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作成日:2026/11/01
実質賃金+1.5%で8か月連続プラス、ただし伸びは縮小 毎月勤労統計 令和8年8月分速報を、最低賃金改定と電気・ガス補助終了が重なる10月からどう読むか(厚生労働省 令和8年10月7日公表)
労務トピックス
実質賃金+1.5%で8か月連続プラス、ただし伸びは縮小
毎月勤労統計 令和8年8月分速報を、最低賃金改定と電気・ガス補助終了が重なる10月からどう読むか(厚生労働省 令和8年10月7日公表)
2026年11月1日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

厚生労働省は昨日10月7日、毎月勤労統計調査の2026年(令和8年)8月分結果速報を公表しました。事業所規模5人以上の労働者1人平均の現金給与総額は31万1,364円、前年同月比3.8%増。物価の影響を除いた実質賃金は1.5%増で、厚生労働省の報道発表資料によれば8か月連続のプラスです。

7月分速報の実質賃金は2.4%増でしたから、プラスは続いたものの伸びは縮みました。当法人は7月分の記事で、賞与という一時的な要素を除いた「所定内給与の伸びと物価上昇率の差」を月々の実力値と見るのが実態に近い、と書きました。8月分は、賞与の季節が終わり、その実力値が表に出た月です。そして10月は、地域別最低賃金の改定が順次発効し、報道によれば政府の電気・ガス料金の補助が9月使用分で終了する月でもあります。賃金の底を押し上げる要因と、物価を押し上げる要因が同時に動き出す直前の全体像が、この8月分速報です。公表資料の内訳まで読み、自社の実務にどうつなぐかを整理します。

📌 この記事でわかること

✓ 2026年8月の現金給与総額は31万1,364円(前年同月比3.8%増)、所定内給与27万7,861円(3.8%増)、所定外給与2万497円(5.2%増)、特別に支払われた給与1万3,006円(前年同月と同水準)。実質賃金(持家の帰属家賃を除く総合で実質化)は1.5%増で、厚生労働省の報道発表資料によれば8か月連続のプラス。報道によれば、8か月以上の連続は2016年2月から2017年1月以来、約10年ぶりとされること

✓ 伸びの縮小は賞与の季節が終わったことによる。実質化に用いた消費者物価指数の上昇率は2.2%で、所定内給与の伸び3.8%との差である約1.6ポイントが月々の賃金の実力値であること

✓ 総実労働時間は129.8時間(0.5%増)で、報道によれば4か月ぶりの増加。所定外労働時間は9.2時間(2.2%増)、製造業12.8時間(2.5%増)、卸売業・小売業6.9時間(3.0%増)と、残業が増えていること

✓ パートタイム労働者の時間当たり所定内給与は1,472円(4.3%増)、月間の現金給与総額は11万5,905円、月間総実労働時間は77.7時間(週に直すと約18時間)。10月1日に撤廃された社会保険の賃金要件(月額8.8万円)を平均値は大きく上回り、残る線は週20時間であること

✓ 産業別では、金融業・保険業が46万8,403円(9.7%増)で伸びが最も大きく、生活関連サービス業等は23万766円(2.1%減)で、16産業中唯一のマイナス。賃上げの波及には業種差があること

8か月連続のプラスは、春の賃上げが物価を上回って続いた結果です。10月以降は、最低賃金と物価の両方が動きます。会社が動かせるのは名目の側だけです。

1 8月分速報の主要数値――報道に出る数字と出ない数字

まず、速報の概況から主要な数値を並べます。断りのないかぎり事業所規模5人以上、労働者1人平均の数値です。

項目 2026年8月 前年同月比
現金給与総額 311,364円 +3.8%
 うち きまって支給する給与 298,358円 +3.9%
  うち 所定内給与 277,861円 +3.8%
  うち 所定外給与 20,497円 +5.2%
 うち 特別に支払われた給与 13,006円 0.0%(前年同月と同水準)
実質賃金指数(現金給与総額、持家の帰属家賃を除く総合で実質化、2020年平均=100) 83.7 +1.5%
実質賃金指数(現金給与総額、総合で実質化、2020年平均=100) 85.6 +1.9%
消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合) 実質化に使用 +2.2%
消費者物価指数(総合) 実質化に使用 +2.0%
(参考)事業所規模30人以上の現金給与総額 344,966円 +3.7%

