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作成日:2026/06/16
精神障害の労災が過去最多 令和6年度「過労死等の労災補償状況」で認定1,055件・初の1,000件超え、原因トップはパワハラ
労務トピックス | 2026.06.15
精神障害の労災が過去最多
令和6年度「過労死等の労災補償状況」で認定1,055件・初の1,000件超え、原因トップはパワハラ
#労災 #メンタルヘルス #ハラスメント #安全配慮義務

📌 この記事の要点

・厚生労働省が令和7年6月25日に公表した令和6年度「過労死等の労災補償状況」で、精神障害の労災認定(支給決定)が1,055件となり、統計開始(1983年)以来初めて年間1,000件を突破しました。
・原因(出来事別)のトップは上司等からのパワーハラスメント(224件)カスタマーハラスメント(108件)は前年度から約2倍に急増しています。
・パワハラ・カスハラはいずれも「組織として防げる」類型です。相談窓口・管理職教育・労働時間管理・カスハラ対応・復職支援の整備が、労災化と高額賠償の予防につながります。
・2026年10月のカスハラ対策義務化、2028年4月のストレスチェック全事業場義務化を見据え、中小企業も先行対応が求められます。

1. 何が起きたのか ― 「心の労災」が初めて1,000件を突破

厚生労働省は令和7年6月25日、令和6年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。最大の注目点は、精神障害(いわゆる「心の労災」)の労災認定(支給決定)件数が1,055件となり、統計開始(1983年)以来、初めて年間1,000件を突破したことです。支給決定件数は令和2年度の608件以降、6年連続で増加しています。

さらに令和7年10月28日には、令和7年版「過労死等防止対策白書」(通算10回目)も公表され、精神障害の労災請求が中長期的に大きく増加していることが改めて示されました。過労死・過労自殺、そしてメンタル不調による労災は、もはや一部の長時間労働企業だけの問題ではありません。本記事では、最新の統計を社労士の視点で読み解き、中小企業が今すぐ取り組むべき実務対応を整理します。

2. 令和6年度の数字を正確に押さえる

厚労省公表資料に基づく主な数値は次のとおりです。請求件数・支給決定件数とも、過労死等全体で過去最多を更新しました。

区分 請求件数 支給決定件数
過労死等 全体 4,810件(前年度比+212)
過去最多を更新
1,304件(前年度比+196)
過去最多を更新
精神障害 3,780件(前年度比+205) 1,055件(前年度比+172)
初の1,000件超え
うち自殺(未遂含む)88件(+9)
脳・心臓疾患 1,030件(前年度比+7) 241件(前年度比+25)
うち死亡67件(+9)

【注】 上記は厚労省公表資料および複数の公的・専門機関の解説で確認した数値です。精神障害の支給決定件数(1,055件)は広く報じられている数値であり、本記事もこれを採用していますが、社内資料・通知書等に転記される際は、必ず厚労省の原典でご確認ください。推測で数字を断定することは避けています。

3. 原因のトップは「パワハラ」、急増する「カスハラ」

精神障害の労災認定を出来事別にみると、上位は次のとおりです。

@ 上司等から、身体的攻撃・精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた … 224件(前年度157件 → 約42.7%増)
A 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった … 119件
B 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)を受けた … 108件(前年度52件 → 約2倍)

注目すべきは、パワハラ(職場内のハラスメント)とカスハラ(職場外=顧客等からの迷惑行為)の両方が大きく伸びている点です。とりわけカスハラ起因の認定件数が前年度の約2倍に急増したことは、2026年10月に施行される改正労働施策総合推進法によるカスハラ対策の事業主義務化(本ブログ5月20日・6月8日号で解説)の背景データとして、極めて象徴的といえます。

4. なぜ精神障害の労災は増え続けるのか

当法人の分析

件数増加の背景には、複数の要因が重なっていると考えられます。

@ 認定基準の改正(令和5年9月) … 精神障害の労災認定基準が改正され、「カスタマーハラスメントを受けた」等の出来事が具体例として明確化されました。これにより、従来は拾いきれなかった事案が認定対象として可視化された側面があると考えられます。

