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作成日:2026/09/15
【裁判例】取引先の拠点を狙ったストライキは 「争議行為に名を借りた業務妨害」
裁判例解説

取引先の拠点を狙ったストライキは
「争議行為に名を借りた業務妨害」


生コン協同組合ほか事件(大阪高裁令和7年1月23日判決・原審・大阪地裁令和5年11月22日判決)|争議行為の正当性と「使用者」の範囲

2026.9.15|社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 三重英則
当法人が8月上旬に解説した令和7年「労働争議統計調査」では、半日以上のストライキによる労働損失日数が前年の約12.5倍に急増し、その約96%を運輸業・郵便業が占めていました(参考:労働争議統計の解説記事)。ストライキは過去のものではなく、業種によっては現在進行形の経営リスクです。

今回取り上げる裁判例(大阪高裁令和7年1月23日判決。は、生コン業界の産業別労働組合が、組合員の雇用主ではないセメント販売会社の供給拠点や生コン製造会社の工場を対象に、数日間にわたり同時多発的に行ったストライキについて、裁判所が「正当な争議行為という余地はなく、争議行為に名を借りた業務妨害にほかならず違法である」と判断した事案です。訴訟の構図は、ストライキ後に協同組合が加盟社に対して行った対応(労組との個別接触の禁止等)が団結権・団体交渉権を侵害する不法行為に当たるとして、労組側が協同組合とその理事に対し3300万円の損害賠償と差止めを求めたものであり、地裁・高裁とも請求を全部棄却しました。判決は労働判例1351号35頁(原審46頁)に掲載されています。

本稿では、裁判所が争議行為の正当性をどのような枠組みで審査したのか、そして「自社に組合員がいない第三者」が争議に巻き込まれたときに何を整理すべきかを解説します。
📌 本判決の要点
第1に、争議行為が正当かどうかは、動機・目的、態様、周囲の客観的状況その他諸般の事情を考慮し、法秩序全体の見地から許容されるものかによって判断されます。

第2に、目的の面では、輸送運賃の引上げは本来、製造業者・セメント販売業者と輸送業者との契約内容に関する交渉事項であり、スト対象の各社には組合員がおらず労働組合法7条の使用者にも当たらないことから、正当な目的とはいえないとされました。むしろ、環境整備費の支払停止に対する報復と支払再開が真の目的であったことがうかがわれると認定されています。

第3に、態様の面では、連日約200人を動員し38か所で同時多発的に車両の入退場を実力で妨害し、従業員を恫喝して23工場を出荷不能に陥らせた本件ストは、不当な方法による業務妨害と評価されました。この違法ストを前提に、協同組合が加盟社に対し労組との個別接触・交渉を控えるよう求めた措置は、団体交渉を一律に禁止するものではなく交渉窓口を一本化する合理的な方針であり、不法行為には当たらないと判断されました。
1. 事案の概要 ―― 業界構造と争議に至る経緯
原告は、関西地方のセメント・生コン産業やトラック輸送等に従事する労働者で構成される産業別の労働組合で、平成30年当時の組合員数は約1800名でした。被告は、大阪府および兵庫県の生コン製造業者を組合員(加盟社)とする事業協同組合です。生コンは作り置きができず、製造業者は中小企業が多く過当競争に陥りやすい業界であるため、被告はゼネコン等から生コンを一括受注し、工事現場ごとに担当する加盟社と製造量を割り当て、加盟社が製造した生コンを買い受けてゼネコン等に販売する共同販売事業を行っており、その市場占有率はほぼ100%に達していました。【事実】