厚生労働省の報道発表資料には、現金給与総額について名目賃金が3%以上の伸びを示したのは7か月連続で34年5か月ぶりであること、実質賃金(持家の帰属家賃を除く総合で実質化)のプラスは8か月連続であること、所定内給与が3%以上の伸びを示したのは8か月連続で33年10か月ぶりであること、パートタイム労働者の時間当たり所定内給与のプラスは62か月連続であることが注記されています。報道によれば、現金給与総額のプラスは56か月連続で、実質賃金の8か月以上の連続は2016年2月から2017年1月までの12か月以来、約10年ぶりとされています。後者の連続記録と過去との比較は概況や報道発表資料には記載がなく、報道に基づく数値です。

表で注意したいのは、実質賃金が2つの数字で示されている点です。持家の帰属家賃を除く総合で実質化すると1.5%増、総合で実質化すると1.9%増です。厚生労働省が主たる指標としているのは前者で、報道の「1.5%増」もこれを指します。どちらの消費者物価指数で割るかによって0.4ポイントの差が出ることは、実質賃金という数字が物価指数の選び方に左右される幅を示しています。なお、概況の注記によれば、実質化に用いた消費者物価指数は2020年基準です。

2 伸びが縮んだ理由――賞与の季節が終わり、物価が2%台で残った

7月分速報と8月分速報を並べると、何が起きたかが見えます。

項目 2026年7月分速報 2026年8月分速報
現金給与総額 436,401円(+4.7%) 311,364円(+3.8%)
所定内給与 280,797円(+4.1%) 277,861円(+3.8%)
所定外給与 20,785円(+3.1%) 20,497円(+5.2%)
特別に支払われた給与 134,819円(+6.3%) 13,006円(0.0%)
消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合) +2.2% +2.2%
実質賃金(現金給与総額) +2.4% +1.5%

7月の実質賃金2.4%増を押し上げていたのは、夏季賞与を含む特別に支払われた給与の6.3%増でした。8月は賞与の支給がほぼなくなり、特別給与は前年同月と同水準です。物価上昇率は7月も8月も2.2%で変わっていません。つまり、8月の縮小は物価が上がったからではなく、賞与の押し上げが消えたからです。7月分速報の数値は確報で改訂されている可能性がありますが、構図は変わりません。

所定内給与の伸び3.8%から物価上昇率2.2%を引いた約1.6ポイントが、賞与に左右されない月々の実力値です。当法人が7月分の記事で「約2%」と見た実力値は、8月分では1.6ポイント前後に下がっています。所定内給与の伸びが4.1%から3.8%へわずかに鈍ったためです。1か月の数字で傾向を断定することはできませんが、春の賃上げの効果が所定内給与に出きった後の水準として、1.5%から2%の間が当面の実質賃金の目安になると考えられます。

3 就業形態別と労働時間――残業が増えている

報道は全体平均を伝えますが、速報には一般労働者とパートタイム労働者の内訳と、労働時間の数値が載っています。実務に直結するのはこちらです。

項目 一般労働者 パートタイム労働者
現金給与総額 399,849円(+3.7%) 115,905円(+4.1%)
所定内給与 353,346円(+3.8%) 111,118円(+4.1%)
所定外給与 28,252円(+5.1%) 3,367円(+4.2%)
特別に支払われた給与 18,251円(▲0.4%) 1,420円(+8.1%)
時間当たり所定内給与 ― 1,472円(+4.3%)
総実労働時間 153.4時間(+0.6%) 77.7時間(▲0.2%)
所定内労働時間 141.0時間(+0.5%) 75.5時間(▲0.3%)
所定外労働時間 12.4時間(+2.5%) 2.2時間(0.0%)
常用雇用 3,591万2,000人(+0.9%) 1,628万6,000人(+0.8%)

労働時間に目を向けると、就業形態計の総実労働時間は129.8時間で0.5%増、報道によれば4か月ぶりの増加です。所定外労働時間は9.2時間で2.2%増、一般労働者では12.4時間で2.5%増となりました。産業別では製造業の所定外労働時間が12.8時間(2.5%増)、卸売業・小売業が6.9時間(3.0%増)です。残業時間が増え、残業代である所定外給与は時間の伸びを上回る5.2%増となっています。時間の伸び2.2%と金額の伸び5.2%の差は、賃上げによって割増賃金の単価そのものが上がったことによると考えられます。

常用雇用は就業形態計で5,219万8,000人(0.8%増)、パートタイム労働者比率は31.20%で前年同月より0.01ポイント低下しました。報道によれば、雇用は11産業で増え、5産業で減っています。人を増やしながら残業も増えているという組合せは、採用が需要の増加に追いついていない局面と読めます。残業の増加は、36協定の上限管理と割増賃金の計算という2つの実務に直結します。第5章の点検項目で取り上げます。