A ハラスメントへの社会的感度の高まり … パワハラ防止法の浸透により、被害を声に出し、労災請求につなげる流れが定着してきたと想定されます。

B 人手不足による業務負荷の集中 … 人手不足倒産の増加と表裏一体で、残った従業員に業務量が集中し、メンタル不調を招いている可能性があります。

つまり、「実際に増えている」面と「これまで見えなかったものが見えるようになった」面の両方がある、というのが妥当な読み方だと考えます。

5. 中小企業が今すぐ取り組むべき実務対応 7項目

統計を「他社の話」で終わらせないために、社労士の立場から顧問先に促したい対応を整理します。

✓ 予防のためのチェックポイント

@ ハラスメント相談窓口の実効性チェック
窓口が「設置されているだけ」になっていないか。匿名性・初動対応・記録の取り方を含め、機能しているかを点検します。

A カスハラ対応マニュアルの整備(2026年10月の義務化に先行対応)
カスハラ起因の労災が急増している以上、対応方針の明確化・対応記録・従業員保護の手順整備は待ったなしです。

B 長時間労働の早期把握
労働時間の客観的把握(安衛法上の義務)を徹底し、月の時間外労働が一定水準を超えた従業員を早期に検知する仕組みを作ります。

C ストレスチェックの活用と50人未満義務化への備え
2028年4月1日から50人未満の事業場にも義務化されます(最初の実施完了期限は2029年3月31日。本ブログ5月27日号参照)。集団分析を職場改善に結びつける運用を今から準備します。

D 管理職教育(パワハラ=最多原因への直接対策)
認定原因トップがパワハラである以上、管理職への教育・指導方法の見直しが、最も費用対効果の高い予防策と考えられます。

E メンタル不調者の早期発見・産業医連携・休職復職制度の整備
不調の早期発見と、休職から復職までの制度設計(試し出勤・段階的復帰等)が、重篤化と労災化を防ぎます。

F 「安全配慮義務」を経営課題として位置づける
過労自殺・メンタル労災は、労災認定にとどまらず、多額の損害賠償(安全配慮義務違反)に発展し得ます。経営リスクとして正面から位置づける必要があります。

6. まとめ ― 統計は「予防のための地図」

令和6年度の労災補償状況は、過労死等の請求が過去最多、精神障害の認定が初の1,000件超えという、企業に重い問いを突きつける内容でした。原因の中心はパワハラとカスハラであり、いずれも「組織として防げる」類型です。労災統計は、過去の不幸を数えるためのものではなく、次の被害を防ぐための地図です。当法人は、この地図を顧問先と一緒に読み解き、相談窓口・教育・労働時間管理・復職支援といった具体策へと翻訳していく伴走者でありたいと考えています。

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▶ 休職制度設計・支援
▶ 就業規則作成・改訂
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▶ IPO労務監査

【根拠法令・参考資料】

・労働安全衛生法第66条の10(ストレスチェック)/同法第65条の3・第66条の8(労働時間の状況の把握・面接指導)
・労働施策総合推進法第30条の2(パワーハラスメント防止措置義務)
・改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号。カスタマーハラスメント対策の事業主義務化/令和8年〔2026年〕10月1日施行)
・改正労働安全衛生法(令和7年5月公布。50人未満事業場へのストレスチェック義務化/令和10年〔2028年〕4月1日施行)
・心理的負荷による精神障害の認定基準について(基発0901第2号・令和5年9月1日)
・労働契約法第5条(安全配慮義務)

【出典・参考URL(実在確認済み)】

・厚生労働省「令和6年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(令和7年6月25日公表)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59039.html
・厚生労働省「令和7年版 過労死等防止対策白書を公表します」(令和7年10月28日公表)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_65250.html

※本記事は、公表情報をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。記載の数値・制度内容は公表時点のものであり、最新の取扱いは必ず厚生労働省等の原典でご確認ください。個別具体的なご対応については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

執筆者

三重 英則(みえ ひでのり)
社員(特定社会保険労務士・経営心理士・経営法曹会議賛助会員)
社会保険労務士法人 T&M Nagoya(名古屋市中区)
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