| 裁判例解説(報道ベース) |
贈賄を警察に告発するため社内資料を持ち出した元社員への約4,700万円の賠償請求、二審も棄却 スターサージカル事件(東京高裁令和8年9月3日判決)に見る、「資料の持ち出し」はどこまで公益通報として守られるのか |
| 2026年10月9日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士) |
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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。
公益通報者保護法は、公益通報を理由とする解雇を無効とし(3条)、公益通報によって損害を受けたことを理由に通報者へ損害賠償を請求することを禁じています(7条)。ところが、通報の前段階で行われる証拠資料の収集や持ち出しを正面から保護する規定は、現行法にも、2026年12月1日に施行される改正法にも置かれていません。本日取り上げる事件は、まさにこの「すき間」が争われた事件です。医療機器販売会社が、社内の機密情報を持ち出したとして元社員に約4,700万円の損害賠償を求め、東京地裁、東京高裁のいずれも、持ち出しは捜査機関への情報提供が目的だったとして請求を棄却しました。
社内資料の持ち出しは、多くの就業規則で懲戒事由とされています。一方で、不正を告発しようとする従業員にとって、証拠がなければ通報は信用されにくいのが現実です。企業の「情報管理」と「公益通報の保護」がぶつかったとき、裁判所がどちらを重く見たのか。経営者が知っておくべき事件として整理します。
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| 📌 この記事でわかること |
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✓ 東京高裁(谷口園恵裁判長)は2026年9月3日、贈収賄事件を警察に告発するために社内資料を持ち出した元社員に対する会社の損害賠償請求(4,788万円)について、一審の東京地裁(2025年12月19日判決)に続いて請求を退けたこと
✓ 一審・二審とも、持ち出しの目的が捜査機関への情報提供(犯罪の告発)にあったと認定し、元社員の行為は公益通報の要件を満たし、違法性が阻却されると判断したと報じられていること
✓ 元社員が告発した贈収賄事件は、2023年に会社の元社長らが大阪府警に書類送検されて略式命令を受け、公立病院の眼科医に執行猶予付きの有罪判決が言い渡されたものであること
✓ 判決原文は公開されておらず、本記事は時事通信・共同通信・毎日新聞・東京新聞の報道に基づくものであること。適用法条の細部、事件番号、上告の有無は確認できていないこと
✓ 2026年12月1日施行の改正公益通報者保護法でも資料持ち出しの保護は明文化されておらず、企業は「持ち出し」への対応の前に、通報との関係を確認する必要があること
「情報漏えい」と「公益通報」は、外から見ると同じ行為に見えることがあります。
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| 1 本記事の情報源と限界 |
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本判決は、本記事の執筆時点で裁判所ウェブサイトに掲載されておらず、判例集にも登載されていません。当法人は判決原文を確認できていないため、本記事は報道に基づいて構成しています。事件名も、判例集上の呼称ではなく、本記事で便宜上「スターサージカル事件」と呼ぶものです。確認できていない事項を先に挙げておきます。
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確認できていない事項
1 判決原文と事件番号。裁判所ウェブサイト等で確認できていません。
2 適用法条。公益通報者保護法7条を適用したのか、民法上の不法行為の違法性阻却として判断したのかは、報道からは読み取れません。
3 解雇の時期。報道により表記が異なるため、本記事では特定しません。解雇の有効性が別途争われたのか、その結論も確認できていません。
4 持ち出した情報の範囲と量。医師との契約書などが含まれていたことは報じられていますが、それ以外の内容は不明です。
5 確定の有無。会社が上告または上告受理申立てをしたかどうかは確認できていません。会社は判決後、内容を精査して今後の対応を協議する旨のコメントを出したと報じられています。
6 会社名の表記。贈収賄事件が報じられた2023年当時の報道では、会社は「スター・ジャパン」と表記されています。本記事では判決報道に合わせて「スターサージカル」と表記します。
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| 2 事案の概要――報道から確認できる範囲で |