平成27年11月、加盟社の団交窓口である経営者会と、原告を含む5つの労働組合で構成される労組連合会は、共同販売事業への協力・協調関係を構築する協定を締結し、その際、使用者側は福利厚生のための環境整備費として年間5億円を超える金額を支払うことに合意しました。ところが平成29年、被告が、環境整備費の一部が原告委員長の関係団体等に流れていると指摘し、加盟社が支払を停止したことを発端として、セメント・生コンの輸送運賃引上げと被告の「民主化」を求める無期限ストライキが行われることになります。【事実】
本件ストライキの態様(裁判所の認定)
本件ストは平成29年12月12日から15日頃まで、1日あたり約170人から240人の組合員が動員され、セメント販売会社6社の計38か所のSS(生コンの原料であるバラセメントの供給場所)や生コン製造会社の工場において同時多発的に行われました。SSでは、組合員が入退場しようとする輸送車両の前に立ちはだかる、車両に身体を密着させる、路上に寝転がる、SSの従業員を大声で恫喝するなどして入退場を妨害し、車両を20分以上停止させたり退場を断念させたりしました。工場でも、出入口にミキサー車を横付けするなどして入退場を妨害しています。その結果、加盟社が経営する23工場で生コンの出荷ができなくなり、工事現場で作業が予定どおり行えない事態が生じ、被告はゼネコン数社から原告組合員を事業に関与させないよう求められました。【事実】

原告は、車両の運転手に対して労務を提供しないよう平和的な説得をしたにすぎないと主張しましたが、高裁は、動画等から認められる態様は上記のとおりであるとしてこれを退けています。
被告は、出荷不能となった加盟社から他の加盟社へ出荷の割付けを振り替えるなどの緊急措置を講じましたが、すべてに対応することはできませんでした。被告の理事会は、原告の行為に対して刑事告訴・損害賠償等の対策を取り、予算として10億円を計上することを臨時総会の議題とする旨を決議し、加盟社の全工場を対象とする仮処分命令を申し立てました。セメント販売会社等が申し立てた業務妨害禁止の仮処分は認容されています。さらに理事会は、原告との必要な交渉は顧問弁護団の協力を得て被告として対応するので加盟社が原告と個別に接触・交渉することを禁止すること、原告との関係が深く安定供給に不安のある工場への割当てを問題解決まで自粛することを全会一致で決議し、実施しました。【事実】

原告は、これらの対応が団結権・団体交渉権を侵害する不法行為に当たるとして、被告とその理事に対し3300万円の損害賠償と差止めを求めて提訴しました。大阪地裁(令和5年11月22日判決)は請求を全部棄却し、大阪高裁(令和7年1月23日判決)も控訴を棄却しています。【事実】なお、本件ストをめぐっては別途刑事事件が係属したことが報じられていますが、本稿は民事判決のみを扱います。
2. 裁判所の判断 ―― 目的と態様の二面から「正当性なし」
裁判所はまず、正当な争議行為かどうかは、動機・目的、態様、周囲の客観的状況その他諸般の事情を考慮して、法秩序全体の見地から許容されるものであるかを判断すべきであるという枠組みを示しました。そのうえで、目的と態様の二面から検討しています。【事実】

目的について。原告が掲げた輸送運賃の引上げは、本来、生コン製造業者やセメント販売業者と輸送業者との間の契約内容に関する交渉事項です。また、本件ストの対象とされた生コン製造会社やセメント販売会社には原告の組合員がおらず、組合員の労働条件を支配決定できる地位にもないため、労働組合法7条の使用者にも該当しません。したがって輸送運賃の引上げは正当な目的とはいえないとされました。被告の「民主化」についても、内容自体が抽象的で不明であり、被告は使用者に当たらないとして同様に判断されています。さらに裁判所は、本件ストは環境整備費の支払停止に対する報復と支払再開を目的としたことがうかがわれるとし(高裁は、報復目的であったとの疑いを払拭できないと表現)、争議行為本来の目的でされたものとはいえないとしました。【事実】

高裁は補足として、荷主会社は組合員の使用者ではなく業務への支障を甘受すべき立場になく、他の業者に依頼して輸送を遂行することを妨げられるいわれはないと述べ、組合員が実力でこれを妨げることは違法な業務妨害にほかならず、仮に荷主会社に組合員がいたとしても、輸送運賃の引上げはその労使間の団交事項ではないから、荷主会社で争議行為をすることは許されないと整理しています。【事実】

態様について。裁判所は、数日間にわたり毎日200人程度を動員し、38か所ものSSと工場で同時多発的に行われた大規模なもので、輸送車両の前に寝転がったり立ちはだかったりして入退場を妨害し、従業員を恫喝するなど実力行使を伴い、23工場を出荷不能にした本件ストは、不当な方法で業務を妨害するものだとしました。【事実】

