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作成日:2026/10/24
正社員の不足感は+47ポイントで高止まり 労働経済動向調査(令和8年8月)の特別項目が示す「新卒枠の既卒者受入れ」と「公正な待遇」の現在地
労務トピックス
正社員の不足感は+47ポイントで高止まり
労働経済動向調査(令和8年8月)の特別項目が示す「新卒枠の既卒者受入れ」と「公正な待遇」の現在地
2026年10月24日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

「人手不足は少し落ち着いてきたのではないか」。そう感じている経営者の方もいらっしゃるかもしれません。厚生労働省が2026年9月29日に公表した「労働経済動向調査(令和8(2026)年8月)の概況」を見る限り、その感覚は数字の裏付けを欠いています。正社員の不足感は5月調査と同じ+47ポイントにとどまり、運輸業・郵便業、建設業、学術研究・専門技術サービス業では60前後に達しています。

今回の8月調査には、四半期ごとの共通項目に加えて、新規学卒者の採用枠で既卒者を受け入れているか、働き方改革や雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保にどう取り組んでいるかを尋ねる特別項目が設けられています。本記事では、公表資料の数値を確認したうえで、採用の門戸をどう広げるか、そして本日2026年10月1日に施行されたパートタイム・有期雇用労働法関係の改正にどう備えるかという2つの実務課題につなげて整理します。

📌 この記事でわかること

✓ 令和8年8月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.は+47ポイントで、5月調査と同水準でした。不足と答えた事業所は50%、過剰と答えた事業所は3%です。

✓ 産業別では運輸業・郵便業が+61、建設業と学術研究・専門技術サービス業が+59、医療・福祉が+55と高く、パートタイム労働者の不足感は+26ポイントで2月から緩やかな低下が続いています。

✓ 新規学卒者の採用枠で募集した事業所のうち、既卒者も応募可能としたのは73%で、募集時期は「年間を通して随時」が52%と最多でした。

✓ 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に「取り組んでいる又は取り組んだ」事業所は61%で、取組内容は諸手当と福利厚生が各56%、基本給が53%でした。

✓ 「見直しは必要ない」と判断した20%の事業所も、本日施行の改正を踏まえて判断の根拠を確認し直す必要があると当法人は考えます。

不足は続く前提で、採用の門戸を広げ、待遇差を説明できる状態を整える。8月調査はその両方を企業に求めています。

1 調査の概要と本記事の情報源

労働経済動向調査は、景気の変動や労働力需給の変化が雇用や労働時間に及ぼしている影響を把握するため、厚生労働省が2月、5月、8月、11月の四半期ごとに実施している調査です。今回の8月調査は、建設業、製造業、情報通信業など13業種で常用労働者30人以上を雇用する全国の民営事業所5,786事業所を対象に、令和8年8月1日現在の状況を、同年7月1日から8月7日までに調べたものです。有効回答は3,175事業所でした。

中心となる指標の「労働者過不足判断D.I.」は、労働者が「不足」と答えた事業所の割合から「過剰」と答えた事業所の割合を差し引いた値です。プラスが大きいほど、人手が足りないと感じている事業所が多いことを意味します。

本記事の数値は、厚生労働省の報道発表資料と、同時に公表された「概況」のPDFで確認したものです。報道発表資料には調査産業計の数値しか載っておらず、産業別の内訳や特別項目の詳細は概況のPDFに掲載されています。なお、雇用判断D.I.の期別の推移表と、不足への対応内容の下位項目については、当法人が数値の対応関係を確実に読み取れなかったため、本記事では本文に明記された数値に限って紹介しています。

2 人手不足感――正社員は+47で横ばい、パートは+26

令和8年8月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.は、調査産業計で+47ポイントの不足超過でした。直近3回の推移は次のとおりです。

調査時点 不足 過剰 正社員等D.I. パートD.I.
令和8年2月 52% 3% +49 +28
令和8年5月 49% 2% +47 +27
令和8年8月 50% 3% +47 +26

