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作成日:2026/08/15
令和8年熊本地震 ― 災害時に社労士が押さえるべき労務対応の全体像
労務トピックス
令和8年熊本地震 ― 災害時に社労士が押さえるべき労務対応の全体像
労働保険料等の期限延長は申請不要。休業手当は「直接被災か間接被災か」で原則が逆転します

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

はじめに、令和8年熊本地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

発災から2週間余りが経過し、厚生労働省・熊本労働局からは労働行政関係の支援措置が順次公表されています。8月7日には労働基準法・労働契約法等に関するQ&Aが、8月12日には労働保険の適用徴収に関するQ&Aが公表され、実務上の取扱いがかなり具体的に明らかになりました。

災害対応は「被災地の話」では終わりません。顧問先の支店・工場が被災地にある、取引先が被災して操業できない、従業員の家族が被災している。こうした形で、全国どこの事務所にも波及します。そして災害時にこそ、平時なら滅多に問われない論点が一斉に立ち上がります。

本稿は、厚生労働省が公表した一次資料(Q&A・リーフレット)と、内閣府が公表した激甚災害指定の政令にあたって執筆しています。とくに休業手当と解雇の取扱いは、一般に流布している整理と厚労省の見解にずれがある部分があり、この点を重点的に扱います。

この記事の要点
1 労働保険料等の申告・納期限の延長は、指定地域の事業場等について申請不要で一律に適用されます。延長後の具体的な期限は未定です。

2 ただし労働保険料は免除されません。納付が困難な場合の「納付の猶予」には、災害のやんだ日から2か月以内という申請期限があります。

3 休業手当は、事業場が直接被災した場合は原則として支払義務なし、直接被災していない取引先都合等の場合は原則として支払義務あり。方向が逆です。

4 解雇(労基法19条・20条の認定)は、休業手当とは逆の向きに整理されています。直接被災なら原則該当、間接被災なら原則非該当です。

5 雇用調整助成金は、施設等が被害を受けたこと自体は「経済上の理由」にあたらず対象外。ただし交通途絶等による事業活動の縮小であれば対象となり得ます。

1. 今回の災害の指定状況

気象庁の発表として報じられているところによれば、地震は2026年7月28日16時27分頃に発生し、震源は熊本県熊本地方、規模は気象庁マグニチュード7.1、震源の深さは約16kmで、最大震度7を熊本県宇城市と八代郡氷川町で観測しています。

被害状況の数値は日々更新されるため、本稿では記載しません。顧問先への説明に用いる際は、内閣府防災情報・気象庁の最新発表をご確認ください。制度適用の前提となる指定状況は、次のとおりです。

区分 時期 労務実務上の意味
災害救助法の適用 熊本県の一部地域 雇用保険の基本手当の特別措置の適用要件となる
労働保険料等の納期限等の延長(指定地域) 令和8年7月28日以降到来分 八代市・宇土市・宇城市・八代郡氷川町。申請不要
激甚災害の指定 令和8年8月7日
閣議決定・同日公布施行
政令第259号。適用措置は激甚災害法3条〜6条・24条。雇用保険法の特例(同法25条)は含まれていない
特定非常災害の指定 令和8年8月7日
閣議決定
行政上の権利利益の満了日の延長等。具体的な適用措置は関係省庁の告示等を要確認

2. 労働保険料等の期限延長 ― 申請は不要、ただし免除ではない

厚生労働省が8月12日に公表したQ&Aにより、取扱いが明確になりました。指定地域は熊本県八代市、宇土市、宇城市及び八代郡氷川町です。

延長の対象となるのは、労働保険料のほか一般拠出金及び特別保険料も含まれます。そして対象となる事業主等は、次の3類型とされています。

@ 指定地域に所在地を有する事業場の事業主(指定地域外に主たる事務所が所在する労働保険事務組合に委託している、指定地域内の事業場の事業主を含む)

A 指定地域に所在地を有する労働保険事務組合に、令和8年7月28日(災害発生日)において労働保険事務を委託している事業主(事業主の所在地は指定地域の内外を問わない)

