中退共・建退共が制度見直しへ 掛金月額の上限、予定運用利回り、そして令和8年度「付加退職金0.61%」の意味を、社労士はどう読むか 2026年8月1日 社会保険労務士法人T&M Nagoya |
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📌 この記事の要点
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中小企業の退職金制度を語るとき、避けて通れないのが中小企業退職金共済制度(中退共)です。自前で退職金原資を積み立てる体力のない中小企業にとって、掛金を毎月納めるだけで国の外部積立に乗せられるこの制度は、事実上の標準装備といってよい存在です。
その中退共が、いま制度見直しの俎上に載っています。厚生労働省は2026年6月30日、労働政策審議会勤労者生活分科会の中小企業退職金共済部会を開催し、中退共および建設業退職金共済(建退共)の見直しに関する考え方を12月ごろにとりまとめる方針を明らかにしました。
賃上げと物価上昇が続くなか、退職金制度だけが取り残されていないか――今回の見直しは、その問いに正面から向き合うものです。本稿では、確認できた事実を整理したうえで、社労士が顧問先とどう向き合うべきかを考えます。
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1. まず押さえる ― 中退共の基本構造 |
中退共は、中小企業退職金共済法に基づく国の退職金制度です。要点は次のとおりです。
| ・事業主が独立行政法人勤労者退職金共済機構(中退共本部)と退職金共済契約を結ぶ |
| ・事業主が従業員ごとに掛金月額を選択し、毎月納付する(掛金は全額事業主負担) |
| ・従業員が退職したとき、機構から直接本人へ退職金が支払われる |
| ・掛金は法人なら損金、個人事業なら必要経費に算入できる |
そして、退職金の額は次の2階建てで決まります。この「付加退職金」の存在が、今回の議論を理解する鍵です。
| 区分 | 内容 |
| 基本退職金 | 掛金月額と納付月数に応じて、あらかじめ定められた額(予定運用利回り年1%を前提に算定) |
| 付加退職金 | 基本退職金に上積みされるもので、運用収入の状況等に応じて毎年度厚生労働大臣がその支給率を定める |
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2. 令和8年度の付加退職金支給率は「0.0061」 ― 2年ぶりの上積み |
中退共の公式サイトで確認できた事実です。
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過去の支給率と並べると、この0.0061という数字の位置づけが見えてきます。
| 年度 | 付加退職金支給率 |
| 平成27年度 | 0.0216 |
| 平成30年度 | 0.0044 |
| 令和3年度 | 0.0142 |
| 令和6年度 | 0.0010 |
| 令和7年度 | 0(上積みなし) |
| 令和8年度 | 0.0061 |
重要なのは、多くの年度で支給率は0(=上積みなし)だったという事実です。直近も令和7年度は0でした。付加退職金は「必ずもらえる上積み」ではなく、運用が好調な年にのみ発生する変動部分なのです。今回の0.0061は2年ぶりの上積みとなります。
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⚠️ 顧問先への説明で誤解を招きやすい点 支給率は、退職時までのすべての掛金に一律に乗じられるものではありません。付加退職金は、納付月数が43か月目・以降12か月ごとに到来する基準月において、その時点の仮想的な残高(基本退職金相当額)に支給率を乗じて累積していく仕組みです。「0.61%だから退職金が0.61%増える」わけではない点にご注意ください。なお厚生労働省は1人あたり7,000〜8,000円程度と試算していると報じられていますが、この試算値の一次資料は筆者未確認です。 |
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3. 「上乗せ上限の撤廃」という制度変更 ― 剰余金5,400億円の到達 |
もう一つ、見逃せない制度変更があります。日本経済新聞(2026年2月4日)によれば、厚生労働省は同年2月4日の中小企業退職金共済部会で支給ルールの見直し案を示し、中退共の付加退職金について、従来の「累積剰余金の1%」という上限を撤廃することを決めました。その理由として報じられているのは次のとおりです。
| ・国内外の株式・外国債券の運用収入が堅調に推移した |
| ・累積剰余金が目標の5,400億円に到達した |
