| 労務トピックス |
「人手不足倒産」2026年度上半期は過去最多――東京商工リサーチ240件・帝国データバンク225件 「人件費高騰」型が130件で半数を超え、最低賃金の発効が続くこの秋に中小企業が点検すべき4つのこと |
| 2026年11月8日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士) |
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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。
10月に入り、民間の信用調査会社である東京商工リサーチ(以下「TSR」)と帝国データバンク(以下「TDB」)が、2026年度上半期(4月から9月)の「人手不足倒産」の集計を相次いで公表しました。TSRは240件、TDBは225件で、いずれも年度上半期として過去最多です。
当法人は以前の記事で、TDBが集計した2025年度の人手不足倒産441件を取り上げ、「採れない」ことよりも「辞める」ことによる倒産が増えている点に注目しました。今回の集計で目を引くのは、もう1つの型の急増です。TSRの集計では、人件費の高騰を理由とする倒産が130件となり、前年同期の74件から約1.7倍に増えて、人手不足倒産の半数を超えました。人が採れない、人が辞めるという問題に、人を雇い続けるための人件費を払えないという問題が重なっています。
10月1日から各地で改定後の最低賃金が発効しており、最も遅い沖縄県では12月2日まで発効が続きます。本記事は、両社の公表資料と厚生労働省の最低賃金の一覧を確認したうえで、数字の読み方と、この秋に中小企業が点検すべきことを整理する続報です。
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| 📌 この記事でわかること |
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✓ 2026年度上半期の人手不足倒産は、TSRの集計で240件(前年同期比17.0%増)、TDBの集計で225件(同5.1%増)となり、どちらも年度上半期として過去最多であること。両社は集計の範囲が異なるため、数字を混ぜて使えないこと
✓ TSRの集計では「人件費高騰」が130件(同75.6%増)で全体の54.1%を占め、「従業員退職」も67件で過去最多となった一方、合計から差し引いて計算すると「求人難」は43件で、前年同期の66件から減っていること
✓ TDBの集計では建設業が70件で最多となり、従業員10人未満の企業が182件で全体の約8割を占めたこと。受託開発ソフトウェア業も8件(前年同期比6件増)に増えたこと
✓ 令和8年度の最低賃金は全国加重平均1,177円(56円引上げ)で、愛知県1,195円・岐阜県1,121円・三重県1,143円は10月1日に、静岡県1,154円は10月15日に発効し、発効は12月2日まで続くこと
✓ 中小企業が今すぐ点検すべきなのは、発効後最初の給与計算での最低賃金の確認、賃上げを年間の人件費総額で試算すること、価格転嫁の根拠資料づくり、資格者や現場責任者の退職への備えの4点であること
「人が採れない」「人が辞める」に加えて、「人件費を払い続けられない」ことが、人手不足倒産の主な理由になってきています。
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出典について
本記事は、TSR「年度上半期の『人手不足』倒産」(10月5日)、「2026年度上半期(4-9月)の全国企業倒産5,373件」(10月8日)、「2026年9月の全国企業倒産831件」(10月8日)、TDB「人手不足倒産の動向調査(2026年度上半期)」(10月7日)、「倒産集計 2026年度上半期報(4月〜9月)」(10月8日)、「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」(8月17日)、厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」に基づいています。
TDBの人手不足倒産の調査は、ウェブページの本文と倒産集計の上半期報で数値を確認しましたが、同時に公表されたPDF(グラフと詳細表)は確認できていません。TSRの上半期の「求人難」の件数は公表資料に記載がなく、本記事の値は合計から差し引いて当法人が計算したものです。「当法人の見解」と記した部分は当法人の意見であり、調査会社や行政の見解ではありません。
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| 1 2社の集計を並べる――件数が違うのは数え方が違うから |
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両社の集計を並べると次のとおりです。
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| 項目 |
東京商工リサーチ(TSR) |
帝国データバンク(TDB) |
| 公表日 |
2026年10月5日 |
2026年10月7日 |
| 集計期間 |
2026年4月から9月 |
2026年4月1日から9月30日 |
| 集計の対象 |