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原告(控訴人)はスターサージカル株式会社(東京都港区)で、米国の医療機器メーカーの日本法人と報じられています。被告(被控訴人)は同社の元社員の50代男性で、東京新聞は経理担当だったと報じています。報道から確認できる経緯を時系列で整理します。
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| 時期 |
報道されている事実 |
| 2019年から2021年 |
会社の元役員が、奈良県の公立病院(大和高田市立病院)の眼科医に対し、白内障手術用の眼内レンズを優先的に使用する見返りとして、手術動画の提供名目で3回にわたり計80万円を支払ったとされる。会社は全国の医師75人から患者の同意なく手術動画を集めて謝礼金を支払っていたと報じられ、東京新聞はその総額を約2,100万円と報じている |
| 2021年 |
元社員が、医師との契約書などの機密情報を社外に持ち出し、複数の警察に告発文書を送付した(共同通信・時事通信)。時事通信は、2021年に機密情報を社外に持ち出したと報じている |
| 持ち出し後 |
会社は、業務と無関係の情報の持ち出しなどを理由に元社員を解雇した(共同通信)。解雇の時期は報道により表記が異なる |
| 2023年6月 |
大阪府警が、会社の元社長ら5人を贈賄容疑で、眼科医を収賄容疑で書類送検した。元社長らは略式命令を受けたと報じられている |
| 2023年10月31日 |
大阪地裁が眼科医に執行猶予付きの有罪判決(追徴金80万円)を言い渡した |
| 2024年 |
会社が、情報の持ち出しによる損害の賠償を求めて元社員を提訴。請求額は共同通信が4,788万円、時事通信が約4,700万円と報じている。東京新聞は、元社員の口座から約1,200万円が仮差押えされたと報じている |
| 2025年12月19日 |
東京地裁が会社の請求を棄却。会社が控訴 |
| 2026年9月3日 |
東京高裁(谷口園恵裁判長)が一審判決を支持し、会社の控訴を棄却 |
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本件で会社が求めたのは、「通報したこと」による損害ではなく、「資料を持ち出したこと」による信用毀損などの損害です。この点が、公益通報者保護法7条の文言との関係で本件を難しくしています。
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| 3 争点 |
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報道から読み取れる争点は、1点に集約されます。元社員による社内資料の持ち出しは、会社に対する不法行為(又は労働契約上の秘密保持義務違反)として損害賠償責任を生じさせるか。それとも、公益通報のための行為として違法性が否定されるか、です。これに付随して、持ち出しの主な目的は犯罪の告発だったのか会社への反感だったのか、持ち出した資料に贈収賄事件と直接関係のない情報が含まれていた場合に公益通報としての保護は失われるのか、元社員が報道機関にも情報を提供したという会社側の主張は認められるのか、という点が問題になったと報じられています。
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| 4 一審と二審の判断 |
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報道されている判断の骨子を一審・二審で並べます。いずれも判決原文ではなく、報道の要約であることをお断りしておきます。
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| 一審 東京地裁 2025年(令和7年)12月19日判決 |
二審 東京高裁 2026年(令和8年)9月3日判決(谷口園恵裁判長) |
| 会社の請求を棄却。時事通信によれば、データの持ち出しは犯罪の告発が主な目的であり、違法性は認められないと判断した。東京新聞も、主な目的が犯罪の告発であれば、会社や上司への反感が動機に含まれていても持ち出しは違法とならない、という趣旨の判断がされたと報じている。時事通信によれば、元社員が報道機関に情報を提供したという会社側の主張は、裏付ける証拠がないとして退けられた |
一審判決を支持し、会社の控訴を棄却。持ち出しは捜査機関への情報提供が目的だったと認定したうえで、元社員の行為は公益通報の要件を満たし、違法性が阻却されると述べた(時事通信)。報道によれば、捜査機関は通報の信用性を判断する必要があるため、事件と直接関係のない情報が含まれていたとしても直ちに公益通報であることが否定されるものではない、という趣旨の判断も示したとされている |
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判決後、元社員は、重大な不正を目の前にした人が声を上げても大丈夫だと思える社会になってほしい、という趣旨を述べ、会社側は判決内容を精査して今後の対応を協議する、という趣旨のコメントを出したと報じられています。上告・上告受理申立ての有無と判決の確定の有無は、本記事の執筆時点で確認できていません。