| ・そのため、加入者への還元を増やせるようにする |
また、同記事は次の点も伝えています。
| ・現在年1%としている予定運用利回りを、2027年度末までに見直す方針 |
| ・中退共の加入者は2025年3月時点で357万5,000人、運用資産高は5兆5,000億円 |
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💡 解説 ― 「静かな大改正」は予定運用利回りのほう 予定運用利回りとは、基本退職金の額を計算する際の前提利率です。これが引き上げられれば、基本退職金(=確定部分)そのものが増えることになります。付加退職金という「変動する上積み」ではなく、制度の土台が動く話であり、インパクトははるかに大きい。日本国債の利回りが上昇し、予定運用利回り年1%を上回る状況が続いていることが、見直しの背景にあると報じられています。 |
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4. 6月30日の部会で何が動いたか |
日刊建設工業新聞・日本工業経済新聞(いずれも2026年7月1日)が伝えた内容のうち、確認できた事実は次のとおりです。
| ・厚生労働省は6月30日、労働政策審議会勤労者生活分科会中小企業退職金共済部会の会合を開催した |
| ・中退共と建退共の見直しの考え方を、12月ごろにとりまとめる方針を明らかにした |
| ・物価・賃金の上昇や人手不足を踏まえ、両制度を一体的に見直す。見直しの対象として「掛金」や「利便性の向上」などの在り方を示す予定 |
(1)掛金月額の上限「3万円」という論点
中退共の掛金月額は、従業員1人あたり5,000円から30,000円の範囲で事業主が選択します(このほか短時間労働者向けに2,000円・3,000円・4,000円の特例掛金があります)。この上限3万円が、いま問い直されようとしています。
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【推測】上限3万円という水準がいつ設定されたものであれ、その後の賃金・物価水準の上昇を踏まえれば、相対的に見劣りしている可能性は高いと考えられます。月3万円を40年間拠出しても、元本ベースで1,440万円。大企業の大卒総合職の退職金水準に照らせば、中退共だけで賄える金額とは言いがたいのが実情です。したがって上限の引上げが議論の中心になる可能性が高いと推測されます。ただし、厚生労働省が具体的にどの水準を提示したかは、現時点では確認できていません。 |
(2)建退共(建設業退職金共済)も同時に議論
建退共は、建設現場で働く労働者が事業所を移動しても退職金が通算される、業界特化型の制度です。掛金は日額で設定されます。6月30日の部会では、日本建設業連合会(日建連)・全国建設業協会(全建)からヒアリングが行われ、両団体は建設技能者の処遇改善・担い手確保に向けた建退共の抜本的見直しを要望しました。日刊建設工業新聞(2026年7月1日)が報じた要望の骨子は次のとおりです。
| ・退職金1,000万円超の確保(さらに2,000万円を目指す必要性にも言及) |
| ・掛金の日額上限(現行800円)を、少なくとも1,000円以上に引上げ/政令に基づき変更を措置できる仕組みの整備 |
| ・改正建設業法を踏まえ、掛金が「必要経費として発注者負担で確保される」ことを前提に、CCUS(建設キャリアアップシステム)のレベル区分に応じた金額の上乗せ、複数掛金の設定 |
また厚労省は、建退共の検討の論点として、日額上限・日額の設定、CCUSとの連携や電子申請の普及方策、資産運用を挙げています。
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5. 社労士は、この動きをどう読むべきか |
(1)「退職金がインフレに負ける」構造が可視化された
賃金は上がり、物価も上がる。しかし、中退共の掛金月額を10年間据え置いたままの顧問先は、決して珍しくありません。掛金は事業主が任意に増額できますが、放置していれば自動的には増えないからです。その結果、入社時の給与には妥当だった掛金が、昇給を重ねた現在の給与水準に照らすと明らかに過少になり、退職時に本人が受け取る額は期待を大きく下回る――。今回の見直し議論は、この構造をあらためて浮き彫りにしました。【私見】制度の上限が引き上げられるか否かにかかわらず、顧問先が現行の上限3万円すら使い切っていないなら、まず着手すべきはそちらです。
(2)掛金月額の見直しは「今すぐできる」
制度改正を待つ必要はありません。掛金月額の増額は、現行制度のもとで随時可能です(変更したい月の前月15日までに所定の申込書を提出)。増額分は全額損金(必要経費)に算入でき、一定の要件を満たす増額に対する国の掛金助成の制度もあります。