負債1,000万円以上の全国企業倒産のうち、求人難・従業員退職・人件費高騰を理由とするもの(後継者難は除く) |
負債1,000万円以上の法的整理による倒産のうち、従業員の離職や採用難などによる人手不足、人件費の高騰を要因とするもの |
| 件数 |
240件 |
225件 |
| 前年同期 |
205件(17.0%増) |
214件(11件増、5.1%増) |
| 記録 |
2013年の調査開始以降、年度上半期で最多。2021年度同期の26件を底に5年連続で増加 |
2013年の集計開始以降、年度上半期として4年連続で過去最多 |
| 業種の特徴 |
サービス業他91件・建設業55件で全体の60.8% |
建設業70件が最多、次いでサービス業63件 |
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TDBは法的整理に限ると明記しています。TSRも負債1,000万円以上を対象としていますが、倒産の範囲や要因の判定方法の詳細は、今回確認した資料からは分かりません。したがって、240件と225件の差を「どちらが正しいか」で考える意味はありません。数字を引用するときは、どちらの調査かを必ず書き、両社の数字を混ぜて使わないことが大切です。業種別の件数も、両社で産業の分け方が異なるため、そのまま比べることはできません。
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| 2 TSR:「人件費高騰」130件で半数超、「求人難」は減少 |
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TSRが10月5日と10月8日に公表した資料から、理由別の件数を整理すると次のとおりです。
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| 理由 |
2026年度上半期 |
前年同期 |
増減 |
構成比 |
| 人件費高騰 |
130件 |
74件 |
75.6%増(約1.7倍) |
54.1% |
| 従業員退職 |
67件(過去最多) |
65件 |
2件増 |
27.9%(※) |
| 求人難 |
43件(※) |
66件(※) |
23件減(※) |
17.9%(※) |
| 合計 |
240件 |
205件 |
17.0%増 |
100% |
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| 人件費高騰の件数・増減率・構成比と合計はTSR「年度上半期の『人手不足』倒産」(10月5日)、人件費高騰と従業員退職の前年同期の件数および従業員退職の件数はTSR「2026年度上半期(4-9月)の全国企業倒産5,373件」(10月8日)によります。(※)はTSRの公表資料に記載がなく、TSRの人手不足倒産が求人難・従業員退職・人件費高騰の3つで構成されることを前提に、当法人が合計から差し引いて計算した値です。 |
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3つの型の動きは対照的です。人件費高騰は前年同期の約1.7倍に増え、従業員退職は2件増で過去最多を更新しました。一方、差し引きで計算した求人難は23件減っています。「採れない」ことで倒れる会社は減り、「払えない」ことで倒れる会社が増えたというのが、TSRの数字から読み取れる構図です。ただし、求人難の件数は当法人の計算であり、TSRが公表した値ではありません。
規模と形態を見ると、資本金1千万円未満の企業が159件(前年同期比33.6%増)で全体の66.2%を占め、形態別では破産が229件(同23.7%増)で95.4%に上ります。破産は会社を清算する手続ですから、人手不足倒産のほとんどは、事業を立て直すのではなく、たたむ形で終わっていることになります。産業別では、サービス業他が91件(同21.3%増)、建設業が55件(同5.7%増)で、この2産業で全体の60.8%です。
TSRは見出しで、人件費高騰による倒産を「賃上げ倒産」と表現しています。そのうえで、大手と中小・零細企業の賃金格差が広がるなか、10月以降に全国で最低賃金が引き上げられ、物価高と人件費の上昇のなかで「賃上げ疲れ」が表面化していると指摘しています。
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| 3 9月単月と倒産全体――「人件費高騰」だけが前年を上回った |
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TSRの9月の月次集計(10月8日公表)では、人手不足関連の倒産は34件で、前年同月の48件を下回りました。ただし、内訳を見ると動きが分かれています。
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| 理由 |
2026年9月 |
前年同月 |
| 人件費高騰 |
18件 |
15件(唯一の増加) |
| 求人難 |
9件 |
13件 |
| 従業員退職 |
7件 |
20件 |
| 合計 |
34件 |
48件 |