4 パートの時給1,472円と「週20時間」――最低賃金改定と賃金要件撤廃の交差点

パートタイム労働者の時間当たり所定内給与は1,472円で、前年同月比4.3%増です。7月分速報では1,460円(5.7%増)でしたから、水準は12円上がり、伸び率は鈍りました。前年の同じ時期に時給が大きく上がっていた反動と考えられますが、速報からは確かめられません。

この1,472円という数字は、2つの制度と重なります。第1に、令和8年度の地域別最低賃金です。全国加重平均は1,177円で、都道府県ごとに10月1日から12月2日にかけて順次発効します。愛知県は1,195円で10月1日発効です。パートの平均時給は全国加重平均の最低賃金を約295円上回っていますが、これは平均値であり、最低賃金の近辺で働く人が多い業種、地域、職種では、10月以降の改定が直接に時給を押し上げます。

第2に、2026年10月1日に撤廃された社会保険の賃金要件です。短時間労働者が社会保険に加入する要件のうち、所定内賃金月額8.8万円以上という要件がなくなりました。パートの月間現金給与総額の平均は11万5,905円で、8.8万円を大きく上回っています。一方で、パートの月間総実労働時間の平均は77.7時間、週に直すと約18時間です。平均的なパートタイム労働者は、社会保険加入の線である週20時間のすぐ下で働いていることになります。もちろん平均値ですから、個々の労働者は線の両側に分布しています。時給が上がれば、同じ月収を得るのに必要な時間は減ります。10月の最低賃金改定の後、「時間を減らしたい」という申出が出てくるとすれば、その基準はもはや年収106万円ではなく、週20時間です。賃金要件の撤廃については、当法人の別の記事で詳しく解説しています。

産業 現金給与総額(2026年8月) 前年同月比
金融業・保険業 468,403円 +9.7%
電気・ガス業 532,521円 +7.7%
不動産業・物品賃貸業 359,502円 +0.3%
生活関連サービス業等 230,766円 ▲2.1%(16産業中唯一のマイナス)

産業別の現金給与総額を見ると、金融業・保険業の9.7%増から生活関連サービス業等の2.1%減まで、11.8ポイントの開きがあります。生活関連サービス業等は、理容・美容、クリーニング、冠婚葬祭、娯楽業などを含む業種です。前年同月比がマイナスになった理由は速報からは特定できません。賞与の支給時期のずれ、労働時間の減少、労働者構成の変化のいずれも考えられます。ただ、賃上げの波及に業種差があること自体は、賃上げを実施した会社が採用市場で優位に立ちやすい局面が続いていることを意味します。

5 10月以降の見通しと、3つの点検項目

10月以降の実質賃金には、2つの力が同時に働きます。名目賃金を押し上げる力は、10月1日から順次発効する最低賃金の改定です。パートの時給と、時給制で働く層の所定内給与を直接に押し上げます。物価を押し上げる力は、報道によれば9月使用分で終了する電気・ガス料金の補助です。補助がなくなれば、その分だけ消費者物価指数は上がります。名目の伸びが3%台後半で続いたとしても、物価上昇率が2.2%から上振れすれば、実質賃金の伸びは1.5%からさらに縮み、月によってはプラスを維持できない可能性も否定できません。12月分には冬季賞与が入りますから、年末にかけての数字は再び賞与に左右されます。

こうした見通しのもとで、会社が点検すべきことを3つに整理します。いずれも、速報の数値を離れた一般的な実務の整理です。

点検1 残業の増加:36協定の上限管理と、賃上げ後の割増賃金の単価

所定外労働時間が増えている局面では、まず36協定の上限を確認してください。労働基準法36条の下では、時間外労働の限度時間は原則として月45時間・年360時間で、特別条項を結んでも、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満かつ2か月から6か月のいずれの平均でも80時間以内、月45時間を超えられるのは年6回までです。繁忙が続くと、年6回の枠を年度の前半で使い切る会社が出てきます。月ごとの発動回数を、賃金計算の締日ごとに数えてください。あわせて、春の賃上げで基本給や手当が上がった会社では、割増賃金の計算の基礎となる賃金も上がっています。労働基準法37条5項と同法施行規則21条により基礎から除外できるのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に限られます。新設した手当を名称だけで除外していないか、賃上げ後の単価で割増賃金を計算しているかを確認してください。速報で所定外給与の伸びが所定外労働時間の伸びを上回っていることは、多くの会社で単価の更新が進んでいることを示唆しますが、自社がそうであるかは別の問題です。