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| 5 判決理由の読み解き――何が決め手になり、何が決め手にならなかったか |
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一審・二審に共通する判断の出発点は、持ち出しの「目的」です。犯罪を捜査機関に通報するという目的が認められたことで、資料の持ち出しは通報のための行為と評価され、違法性が否定されたと考えられます。注目すべきは、一審について報じられている「反感が動機に含まれていても違法とならない」という判断です。社内で不正を告発する人が、会社や上司と対立していることは珍しくありません。会社が「私怨による情報漏えいだ」と主張しても、主な目的が犯罪の告発であれば保護は失われない。この考え方が示されたものと読めます。
次に、二審について報じられている「事件と直接関係のない情報が含まれていても直ちに公益通報であることは否定されない」という判断です。通報を受けた捜査機関は、通報内容が本当かどうかを確かめるために周辺の資料も必要とします。通報者が必要な範囲を過不足なく見極めて資料を選ぶことは難しいという現実を、裁判所が踏まえたものと読めます。ただし、これは「何を持ち出してもよい」という意味ではありません。報道では、どの程度の量と種類の情報が持ち出されたのか、顧客や患者の個人情報が含まれていたのかは明らかにされておらず、本判決の射程がどこまで及ぶかは判決原文を見なければ判断できません。持ち出した資料の内容が顧客の個人情報や営業秘密に及ぶ場合には、個人情報保護法や不正競争防止法との関係で別の評価があり得ます。
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公益通報者保護法との関係(確認できていない点を含む整理)
公益通報者保護法7条は、事業者は「公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない」と定めています(令和2年改正で新設、令和4年6月1日施行)。本件で会社が求めたのは「通報による損害」ではなく「資料持ち出しによる損害」です。裁判所がこれを7条の問題として処理したのか、民法上の不法行為の違法性阻却(正当行為)として判断したのかは、報道からは読み取れません。報道にある「違法性が阻却される」という表現からは、後者の枠組みで判断した可能性があると考えられますが、これは当法人の推測です。
また、警察への通報は、通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関への通報(同法3条2号)に当たると考えられます。この類型の通報が保護されるには、通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があるか、そう思料して氏名や通報対象事実の内容などを記載した書面を提出することが要件です。本件では実際に書類送検、略式命令、有罪判決に至っているため、この要件は満たしやすい事案だったといえます。逆に言えば、通報内容の裏付けが弱い事案では、同じ持ち出しでも結論が変わり得ます。
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| 6 改正公益通報者保護法(2026年12月1日施行)との関係 |
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「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和7年法律第62号)は、2025年6月11日に公布され、2026年12月1日に施行されます。消費者庁の改正概要によると、主な改正点は次のとおりです。
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| 改正項目 |
内容(施行日:2026年12月1日) |
刑事罰の新設 (21条・23条) |
公益通報を理由とする解雇・懲戒をした者に、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金。法人には3,000万円以下の罰金(両罰規定) |
推定規定 (3条3項) |
公益通報後1年以内の解雇又は懲戒は、公益通報を理由とするものと推定される(外部通報の場合は事業者が通報を知った日から1年以内)。対象は解雇と懲戒に限られ、配置転換などその他の不利益取扱いは対象外 |
通報妨害の禁止 (11条の2) |
正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意を求めるなどして通報を妨げることの禁止。違反する合意は無効 |
通報者探索の禁止 (11条の3) |
正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為の禁止 |
対象者の拡大 (2条) |