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同じ9月の全国企業倒産は831件(前年同月比4.8%減)で、4か月ぶりに前年同月を下回りました。一方で、従業員10人未満の企業が91.5%を占め、今年最高の割合となっています。単月の数字なので傾向を断定することはできませんが、人件費高騰だけが前年を上回ったことは、上半期の流れと一致しています。
倒産全体の動きは、TDBの「倒産集計 2026年度上半期報」(10月8日公表)にまとまっています。
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| 項目 |
2026年度上半期 |
前年同期比 |
| 倒産件数(全体) |
5,362件 |
4.2%増(上半期として2年連続で5,000件超) |
| 物価高倒産 |
628件 |
28.7%増(2018年度の集計開始以降で最多) |
| 人手不足倒産 |
225件 |
5.1%増(2年連続で200件超) |
| 後継者難倒産 |
296件 |
12.1%増(上半期として過去最多) |
| 経営者の病気・死亡 |
204件 |
16.6%増(2000年度以降で初めて200件超) |
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TDBは、2026年度下半期も中小・小規模企業を中心に5,000件を超えるペースで推移し、このペースが続けば、年度で1万件を超えるのは3年連続になる見込みとしています。TSRの集計でも、上半期の全国企業倒産は5,373件(前年同期比3.8%増)でした。
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| 4 TDB:建設業70件、従業員10人未満が約8割 |
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TDBの集計(10月7日公表)では、2026年度上半期の人手不足倒産は225件で、前年同期の214件から11件増え、2013年の集計開始以降、年度上半期として4年連続で過去最多を更新しました。
業種別では、建設業が70件(前年同期比17件増)で最も多く、TDBは職人不足が慢性化していることを背景に挙げています。サービス業は63件(同6件増)で、なかでも受託開発ソフトウェア業が8件(同6件増)と増えました。従業員の規模別では、10人未満の企業が182件で、全体の約8割を占めています(TDB「倒産集計 2026年度上半期報」)。
TDBは事例として、静岡県の屋根工事業者が、現場をまとめていた社員の独立と、施工に必要な資格を持つ社員の退職が重なって営業が困難になり、自己破産を申し立てたケースと、愛知県のソフトウェア開発業者が、資金面の問題から人材の採用・育成に着手できない状態が続き、AIやノーコードツールの台頭に自社の開発が追いつかなかったことも重なって、事業の継続を断念したケースを紹介しています。
そのうえでTDBは、今後の焦点として人件費の高騰への対応を挙げ、2026年度の最低賃金が全国加重平均1,177円(56円引上げ)となったこと、政府が最低賃金を遅くとも2030年代前半に1,500円へ引き上げる目標を掲げていることに触れ、価格転嫁や生産性の向上で人件費の増加を吸収できるかが、事業継続の分岐点になるとしています。
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| 5 背景――最低賃金の発効は12月2日まで、人手不足感は解消していない |
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厚生労働省の「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」によれば、東海4県の改定額と発効日は次のとおりです。
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| 県 |
改定後 |
改定前 |
引上げ額 |
引上げ率 |
発効日 |
| 愛知 |
1,195円 |
1,140円 |
55円 |
4.8% |
令和8年10月1日 |
| 岐阜 |
1,121円 |
1,065円 |
56円 |
5.3% |
令和8年10月1日 |
| 三重 |
1,143円 |
1,087円 |
56円 |
5.2% |
令和8年10月1日 |
| 静岡 |
1,154円 |
1,097円 |
57円 |
5.2% |
令和8年10月15日 |
| 全国加重平均 |
1,177円 |
1,121円 |
56円 |
5.0% |
― |
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| 出典:厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」。 |
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発効日は都道府県ごとに異なり、最も遅い沖縄県は令和8年12月2日、岩手県と熊本県は12月1日です。人件費の上昇は、秋から冬にかけて各地で順番に表れていきます。