B 指定地域に所在地を有する労働保険事務組合

Aは見落とされやすい類型です。事業場が指定地域外にあっても、指定地域内の労働保険事務組合に7月28日時点で委託していれば対象になります。逆に、7月28日の翌日以降に当該事務組合へ委託した事業主は、それを理由とする延長は受けられません。事務組合を運営している先生方は、委託事業主一覧を日付基準で仕分けしておく必要があります。

延長後の具体的な期限は、被災の状況に配慮して今後検討されるとされており、本稿執筆時点(2026年8月14日)では決まっていません。なお、申告手続については「可能な方は通常どおり行っていただきたい」とされています。

そして、実務上とくに強調しておきたいのが次の2点です。

【注意1】労働保険料は免除されません

Q&Aは、被害が甚大な場合であっても、申告・納期限等の延長や納付の猶予を受けることはできるが、労働保険料等は免除されないと明記しています。顧問先に「延長」と「免除」を混同されないよう、最初に釘を刺しておくべき点です。

【注意2】「納付の猶予」には2か月の申請期限があります

災害により事業財産に相当の損失を受け、労働保険料等の納付が困難となった場合、都道府県労働局への申請により一定期間の納付の猶予を受けられる制度があります。ここでいう「相当の損失」とは、事業の経営のために直接必要な財産のおおむね20%以上の損失を受けた場合とされています。

そして申請期限は「災害のやんだ日」から2か月以内です。「災害のやんだ日」の判断は被災状況によるため、所轄の労働局労働保険徴収室への確認が必要ですが、放置すると期限が経過してしまう類型の制度である点に注意してください。指定地域外の事業場でも、要件を満たせば猶予は検討できます。

あわせて、口座振替を利用している指定地域内の事業場については、口座振替を一時的に停止したい場合、振替予定日の1週間前までに所轄の労働局労働保険徴収室に相談する必要があります。Q&Aによれば、令和8年度の口座振替予定日は第1期・全期が9月7日、第2期が11月16日、第3期が2月15日です。すでに年度更新の申告書を提出済みで資金繰りに不安がある顧問先には、直近の期日から逆算して声をかけておきたいところです。

3. 休業手当(労基法26条)― 直接被災と間接被災で原則が逆転する

ここが本稿で最もお伝えしたい部分です。災害時の休業手当について「事業場が被災していなければ個別判断」といった大まかな説明を見かけますが、厚生労働省のQ&Aはもっと明確な原則を示しています。

労基法26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合に平均賃金の60%以上の休業手当の支払を義務づけています。天災事変等の不可抗力の場合は使用者の責に帰すべき事由にあたらず支払義務はありませんが、ここでいう不可抗力とは、@その原因が事業の外部より発生した事故であること、A事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2要件を満たすものでなければならないと解されています。

この2要件をあてはめた結果が、次のとおりです。

類型 休業手当の支払義務 厚生労働省Q&Aの整理
事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、休業させる場合 原則として支払義務なし 休業の原因が事業主の関与の範囲外であり、通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けられない事故に該当すると考えられるため、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業に該当しない
施設・設備は直接被害を受けていないが、取引先・鉄道・道路の被害で仕入・納入が不可能となった場合 原則として支払義務あり 原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当する。上記2要件を満たす場合に例外的に該当しない。取引先への依存の程度、輸送経路の状況、代替手段の可能性、災害発生からの期間、休業回避のための具体的努力等を総合勘案
労働者が被災し出勤できなかった場合 契約・規程の定めによる 労働契約・労働協約・就業規則等に定めがあればそれに従う。有給の特別休暇制度の活用等も考えられる。定めがない場合も労使で十分に話し合うことが大切

私見ですが、実務で最も揉めるのは真ん中の類型であり、しかもここは「原則は支払う」から出発するという点を取り違えている事業場が少なくありません。「地震のせいだから不可抗力だ」という感覚的な理解のまま休業手当を支払わないでいると、後に遡って請求されるリスクがあります。顧問先には、休業を最小限にとどめるためにどのような努力をしたのかを、その都度記録に残しておくよう助言してください。後日の説明資料になります。