出典:厚生労働省「労働経済動向調査(令和8(2026)年8月)の概況」。不足・過剰の割合は正社員等労働者についての数値です。

回答事業所のちょうど半数が「正社員が足りない」と答え、「余っている」は3%にすぎません。2月の+49からは2ポイント下がりましたが、5月と8月は同じ値であり、「改善に向かっている」と読むより「高い水準で止まっている」と読むのが素直です。

産業別では、次の産業で不足感が特に高くなっています。一方、卸売業・小売業は+26、金融業・保険業は+31、宿泊業・飲食サービス業は+32と、相対的に低い水準でした。

産業(正社員等労働者、令和8年8月) 過不足判断D.I.
運輸業,郵便業 +61
建設業 +59
学術研究,専門・技術サービス業 +59
医療,福祉 +55
情報通信業 +52
サービス業(他に分類されないもの) +51
製造業 +45

パートタイム労働者の過不足判断D.I.は、調査産業計で+26ポイントでした。2月の+28、5月の+27から緩やかに下がっています。産業別では、サービス業(他に分類されないもの)が+42、宿泊業・飲食サービス業が+34、卸売業・小売業と生活関連サービス業・娯楽業がいずれも+32などで不足感が高くなっています。宿泊業・飲食サービス業は、5月の+42から8ポイント下がりました。

パートの不足感が和らいでいる理由は、この調査からは分かりません。賃金の上昇によって応募が増えたのか、省力化が進んだのか、需要が落ち着いたのかは、別の統計と突き合わせなければ判断できない点に注意が必要です。

3 雇用の見込みと、不足への対応

雇用者数を前期末と比べて「増加」と答えた事業所の割合から「減少」と答えた事業所の割合を差し引いた雇用判断D.I.は、令和8年7月から9月期の実績見込で、正社員等が+6ポイント、パートタイムが+1ポイントでした。正社員等では、不動産業・物品賃貸業と学術研究・専門技術サービス業がいずれも+12、建設業と情報通信業がいずれも+11などでプラスとなる一方、金融業・保険業は△1でした。正社員の頭数を増やす方向に動いている産業が多いことが分かります。

労働者が不足している部門等で何らかの対応をした事業所は、令和8年4月から6月期の実績で67%でした。対応内容(複数回答)は、中途採用の開始・拡大・強化が66%で最も多く、新規学卒者の採用の開始・拡大・強化が49%、業務の効率化の推進が42%と続きます。概況の表には、求人条件の引上げや在職者の労働条件の改善などの項目も並んでいます。

他方、労働者が過剰となっている部門等で対応をした事業所は7%にとどまり、その内容は残業規制が32%、配置転換による労働者の送出しが30%、中途採用の削減・停止が24%などでした。

ここから読み取れるのは、企業の打ち手が「採用」に大きく偏っていることです。採用の強化は必要ですが、不足感が+50を超える産業では、採用だけで穴を埋め続けることは難しいと考えられます。辞めない職場をつくる手当てを、採用と並べて計画に入れておく必要があります。

4 特別項目(1)新卒採用枠と既卒者の応募

令和7年度に新規学卒者の採用枠で正社員の募集を「行った」事業所は58%でした。その募集時期は、「年間を通して随時」が52%、「春季(3月から5月頃)のみ」が25%、「年複数回(春季と秋季など)」が13%です。募集時期が春季のみだった事業所に今後ほかの時期にも募集する予定を尋ねると、「未定」が50%、「全く予定していない」が20%、「検討している」が15%、「予定している」が13%でした。

新卒採用枠で募集を行った事業所のうち、既卒者も応募可能だった事業所は73%で、そのうち実際に既卒者の採用にいたったのは44%でした。既卒者の応募に関する今後の方針は、「現在のところ未定」が31%、「応募可能としたい」が30%、「本社等でしか回答できない」が16%、「年齢によって応募可能としたい」が14%、「応募不可としたい」が3%です。