人件費の負担が増えても、人手不足そのものは解消していません。TDBの「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」(有効回答10,518社)では、正社員が不足している企業は51.3%(前年同月比0.5ポイント増)、非正社員は28.8%(同0.1ポイント増)でした。業種別(正社員)では、金融67.1%、建設66.0%、運輸・倉庫65.6%が上位です。
大企業の側では、TSRの集計(10月3日公表)で、2026年1月から9月に早期・希望退職を募集した上場企業は22社(前年同期34社)、募集人数は5,345人(同11,909人)と前年を下回りました。ただし、募集した企業の63.6%(14社)は直近の決算が黒字で、製造業が20社(90.9%)を占めています。TSRは、物価高の影響などから、希望退職の募集が再び増える方向に転じることが危惧されるとしています。
介護の分野では、TSRの集計(10月10日公表)で、2026年1月から9月の「デイサービス」の倒産が47件(前年同期比34.2%増)となり、同じ期間として過去最多でした。人手不足関連の倒産が11件(前年同期3件)あり、なかでも人件費高騰が7件(同1件)に増えています。TSRは、介護職員の処遇改善が進められる一方で、最低賃金の上昇などで他業界との人材獲得競争が激しくなっていると指摘しています。
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| 6 中小企業がこの秋に点検すべき4つのこと |
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ここからは、統計の数字を離れた一般的な実務の整理です。いずれも当法人の整理であり、行政や調査会社が示したものではありません。
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点検1 最低賃金は「発効後最初の給与計算」で確かめる
愛知・岐阜・三重は10月1日に発効し、静岡は10月15日に発効します。改定後の最低賃金は発効日以降の労働に適用されますから、賃金計算期間の途中で発効する場合は、発効日の前後で分けて確認してください。時給の従業員だけでなく、月給・日給の従業員も時間額に換算して確認が必要です。月給の場合は、月給を1か月平均所定労働時間で割って比べます(最低賃金法施行規則2条)。
比べる賃金からは、臨時に支払われる賃金、賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外・休日・深夜の割増賃金、精皆勤手当・通勤手当・家族手当を除きます(最低賃金法4条3項、同法施行規則1条。精皆勤手当・通勤手当・家族手当は、各地域別最低賃金の決定で算入しないこととされています)。固定残業代を含めて月給を設計している場合は、固定残業代を除いた部分だけで最低賃金を満たしているかを確認してください。最低賃金額に達しない賃金の定めは無効となり、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます(同法4条2項)。地域別最低賃金を下回る支払には、50万円以下の罰金が定められています(同法40条)。
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点検2 賃上げを「年間の人件費総額」で試算してから決める
TSRの集計で人件費高騰型が半数を超えたことは、収益の裏付けのない賃上げが資金繰りを直撃しうることを示しています。時給の引上げは、時給の額だけでなく、割増賃金の単価、社会保険料の事業主負担、最低賃金の近くで働く人と1つ上の等級の人との賃金差の縮小にも波及します。
基本給の引上げ、手当、賞与・一時金の役割を分けたうえで、年間の人件費総額がいくら増えるかを試算してから決めてください。政府が1,500円の目標を掲げている以上、今年だけでなく、数年分の見通しを持っておく必要があります。
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点検3 価格転嫁の交渉材料を「労務の側」から用意する
内閣官房と公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月29日)は、受注者に対して、労務費の上昇を説明する根拠に公表資料を用いることを求め、発注者に対しては、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額などの公表資料に基づく受注者からの価格の提示を尊重することを求めています。
自社の賃金改定の内容、最低賃金の引上げ額、それによる年間の人件費の増加額を1枚にまとめておけば、交渉の場でそのまま使えます。当法人は、この資料のうち賃金と人件費に関する部分の作成を支援できます。
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点検4 資格者・現場責任者の退職を「事業停止のリスク」として扱う
TDBが紹介した静岡県の屋根工事業者の事例では、現場をまとめていた社員の独立と資格者の退職が重なって営業が困難になりました。許可や施工に資格者が必要な業種では、1人の退職が人数以上の打撃になります。
資格手当や処遇の見直し、業務の引継ぎと複数人で担える体制づくり、日頃の面談で退職の兆しをつかむ仕組みを、平時から整えておくことが大切です。なお、退職後の競業を就業規則や誓約書で制限する場合も、期間・地域・代償措置などに照らして合理的な範囲に限られる点に注意してください。
