| 労務トピックス
令和8年「規制改革実施計画」を7月21日に閣議決定 2026年8月9日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則 |
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2026年(令和8年)7月21日、政府は令和8年の「規制改革実施計画」を閣議決定しました。令和8年6月29日の規制改革推進会議「規制改革推進に関する答申」を踏まえ、対象となった規制・制度について期限を定めて改革を実行していくための政府の実行計画です。社労士・企業の労務担当者にとって見逃せないのは、この計画に労働時間法制に関する4項目――@1年単位の変形労働時間制における労働日等の特定の在り方、A裁量労働制の適用対象業務の在り方、Bシフト制における適正な年次有給休暇の取得等、Cオンラインによる労働条件の明示方法の見直し――が明記されたことです。 いま労働時間法制をめぐっては、労働政策審議会労働条件分科会で労働基準法の大改正(連続勤務の上限、法定休日の特定、勤務間インターバル等)が議論されており、こちらは総じて「規制の強化・整備」の方向です。一方、今回の実施計画に並ぶ4項目は「柔軟化・明確化」の方向を向いています。同じ労働時間法制について、強化と柔軟化という2つの流れが同時に走っている――これが2026年夏の状況です。本記事では4項目の中身と実務へのインパクトを整理します。 |
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📌 この記事でわかること ・令和8年の規制改革実施計画(7月21日閣議決定)に盛り込まれた労働時間法制4項目の内容と措置時期 |
規制改革実施計画は、内閣府の規制改革推進会議での議論を経て、毎年閣議決定される政府の実行計画です。令和8年は、6月29日に「規制改革推進に関する答申」が内閣総理大臣に提出され、6月30日の第5回規制改革関係府省庁連絡会議(持ち回り開催)に「規制改革実施計画(案)」が示されたうえで、7月21日の閣議決定に至りました。各項目には「規制改革の内容」と「主な措置時期」が示されます。
重要なのはその法的性格です。実施計画そのものは法律でも省令でもありません。しかし閣議決定である以上、所管省庁は計画に沿って検討を進める責務を負います。実施計画に載るということは、「厚生労働省の審議会でこのテーマの議論が始まる(または加速する)」という予告にほかなりません。顧問先に対して「まだ決まっていませんが、こういう議論が始まります」と1〜3年先を語れるかどうかは、専門家としての信頼に直結します。
| 項目 | 規制改革の内容(要旨) | 主な措置時期 |
| @ 1年単位の変形労働時間制における労働日等の特定の在り方 | 使用者による勤務シフトの確定・変更ルールを柔軟化し、悪天候や工期遅延など突発的な事象に対応しやすくする | 令和8年検討開始、結論を得次第速やかに措置 |
| A 裁量労働制の適用対象業務の在り方 | 健康確保・長時間労働防止・適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に、対象の在り方について見直しを行う | 令和8年検討開始、結論を得次第速やかに措置 |
| B シフト制における適正な年次有給休暇の取得等 | シフト制の年次有給休暇に係る法令等の解釈を明確化し、必要な周知を徹底することで、適正な取得と適正な管理を推進する | 令和7年度検討開始、結論を得次第速やかに措置等 |
| C オンラインによる労働条件の明示方法の見直し | 労働者に過度な負担を課すことなく、より円滑に電子メール等の送信の方法で労働条件等の明示を可能とする | 令和8年度検討・結論、結論を得次第速やかに措置 |
※各項目の内容・措置時期は、実施計画の公表内容(内閣府)に基づきます。4項目のうちBのみ「令和7年度検討開始」=すでに動き出している項目です。
1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4)は、季節による繁閑差の大きい業種で広く使われています。労使協定において、対象期間中の労働日と労働日ごとの労働時間をあらかじめ特定することが要件とされ、いったん特定した労働日・労働時間を、後から使用者の都合で変更することは原則として認められません。労働者の生活設計を保護するための仕組みです。
しかし実務では、この硬直性が問題になってきました。典型は建設業と運輸業です。悪天候で工事日程が動く、資材の納入遅れや前工程の遅延で工期がずれる、発注者都合で作業日が変更になる――こうした突発的事象が生じても労働日を組み替えられず、制度が実態に合わないという声が出ていました。実施計画は、勤務シフトの確定・変更ルールを柔軟化し、突発的な事象に対応しやすくする方向での見直しを掲げています。
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【当法人の見方】どこまで動くか(私見) 労働日の特定要件は、労働者の生活の予測可能性を守るための中核的な規律であり、全面的な自由化に至る可能性は高くないと考えられます。想定されるのは、「特定の変更が許される場合」を通達等で類型化・明確化する、あるいは労使協定で変更手続を定めた場合に限り一定の変更を認める、といった限定的な柔軟化ではないでしょうか。2024年4月から時間外労働の上限規制が適用された建設業・運輸業にとって、労働時間制度の設計自由度は死活問題であり、議論の行方を追う価値があります。 |
裁量労働制には、専門業務型(労基法38条の3)と企画業務型(同38条の4)があります。専門業務型の対象業務は省令・告示で限定列挙されており、2024年4月には「M&Aアドバイザリー業務」(銀行・証券会社における合併・買収等に関する考案・助言の業務)が追加されました。同時に、専門業務型についても本人同意を要件とし、同意の撤回手続を労使協定に定めるといった手続規制の強化が行われています。
対象業務の拡大は経営側が長年求めてきたテーマであり、同時に労働側が最も警戒するテーマでもあります。今回の実施計画で注目すべきは、「健康確保、長時間労働防止、適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に」という留保が明記されている点です。単なる対象拡大ではなく、健康確保措置とセットでの制度設計が想定されていると読めます。