もう一点、見落とされやすい論点があります。Q&Aは、労働契約・労働協約・就業規則・労使慣行に基づき、これまで不可抗力による休業についても賃金や手当を支払ってきた企業が、今回の災害を理由にこれを支払わないとすることは労働条件の不利益変更に該当すると明記しています。労働者との合意など適法な変更手続をとらずに取扱いを変更することはできません。労基法26条の議論と、労働契約上の取扱いの議論は別の階層にあるということです。

なお、派遣労働者については、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたるかの判断は派遣元の使用者についてなされます。派遣先が不可抗力で操業できない場合でも、派遣元について他の事業場へ派遣する可能性等を含めて判断されるため、派遣先で支払義務がないとされたことが直ちに派遣元の免責につながるわけではありません。

4. 解雇 ― 休業手当とは「逆向き」に整理されている

災害を理由とすれば無条件に解雇や雇止めが認められるわけではありません。無期契約であれば労働契約法16条、有期契約であれば同法17条1項(契約期間中の解雇には「やむを得ない事由」が必要)および同法19条(雇止め法理)の規律を受けます。経営上の理由による解雇は整理解雇にあたり、@人員整理の必要性、A解雇回避努力義務の履践、B被解雇者選定基準の合理性、C解雇手続の妥当性という4つの事項が裁判例で考慮されています。

そのうえで、労基法19条(解雇制限)・20条(解雇予告)の除外事由である「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」の該当性については、休業手当とは向きが逆に整理されています。ここは混同しやすいので、表で対比します。

被災の態様 休業手当(労基法26条) 解雇制限・解雇予告の除外(労基法19条・20条)
施設・設備が直接被災し、事業の全部又は大部分の継続が不可能 原則として使用者の責に帰すべき事由に該当しない(=支払義務なし) 原則として「天災事変その他やむを得ない事由」に該当する(※所轄労働基準監督署長の認定が必要)
施設・設備は無事だが取引先・交通の被害により継続困難 原則として該当する(=支払義務あり) 原則として該当しない。真にやむを得ないと判断される場合に例外的に該当

つまり、間接被災の事業場は「休業手当は原則払う。解雇予告の除外は原則使えない」という、経営者にとって最も厳しい組合せに立つことになります。ここを最初に伝えておかないと、資金繰りの見通しを誤らせてしまいます。

なお、労基法19条・20条の除外は所轄労働基準監督署長の認定を受けたときに限られます。認定を受けずに即時解雇すれば、解雇予告手当の問題が残ります。また、避難所にいるために通勤が困難であることのみを理由とする解雇は、一般的には相当でないとされています。育児休業・介護休業の取得を実質的な理由とする解雇が法違反となることも、Q&Aで明示されています。

出勤しなければ退職願を出すよう求めるといった対応についても、退職の意思表示は労働者の自発的な意思によるものである必要があり、自由な意思を妨げる退職勧奨は違法な権利侵害にあたると判断された裁判例があることを踏まえて対処すべきとされています。

5. 雇用調整助成金と雇用保険の特例

(1) 雇用調整助成金 ― 「災害だから使える」ではない
雇用調整助成金は「経済上の理由」により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主を対象とする制度です。厚生労働省のQ&Aは、事故または災害により施設等が被害を受けたこと自体は「経済上の理由」とはならず、支給対象とはならないと明記しています。

一方で、自然災害の長期化や復旧までに長時間を要する場合等に、交通手段の途絶等により原材料の入手・製品の出荷が困難であることや、事業所等が損壊し修理業者の手配や修理部品の調達が困難となったこと等を理由として事業活動の縮小が行われた場合は、「経済上の理由」に該当し対象となる可能性があるとされています。

また、本助成金の扱いは労基法26条の休業手当の要否によって変わることはないとも明記されています。「休業手当の支払義務がないから助成金も使えない」という理解は誤りです。

