| 法改正解説
令和8年10月1日施行 派遣労働者の「同一労働同一賃金」が変わります ― 明示事項の追加・ガイドラインの明確化・公正な評価 ― 派遣元・派遣先それぞれの実務対応を解説 |
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📌 この記事の要点
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派遣労働者の更なる待遇改善を実現するため、令和8年10月1日から労働者派遣法施行規則、「同一労働同一賃金ガイドライン」(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)、派遣元指針、派遣先指針が一部改正されます。働き方改革関連法附則第12条の検討規定を踏まえ、労働政策審議会での検討を経て、令和8年4月28日に改正省令・告示が公布・告示されたものです。
今回の改正は、パートタイム・有期雇用労働者に関する同日施行の改正(当法人ブログでも既に解説済み)と一体のものですが、派遣労働者については派遣元事業主と派遣先の双方に固有の対応事項が定められている点が特徴です。本稿では、派遣に特化して改正内容と実務対応を整理します。
| 1. 改正の全体像 ― 3つの柱と改正前後の比較 |
厚生労働省は、今回の改正のポイントを次の3つに整理しています。
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▼ 令和8年10月1日改正の3本柱 @ 派遣労働者の待遇に関する説明義務の改善(雇入れ時・派遣時の明示事項の追加等) |
主な改正事項を改正前後で比較すると、次のとおりです。
| 項目 | 改正前(現行) | 改正後(令和8年10月1日〜) |
| 雇入れ時・派遣時の明示事項 | 昇給・退職手当・賞与の有無、労使協定の対象か否か等を明示(説明を求め得る旨の明示義務はなし) | 「待遇の相違の内容・理由等について派遣元事業主に説明を求めることができる旨」の明示が必須に(明示書の改訂が必要) |
| 同一労働同一賃金ガイドライン | 基本給・賞与・各種手当等について原則となる考え方と具体例を提示 | 裁判例等を踏まえ、賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・病気休職・休暇・夏季冬季休暇・褒賞に関する記載を追加。通常の労働者の待遇引下げによる待遇差解消は望ましくない旨の趣旨も明確化 |
| 過半数代表者への配慮(派遣元指針) | 民主的な方法による適正な選出手続が中心 | 協定事務を円滑に遂行できるよう事務スペース・事務機器の提供等の配慮、選出に併せて派遣労働者の意見・希望を提出させる工夫等を指針に明記 |
| 派遣料金の配慮義務(派遣先指針) | 派遣先は派遣料金について配慮する義務(労働者派遣法26条11項) | 派遣元からの派遣料金交渉に一切応じない場合等は法の趣旨を踏まえた対応といえないこと等の留意事項を派遣先指針に明記 |
| 便宜供与施設(派遣先指針) | 物品販売所・診療所・保養施設等の利用に関する便宜供与の配慮義務 | 配慮が求められる施設に「駐車場」が含まれることを明記 |
| 公正な評価(派遣元指針) | 職務の内容等を公正に評価して賃金を決定(労使協定方式の要件) | 職務の成果等の向上により待遇が改善するよう、希望に応じた評価結果のフィードバック等の措置を総合的に行う努力等の留意事項を派遣元指針に明記 |
| 2. 明示事項の追加 ― 雇入れ時・派遣時の明示書を改訂する |
派遣元事業主は現在も、雇入れ時(契約更新時を含む)には昇給・退職手当・賞与の有無、労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合は労使協定の有効期間の終期)、苦情処理に関する事項などを、派遣時にはこれらに加えて賃金の決定等に関する事項・休暇に関する事項などを、書面の交付等により明示する義務を負っています。
令和8年10月1日以降は、これらの明示事項に「待遇の相違の内容・理由等について派遣元事業主に説明を求めることができる旨」が追加されます。厚生労働省が示す記載例では、待遇決定方式ごとに記載内容が異なる点に注意が必要です。
| 待遇決定方式 | 明示書への記載内容(厚労省記載例の要旨) |
| 派遣先均等・均衡方式 | 派遣先の通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる旨と、説明を求める際の窓口(派遣元の部署・役職・氏名・連絡先)を記載 |
| 労使協定方式 | (1) 協定により賃金等の待遇が決定されていることを含め、待遇の確保に関する決定に当たって考慮した事項、(2) 派遣先の実施する教育訓練(法40条2項)および派遣先が利用の機会を与える福利厚生施設(法40条3項)に関する派遣先の通常の労働者との待遇の相違(内容・理由)について説明を求めることができる旨と、窓口を記載 |
