年11月7日(土)9時から21時まで 労働条件相談ほっとラインの相談員

過重労働解消相談ダイヤルは労働基準監督官が直接対応する窓口です。相談対象者の範囲(労働者本人のほか、家族や事業主からの相談を受け付けるか)については、本年の報道発表とキャンペーンページに明示的な記載を確認できていません。

この相談は、労働者の側から見れば、休日に労働基準監督官に直接相談できる機会です。会社の側から見れば、ここに寄せられた情報が「各種情報」として重点監督の端緒になり得ます。社内に相談できる窓口がない、あるいは窓口はあっても機能していない会社ほど、従業員は外に相談します。相談窓口の有無と実効性を点検することは、11月に限らない課題ですが、この時期に確かめておく意味は大きいと考えられます。

4 シンポジウムとセミナー――愛知会場は11月10日(火)吹上

過労死等防止対策推進シンポジウムは、47都道府県48会場(東京は2会場)で開催されます。報道発表によれば、過労死で亡くなった方の遺族の体験談や、メンタルヘルスの専門家等による講演などが予定され、参加は無料で誰でも参加でき、インターネット視聴用に講演などの動画も配信されます。申込みは専用ページから会場を選んで行う先着順で、申込準備が整った会場から順次受付が始まっています。執筆時点では北海道と熊本の会場が準備中と表示されていました。

愛知会場は、専用ページの愛知会場案内によれば、2026年11月10日(火)14時から16時30分まで(受付13時30分から)、名古屋市中小企業振興会館7階メインホール(名古屋市千種区吹上二丁目6番3号)で開催されます。プログラムは、愛知労働局からの報告「職場におけるカスタマーハラスメント対策の強化等について」、基調講演「過労死被害の実態から、予防・根絶を考える」(玉木一成氏)、企業からの取組事例発表、過労死遺族の声の4部構成で、愛知県、名古屋市、愛知県弁護士会が後援しています。愛知労働局の報告が、10月1日に施行されたカスタマーハラスメント対策の事業主の措置義務を扱う点は、11月に入ってからの実務の参考にもなると考えられます。

当法人は、経営者や管理職の方がこのシンポジウムに参加する価値は高いと考えます。過労死等の防止は、就業規則や36協定の整備だけでなく、現場で部下の働き方を見ている管理職の認識に左右されるからです。管理職研修の一環として参加を検討することをお勧めします。

このほか、10月から翌年1月にかけて、委託事業として「過重労働解消のためのセミナー」が会場またはオンラインで無料で開催されます。特別企画として「業務効率化セミナー」もオンラインで実施されます。申込先は厚生労働省のキャンペーンページから案内されています。

5 中小企業が11月1日までに点検すべき5項目

重点監督の対象3類型と監督指導事項4つを踏まえ、11月1日までに最低限点検しておくべき項目を当法人なりに整理します。いずれも個別の事情を離れた一般的な整理であり、厚生労働省が点検項目として示したものではありません。

点検1 36協定は有効か、実態は協定と法定の上限の範囲内か

まず、36協定の有効期間が切れていないか、労働基準監督署に届け出ているかを確認してください。協定の相手方である過半数代表者が、労働基準法施行規則6条の2の要件(管理監督者でないこと、投票や挙手などの方法で選出され、使用者の意向に基づいて選出された者でないこと)を満たしているかも重要です。選出手続に問題があれば協定そのものが無効と評価されるおそれがあります。そのうえで、特別条項を使って月45時間を超えた月が年6回以内か(労働基準法36条5項)、時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、2か月から6か月の平均で80時間以内か(同条6項)を、協定の文言ではなく毎月の実績で確かめてください。協定の範囲内であっても、36条6項の上限を超えれば法違反です。建設業、自動車運転の業務、医師については2024年4月から適用された上限規制の特例があり、自社の業種に応じた上限を反映しているかも確認が必要です。

点検2 労働時間を客観的な記録で把握しているか、管理監督者も含めて

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)は、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など客観的な記録を基礎として始業・終業時刻を確認することを原則としています。自己申告制を採る場合は、申告された時間とパソコンのログや入退館記録との間に乖離がないかを実態調査し、乖離があれば補正することが求められています。管理監督者についても、労働安全衛生法66条の8の3により、面接指導を実施するための労働時間の状況の把握が義務付けられています。管理監督者は労働基準法の労働時間規制の適用を受けませんが、健康確保のための把握義務は別です。打刻の記録が後から修正できる設定になっていないかも、あわせて確認してください。

点検3 賃金不払残業がないか――記録の外側にある労働時間

始業前の準備や朝礼、終業後の片付けや日報作成、制服への着替えの時間が、使用者の指揮命令下にあるにもかかわらず労働時間として扱われていない例は多くみられます。固定残業代を導入している会社では、固定分を超える時間外労働に対して差額を支払っているかを確認してください。「申請のない残業は認めない」というルールを置きながら、実際には申請のない残業が黙認されている場合、監督指導では実態に基づいて労働時間が認定されます。記録上の労働時間が短くても、客観的な記録との乖離を放置していれば、調査の結果として違法な長時間労働と賃金不払いが同時に確定することは、令和7年度の監督指導結果で公表された事例が示しています。乖離がある場合は、対象人数と期間を掛けた遡及額の目安を先に把握しておく必要があります。

