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作成日:2026/08/16
パートの時給を決めているのは「最低賃金」だった JILPT調査:地域別最賃63.5%、経験年数29.6%―中小企業の賃金決定要素
労務トピック/調査データ

パートの時給を決めているのは「最低賃金」だった
JILPT調査:地域別最賃63.5%、経験年数29.6%――中小企業の賃金決定要素

2026年8月16日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

「パートさんの時給は、どうやって決めていますか」——顧問先でこうお尋ねすると、返ってくる答えは驚くほど似ています。「最低賃金が上がったので、その分だけ上げました」。これが例外ではなく多数派であることを、公的な調査データが裏づけました。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」(2025年調査)によると、中小企業がパート・アルバイトの賃金を決める際に考慮する要素は、「地域別最低賃金」が63.5%で第1位。2位の「経験年数」(29.6%)に30ポイント以上の差をつけています。一方、正社員では「職務(役割)」「経験年数」がともに46%台で並び、まったく別の景色が広がっています。

本稿では、この調査結果を単なる「へえ」で終わらせず、2026年10月に控える同一労働同一賃金ガイドラインの適用と結びつけて、いま点検すべき論点を整理します。

📌 この記事でわかること

・パート・アルバイトの賃金決定要素の第1位は「地域別最低賃金」(63.5%)。「経験年数」(29.6%)とは30ポイント超の差
・正社員では「職務(役割)」46.6%・「経験年数」46.5%が上位で、パートとは決定ロジックが異なる
・パートを雇う中小企業の約55%で、事業所内の最低時給が「最賃+5%未満」の圏内に収まっている
・「最賃連動だけ」の賃金決定は、2026年10月適用の改正同一労働同一賃金ガイドラインの下で説明できないリスクを抱える
・今日から着手できる5つの点検項目

1.調査の概要――「中小企業だけ」を狙った8,754社のデータ

まず、このデータの性質を正確に押さえておきます。政府統計の多くは大企業を含んだ全規模平均ですが、本調査は従業員300人未満の中小企業に限定されており、顧問先の実感に近い数字が出やすい調査です。

項目 内容
調査名 「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」(2025年調査)
実施機関 労働政策研究・研修機構(JILPT)
調査対象 従業員規模1人以上300人未満の全国の企業20,000社(都道府県のランク別×産業15区分×従業員規模7区分で層化無作為抽出)
調査期間 2026年1月23日〜2月20日(3月末までに到着した調査票を集計)
集計対象企業数 8,754社(20,000社の43.8%)
留意点 本稿で引用する数値は速報値であり、今後改訂される可能性があります。また企業構成比を母集団に合わせる復元処理(ウェイトバック)が施されています

【データを読む際の前提】

賃金決定要素の集計対象は、全8,754社ではありません。正社員に関する数値は正社員がいる企業8,333社、パート・アルバイトに関する数値はパート・アルバイトがいる企業4,850社を母数としています。「パートの63.5%」は、パートを実際に雇っている中小企業の中での割合という意味です。

2.パートの賃金決定要素――圧倒的1位は「地域別最低賃金」

10項目の選択肢から当てはまるものを選ぶ複数回答方式です。降順に並べ替えると、次のようになります。

順位 考慮要素 割合
1 地域別最低賃金 63.5%
2 経験年数 29.6%
3 職務(役割) 26.7%
4 成果 21.5%
5 同じ地域の賃金相場 21.0%
6 自社の業績 18.0%
7 年齢 11.1%
8 同じ職種の賃金相場 7.4%
9 特定最低賃金(産業別最低賃金) 4.5%
10 その他 2.5%

注目したいのは、「同じ地域の賃金相場」(21.0%)と「同じ職種の賃金相場」(7.4%)がいずれも低い点です。パートの時給は、周辺他社との市場競争ではなく、行政が定めた下限額を基準に決められている。「相場」ではなく「下限」を見て賃金を決めている——これが中小企業の実像だということになります。

なお地域別にみると、「地域別最低賃金」を挙げた割合は政令指定都市以外の市で66.6%と最も高く、特別区・政令指定都市では59.0%、郡(町・村)では61.7%でした。都市部よりも地方の中小都市で、最賃連動の傾向がやや強く出ています。