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⚠️ 注意 助成の要件・金額・期間は改正されうるため、実行前に必ず中退共本部の最新情報を確認してください。また掛金月額の減額には従業員の同意等の要件があり、容易ではありません。増額は将来の人件費コミットメントとして慎重に設計する必要があります。賃上げ局面だからと安易に上限まで引き上げれば、業績が反転したときに身動きが取れなくなります。 |
(3)「退職金がある会社」は採用市場で効く
人手不足が構造化するなか、中小企業にとって退職金の有無は、求人票で示せる数少ない差別化要素の一つです。中退共は掛金納付という形で外部積立されるため、「退職金制度あり」と明示できるという実務上の利点があります。【推測】12月のとりまとめで掛金上限の引上げや利便性向上が打ち出されれば、中退共の訴求力はさらに高まると考えられます。改正の内容が固まる前から顧問先の退職金設計を棚卸ししておくことで、改正時に速やかに提案へ移れます。
(4)予定運用利回りの見直しは、試算の前提を動かす
前述のとおり、予定運用利回り年1%の見直しが2027年度末までに予定されていると報じられています。これが引き上げられれば、同じ掛金でも将来の基本退職金が増えます。【推測】逆に言えば、現在の加入者は「年1%を前提とした基本退職金表」に基づいて将来額を試算しています。見直し後は試算のやり直しが必要になる可能性があります。顧問先に退職金額のシミュレーションを提示している場合、その前提が変わりうることを、あらかじめ伝えておくのが誠実です。
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6. 現時点で確認できなかった事項 |
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正確性の観点から、以下を明示します。これらを推測で埋めることはいたしません。
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7. おわりに ― 12月まで待つ必要はない |
12月ごろに厚生労働省の考え方がとりまとめられ、その内容次第では法改正へ進む可能性もあります。しかし、社労士が顧問先とできることは、12月を待たずに存在します。
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この4ステップは、制度改正の内容にかかわらず必ず必要になる作業です。そして、賃上げ原資の議論に追われる経営者にとって、「退職金という後払い賃金も、賃上げの一部である」という視点は、しばしば抜け落ちています。その視点を持ち込むのが、社労士の仕事だと考えます。
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🔎 本記事の確信度と限界について(信頼度:82%) 令和8年度の付加退職金支給率(0.0061)・移換金等の利率(0.0055)・告示日は中退共(勤労者退職金共済機構)公式サイトで直接確認済みです。累積剰余金5,400億円到達・上乗せ上限(累積剰余金の1%)の撤廃・予定運用利回り年1%の2027年度末までの見直し・加入者357万5,000人/運用資産5兆5,000億円は日本経済新聞(2026年2月4日)で確認しました。6月30日の部会開催・12月とりまとめ方針・建退共の要望水準(日額上限800円→1,000円以上、退職金1,000万円確保目標、複数掛金設定)は日刊建設工業新聞・日本工業経済新聞(2026年7月1日)の報道で確認済みです。ただし、部会の配付資料・議事録は筆者未確認であり、掛金上限の具体的な見直し水準や予定運用利回りの改定方向については推測を含みます。実務対応にあたっては、最新の中退共本部・厚生労働省の公表資料をご確認ください。 |
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📎 根拠法令・出典 ・中小企業退職金共済法(第28条〔付加退職金〕ほか) ※本記事は2026年7月10日時点で公表されている情報に基づく解説であり、特定の対応を保証するものではありません。制度見直しの内容は今後の労働政策審議会の議論により変わりえます。掛金設計・助成金の適用等の個別具体的な対応にあたっては、中退共本部・厚生労働省の最新資料および専門家の判断をご確認ください。 |
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執筆者 三重 英則(みえ ひでのり) 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 |