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作成日:2026/08/14
雇用保険の適用拡大「週20時間 → 週10時間」 ― 2028年10月1日施行。最大約500万人が新たに被保険者へ。パート中心の職場が今から始める棚卸し
法改正対応・実務解説
雇用保険の適用拡大「週20時間 → 週10時間」
― 2028年10月1日施行。最大約500万人が新たに被保険者へ。パート中心の職場が今から始める棚卸し
2026年8月14日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

📌 この記事のポイント

  • 2028年10月1日、雇用保険の被保険者となる週所定労働時間の要件が「20時間以上」から「10時間以上」へ引き下げられます
  • 根拠は令和6年法律第26号(雇用保険法等の一部を改正する法律)。2024年5月10日に成立済みで、施行日待ちの段階です
  • 新たに被保険者となるのは最大約500万人と見込まれます。現在の被保険者数(2025年10月末時点で約4,537万人)に対し1割強の規模です
  • 賃金日額の下限、被保険者期間の算定方法、複数就業者の取扱いなど細部は今後の省令・審議会で具体化されます
  • 顧問先では、@週10〜19時間の従業員の洗い出し A「週20時間未満」シフト設計の見直し B保険料増加の試算の3点を、いまから始められます

本記事の信頼度:84%(ファクトチェック実施済み)

改正法の名称・成立時期・適用拡大の内容・施行日および同時改正項目は、厚生労働省の公表ページで確認しています。新たに被保険者となる人数「最大約500万人」は厚生労働省資料に基づく見込み値として複数の専門媒体が紹介しているもので、【推計】と表示しています。一方、適用拡大に伴う賃金日額の下限、被保険者期間の算定方法、複数事業所勤務者の取扱いといった細部は、今後の省令・審議会での具体化を待つ段階であり、本記事では確認できていません。実務対応の部分は筆者の見解であり【私見】と表示しています。

はじめに ― 「週10時間」は、パート活用の前提を書き換える

社会保険の「106万円の壁」「130万円の壁」の議論が続くなか、雇用保険についても大きな改正が控えています。雇用保険の被保険者となる週所定労働時間の要件が、「20時間以上」から「10時間以上」へ引き下げられます。

施行は2028年(令和10年)10月1日。まだ2年以上先です。しかし、この改正のインパクトは、施行日を待ってから慌てて対応できる性質のものではありません。なぜなら、「週20時間未満に抑える」というシフト設計そのものが、実務上の意味を失うからです。

飲食、小売、介護、清掃、学習塾――週10〜19時間程度のシフトで多数のパート・アルバイトを回している業種では、雇用保険の被保険者数が一気に数倍になる可能性があります。本日は、この改正の全体像と、いま何を始めるべきかを整理します。

1.改正法の位置づけ ― 令和6年法律第26号

【事実】 根拠法は、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第26号)です。厚生労働省の公表ページによれば、この法律は令和6年5月10日に参議院本会議で可決・成立しました(施行通達は同年5月17日付で発出されています)。

厚生労働省は改正の趣旨を、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築と「人への投資」の強化等のため、雇用保険の対象拡大、教育訓練やリ・スキリング支援の充実、育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保等の措置を講ずるもの、と説明しています。

つまりこの改正法は、単独の改正ではなく、「雇用保険という制度の守備範囲そのものを広げる」パッケージです。そのなかで最も対象者が多く、企業実務への影響が大きいのが、今回取り上げる適用拡大です。

2.何が変わるのか ― 改正前・改正後の比較

【事実】 適用要件の変更点を、改正前・改正後で対比すると次のとおりです。

項目 改正前(〜2028年9月30日) 改正後(2028年10月1日〜)
週所定労働時間 20時間以上 10時間以上
雇用見込み 31日以上 31日以上(変更なし
週19時間のパート 何年勤続しても被保険者にならない 被保険者となる
基本手当・育児休業給付等 週20時間未満の者は対象外 要件を満たせば対象になり得る
賃金日額の下限等の細部 現行制度の基準 今後の省令等で具体化(未確定)

したがって、週10時間以上働き、かつ31日以上の雇用見込みがある労働者が、新たに雇用保険の被保険者となります。

対象者の規模

【推計】 厚生労働省資料に基づく見込み値として、この改正により雇用保険の被保険者は最大で約500万人増加するとされています(2023年の調査を基礎とする約506万人という数値を紹介する解説もあります)。