以上から裁判所は、本件ストは正当な争議行為という余地はなく、争議行為に名を借りた業務妨害にほかならず違法であると結論づけました。そして、この違法ストを前提とすれば、被告が加盟社に対し原告との個別接触・交渉を控えるよう求めたこと等は、団体交渉を一律に禁止するものではなく交渉窓口を被告に一本化する合理的な方針であり、不法行為に当たらないと判断しています。【事実】
3. 法的整理 ―― 「正当性」の条文上の根拠と「使用者」の範囲
争議行為が法的保護を受けるのは、それが「正当」である場合に限られます。労働組合法1条2項は、団体交渉その他の行為であって正当なものについて刑法35条(正当行為)の適用を認めつつ、いかなる場合においても暴力の行使は正当な行為と解釈されてはならないと定めています。同法8条は、使用者は同盟罷業その他の争議行為であって正当なものによって損害を受けたことの故をもって労働組合またはその組合員に対し賠償を請求することができないと定めますが、裏を返せば、正当性を欠く争議行為には民事免責も及びません。本判決の判断枠組みは、この「正当性」を目的・態様・周囲の客観的状況から総合判断するという確立した考え方に沿ったものです。

本件で決定的だったのは、争議の相手方が組合員の「使用者」でなかったという点です。労働組合法7条の使用者について、最高裁は、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて使用者に当たると判示しています(朝日放送事件・最高裁平成7年2月28日判決)。本件の被告協同組合については、これに先立つ不当労働行為事件においても、中央労働委員会が、生コン製造会社を構成員とする協同組合およびセメント製造・販売会社は、生コン製造会社の従業員である組合員との関係において労働組合法7条の使用者には当たらないと判断していました(中労委平成26年12月3日命令)。本判決が、スト対象の各社には組合員がおらず労働条件を支配決定できる地位にないとして使用者性を否定したのは、この延長線上にあります。
先例が示す「平和的説得」の限界
ストライキに伴うピケッティングについて、最高裁は、平和的説得の範囲を超えて、実力によって使用者側の業務遂行を阻止する行為は正当な争議行為とはいえないという立場を示してきました(山陽電気軌道事件・最高裁昭和53年11月15日判決)。また、ストライキ中の使用者による操業継続を実力で妨害する行為も、争議行為の正当性の範囲を逸脱するとされています(御國ハイヤー事件・最高裁平成4年10月2日判決)。

本件で原告は「平和的な説得をしたにすぎない」と主張しましたが、高裁は動画等の証拠から、車両の前に立ちはだかり、身体を密着させ、路上に寝転がり、従業員を恫喝したという態様を認定しました。争議の正当性が争われる場面では、現場の態様を客観的に記録した証拠が結論を左右することを、本件は改めて示しています。【私見】
4. 実務への示唆 ―― 「自社に組合員がいない」企業が巻き込まれたとき
本件で最も実務的な示唆は、争議の矛先が「組合員の雇用主」ではなく「取引先」に向けられた点にあります。荷主、元請、共同販売事業を担う協同組合といった立場の企業は、自社に組合員が一人もいなくても、産業別労働組合の争議に巻き込まれることがあります。そのとき最初に整理すべきは、自社が労働組合法7条の使用者に当たるかという問いです。自社が組合員の労働条件を現実的かつ具体的に支配・決定する地位にないのであれば、要求事項が自社との関係で団交事項になることはなく、自社の拠点で行われる実力行使は争議行為としての保護を受けません。他方、下請や派遣の構造によっては使用者性が肯定される場合もあり、この判断は事案ごとに慎重を要します。【私見】

次に、態様の記録です。本件で高裁が原告の「平和的説得」主張を退けた根拠は動画等でした。現場で何が起きたかを時系列で記録し、映像・写真・報告書として保全しておくことは、仮処分の申立て、損害賠償請求、刑事告訴のいずれにおいても不可欠です。本件の被告は加盟社の全工場を対象に仮処分を申し立て、セメント販売会社等の申立ては認容されています。業務妨害が続く局面では、仮処分による差止めが最も即効性のある法的手段となります。