「新卒は春に一括で採用し、既卒者は対象外」という運用は、この調査の上では少数派になっています。大手企業と同じ時期に同じ母集団を奪い合うのではなく、卒業後まもない若年層を新卒枠で迎える選択肢は、中小企業にとって現実的な採用経路の1つだと考えられます。ただし、門戸を広げる際には次の2点を押さえておく必要があります。

既卒者を新卒枠で受け入れるときの法的な確認点

1 卒業後3年間の応募機会。青少年の雇用の促進等に関する法律に基づく事業主等指針は、事業主が、学校等の新卒者の採用枠に、学校等の卒業者が卒業後少なくとも3年間は応募できるようにすべきであるとしています。罰則のある義務ではありませんが、国が示す望ましい運用の水準です。求人票や募集要項に「卒業後3年以内の方も応募できます」と明示しておけば、応募者に対象であることが伝わります。

2 年齢による制限。労働施策総合推進法9条は、募集・採用における年齢制限を原則として禁じています。同法施行規則1条の3第1項3号イは、長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合を例外として認めていますが、施行規則が定める条件を満たす必要があります。調査で14%の事業所が挙げた「年齢によって応募可能としたい」という方針を採る場合は、この例外に当たるかを事前に確認してください。

門戸を広げる方向性は正しくても、表示の仕方を誤れば法令違反になり得ます。求人票の文言は、掲載前に一度確認しておくことをお勧めします。

5 特別項目(2)長時間労働の是正と、公正な待遇の確保

長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現に「取り組んでいる」事業所は76%、「改善の必要がない職場環境である」が17%、「取り組んでいない」が6%でした。取組内容(複数回答)は、「業務の効率化を進める」が68%、「時間外労働の事前申告制」が53%、「省力化投資(機械化・自動化、IT化)を行う」が46%などとなっています。

雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(いわゆる同一労働同一賃金)については、次のとおりでした。

取組状況 割合
取り組んでいる又は取り組んだ 61%
検討の結果、待遇の見直しは必要ないと判断した 20%
異なる雇用形態が存在しない 8%
取り組んでいない 7%

取組内容(取り組んでいる又は取り組んだ事業所、複数回答)は、諸手当56%、福利厚生56%、基本給53%などです。

この調査結果は、本日2026年10月1日に施行された改正と重ねて読む必要があります。パートタイム・有期雇用労働法関係の改正により、短時間労働者・有期雇用労働者を雇い入れるときに明示すべき事項に、待遇の相違の内容や理由などについて説明を求めることができる旨が加わりました。あわせて、同一労働同一賃金ガイドラインも最高裁判決などを踏まえて改正され、賞与、退職手当、各種手当、休暇などについての考え方が具体化されたと紹介されています。

雇入れ時の明示が変わると、パートや有期の社員が待遇差の説明を求める場面は増えると考えられます。「見直しは必要ない」と判断した20%の事業所も、その判断をどの手当、どの福利厚生について、どのような理由で下したのかを説明できなければ、判断がなかったのと同じです。今回のガイドライン改正で具体化された待遇について、判断の根拠を書面で残しているかを確認する時期に来ています。

チェックポイント1 採用計画は「不足が続く」前提で立てているか

正社員の不足感は5月と8月で同じ+47です。採用計画を「いずれ落ち着く」前提で立てていると、計画と実態のずれが毎年積み重なります。採用目標とあわせて、離職者数の目標と定着策を同じ計画表に載せてください。

チェックポイント2 時間外労働の事前申告制は、実態との照合とセットになっているか

事前申告制は取組の53%で採用されていますが、申告されない残業が黙認されていれば、未払残業代のリスクは消えません。申告時間とパソコンのログや入退室記録との差を定期的に確認し、差があれば理由を確かめる運用を組み合わせることが重要です。