業務委託関係にあるフリーランス(特定受託事業者)と、業務委託関係の終了後1年以内の者を公益通報者に追加 |
行政の権限強化 (15条の2・16条) |
体制整備義務に関する命令権と立入検査権を新設。報告懈怠・虚偽報告・検査拒否に30万円以下の罰金 |
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※出典:消費者庁「改正概要(公益通報者保護法、法定指針)」。内部公益通報対応体制の整備義務(11条)は常時使用する労働者の数が300人を超える事業者が対象で、300人以下は努力義務です(改正前から同じ)。
一方で、通報のための資料収集や持ち出しを保護する規定は、今回の改正項目に含まれていません。東京弁護士会は、改正後の課題として、通報者の刑事免責規定が置かれていないことなどを挙げています。つまり、2026年12月以降も、本件のような「資料持ち出し」をめぐる紛争は、個別の裁判で持ち出しの目的、必要性、相当性を争うことになります。本判決は、そのときに参照される事例の1つになると考えられます。元社員側は、通報の準備行為を理由とする提訴を制限する法整備を求めて署名活動を行っていると報じられています。
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| 7 実務への示唆――企業が押さえるべき5つの点検項目 |
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本件を自社に引き付けるなら、次の5項目です。いずれも、本件の事実関係を離れて、一般的な実務として整理したものです。
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点検1 「持ち出し」を理由とする処分・請求の前に、通報との関連を確認しているか
従業員が社内資料を持ち出したことが分かったとき、直ちに懲戒処分や損害賠償請求に進むのは危険です。その従業員が行政機関、捜査機関、社内窓口などに通報していないか、通報の準備をしていないかを、処分の前に確認する必要があります。本件のように会社の請求が退けられるだけでなく、「通報者への報復」として企業の信用を大きく損なうおそれがあります。確認の過程で通報者を特定しようとする行為は、改正後は11条の3との関係で問題になり得るため、確認の方法にも注意が必要です。
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点検2 2026年12月以降の「1年以内の解雇・懲戒」に推定規定が働くことを理解しているか
改正法の施行後は、公益通報から1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とするものと推定されます。「資料の持ち出しを理由に懲戒した」と説明しても、通報との時間的な近さがあれば、会社側が別の理由であることを立証しなければならない場面が出てきます。懲戒の理由、経緯、証拠を記録に残すことが一層重要になります。なお、推定規定の対象は解雇と懲戒に限られ、配置転換は対象外ですが、配置転換であれば自由というわけではなく、5条の不利益取扱いの禁止は及びます。
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点検3 情報管理規程と内部通報規程の関係を整理しているか
就業規則や情報管理規程で業務上の資料の社外持ち出しを禁じることは当然必要です。そのうえで、内部通報規程に、法令に基づく公益通報のために必要な範囲で行われる行為については通報者の保護に配慮する、という趣旨を明記し、両者の関係を整理しておくことが考えられます。社員にとっても「どこまでなら守られるのか」が分かりやすくなり、会社にとっても、通報とは無関係の持ち出しを懲戒する根拠が明確になります。
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点検4 内部通報窓口は「使われる窓口」になっているか
本件の元社員は、社内窓口ではなく警察に通報したと報じられています。経営トップが関与する不正では、社内窓口が信頼されないのは自然なことです。経営陣から独立した窓口(社外の弁護士窓口、監査役ルートなど)を設けておくことが、外部通報や資料持ち出しという事態を減らす最も確実な方法だと考えます。常時使用する労働者が300人を超える事業者には内部公益通報対応体制の整備が義務付けられており、300人以下は努力義務です。努力義務であっても、窓口がない会社では従業員が最初から外部に向かうことになります。
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点検5 通報者への訴訟・仮差押えの影響を、法的な勝ち負け以前に検討しているか
会社が通報者に訴訟や仮差押えを行うと、仮に一部の主張に理があったとしても、社会からは「口封じ」と受け止められやすくなります。本件でも、通報者の負担の大きさが報道で取り上げられ、法整備を求める署名活動につながっています。法的な勝ち負け以前に、企業の信用に与える影響を経営者に説明することも、当法人の役割の1つです。なお、訴訟や仮差押えの提起そのものの判断と手続は弁護士の領域であり、当法人は提携する弁護士と連携して対応します。