点検2 最低賃金の発効日:発効日以降の労働分から適用され、月給制のパートも時給換算で確認する

令和8年度の地域別最低賃金は、都道府県ごとに10月1日から12月2日にかけて順次発効します。改定後の最低賃金は発効日以降の労働に対して適用されますから、賃金計算期間の途中で発効する場合は、発効日の前後で時給を分けて計算する必要があります。時給制の人だけでなく、月給制や日給制のパートについても、月給を月平均所定労働時間で割った額、日給を1日の所定労働時間で割った額が改定後の最低賃金を下回っていないかを確認してください。最低賃金との比較から除外されるのは、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、所定労働時間を超える時間や所定労働日以外の日の労働に対する賃金、深夜労働の割増部分です(最低賃金法4条3項、同法施行規則1条)。最低賃金法4条により、最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約はその部分について無効となり、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます。発効日前に、改定後の時給で求人票と雇用契約書を更新しておくことが、採用と法令遵守の両面で確実です。

点検3 週20時間前後で働くパート:契約の所定労働時間と実労働時間の両方を記録する

第4章で見たとおり、パートの平均的な労働時間は週20時間のすぐ下にあります。10月の時給改定と賃金要件の撤廃を受けて、週20時間の線を意識した働き方の相談が増えることが考えられます。社会保険の加入判定は週の所定労働時間で行いますが、日本年金機構のQ&Aでは、契約上は20時間未満でも実際の労働時間が連続する2か月において週20時間以上となり、引き続き同様の状態が見込まれる場合は、3か月目の初日に被保険者の資格を取得するとされています。パートごとに、雇用契約書の所定労働時間と、直近数か月の実労働時間の両方を一覧にし、線の前後にいる人を把握してください。本人が加入を望まないのに実労働時間が契約を上回り続けているなら、シフトの組み方を契約に戻すか、本人と相談して契約を実態に合わせるかを決める必要があります。「扶養の範囲で」という本人の希望を、年収ではなく週の時間数に翻訳して確認することが、10月以降の採用面接と契約更新の基本になります。

6 当法人の視点

実質賃金の8か月連続プラスは、約10年ぶりの長さです。しかし当法人は、この記録を「賃上げが実った」と読むだけでは足りないと考えます。8か月のプラスのうち、名目賃金の伸びは会社の決定の結果ですが、物価上昇率が2%台前半にとどまったことは会社の外にある要因です。10月以降、その外部要因が反転する可能性が報道で指摘されています。

当法人の見解

当法人は、会社が動かせるのは名目賃金の側だけであり、実質賃金の推移は会社の努力の成績表ではないと考えます。同じ3.8%の賃上げでも、物価が2.2%なら実質1.6%のプラス、物価が3.8%なら実質ゼロです。経営者が社員に説明すべきは「実質賃金がプラスになった」ではなく、「自社の所定内給与を何%上げ、それが同業・同地域の水準と比べてどこにあるか」です。この説明ができる会社は、物価が上向いて実質賃金がマイナスに転じた月にも、社員の信頼を保てます。

もう1つ、速報の労働時間の数字から読むべきことがあります。所定外給与の5.2%増は、残業時間の増加と単価の上昇の両方で成り立っています。残業で現金給与総額を保つ構図は、36協定の上限と社員の健康という2つの天井にいずれ突き当たります。人を増やしながら残業も増えているという8月の組合せは、採用が追いついていない会社が多いことを示しており、そうした会社ほど、残業代の増加分を基本給の引上げや採用の原資に振り向ける設計を考える時期にあると考えます。

この見解には、根拠が十分でない前提があります。毎月勤労統計調査は事業所規模5人以上の常用労働者を対象とする標本調査で、8月分速報の調査対象事業所数は33,045、回答は22,241、回収率は67.3%です。速報値は確報で改訂されることがあり、平均値はパートタイム労働者比率などの労働者構成の変化の影響を受けます。また報道発表資料は、2026年1月に調査対象事業所の部分入替えを行い、現金給与総額の水準に断層が生じていると注記しています。実質賃金の8か月連続と名目3%以上の7か月連続は厚生労働省の報道発表資料に注記がありますが、現金給与総額の56か月連続、「約10年ぶり」という過去との比較、電気・ガス補助の終了時期は報道に基づくもので、厚生労働省の資料には記載がありません。また、実質賃金は実質化に用いる物価指数によって1.5%と1.9%のように異なり、どちらを「正しい実質賃金」と見るかで評価は変わります。