【事実】 雇用保険事業月報によれば、2025年10月末時点の雇用保険被保険者数は約4,537万人です。500万人という増加規模は、これに対して1割強にあたります。なお総務省「労働力調査」では、週間就業時間20時間未満の雇用者数は2023年で約734万人とされ、2013年の約494万人から増加を続けています。極めて大規模な適用拡大であることは間違いありません。

3.新たに被保険者となる人が受けられるもの

【事実】 新たに被保険者となる労働者は、現行制度の被保険者と同様に、次の給付の対象となります。

給付 内容
基本手当(失業給付) 離職後の求職活動期間中の生活保障
育児休業給付 出生時育児休業給付金・育児休業給付金等
介護休業給付 対象家族の介護のための休業時の給付
教育訓練給付 一般・特定一般・専門実践教育訓練給付金
高年齢雇用継続給付 2025年4月から給付率が縮小(別途の改正による)

【私見】 実務上、見落とされがちですが重要なのは育児休業給付です。週10〜19時間のパートで働く方が育児休業を取得した場合、これまでは雇用保険の被保険者でないため給付を受けられませんでした。改正後は、被保険者期間等の要件を満たせば給付の対象になり得ます。「短時間だから育休給付は関係ない」という説明は、2028年10月以降は誤りになります。

4.同じ改正法に含まれる他の項目 ― 施行日別の整理

【事実】 令和6年法律第26号には、適用拡大以外にも実務に直結する改正が含まれています。施行時期がそれぞれ異なる点に注意が必要です。

施行日 項目 改正前 改正後
2024年10月1日
(施行済み)
教育訓練給付の給付率 従来の給付率 最大10ポイント上乗せ
2025年4月1日
(施行済み)
自己都合離職者の給付制限 原則2か月 原則1か月/離職期間中または離職日前1年以内に自ら教育訓練等を受けた場合は給付制限を解除。ただし過去5年間に3回以上の自己都合離職がある場合は3か月のまま
2025年4月1日
(施行済み)
育児休業給付に係る保険料率 0.4% 0.5%(財政状況に応じて引き下げられる弾力的な仕組みを導入)
2025年10月1日
(施行済み)
教育訓練休暇給付金 制度なし 新設。無給の教育訓練休暇を取得した被保険者に基本手当と同額を支給(被保険者期間に応じ最大150日)
2028年10月1日
(未施行)
被保険者の適用要件 週所定労働時間20時間以上 週所定労働時間10時間以上

【私見】 適用拡大の2028年10月ばかりに目が行きがちですが、給付制限の見直しや教育訓練休暇給付金はいま現在の離職票実務・就業規則に直結します。特に教育訓練休暇給付金は、就業規則等に制度としての休暇が設けられていなければ利用できません。顧問先への案内が漏れていないか、この機会にご確認ください。

5.現時点で確認できていない論点(正直に記します)

適用拡大は、単に「線を20時間から10時間に引き直す」だけでは実装できません。次の論点について、筆者は現時点で具体的な結論を確認できていません

  1. 賃金日額の下限の取扱い。週10時間勤務では賃金総額が小さく、基本手当の算定基礎となる賃金日額が現行の下限を下回るケースが多発すると考えられます。下限額の設定をどうするかは制度設計上の重要論点ですが、確定的な内容は確認できていません。
  2. 被保険者期間の算定方法。現行では、原則として「賃金支払の基礎となった日数が11日以上」または「賃金支払の基礎となった時間数が80時間以上」の月を1か月として算定します。週10時間の労働者にこの基準をそのまま適用すると、受給資格を満たしにくくなります。何らかの調整が必要と考えられますが、その内容は確認できていません。
  3. 複数事業所で働く労働者(マルチジョブホルダー)の取扱い。現在、65歳以上については「雇用保険マルチジョブホルダー制度」がありますが、適用拡大後に65歳未満の複数就業者をどう扱うかは確認できていません。
  4. 雇用保険料率への影響。被保険者が大幅に増えることによる保険財政への影響と料率設定の見通しは、確認できていません。

【事実】 これらの論点については、厚生労働省の労働政策審議会 職業安定分科会 雇用保険部会において、「令和6年雇用保険制度改正(令和10年10月1日施行分)について」として審議が行われています(令和7年8月20日 第205回部会資料)。今後の省令改正・部会資料の公表を継続的に追う必要があります。