なお、今回の地震に係る雇用調整助成金の特例措置(支給要件の緩和幅、対象期間、助成率等)の具体的内容は、本稿執筆時点で厚生労働省の一次資料では確認できませんでした。厚生労働省のページには「ハローワークへご相談ください」との案内があるにとどまります。過去の大規模災害では生産指標要件の緩和等の特例が講じられた例がありますが、過去にそうだったから今回もそうなるとは限りません。顧問先には「特例が出る可能性があるので、休業の記録と賃金台帳を今のうちから整えておいてください」と伝えるにとどめ、内容を先取りして断定しないのが誠実な対応だと考えます。

(2) 雇用保険の特例 ― 「離職」が前提であることに注意
今回案内されている雇用保険の特別措置は、災害救助法の適用地域内に所在地を置く事業所が災害により事業を休止・廃止したために一時的に離職した方について、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても基本手当を受給できるというものです。被保険者期間6か月以上などの受給要件を満たす方が対象となり、この特別措置を受けた場合、再度離職した際の給付日数等に影響することがあるとされています。

ここで正確に押さえておきたいのは、この特例はあくまで「一時的に離職した」ことを前提としているという点です。厚生労働省のQ&Aは、離職せず休業したまま基本手当を受給できるのは「激甚災害法に基づく政令が制定された場合」であると記載しています。

そして、令和8年8月7日に閣議決定・公布施行された激甚災害の指定政令(政令第259号)を確認したところ、適用すべき措置として指定されているのは激甚災害法3条から6条まで及び24条であり、雇用保険法の特例に関する規定は含まれていません。したがって、本稿執筆時点では「休業したまま基本手当を受給する」取扱いは適用されていないと読むのが正確です。

この点は今後の政令の追加指定によって変わり得るため、顧問先に案内する際は最新の公表状況をご確認ください。私見ですが、この違いを曖昧にしたまま「休業でも失業給付が出ます」と伝えてしまうと、離職票の交付の要否という重い判断を誤らせることになります。

実務としては、顧問先が休業に入る場合、離職として扱うのか、休業として雇用調整助成金を検討するのかが最初の分岐点です。どちらを選ぶかで、労働者が受け取れる給付も、事業主の負担も、再開時の人材確保のしやすさも変わります。復旧見通しと資金繰りをセットで確認したうえで、公共職業安定所に相談するよう案内するのが適切です。

6. 見落とされやすい3つの条文 ― 非常時払・災害時の時間外労働・年次有給休暇

労基法25条(非常時払)

労働者が出産・疾病・災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合、使用者は賃金支払期日前であっても既に行われた労働に対する賃金を支払わなければなりません。ここでいう「災害」には自然災害も含まれると解されています。さらに、労働者又はその家族が被災し、あるいは居住地区が避難地域に指定される等により住居の変更を余儀なくされる場合の費用も「非常の場合の費用」に該当するとされています。給与計算のサイクルを理由に断ることはできません。

労基法33条1項(災害時の時間外労働等)

災害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合、使用者は労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができます。厚生労働省は、この規定は災害・緊急・不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定であるため厳格に運用すべきものとしています。

重要なのは、33条1項による場合であっても、時間外・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要であるという点です。「災害対応だから残業代は不要」ということにはなりません。また、月80時間を超える時間外・休日労働により疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合には、安衛法66条の8に基づく医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。復旧作業が2週間、1か月と続くうちに疲弊は蓄積します。この時期にこそ健康状態の確認を入れるべきです。

なお、災害発生から相当程度の期間が経過し臨時の必要がなくなった場合には、36協定を締結し届け出ることになります。既存の36協定の範囲を超える場合は締結し直して届け出る必要がありますが、その際も対象期間の起算日を変更することは原則として認められません

労基法39条(年次有給休暇)

災害による影響を受けて休業する際、会社が労働者に年次有給休暇の取得を命じることはできません。年休は労働者が請求する時季に与えなければならないものであり、時季変更権や計画的付与の規定は、使用者が一方的に取得を命じることができることを定めたものではないと厚生労働省は明示しています。

逆に、災害復旧の業務等のため労働者から請求のあった日に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、時季変更が可能です。この判断は、事業の規模・内容、当該労働者の担当する作業の内容や性質、繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等を考慮して客観的に行われます。