3.正社員との比較――決定ロジックがまったく違う

同じ企業が、正社員については何を見て賃金を決めているのか。並べてみると、断層がはっきり見えます。

考慮要素 正社員
(n=8,333社)
パート・アルバイト
(n=4,850社)
職務(役割) 46.6% 26.7%
経験年数 46.5% 29.6%
自社の業績 38.3% 18.0%
成果 35.3% 21.5%
同じ職種の賃金相場 26.8% 7.4%
年齢 26.7% 11.1%
地域別最低賃金 26.1% 63.5%
同じ地域の賃金相場 12.8% 21.0%

正社員では、「職務」と「経験年数」という自社内の基準で賃金が組み立てられています。他方でパートは、外部から与えられる「最低賃金」という単一の変数に依存している。同じ会社の中に、性質の異なる2つの賃金決定システムが併存しているわけです。

もう一つ見逃せないのは、正社員でも26.1%が「地域別最低賃金」を考慮しているという数字です。約4社に1社が、正社員の賃金設計においてすら最賃を意識せざるを得ない状況にあることを示しています。

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4.さらに深い数字――パートの約55%が「最賃+5%未満」の圏内

同じ調査には、企業の事業所内で最も低い賃金の分布も含まれています。こちらが実は、最賃改定のインパクトを最も直接的に示すデータです。

事業所内で最も低い賃金の水準 正社員 パート・アルバイト
最賃を下回る 4.0% 6.1%
最賃と同額 5.4% 18.6%
最賃を5%未満上回る 12.7% 30.7%
最賃を5%〜10%未満上回る 7.6% 11.5%
最賃を10%以上上回る 54.5% 27.2%

パート・アルバイトについて「下回る」「同額」「5%未満上回る」を合計すると約55%。つまり、パートを雇う中小企業の半数超では、最賃が5%上がればそのまま賃上げが強制される構造になっています。「最賃連動で時給を決めている」という回答は、姿勢の問題ではなく物理的にそうせざるを得ないという現実の反映と読むのが自然でしょう。

また、パートで6.1%、正社員でも4.0%が「最賃を下回る」と回答している点は看過できません。最低賃金法違反は、50万円以下の罰金の対象です(最低賃金法4条1項・40条)。なお調査では、精皆勤手当・通勤手当・家族手当・賞与・時間外割増賃金などを除いて時間額に換算する方法がとられており、これは行政の比較方法と同じ考え方です。

【見落としがちな論点】月給制の正社員こそ危ない

「最賃はパートの話」という思い込みが、最も多い誤りです。月給制の正社員も、月給を月平均所定労働時間で割った時間額が地域別最低賃金以上でなければなりません。しかも比較の際は、精皆勤手当・通勤手当・家族手当を分子から除外します。額面が高く見えても、手当構成によっては最賃を割ることがあり得ます。正社員で4.0%が「下回る」と答えているのは、この換算を正しく行っていない例が含まれている可能性もあります。

5.2026年10月――「最賃連動だけ」が通用しなくなる理由

ここが本稿でいちばんお伝えしたい論点です。「最低賃金を基準に時給を決める」という運用は、これまで実務的には成立してきました。しかし、2026年10月1日から改正された同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)が適用されると、その前提が揺らぎます。

パートタイム・有期雇用労働法14条2項は、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との待遇の相違の内容および理由を説明しなければならないと定めています。2026年10月からは、この説明を求める権利があること自体を明示することも求められる方向です。

ここで、今回のデータを思い出してください。

⚠ 構造的なミスマッチ

・正社員の賃金は「職務(役割)」46.6%・「経験年数」46.5%で決まっている

・パートの賃金は「地域別最低賃金」63.5%で決まっている

→ この状態で「なぜ待遇に差があるのか」と問われたとき、会社は比較可能な同じ軸で説明できません。「正社員は職務と経験で決めている。パートは最低賃金で決めている」という説明は、職務・経験に着目していない=差の理由を職務内容や人材活用の仕組みの違いで説明できていないことの自白になりかねません。

パートの賃金決定において「職務(役割)」を挙げた企業は26.7%、「成果」は21.5%にとどまります。逆に言えば、7割超の企業はパートの時給に職務の要素を組み込んでいないことになります。これは説明義務への対応という観点から、決して小さな課題ではありません。

なお、旧労働契約法20条をめぐる一連の最高裁判決(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件〔いずれも最二小判平成30年6月1日〕、大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件〔いずれも最三小判令和2年10月13日〕、日本郵便の各事件〔最一小判令和2年10月15日〕)が示してきたのは、手当や賃金の「趣旨・目的」に照らして個別に判断するという枠組みです。「最賃だから」という理由は、この枠組みの中では説明の材料になりません。