第3に、対応の一本化です。本件で協同組合が加盟社に対して個別接触・交渉を控えるよう求めた措置は、違法ストを前提として、団体交渉を一律に禁止するものではなく交渉窓口を一本化する合理的方針と評価されました。ただし、この評価は本件の事実関係を前提とするものです。加盟社自身が組合員を雇用しており、その加盟社に対する正当な団交申入れまで拒否させる内容であれば、団交拒否(労働組合法7条2号)や支配介入(同条3号)の問題が生じ得ます。窓口の一本化は、「誰が使用者か」「何が団交事項か」の整理を前提に設計する必要があります。【私見】

最後に業際の問題です。仮処分・損害賠償・刑事告訴といった法的措置の実施主体は弁護士であり、争議対応の中核は弁護士に委ねるべき領域です。当法人がご支援できるのは、平時における労働条件・労使関係の整理、団交申入れを受けた際の初動整理、記録体制の整備、そして弁護士と連携した全体設計の部分です。この線引きを曖昧にしないことが、結果として会社を守ることになります。
✓ 争議に直面したときの整理項目
@自社は組合員の雇用主か。雇用主でない場合、労働条件を現実的・具体的に支配決定する地位にあるか(朝日放送事件基準)。A要求事項は自社との関係で団交事項か、それとも取引先間の契約条件か。B現場の態様は平和的説得の範囲内か、車両の停止・立入妨害・恫喝など実力行使を伴うか。映像・写真・時系列記録は保全されているか。C業務妨害が継続する場合、仮処分申立ての要否を弁護士と即時に検討しているか。D対応窓口を一本化する場合、加盟社・グループ会社に対する正当な団交申入れまで遮断する内容になっていないか。E従業員への説明と安全確保(従業員が恫喝や実力行使の対象になった場合の対応)は整っているか。
まとめ
本判決は、争議行為の正当性を「誰に対して」「何を求めて」「どのような方法で」という三つの軸で審査し、組合員のいない取引先を対象に、取引先間の契約条件を要求事項として、実力行使を伴う方法で行われた本件ストについて、そのいずれの軸でも正当性を否定しました。そして違法ストを前提とすれば、交渉窓口の一本化という使用者側の防御的対応は不法行為に当たらないと整理しています。

実際にストライキに直面した使用者側は、対応に慣れていないため、どこまでが正当な争議行為として受忍しなければならないのか、どこからが違法な行為として対抗できるのか、判断に迷うことが多いと思われます。本件のような大規模な実力行使の事案とそれに対する裁判所の判断を知っておくことは、いざという時に冷静に線を引くための出発点になります。
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【根拠法令・出典】

・労働組合法1条2項(刑事免責と暴力行使の除外)、7条(不当労働行為・使用者)、8条(損害賠償・民事免責)
・生コン協同組合ほか事件(大阪高裁令和7年1月23日判決、原審・大阪地裁令和5年11月22日判決)労働判例1351号35頁(原審46頁)※当事者名は本稿では伏せています
・朝日放送事件(最高裁平成7年2月28日判決)
・山陽電気軌道事件(最高裁昭和53年11月15日判決)
・御國ハイヤー事件(最高裁平成4年10月2日判決)
・本件被告協同組合およびセメント会社7社に関する不当労働行為再審査事件(中労委平成26年12月3日命令)厚生労働省・労働委員会命令データベース
 https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/mei/m11436.html
・産労総合研究所「労働判例」1351号目次(判例集掲載の確認)
 https://www.sanro.co.jp/book/b10171382.html
・参考:杜若経営法律事務所 弁護士岡正俊「労務ネットニュース Vol.147」(令和8年8月発行)

【免責事項】

本記事は2026年8月31日時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な対応については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。なお、争議対応における仮処分・損害賠償請求・刑事告訴等の法的措置および紛争性のある事案の交渉代理は弁護士の業務領域であり、当法人は弁護士とも連携しながら適法な範囲でご支援いたします。


この記事を書いた人
三重 英則
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。解雇・雇止め、団体交渉対応、IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンスなど高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」伴走型の支援を提供している。