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| 7 当法人の視点 |
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9月単月では、従業員退職を理由とする倒産が20件から7件に減りました。しかし、これを離職のリスクが下がった兆しと読むのは早いと考えます。1か月だけの数字であり、上半期では従業員退職は67件で過去最多です。TDBの7月の調査でも、正社員の不足感はむしろ強まっています。
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当法人の見解
当法人は、TSRの数字が示しているのは、人手不足倒産の中心が「人が採れない」から「人件費を払い続けられない」へ移りつつあることだと考えます。賃上げは、採用と定着のために避けられません。しかし、収益の裏付けのない賃上げは、それ自体が倒産の理由になります。だからこそ、賃上げを「するか、しないか」ではなく、「どう設計し、どう価格に転嫁し、どう生産性で吸収するか」を、1つの計画として同時に考える必要があります。
この見解には、根拠が十分でない前提が2つあります。1つは、求人難が減ったという点が、TSRが公表した値ではなく、合計から差し引いた当法人の計算に依拠していることです。もう1つは、倒産の理由の分類が調査会社の判定によるもので、TSRの判定基準の詳細は公表資料からは確認できないことです。人件費の高騰と従業員の退職が重なって倒れた会社が、どちらに分類されているかは分かりません。
最も強い反論は、人件費高騰型の倒産の多くは、もともと収益力の弱かった会社の問題が最低賃金の上昇をきっかけに表面化しただけで、賃上げそのものが原因ではない、というものです。この指摘には理由があります。資本金1千万円未満が66.2%、破産が95.4%という数字は、体力の乏しい事業者が中心であることを示しています。ただ、きっかけであれ原因であれ、最低賃金の上昇が今後も続く以上、経営者が備えるべきことは変わりません。労働者の側からは、価格転嫁や生産性の向上を前提にした賃上げの設計は、賃上げを遅らせる口実になりうる、という指摘も考えられます。当法人は、最低賃金を下回る設計の余地はない(最低賃金法4条1項)ことを前提に、それを上回る部分の配分を設計する、という順序を守るべきだと考えます。
簡易な確かめ方を1つ挙げます。時給(月給・日給は時間額に換算)が改定後の最低賃金から100円以内の従業員を一覧にし、来年も同じ額だけ最低賃金が上がった場合に、年間の人件費がいくら増えるかを計算してください。割増賃金と社会保険料の事業主負担の増加も含めます。その額を直近の営業利益と比べれば、最低賃金の上昇が自社にとって「吸収できる負担」なのか「計画が必要な負担」なのかが見えます。
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| まとめ |
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2026年度上半期の人手不足倒産は、TSRの集計で240件(17.0%増)、TDBの集計で225件(5.1%増)となり、いずれも年度上半期として過去最多を更新しました。TSRの集計では、人件費高騰が130件(約1.7倍)で半数を超え、従業員退職も67件で過去最多となる一方、差し引きで計算した求人難は減っています。9月単月でも、人件費高騰だけが前年を上回りました。TDBの集計では建設業が70件で最多、従業員10人未満の企業が約8割を占めています。最低賃金は全国加重平均1,177円に引き上げられ、愛知県は1,195円(10月1日発効)、静岡県は1,154円(10月15日発効)で、発効は12月2日まで続きます。
当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。最低賃金の発効後の点検から、続けられる賃上げの設計、価格交渉の根拠資料づくり、キーパーソンの定着まで、経営者と一緒に整えてまいります。毎月の給与計算の点検については給与監査顧問、賃金規程や手当の見直しについては就業規則作成・改訂、継続的なご相談については高難度業務対応型顧問のページもご覧ください。
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最低賃金の発効後点検と、続けられる賃上げの設計を
最低賃金の点検、賃金規程と手当の見直し、年間人件費の試算、価格交渉に使う資料づくりまで、 社会保険労務士法人T&M Nagoya がご相談をお受けします。
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| この記事を書いた人 |
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三重 英則(HIDENORI MIE)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)
法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。
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