説明を求めることができること自体は現行法(労働者派遣法31条の2第4項)でも保障されており、派遣元事業主は求めに応じて説明する義務を負っています。今回の改正は、その権利があることを雇入れ時・派遣時に書面で明示させることにより、派遣労働者の納得性を高め、紛争を予防しようとするものです。厚生労働省ホームページには改正対応の明示書の様式例(Word・PDF)が公開されていますので、自社様式の改訂に活用できます。なお、派遣元事業主は、派遣労働者が説明を求めたことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(同条5項)。
| 3. ガイドラインの明確化 ― 追加された待遇項目を押さえる |
「同一労働同一賃金ガイドライン」には、裁判例等を踏まえ、派遣労働者に関する次の待遇の記載が追加・整理されました。派遣先均等・均衡方式を採用している場合はもちろん、労使協定方式であっても、派遣元の通常の労働者との間の不合理な相違の禁止や、公正な評価に基づく賃金決定の場面で参照される内容です。
| 待遇 | 追加・明確化された考え方(要旨) |
| 賞与・退職手当 | 労務の対価の後払い、功労報償等のさまざまな性質・目的が含まれ得る。これらの目的が派遣労働者にも妥当するにもかかわらず、職務の内容等の相違に応じた均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理と認められる可能性がある |
| 無事故手当 | 通常の労働者と業務の内容が同一の派遣労働者には、同一の支給を行わなければならない |
| 家族手当 | 労働者派遣契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる派遣労働者には、通常の労働者と同一の支給を行わなければならない |
| 住宅手当 | 「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、通常の労働者と同一の転居を伴う配置の変更がある派遣労働者には、同一の支給を行わなければならない |
| 福利厚生施設 | 利用料金・割引率等の利用条件について、不合理と認められる相違を設けてはならない |
| 病気休職・休暇 | 通常の労働者に病気休職期間に係る給与の保障が行われている場合、相応に継続的な勤務が見込まれる派遣労働者にも同一の給与保障を行わなければならない |
| 夏季冬季休暇 | 派遣労働者にも、通常の労働者と同一の付与を行わなければならない |
| 褒賞 | 一定の期間勤続した労働者に付与するものである場合、通常の労働者と同一の期間勤続した派遣労働者には、同一の付与を行わなければならない |
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▼ 待遇引下げによる「解消」は望ましくない 今回の改正では、不合理な待遇差の解消は派遣労働者の待遇改善によって図ることが求められ、通常の労働者の労働条件を不利益に変更して差を埋める対応は基本的に望ましくない旨の記載趣旨も明確化されました。やむを得ず就業規則の変更により待遇を不利益に変更する場合は、原則として労使の合意が必要であり、合意なく変更する場合であってもその変更は合理的なものである必要があります(労働契約法9条・10条参照)。 |
| 4. 労使協定方式の派遣元が特に注意すべき点 |
労使協定方式(労働者派遣法30条の4)を採用する派遣元事業主にとって、今回の改正で実務上重要なのは次の2点です。
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✔ 過半数代表者への配慮・派遣労働者の意見反映 派遣元は、労使協定の締結主体となる過半数代表者が協定に関する事務を円滑に遂行できるよう、意見の集約等に必要となる事務スペースや事務機器の提供(イントラネットや社内電子メールの利用を含む)などの必要な配慮を行うとともに、派遣労働者の意見や希望等が反映されるよう、過半数代表者の選出に併せて意見・希望等を提出させるなどの工夫に努める必要があることが、派遣元指針に示されました。 |
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✔ 「公正な評価」の不履行は労使協定方式の適用否定に直結する 労使協定に定めた事項を遵守していない場合や、協定に定める公正な評価に取り組んでいない場合、過半数代表者が適切に選出されていない場合には、労使協定方式は適用されず、派遣先均等・均衡方式が適用されます。この場合、派遣先の比較対象労働者との均等・均衡を個別に確保していないことになれば、待遇決定そのものが法違反の状態となりかねません。評価制度を「作って終わり」にせず、適切な時機の評価、能力・経験調整指数の適切な当てはめ、希望に応じた評価結果のフィードバックまで運用することが求められます。 |
また、労使協定に賃金の決定方法を定める際には、一般賃金額を遵守した上で、経済・物価動向および賃金動向を勘案して協定に定める賃金の額を決定することについて労使で十分に協議することが考えられる旨も示されています。毎年度の一般賃金(局長通達)の確認と併せ、協定改定サイクルの中に労使協議のプロセスを組み込んでおくことが実務的です。
| 5. 派遣先に求められる対応 ― 「派遣元の問題」では済まない |
