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作成日:2026/09/12
自動車運転者の事業場、8割超で法令違反―令和7年の監督指導・送検状況を厚労省が公表
労務トピックス 運送業 改善基準告示
自動車運転者の事業場、8割超で法令違反――令和7年の監督指導・送検状況を厚労省が公表
監督指導4,123事業場のうち81.2%で労働基準関係法令違反、送検は67件に増加。運送・旅客事業者が今確認すべきポイントを解説します。
おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

厚生労働省は令和8年8月6日、全国の労働基準監督署等がトラック・バス・タクシーなどの自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導(立入調査)・送検等の状況を公表しました。監督指導を受けた事業場の実に81.2%で労働基準関係法令違反が認められ、重大・悪質な事案として送検された件数は67件と前年から増加しています。

2024年4月の改善基準告示改正・時間外労働上限規制(年960時間)の適用から2年余りが経過した今、監督行政がどこを見ているのか。公表資料の数字と事例から、運送・旅客事業者、そして自社便を持つ製造業・建設業の皆様が押さえるべき実務ポイントを整理します。
📌 この記事の要点
・令和7年に監督指導を実施した4,123事業場のうち81.2%(3,346事業場)で労働基準関係法令違反、53.1%(2,188事業場)で改善基準告示違反が認められた
・法令違反の首位は労働時間(39.3%)、次いで割増賃金の支払(19.7%)。告示違反の首位は1日の最大拘束時間(40.2%)
・重大・悪質事案の送検は67件(前年59件)。トラックが53件と大半を占め、送検条文の最多は労基法32条(労働時間)の19件
・固定残業代の不足分を支払わず是正にも応じなかった事業者が労基法37条違反で送検された事例も公表
・労基署と運輸局の相互通報・合同監督、荷主への要請(累計31,404事業場)など、多方面からの是正圧力が続いている
1. 公表の概要――監督指導4,123事業場、違反率81.2%
厚生労働省の公表(令和8年8月6日)によれば、令和7年に全国の労働基準監督署等は、労働基準関係法令違反が疑われる自動車運転者使用事業場4,123事業場に対して監督指導を実施しました。その結果は次のとおりです。
業種 監督実施
事業場数
労働基準関係
法令違反
改善基準
告示違反
トラック 3,175 2,564
(80.8%)
1,812
(57.1%)
バス 270 204
(75.6%)
135
(50.0%)
ハイヤー・タクシー 303 274
(90.4%)
126
(41.6%)
その他 375 304
(81.1%)
115
(30.7%)
合計 4,123 3,346
(81.2%)
2,188
(53.1%)
※( )内は監督実施事業場数に対する違反率。「その他」は自社製品を運搬する製造業・建設業など、運送業以外で自動車運転者を使用する事業場。出典:厚生労働省公表資料(別紙1)
注目すべきは、ハイヤー・タクシーの法令違反率が90.4%と全業種で最も高いこと、そして「その他」――つまり運送業ではない製造業・建設業等の事業場でも違反率が81.1%に達していることです。改善基準告示は「運送事業者だけのルール」ではなく、業種を問わず自動車運転者を使用するすべての事業場に適用されます。自社便のトラックで製品や資材を運んでいる会社も、監督指導の対象であることを改めて認識する必要があります。

主な法令違反事項は、@労働時間(39.3%)、A割増賃金の支払(19.7%)、B労働時間の状況の把握(6.3%)の順でした。
2. 改善基準告示違反の首位は「1日の最大拘束時間」
改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)の違反内訳(全業種合計)は、次のとおりです。
■ 改善基準告示違反の内訳(監督実施4,123事業場に対する割合)
第1位:最大拘束時間(1日)… 1,657事業場(40.2%)
第2位:休息期間 … 1,165事業場(28.3%)
第3位:総拘束時間(月・年)… 1,131事業場(27.4%)
第4位:連続運転時間 … 860事業場(20.9%)
第5位:最大運転時間 … 596事業場(14.5%)
2024年4月適用の改正基準では、トラック運転者について1日の拘束時間は原則13時間以内・最大15時間(14時間超は週2回までが目安)、休息期間は継続11時間以上を基本に9時間を下限、月の拘束時間は原則284時間以内(労使協定により最大310時間)とされています。違反の上位が「1日の最大拘束時間」と「休息期間」で占められているのは、月単位の総量管理はできていても、日々の運行単位での管理が追いついていない事業場が多いことを示しています。荷待ち・荷役で帰庫が遅れれば、その日の拘束時間超過と翌日の休息期間不足が連鎖的に発生するためです。
3. 送検は67件に増加――「労働時間」と「割増賃金」で刑事事件化
重大・悪質な労働基準関係法令違反として送検された件数は、令和5年54件→令和6年59件→令和7年67件と増加傾向にあります。業種別ではトラックが53件と大半を占めます。送検条文の内訳は、労働時間(労基法32条)が19件で最多、次いで安全基準(労働安全衛生法20条等)10件、最低賃金の効力(最低賃金法4条)8件、賃金の支払(労基法24条)7件、割増賃金の支払(労基法37条)5件などとなっています。

公表された送検事例は、いずれも「是正勧告を受けても改めなかった」ことが決め手になっています。
✓ 公表された送検事例(トラック)
【事例1:違法な時間外労働(労基法32条違反)】
運転者からの長時間労働の相談を契機に監督指導。36協定の延長時間(月98時間)を超え、月最大167時間の時間外労働を行わせていたことが発覚。過去に複数回是正勧告を受けながら一時的な改善にとどまり、法違反を繰り返していたため送検。