7. 労災補償・未払賃金立替払 ― 手続面の特例

厚生労働省のページで確認できる手続面の特例は、次のとおりです。

■ 事業主や医療機関の証明がなくても労災請求を受け付ける
労災保険給付の請求にあたって、事業主や医療機関の証明を受けるのが困難な場合には、証明が受けられなくても請求書を受け付けるとされています。災害時には、事業主自身が被災して連絡が取れない、事業所が滅失して記録が失われるといった事態が現実に起こります。この取扱いを知らないために「会社の証明がもらえないから請求できない」と諦めてしまう被災労働者が出ないよう、社労士の側から積極的に周知すべき情報だと考えます。

■ 避難所やホテルからの通勤も「通勤」にあたる
自宅が倒壊等したために避難所で生活している場合、避難所が「住居」となり、そこから会社へ向かう際の災害は通勤災害として認められます。電車が止まっていたため会社近くのホテルに宿泊して翌朝出勤した場合、職場で一晩泊まって翌朝帰宅した場合、負傷した配偶者の看護のため寝泊まりしている病院から出勤した場合、自宅倒壊により一時的に友人宅から出勤した場合も同様とされています。

また、ダイヤの乱れにより通常より2時間以上早く自宅を出た場合でも、会社に早く行かなければならない事情がある範囲内であれば通勤と認められ、徒歩等の別の方法で出勤した場合も通勤と認められます。

■ 仕事中の被災は原則として業務災害
仕事中に地震に遭いケガをした場合、通常は業務災害として労災保険給付を受けることができます。出張中は開始から終了まで業務遂行性があるとされ、休憩時間中でも事業場の管理する施設内にいるときの被災、外回りの営業中の被災も、明らかに私的行為中でない限り業務災害と認められます。

■ 未払賃金立替払制度の申請手続の簡略化
今回の地震に伴う倒産による未払賃金の立替払制度について、申請手続の簡略化が行われています。事業活動が停止し再開の見込みがなく賃金の支払の見込みがないなど一定の要件を満たす場合、事実上の倒産として立替払の対象となる可能性があります。

このほか、アフターケア手帳を提示できない場合の受診、義肢等補装具の修理・購入費用の支給、労災年金証書の再交付、中小企業退職金共済制度・財形制度の特例措置なども案内されています。

8. 顧問先と確認するチェックリスト

□ 従業員・家族の安否確認は完了したか(記録も残す)
□ 事業場の所在地が指定4市町に含まれるか。含まれない場合も、指定地域内の労働保険事務組合に7月28日時点で委託していないか
□ 口座振替の一時停止が必要か(振替予定日の1週間前までに労働局へ相談)
□ 納付の猶予を申請するか(災害のやんだ日から2か月以内。事業財産のおおむね20%以上の損失が要件)
□ 休業するか、操業を続けるか。休業する場合、直接被災か間接被災かを整理したか
□ 休業手当を支払うか。支払わない場合、その理由を説明できるか。休業回避の努力の過程を記録したか
□ これまで不可抗力による休業にも手当を支払ってきた慣行はないか(あれば不利益変更の問題になる)
□ 離職か休業か(雇用保険の特例/雇用調整助成金のどちらを軸にするか)
□ 解雇を検討する場合、労基法19条・20条の認定申請の要否を確認したか
□ 復旧作業に従事する従業員の労働時間を把握できているか。33条1項の許可・届出は必要か
□ 月80時間超の時間外・休日労働者に対する面接指導の体制はあるか
□ 非常時払(労基法25条)の請求に対応できる資金と手続の準備はあるか
□ 業務中・通勤中の被災について、労災請求の可能性を検討したか
□ 賃金台帳・出勤簿等の記録は保全されているか(滅失した場合の再構成手段はあるか)
□ 従業員に対して、公的支援制度の情報を周知したか

このうち最も忘れられがちなのが、最後の「従業員への情報周知」です。被災した従業員は、自分が何を使えるのかを調べる余力がありません。会社が一枚の紙にまとめて配るだけで、大きな支援になります。