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| 8 当法人の視点 |
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「社員が資料を持ち出した。処分したい」という相談を受けたとき、最初に確認すべきなのは「何を持ち出したか」ではなく、「誰に、何を伝えるために持ち出したか」です。本件の一審・二審が判断の出発点に据えたのも、持ち出しの目的でした。目的の確認を飛ばして持ち出しの事実だけで処分に進むと、処分が無効になるだけでなく、会社が「報復した側」として記録に残ります。
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当法人の見解
本判決から企業が学ぶべきことは、「持ち出しは常に許される」ではなく、「持ち出しの目的が犯罪の告発であれば、反感が混じっていても、周辺資料が含まれていても、それだけでは違法にならない」という判断の順序です。会社が守るべき情報管理の利益は否定されていません。しかし、その利益は、公益通報の目的が認められる場面では後退する。この順序を知らずに処分や訴訟に進むことが、最大のリスクだと考えます。
反対の見方もあります。会社側の立場からは、目的が正当であっても持ち出しの範囲は通報に必要な限度にとどめるべきであり、顧客や患者の個人情報、他の取引先との契約内容まで無差別に持ち出せば、通報の目的があっても別の結論があり得る、という考え方です。当法人もこの見方を否定しません。本件では、持ち出した資料の内容と量が報道で明らかにされておらず、本判決の射程は判決原文でしか確定できません。持ち出しの範囲が争点になる事案では、本判決を「持ち出しは保護される」と単純に引用することはできないと考えます。
簡易な確かめ方を1つ挙げます。自社の就業規則の懲戒事由と、内部通報規程(なければ通報に関する定めのある規程)を並べて、「通報のために必要な範囲で行った資料の収集・持ち出し」が懲戒事由からどう扱われるかを、10分で読み合わせてみてください。どちらの規程にも答えが書かれていなければ、本件と同じ場面で会社は判断の基準を持たないことになります。それが、規程を整理する合図だと考えられます。
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| まとめ |
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東京高裁は2026年9月3日、贈収賄事件を警察に告発するために社内資料を持ち出した元社員への損害賠償請求(4,788万円)を、一審に続いて退けました。報道によれば、判断の中心は持ち出しの目的であり、犯罪の告発が主な目的であれば、会社への反感が動機に含まれていても、事件と直接関係のない情報が含まれていても、直ちに公益通報としての保護は否定されないとされました。2026年12月1日施行の改正公益通報者保護法でも、資料持ち出しの保護は明文化されていません。企業は、持ち出しへの対応の前に通報との関係を確認すること、情報管理規程と内部通報規程の関係を整理すること、経営陣から独立した通報窓口を整えることが重要です。判決原文、適用法条、確定の有無は確認できていないため、本記事は報道に基づく整理であることを重ねてお断りします。
当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。「社員が資料を持ち出した」と分かったときこそ、一度立ち止まって事実関係を整理し、処分の是非を経営者と一緒に判断してまいります。内部通報規程と情報管理規程の整備については就業規則作成・改定支援、通報や告発を伴う難しい事案の対応については高難度業務対応型顧問のページもご覧ください。
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「社員が社内資料を持ち出した」と分かったとき、処分の前に確認すべきことを整理しませんか
内部通報規程と情報管理規程の整備、通報窓口の設計、2026年12月施行の改正公益通報者保護法への対応、懲戒処分の前の事実整理まで、 社会保険労務士法人T&M Nagoya がご相談をお受けします。
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| この記事を書いた人 |
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三重 英則(HIDENORI MIE)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)
法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。
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