【事例2:割増賃金の不払い(労基法37条違反)】
運転者からの「実際の労働時間に見合った残業代が支払われていない」との申告を契機に監督指導。時間外・深夜労働に対し固定残業代(4万5000円)しか支払わず、実際に支払うべき割増賃金(約11万円)を支払っていなかった。是正勧告に応じず、同様の違反を繰り返していたため送検
事例2は、固定残業代を導入している事業場すべてに関わる警告と読むべきです。固定残業代は「定額を払えば残業代の精算が不要になる制度」ではありません。実際の時間外労働から計算した割増賃金が固定額を上回れば、差額の支払義務が当然に生じます。差額精算を怠れば、民事上の未払賃金リスクにとどまらず、本件のように刑事事件化しうるということが、公的資料で明確に示されました。
4. 監督指導事例に学ぶ――是正の鍵は「荷主との交渉」だった
公表資料には、是正に至った監督指導事例も掲載されています。特徴的なのは、トラックの2事例がいずれも荷主企業への申し入れ・協議を通じて是正を実現している点です。

月最大125時間・年1328時間の違法な時間外労働が認められた食品ルート配送の事業者は、人員補充と併せて荷主に配送ルートの変更を申し入れ、運行間のインターバルを拡大したスケジュールへの変更を実現しました。休憩時間についても、荷下ろし後に荷主の駐車スペースを休憩に使わせてもらう調整を行っています。長距離輸送の事業者も、荷主を訪問して運行実態を示し、高速道路の利用、入場時間の変更、土曜出勤の削減、運賃の見直しといった協力を取り付けました。

また、貸切バスの事例では地方運輸機関からの通報が監督の契機となり、タクシーの事例では長時間労働を誘発する累進歩合制度の廃止と、年休管理簿の未作成・年5日の時季指定義務違反が併せて指導されています。運転者の労務管理は、拘束時間だけでなく賃金制度・年休管理まで一体で見られることがわかります。
5. 労基署・運輸局・荷主対策――包囲網は多層化している
公表資料からは、自動車運転者の労働条件確保に向けた行政の連携体制も読み取れます。

@ 労基署と地方運輸機関の相互通報・合同監督――改善基準告示違反に係る監督・監査結果を相互に通報する仕組みが運用されており、令和7年は労基署等から404件を通報し、296件の通報を受けています。合同監督・監査も137件実施されました。運輸局の監査が労基署の調査につながる(その逆も)ルートが常設されているということです。

A 荷主特別対策チームによる発着荷主等への要請――令和4年12月に都道府県労働局に編成されたチームが、長時間の恒常的な荷待ちの改善などを発着荷主等に要請しており、令和4年12月から令和8年6月までの累計で31,404事業場に要請を実施。厚労省の「長時間の荷待ちに関する情報メール窓口」には3,066件の情報が寄せられ、この情報は国土交通省にも提供されています。

運送事業者側から見れば「荷主に改善を求める際の後ろ盾」が整備されているということであり、荷主側から見れば「荷待ちを放置すれば労基署から要請を受ける」時代になったということです。
6. 実務対応――自社の管理体制を点検する5つの視点
✓ 経営者・労務担当者のチェックポイント
□ 「日」単位の拘束時間・休息期間を管理できているか
 違反の上位は1日の最大拘束時間(40.2%)と休息期間(28.3%)。月合計だけでなく、運行日ごとの超過をデジタコ・点呼記録で日次把握する仕組みが必要です。

□ 36協定の延長時間と実際の時間外労働に乖離はないか
 送検事例はいずれも協定の延長時間超過が起点。特別条項を含め、協定の枠内に収まっているか毎月検証しましょう。

□ 固定残業代の差額精算を毎月行っているか
 実際の割増賃金額が固定額を超えた月の差額不払いは、送検事例が示すとおり刑事リスクに直結します。

□ 是正勧告を受けたら「その場しのぎ」で終わらせていないか
 送検の決め手は違反の反復です。是正報告後も再発防止策の運用状況を継続的に検証する必要があります。

□ 運送業以外でも、自社の運転者に告示を適用しているか
 自社便を持つ製造業・建設業等(「その他」区分)でも違反率は81.1%。運送業でないことは適用除外の理由になりません。
当法人では、運送業・旅客運送業をはじめとする自動車運転者を使用する事業場の労働時間管理体制の点検、36協定・賃金制度(固定残業代・歩合給)の見直し、労働基準監督署対応の支援を行っています。「監督指導が入ってから」ではなく、「入る前」の点検こそが、送検リスク・未払賃金リスクの双方から会社を守ります。
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■ 関連サービスのご案内
労務手続代行・労務監査:労働時間管理・36協定運用の点検
高難度業務対応型顧問:監督署対応・是正報告の支援
就業規則作成・改訂:固定残業代・歩合給等の賃金規程整備
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根拠法令・出典
・労働基準法 第32条(労働時間)、第24条(賃金の支払)、第36条(時間外及び休日の労働)、第37条(割増賃金)
・最低賃金法 第4条(最低賃金の効力)
・労働安全衛生法 第20条(事業者の講ずべき措置等)、第66条の8(面接指導等)
・自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7号。令和6年4月1日改正適用)
・厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します」(令和8年8月6日)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75192.html
・同 別紙1「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(令和7年)」
 https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/001731858.pdf
※ 本記事は2026年8月7日時点で厚生労働省が公表した資料に基づいて作成しています。統計数値・事例はいずれも同公表資料によるものです。
※ 記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な対応については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
執筆者情報
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士・経営心理士・経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号第160175号
名古屋市中区を拠点に、中小企業の労務管理・労働紛争の予防と解決を支援しています。