【私見】 「2027年中には具体的な省令・通達が出てくる」という前提でスケジュールを組んでおくのが現実的だと考えます。

6.「今から」やるべき3つのこと

(1) 週10〜19時間の従業員を洗い出す

【私見】 まず現状把握です。人事データから「週所定労働時間が10時間以上20時間未満」かつ「31日以上の雇用見込みあり」の従業員を抽出してください。この人数が、2028年10月に新たに被保険者となる規模の目安になります。抽出してみて初めて「うちは対象が80人もいるのか」と気づく企業は少なくないはずです。この数字が、以降の議論のすべての出発点になります。

(2)「週20時間未満に抑える」シフト設計を見直す

【私見】 これまで、社会保険・雇用保険の適用を避けるために所定労働時間を意図的に週20時間未満に設定してきた事業所は少なくありません。しかし、2028年10月以降、雇用保険についてはこの調整が意味を失います。週10時間を下回るところまで削るのは、多くの職場で現実的ではないでしょう。

さらに、社会保険については年金制度改正により企業規模要件の段階的な見直しが進みます。「壁を避けるためのシフト設計」という発想そのものが、制度の両側から挟み撃ちにされているというのが、いまの局面の本質だと考えます。シフトを細かく刻んで壁を回避する労力を、定着率の向上と生産性の向上に振り向ける――その転換を議論する時期に来ています。

(3) 労働保険料の増加を試算しておく

【私見】 被保険者が増えれば、事業主負担の雇用保険料も増えます。(1)で洗い出した対象者の賃金総額に、現行の雇用保険料率(事業主負担分)を乗じるだけでも、おおよその増加額は把握できます。2028年度の予算に織り込むためには、遅くとも2027年度中には試算が必要です。

【推測】 労務コストの増加という側面だけを見れば企業には負担ですが、短時間労働者にとって「雇用保険がある職場」であることは採用上の訴求材料になり得るとも考えられます。人手不足が深刻な業種ほど、この点をどう打ち出すかが問われるようになるのではないかと推測します。

7.まとめ

  • 2028年10月1日、雇用保険の適用要件が「週20時間以上」から「週10時間以上」に変わります。
  • 根拠は令和6年法律第26号。すでに成立・公布済みで、施行日待ちの段階です。
  • 新たに被保険者となる人は【推計】最大約500万人とされ、基本手当・育児休業給付・教育訓練給付等の対象になります。
  • 賃金日額の下限、被保険者期間の算定方法、複数就業者の取扱いなど制度の細部は今後の省令・審議会で具体化されます。
  • @洗い出し Aシフト設計の見直し B保険料増加の試算の3点は、いまから始められます。

制度が変わってから動くのでは、シフト再設計にも予算措置にも間に合いません。2年という準備期間は、決して長くはありません。

雇用保険の適用拡大に向けた棚卸しは当法人へ

社会保険労務士法人T&M Nagoyaでは、短時間労働者の労働条件の棚卸し、シフト設計の見直し、労働保険料の増加試算、就業規則・雇用契約書の改定まで、経営者に伴走して支援しています。施行までの準備期間をどう使うかで、2028年10月の負担は大きく変わります。

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根拠法令・出典
・雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)
・雇用保険法6条(適用除外)、13条(基本手当の受給資格)、14条(被保険者期間)
・厚生労働省「令和6年雇用保険制度の改正内容について(雇用保険法等の一部を改正する法律)」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40264.html
・厚生労働省「雇用保険制度の改正内容について」(令和6年法律第26号・第47号の各改正項目の一覧)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564.html
・厚生労働省 労働政策審議会 職業安定分科会雇用保険部会(第205回・令和7年8月20日)資料「令和6年雇用保険制度改正(令和10年10月1日施行分)について」
 https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001542937.pdf
・厚生労働省「雇用保険事業月報」(被保険者数)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufu/index.html
・総務省「労働力調査」(週間就業時間20時間未満の雇用者数)
 https://www.stat.go.jp/data/roudou/
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。適用拡大に伴う細部の取扱いは、今後の省令・通達により具体化されます。最新の情報は厚生労働省および都道府県労働局・ハローワークの公表資料をご確認ください。実際のご対応にあたっては、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号:第160175号