チェックポイント3 パート・有期社員の労働条件通知書を、本日施行の改正に合わせて更新したか

本日以降に雇い入れるパート・有期社員の労働条件通知書には、待遇差について説明を求めることができる旨の記載が必要になります。書式の更新だけでなく、説明を求められたときに誰が何を根拠に答えるかまで決めておいてください。

6 当法人の視点

8月調査の2つの特別項目は、一見すると別々のテーマです。しかし当法人は、両者を「人を集める力」と「人を引き留める力」の表裏として読むべきだと考えています。

当法人の見解

既卒者に新卒枠を開くことは、母集団を広げる有効な手段です。ただ、門戸を広げて採用したパートや若手社員が、入社後に正社員との待遇差に納得できなければ、定着しません。本日施行の改正で、待遇差について説明を求められる場面は増えると考えられます。採用の入口で広げた人材を出口で失わないためには、待遇差を説明できる状態を整えることが、採用強化と同じ重さの経営課題になります。

反対の見方もあります。人手不足の中では、まず採用の数を確保することが先で、待遇差の点検は後回しでもよいという考え方です。採用が止まれば事業が回らない以上、優先順位としては理解できます。しかし、待遇差の点検は一度行えば毎年繰り返す性質のものではなく、規程と説明資料を整えれば、その後の採用活動でもそのまま使えます。後回しにしたぶん、説明を求められたときの対応が場当たりになり、かえって社員の信頼を損なうおそれがあると当法人は考えます。

簡易な確かめ方を1つ挙げます。正社員に支給していてパート・有期社員に支給していない手当と福利厚生を一覧にし、それぞれの横に「支給しない理由」を1行で書いてみてください。1行で書けない項目があれば、そこが説明を求められたときに答えに詰まる箇所です。

まとめ

厚生労働省が2026年9月29日に公表した労働経済動向調査(令和8年8月)では、正社員等の過不足判断D.I.が+47ポイントと5月と同水準にとどまり、運輸業・郵便業(+61)、建設業(+59)、学術研究・専門技術サービス業(+59)で不足感が特に強くなっています。パートは+26ポイントで、緩やかに下がっています。特別項目では、新卒採用枠で募集した事業所の73%が既卒者も応募可能としており、公正な待遇の確保に取り組んでいる又は取り組んだ事業所は61%でした。

当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。人が足りない時代に会社を守るのは、集める仕組みと引き留める仕組みの両方です。求人票の表示の確認から、パート・有期社員の労働条件通知書の更新、待遇差の説明資料の整備まで、経営者と一緒に進めてまいります。規程の整備については就業規則作成・改定支援、継続的なご相談については高難度業務対応型顧問のページもご覧ください。

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【根拠法令】

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)6条1項、8条、14条2項、同法施行規則/短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)/労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)9条、同法施行規則1条の3第1項3号イ/青少年の雇用の促進等に関する法律に基づく事業主等指針

【参考判例】

本記事は統計の解説であり、個別の判例は引用していません。

【出典・参考資料】

厚生労働省「労働経済動向調査(令和8(2026)年8月)の概況」(2026年9月29日公表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2608//厚生労働省 鳥取労働局「青少年の雇用機会の確保等に関して事業主が適切に対処するための指針」 https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/22seishonen_shishin.html/ハローワークインターネットサービス「募集・採用における年齢制限禁止について」 https://www.hellowork.mhlw.go.jp/enterprise/age_limit.html

【免責事項】

本記事は2026年10月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。統計数値は厚生労働省の公表資料に基づきますが、雇用判断D.I.の期別推移と不足への対応内容の下位項目は、数値の対応関係を確実に確認できなかったため掲載を見送っています。パートの不足感の低下などの原因は、本調査からは特定できません。2026年10月1日施行の改正の詳細は、厚生労働省の公表資料でご確認ください。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。当法人は、労働条件通知書と就業規則・賃金規程の整備、待遇差の点検と説明資料の作成、募集・採用時の表示の確認を担い、待遇差をめぐる紛争が生じた局面では提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDENORI MIE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。