6.今日から着手できる5つの点検項目

✅ 最低賃金改定に向けた実務チェックリスト

(1) 「該当ギリギリ」の従業員を洗い出す

パート・アルバイトだけでなく、月給制の正社員も時間額に換算して確認します。とくに新卒初任給・再雇用者の賃金・地方拠点の従業員は要注意です。改定後の最賃額に対する余裕(何円上か)を一覧化しておくと、毎年の対応が格段に楽になります。

(2) 発効日と給与計算の締め日の関係を整理する

発効日は都道府県ごとに異なり、令和7年度は10月から翌3月まで大きくばらつきました。締め日を挟いで単価が変わる月の計算方法を事前に決めておかないと、改定月の給与計算で漏れが生じます。複数拠点がある企業は拠点ごとの管理が必須です。

(3) 時給の「根拠」を1行で書けるようにする

これが今回いちばんお勧めしたい対応です。職務の難易度・責任の範囲・シフトの制約・習熟度のうち、自社が何を評価して時給差をつけているのかを言語化し、賃金規程または賃金テーブルに落とします。最賃はあくまで下限であり、下限は賃金決定の「理由」にはなりません。

(4) 手当の支給範囲を点検する

2026年10月適用のガイドライン改正では、家族手当・住宅手当等に関する考え方が明確化されます。パート・有期社員に支給していない手当について、支給しない理由を説明できるかを、いま棚卸しておくべきタイミングです。

(5) 労働条件通知書・賃金規程の整合性を確認する

最賃近辺の時給を定めている場合、改定のたびに書面との齟齬が生じやすくなります。通知書の記載と実支給額、賃金規程の下限額の定めを突き合わせてください。

なお同じ調査では、最低賃金や賃金の引上げに対応するために期待する政策的支援として、「賃金を引き上げた場合の税制優遇の拡大」(40.5%)、「企業の生産性を向上するための設備投資その他の取組に対する助成金の拡充」(31.2%)、「いわゆる『年収の壁』の引上げ・解消」(21.0%)が上位に挙がっています。また、原材料費・人件費の上昇について「全額」または「ある程度」価格転嫁できている企業は48.9%にとどまりました。賃上げ原資の確保は、労務管理だけで解けない経営課題であることが数字にも表れています。

7.まとめ――「下限」から「基準」へ

今回の調査が浮かび上がらせたのは、中小企業のパート賃金が「自社の基準」を持たないまま、行政が定める下限額に連動して動いているという構造です。これは経営者の怠慢ではありません。人手不足と価格転嫁の困難のなかで、最賃を守ることが精一杯という現実の帰結です。

しかし、2026年10月の同一労働同一賃金ガイドライン適用は、この構造に「説明せよ」という要求を突きつけます。最低賃金は下限(守るべきライン)であって、基準(賃金を決める理由)ではありません。この二つを混同したまま運用を続けることが、これから先いちばんのリスクになります。

なお、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安については、中央最低賃金審議会の目安に関する小委員会で審議が大詰めを迎えており、本稿執筆時点(2026年7月28日)では目安額は確定していません。額が判明してから動き出すのでは間に合いません。いま着手すべきは金額の対応ではなく、賃金決定の「理由」を整えることです。

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📖 出典・参照資料

・厚生労働省「令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第1回)資料」参考資料No.1「最低賃金に関する調査研究」(令和8年6月26日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74088.html
 ※本稿のJILPT調査の数値は、同参考資料に掲載された速報値(厚生労働省労働基準局作成)を当法人が確認したものです
・労働政策研究・研修機構(JILPT)「令和7年度 最低賃金の引き上げと企業行動に関する調査」(調査実施要領) https://www.jil.go.jp/information/enquete/2026/20260126.html
・厚生労働省「中央最低賃金審議会(目安に関する小委員会)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-tingin_127941.html
・参照法令:最低賃金法4条・40条、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条・9条・14条、労働基準法24条・37条

【免責事項】本記事は2026年7月28日時点の公表情報に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を構成するものではありません。引用したJILPT調査の数値は速報値であり、今後改訂される可能性があります。また令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安・答申額は本稿執筆時点で確定していません。実際の対応にあたっては、必ず最新の一次情報をご確認のうえ、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

この記事を書いた人
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区) 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員

労働法・人事労務分野を専門とし、就業規則整備、賃金制度設計、労務監査、労働紛争対応など高難度案件に取り組む。「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」伴走型の支援を提供している。