また、賃金台帳・出勤簿等の労働関係書類には保存義務があり、証拠保全の観点からも記録の保全は優先順位が高い作業です。労務手続の代行・監査の場面でも、災害時の記録の欠落は後々まで尾を引きます。

9. まとめ

令和8年熊本地震を受け、熊本県八代市・宇土市・宇城市・八代郡氷川町について、令和8年7月28日以降に到来する労働保険料等の申告・納付期限が申請不要で一律に延長されました。延長後の期限は今後決定されます。ただし免除ではなく、納付が困難であれば別途「納付の猶予」を2か月以内に申請する必要があります。

休業手当と解雇は、直接被災か間接被災かによって原則が逆向きに整理されているという点が、実務上の最大の勘所です。間接被災の事業場は「休業手当は原則払う、解雇予告の除外は原則使えない」という位置に立ちます。

そして、休業手当(労基法26条)・災害時の時間外労働(労基法33条1項)・年次有給休暇(労基法39条)の枠組み自体は、平時と変わりません。「災害だから何でも許される」わけでも、「災害だから何も払わなくてよい」わけでもないということです。

本稿の記載は、いずれも一般的な考え方の整理です。法令上の義務は個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案すべきものとされていますので、具体的な事案については所轄の労働局・労働基準監督署・公共職業安定所にご確認ください。

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根拠法令・出典
【根拠法令】
労働基準法19条(解雇制限)、20条(解雇の予告)、24条(賃金の支払)、25条(非常時払)、26条(休業手当)、32条の4(1年単位の変形労働時間制)、33条1項(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)、36条(時間外及び休日の労働)、39条(年次有給休暇)、89条・90条(就業規則)、労働契約法8条〜10条・16条・17条1項・19条、労働安全衛生法66条の8(面接指導)、育児介護休業法10条・16条、労働者災害補償保険法、賃金の支払の確保等に関する法律、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律

【出典】
1. 厚生労働省「令和8年熊本地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A」(令和8年8月7日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001733049.pdf
2. 厚生労働省「令和8年熊本地震に伴う労働保険の適用徴収に関するQ&A」(令和8年8月12日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001737642.pdf
3. 厚生労働省「雇用・労働に関する特例措置や支援制度(令和8年熊本地震について)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000134526_00005.html
4. 内閣府政策統括官(防災担当)「令和八年熊本地震による災害についての激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令について」(令和8年8月7日。政令第259号の適用措置を確認)
https://www.bousai.go.jp/pdf/260807_316-1.pdf
5. 首相官邸「令和8年8月7日(金)持ち回り閣議案件」(激甚災害・特定非常災害の指定に関する政令の決定を確認)
https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2026/kakugi-2026080701.html
6. 熊本労働局「令和8年熊本地震で被災された方へ(労働行政関係)」
https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/newpage_02058.html
7. 厚生労働省「令和8年熊本地震について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73935.html
8. 内閣府「令和8年熊本地震による被害状況等について」(被害状況の最新情報)
https://www.bousai.go.jp/updates/r8kumamoto_jishin/index.html

※出典1〜8は、本記事作成時点(2026年8月14日)に内容を直接確認しています。地震の発生日時・規模・最大震度は、気象庁発表として複数の情報源で一致している内容を記載しており、気象庁の発表資料そのものは確認していません。

【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別具体的な事案に対する法的助言ではありません。本記事には、本稿執筆時点(2026年8月14日)で確認できなかった事項(労働保険料等の延長後の具体的な期限、雇用調整助成金の特例措置の有無および内容等)が含まれており、その旨は本文に明示しています。災害時の労務対応は事案ごとの事情によって結論が変わります。また、支援措置の内容は随時更新されますので、実際の対応にあたっては、所轄の労働局・労働基準監督署・公共職業安定所の最新の案内をご確認いただくか、社会保険労務士または弁護士にご相談ください。

この記事を書いた人
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号 第160175号

当法人は、IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を中心に、「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」伴走型の支援を行っています。