点検4 月80時間を超えた労働者への対応が、仕組みとして回っているか

時間外・休日労働が1か月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を行わなければなりません(労働安全衛生法66条の8、労働安全衛生規則52条の2第1項)。この前提として、80時間を超えた労働者本人に、超えた時間に関する情報を速やかに通知すること(同規則52条の2第3項)、産業医を選任している事業場では産業医にその情報を提供すること(同規則14条の2)が必要です。申出を待つだけでなく、申出しやすい仕組みを定めているかも、令和7年度の監督指導で指導事項として集計されています。通知と情報提供を行った記録、面接指導を実施した記録、医師の意見を聴いて講じた措置の記録が揃っているかを確認してください。特別条項付きの36協定に定めた健康福祉確保措置についても、協定に書いたとおりに実施した記録が残っているかが、9月からの監督指導で重点的に確認される事項です。

点検5 離職率と社内の相談窓口――監督の端緒を自社の中で把握する

重点監督の対象には、労働基準監督署やハローワークに寄せられた相談等から離職率が極端に高いなどの問題があると考えられる事業場が含まれます。数値の基準は公表されていませんが、直近1年間の離職者数を在籍者数で割った率と、入社1年以内の早期離職者の数を、まず自社で把握してください。早期離職が続いている部署があれば、その背景に長時間労働やハラスメントがないかを、退職者との面談記録や勤怠データで確かめておくことをお勧めします。あわせて、従業員が社内で相談できる窓口が実際に機能しているか、相談があった場合の記録と対応の手順が定まっているかを点検してください。離職率と相談の有無は、会社が自分で確かめられる数少ない「端緒」の指標です。

6 今後の注目点と、確認できなかったこと

重点監督の結果がどのように公表されるかは、現時点では分かりません。平成30年度のキャンペーンについては、翌年に厚生労働省が「平成30年度『過重労働解消キャンペーン』の重点監督の実施結果」として、8,494事業場に監督指導を行い、2,802事業場(33.0%)で違法な時間外労働が確認されたと公表しています。他方、直近の年度については、キャンペーン単独の結果公表を当法人は確認できておらず、令和7年度分は9月15日に公表された年度全体の監督指導結果に含まれている可能性があります。令和8年のキャンペーンの結果が単独で公表されるかどうかは不明です。

もう1つの注目点は、過労死等防止対策推進法6条に基づく年次報告、いわゆる過労死等防止対策白書です。令和7年版は令和7年10月28日に公表されました。令和8年版は、本記事の執筆時点(10月9日)で公表を確認できていません。例年どおりであれば10月中の公表が見込まれますが、これは過去の例からの推測です。

本記事で確認できなかった事項は次のとおりです。第1に、重点監督の実施件数の目標や規模は、報道発表にもキャンペーンページにも記載がありません。第2に、報道発表が言及する「別紙」の内容は、ページ本文に含まれておらず確認できていません。第3に、特別労働相談の相談対象者の範囲は、本年の資料で明示を確認できていません。第4に、重点監督の対象を定める「各種情報」と「離職率が極端に高い」の具体的な基準は公表されていません。

7 当法人の視点

過重労働解消キャンペーンの案内を「11月は監督署が来やすい」という注意喚起として読むだけでは、半分しか読んだことになりません。重点監督の対象3類型を見れば、監督署がどの会社に行くかを決めているのは、会社の外にいる監督官ではなく、会社の中にいる従業員と、会社を辞めた元従業員だからです。

当法人の見解

当法人は、11月の重点監督が会社に問いかけているのは、「従業員が社内で声を上げられる状態になっているか」だと考えます。労災請求も、相談ダイヤルへの電話も、離職も、従業員や元従業員が会社の外に向けて起こす行動です。社内に相談の受け皿があり、長時間労働の実態が記録で把握され、月80時間を超えた人に会社から声がかかる状態であれば、外に向かう情報は減ります。逆に、記録が実態と合わず、相談しても何も変わらないと従業員が感じている会社では、11月1日からの1週間は、監督署に情報が集まる期間になります。点検5項目のうち、点検1から4までは法令上の義務の確認ですが、点検5はその前提となる会社の状態を確かめる作業です。

この見解には、根拠が十分でない前提が1つあります。重点監督の端緒となる「各種情報」に、相談受付集中期間や特別労働相談で寄せられた情報が含まれるという点は、厚生労働省が明示しているわけではなく、キャンペーンの構成からの当法人の推論です。もっとも、キャンペーンページが相談受付集中期間の目的を「労働基準関係法令違反が疑われる事業場の情報を受け付ける」ことと明記している以上、受け付けた情報が監督に活用されないと考える方が不自然だと当法人は考えます。