仮に対象業務が拡大されれば、企業からの相談は確実に増えるでしょう。ただし2024年4月改正で本人同意・同意撤回の手続が必須となり、裁量労働制は「入れれば楽になる制度」ではなく「運用の手間がかかる制度」に変わっています。労使協定(または労使委員会決議)・本人同意・健康福祉確保措置・苦情処理・記録保存という一連の実務を回せる企業でなければ導入は難しく、社労士としては「使える企業かどうか」を見極めて助言する役割が一層重要になると考えられます(私見)。
パート・アルバイトを中心に、所定労働日数が事前に確定しないシフト制の働き方が広がる中、実務が悩んできたのが年次有給休暇です。比例付与(労基法39条3項)の日数を何を根拠に決めるのか、年休取得日の賃金をどう算定するのか、「シフトを入れなければ年休は発生しない」といった誤った運用をどう是正するか、といった論点です。
この点については、厚生労働省が令和8年6月に「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」を改正し、所定労働日数を定めていない場合には過去の労働日数の実績を基に年休の付与日数を算出してよいとする考え方を明確化しています。4項目のうち唯一「令和7年度検討開始」とされているのはこのためで、実施計画の掲載は、すでに進行しているこの流れを政府の実行計画として位置づけたものと読めます。
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✓ いま点検すべきこと(シフト制のパート・アルバイト) ・比例付与の日数を何を根拠に決めているか(契約書に週所定労働日数の記載がない場合、過去の実績をどう見ているか) |
労働条件の明示は労基法15条・労基則5条に基づく義務です。書面交付が原則ですが、労働者が希望した場合には、FAX、電子メール、SNSのメッセージ機能等(出力して書面を作成できるものに限る)による明示が認められています。2024年4月からは、就業場所・業務の「変更の範囲」、有期契約の「更新上限」、無期転換関係の明示事項も加わり、交付・保存の実務負担は増しています。
現行ルールの実務上のネックは「労働者が希望した場合に限る」という要件と「出力して書面を作成できるもの」という限定です。採用時に一人ひとりから電子交付の希望を確認する手間や解釈の不安から、結局すべて紙で運用している企業は少なくありません。実施計画は、テレワーク等の多様な働き方やデジタル社会に適合させる観点から、労働者に過度な負担を課すことなく、より円滑に電子メール等で明示できるようにする方向を示しています。希望確認の方法の簡素化や、労務管理クラウド上での交付の位置づけの明確化などが考えられますが、具体像は今後の検討次第です(推測)。明示は労働者保護のための制度であり、「見たことにされる」運用に流れないための歯止めが議論の焦点になると考えられます。
| 方向 | 舞台 | 主な内容 |
| 規制の強化・整備 | 労働政策審議会 労働条件分科会 | 連続勤務の上限、法定休日の特定、勤務間インターバル、割増賃金・副業の取扱い 等 |
| 柔軟化・明確化 | 規制改革推進会議 → 規制改革実施計画 | 1年単位の変形労働時間制、裁量労働制の対象、シフト制の年休解釈、オンライン明示 |
労働基準法の改正案は2026年の通常国会への提出が見送られ、労政審での議論が続いています。その状況下で、規制改革のルートから4つの検討課題が閣議決定という形で政府の実行計画に載ったことになります。この2つの流れは、最終的には同じ労働条件分科会のテーブルに合流する可能性が高いと当法人は見ています(推測)。労基法改正が次にまとまった形で動くとき、「連続勤務の上限」のような強化項目と「変形労働時間制の柔軟化」のような緩和項目がパッケージとして議論される展開はあり得ます。
社労士・企業としては、どちらか一方だけを見て「規制が厳しくなる」「いや緩くなる」と語るのは危うい。強化と柔軟化が同時に進むことを前提に、労働時間の客観的把握・就業規則と労使協定の整合・記録の保存という基礎を徹底しておくことが、結局のところ最善の備えだと考えます。
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✓ チェックリスト @1年単位の変形労働時間制の棚卸し:労使協定の労働日カレンダーが実態と乖離していないか。現状の運用が「特定」の要件を満たしているかを、制度が動く前に点検する。 |
令和8年の規制改革実施計画が7月21日に閣議決定され、労働時間法制に関する4項目(@1年単位の変形労働時間制の労働日等の特定、A裁量労働制の適用対象業務、Bシフト制の年次有給休暇、Cオンラインによる労働条件明示)が盛り込まれました。実施計画は法令ではありませんが、閣議決定として今後の審議会での議論の「予告編」となるものです。労基法改正(強化)と規制改革(柔軟化)が並走するいま、どちらに転んでも耐えられる労務管理の基礎固めこそが、最も確実な備えです。「決まってから対応する」のでは、顧問先や従業員に価値を届けるタイミングとしては遅すぎます。
当法人では、変形労働時間制・裁量労働制の導入や運用点検、シフト制労働者の年休管理、就業規則・労使協定の整備について、最新の制度動向を踏まえた伴走型の支援を行っております。
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📖 出典・参照資料 ・内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日閣議決定)本文 https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/program/260721/01_program.pdf |
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。規制改革実施計画に盛り込まれた事項は今後の検討課題であり、内容が変更される可能性があります。記事中「私見」「推測」と記載した部分は執筆者の分析であり、確定した制度内容ではありません。 |
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執筆者 三重 英則(みえ ひでのり) 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 |