同一労働同一賃金への対応は派遣元の義務が中心ですが、派遣先にも次の対応が求められます。今回の改正で派遣先指針に留意事項が追記された点は、派遣労働者を受け入れる企業にとって見逃せません。
| ▸ | 派遣料金の配慮義務(労働者派遣法26条11項):派遣元からの派遣料金の額に係る交渉に一切応じない場合や、派遣労働者の待遇確保に必要な額の提示を受けて交渉したにもかかわらず派遣料金が当該額を下回る場合は、配慮義務の趣旨を踏まえた対応とはいえないことが派遣先指針に明記されました。この配慮は契約の締結・更新時だけでなく、その後も継続して求められます。 |
| ▸ | 便宜供与施設への「駐車場」の追加:派遣先が設置・運営し派遣先の労働者が通常利用している施設(物品販売所・診療所・保養施設等)の利用に関する便宜供与の配慮対象に、駐車場が含まれることが明記されました。通勤に車を使う地域の事業所では実務への影響が生じ得ます。 |
| ▸ | 待遇情報の提供:労働者派遣契約の締結・更新前や、比較対象労働者の待遇等の変更の都度、派遣元に待遇情報を提供する必要があります(法26条7項・10項)。派遣元は情報提供がないまま派遣契約を締結することはできません。 |
| ▸ | 職務評価への協力:派遣労働者の業務の遂行状況の情報を提供すること等により、派遣元が行う派遣労働者の職務の評価等に協力することが求められています(法40条5項参照)。 |
| 6. 施行までの実務対応チェックリスト |
施行日は令和8年10月1日です。それまでに、派遣元・派遣先それぞれで次の点検を済ませておくことをおすすめします。
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【派遣元事業主】
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【派遣先】
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| 7. 厚生労働省の公式資料(無料ダウンロード可能) |
本稿で紹介した内容の一次資料は、いずれも厚生労働省ホームページから無料でダウンロードできます。改正対応の明示書様式例(Word・PDF)や、改正の経緯・趣旨に関するQ&Aも同ページに掲載されています。
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▼ 厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html 掲載資料の例: |
| 8. まとめ ― 様式改訂だけで終わらせない |
今回の改正は、明示書の様式改訂という「書式対応」だけを見れば軽微に映るかもしれません。しかし、説明を求める権利が雇入れ時・派遣時に毎回明示されるようになれば、派遣労働者からの待遇差説明の求めは確実に増えると想定されます。そのとき、ガイドラインの追加項目に照らして説明に耐えられる待遇決定の根拠を持っているか ― それが問われる改正だと当法人は捉えています。
当法人では、派遣元事業主の労使協定方式の点検・待遇決定の整備や、明示書・就業規則等の規程整備、労務手続の代行・監査を通じて、施行日までの実務対応を支援しています。派遣労働者の待遇をめぐる判断に迷われた際は、お気軽にご相談ください。
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🔎 本記事の確認状況 施行日(令和8年10月1日)・公布日(令和8年4月28日)・改正の3本柱・明示事項の追加内容・ガイドライン追加項目・派遣元指針/派遣先指針の改正事項は、厚生労働省公式ページ「派遣労働者の同一労働同一賃金について」および同省公表のパンフレット・リーフレット(令和8年5月20日掲載)により確認しています。個別の告示番号等の詳細は、同省の改正省令・告示掲載ページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00011.html)でご確認ください。本記事の内容は令和8年7月時点の公表情報に基づくものであり、実際の対応にあたっては最新の法令・通達をご確認ください。 |
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■ 根拠法令・参考資料 ・労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)26条7項・10項・11項、30条の3、30条の4、31条の2、34条1項、40条2項・3項・5項 |
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■ 免責事項 本記事は、公表されている法令・指針・行政資料に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。実際の対応にあたっては、必ず最新の法令・通達をご確認のうえ、専門家にご相談ください。本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当法人は責任を負いかねます。 |
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執筆者 三重 英則(みえ ひでのり) |