最も強い反論は、使用者側の立場から考えられます。人手不足の中小企業では、36協定の上限を守りながら受注を維持すること自体が難しく、点検をしても改善の手段がない、というものです。この指摘には理由があります。ただし、重点監督で問われるのは、長時間労働が存在することそのものより、それを記録で把握し、健康確保の措置を講じ、協定の手続を踏んでいるかです。時間を減らせない会社ほど、記録と措置と手続を整える意味が大きいと当法人は考えます。労働者側からは、相談ダイヤルに電話しても会社に伝わるのではないか、という不安が指摘されます。相談者の特定を避ける運用がどこまで保障されるかは本年の資料で確認できておらず、当法人がここで保証することはできません。社内の窓口が信頼されていれば、従業員はそもそもこの不安を抱かずに済む、というのが当法人の考えです。

簡易な確かめ方を1つ挙げます。直近6か月の勤怠記録から、時間外・休日労働が最も長い上位10人を抽出し、月ごとの時間数、特別条項の発動回数、80時間を超えた月に本人への通知と面接指導の案内を行った記録があるかを一覧にしてください。あわせて、直近1年間の離職者数と入社1年以内の離職者数を数えてください。この2つの表があれば、重点監督の4つの確認事項と対象3類型のうち、自社がどこに近いかが見えます。作業は1日で終わります。

まとめ

11月は過労死等防止対策推進法5条に基づく過労死等防止啓発月間です。厚生労働省は10月8日、全国48会場でのシンポジウム(愛知会場は11月10日)と、11月1日から30日までの過重労働解消キャンペーンの実施を公表しました。重点監督の対象は、過労死等の労災請求があった事業場、月80時間超の時間外・休日労働が疑われる事業場、離職率が極端に高いなどの問題があると考えられる事業場で、36協定の範囲内か、賃金不払残業がないか、労働時間の適正な把握、医師の面接指導等の健康福祉確保措置の4つが主に確認されます。重大・悪質な違反は送検・公表され、同一条項の違反で1年間に2回以上の是正勧告を受けた場合等はハローワークの求人不受理の対象になります。11月1日から7日までは相談受付集中期間、11月7日(土)には無料の電話相談が実施されます。

監督署の調査は、来てから慌てても間に合いません。36協定の不備や勤怠記録の乖離は、遡って直すことができないからです。当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。11月を迎える前の今のうちに、36協定の点検、労働時間の記録の見直し、面接指導の仕組みの確認、離職と相談の状況の把握を、経営者と一緒に進めてまいります。賃金台帳と勤怠記録の照合については給与監査顧問、36協定や相談窓口を含む規程の整備については就業規則作成・改訂、継続的なご相談については高難度業務対応型顧問のページもご覧ください。

11月の重点監督の前に、36協定と労働時間の記録を点検しませんか

36協定と特別条項の運用確認、労働時間の把握方法の見直し、面接指導の仕組みの整備、労働基準監督署の調査対応まで、
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【根拠法令】

過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)2条(定義)、5条(過労死等防止啓発月間)、6条(年次報告)/労働基準法32条(労働時間)、36条(時間外及び休日の労働。5項が特別条項、6項が上限)、37条(割増賃金)、104条(監督機関に対する申告)/労働基準法施行規則6条の2(過半数代表者)/労働安全衛生法66条の8(面接指導)、66条の8の3(労働時間の状況の把握)/労働安全衛生規則14条の2(産業医に対する情報の提供)、52条の2(面接指導の対象となる労働者の要件等。3項が本人への通知)/職業安定法5条の6第1項3号(労働関係法令違反に係る求人の不受理)/厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)

【参考判例】

本記事は行政の取組の解説であり、裁判例は扱っていません。

【出典・参考資料】

厚生労働省「11月は『過労死等防止啓発月間』です」(令和8年10月8日報道発表)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76625.html/厚生労働省「過重労働解消キャンペーン」(令和8年度)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/roudoukijun/campaign_00004.html/厚生労働省「過労死等防止対策推進シンポジウム」専用ページおよび愛知会場案内https://www.mhlw.go.jp/karoshi-symposium//厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度の監督指導結果を公表します」(令和8年9月15日)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76158.html/厚生労働省「平成30年度『過重労働解消キャンペーン』の重点監督の実施結果を公表」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04526.html/厚生労働省「『令和7年版 過労死等防止対策白書』を公表します」(令和7年10月28日)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_65250.html

【免責事項】

本記事は2026年10月9日時点の公表資料に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。重点監督の実施規模、報道発表が言及する別紙の内容、特別労働相談の相談対象者の範囲、重点監督の対象を定める「各種情報」および「離職率が極端に高い」の具体的な基準は、当法人が確認できていません。第5章の点検項目は当法人の整理であり、厚生労働省が示したものではありません。シンポジウムの日程や申込状況は変更されることがありますので、専用ページで最新の情報をご確認ください。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。労働基準監督署への是正報告や社内体制の整備は会社自身が行うものであり、当法人は36協定の点検、労働時間の把握方法の見直し、賃金台帳と勤怠記録の照合、面接指導の仕組みの整備、是正報告書の作成支援を担い、送検や従業員との紛争に発展した場面では、提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDENORI MIE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。