最も強い反論は、労働者側の視点からのものです。8か月連続のプラスといっても伸び率は1.5%にとどまり、物価の上昇が賃金に先行した数年間の目減りを取り戻すには、月々の実力値1.6ポイント程度の伸びでは長い時間がかかる、生活の実感は伸び率ではなく水準で決まる、という指摘です。当法人はこの指摘に理由があると考えます。なお、速報の実質賃金指数83.7は賞与のない8月の月次の値であり、賞与月を含む年平均の100と単純に比べて購買力の減少幅を読むことはできません。使用者側からは、人件費の上昇が価格に転嫁しきれない中小企業では、3.8%の賃上げ自体が限界に近いという声があります。これも事実です。どちらの事実も踏まえると、賃上げの「率」を競うのではなく、所定内給与の「水準」を社員に説明できる賃金テーブルを持つことが、両者の間で会社が取り得る現実的な立ち位置だと考えます。

簡易な確かめ方を1つ挙げます。自社の正社員とパートについて、直近12か月の所定内給与の平均上昇率をそれぞれ計算し、2.2%と比べてください。2.2%を上回っていれば、自社の社員の実質賃金はプラスです。下回っていれば、統計上の「8か月連続プラス」は自社には当てはまっていません。あわせて、直近3か月の所定外労働時間の平均を前年同期と比べ、増えているなら36協定の特別条項の発動回数を数えてください。この2つの作業は1日で終わります。

まとめ

厚生労働省が2026年10月7日に公表した毎月勤労統計調査の令和8年8月分速報では、現金給与総額が31万1,364円(前年同月比3.8%増)、所定内給与が27万7,861円(3.8%増)、実質賃金が1.5%増で8か月連続のプラスとなりました。賞与の季節が終わり、所定内給与の伸びと物価上昇率2.2%との差である約1.6ポイントが実力値として表に出た月です。所定外労働時間は2.2%増、所定外給与は5.2%増と残業が増えており、パートの時給は1,472円(4.3%増)、月間労働時間は77.7時間で、社会保険加入の線である週20時間のすぐ下にあります。10月以降は、最低賃金の改定と電気・ガス補助の終了が同時に動き、実質賃金の伸びはさらに縮む可能性があります。

当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。36協定の上限と割増賃金の単価、最低賃金の発効日、週20時間の線。10月に重なる3つの実務を、経営者と一緒に点検してまいります。賃金計算と割増賃金の点検については給与監査顧問、賃金規程と36協定の整備については就業規則作成・改訂、継続的なご相談については高難度業務対応型顧問のページもご覧ください。

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【根拠法令】

労働基準法36条(時間外及び休日の労働。限度時間、特別条項の上限)、37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)、同法施行規則21条(割増賃金の基礎に算入しない賃金)/最低賃金法4条(最低賃金の効力)、同法施行規則1条(最低賃金の対象とならない賃金)/厚生年金保険法12条5号、健康保険法3条1項9号(令和7年法律第74号による改正後。短時間労働者の加入要件)/統計法に基づく基幹統計調査としての毎月勤労統計調査

【参考判例】

本記事は統計の解説であり、裁判例は扱っていません。

【出典・参考資料】

厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和8年8月分結果速報」(2026年10月7日公表)公表ページhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2608p/2608p.html/同 概況(PDF)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2608p/dl/pdf2608p.pdf/同 報道発表資料(PDF)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2608p/dl/houdou2608p.pdf/デイリースポーツ「実質賃金、8カ月連続でプラス」(2026年10月7日。約10年ぶりの比較と電気・ガス補助終了の記述を参照)https://www.daily.co.jp/society/main/2026/10/07/0020901952.shtml/アドバンスニュース「実質賃金、8カ月連続でプラス維持 伸び率1.5%とやや鈍化、毎勤8月速報」(2026年10月7日。産業別金額、労働時間の連続記録、雇用の増減産業数を参照)https://www.advance-news.co.jp/news/2026/10/post-5249.html/7月分速報の数値は、当法人の2026年9月9日付け記事(毎月勤労統計 令和8年7月分速報)で確認した厚生労働省公表資料による

【免責事項】

本記事は2026年10月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。速報値は確報で改訂されることがあります。実質賃金8か月連続と名目3%以上7か月連続(34年5か月ぶり)は厚生労働省の報道発表資料の注記によります。現金給与総額56か月連続、「約10年ぶり」の比較、総実労働時間の4か月ぶりの増加、雇用の増減産業数、電気・ガス料金の補助の終了時期は報道に基づく記述であり、厚生労働省の資料には記載がありません。7月分の数値は速報値であり、確報で改訂されている可能性があります。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。当法人は、36協定と割増賃金の点検、最低賃金への対応、賃金規程と雇用契約書の整備、社会保険の加入判定を担い、未払賃金をめぐって従業員との間に争いが生じた場面では、提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDENORI MIE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。