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作成日:2026/09/03
【裁判例】「施設に入所したから介護休業は終わり」は違法 ― ファーストリテイリング事件(東京地判 令和7年9月12日)/介護休業の延長制限と自然退職扱いの効力
最新労働裁判例の解説
「施設に入所したから介護休業は終わり」は違法
― ファーストリテイリング事件(東京地判 令和7年9月12日)/介護休業の延長制限と自然退職扱いの効力
2026年9月3日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

📌 この記事のポイント

  • 東京地裁は、対象家族が介護施設に入所しても「介護の必要性」は失われないと判断しました
  • 会社が施設入所を理由に介護休業の延長を認めない旨を通知した行為は、休業を違法に妨げる不法行為等とされ、慰謝料20万円の支払いが命じられました
  • 報道要旨によれば、裁判所はそもそも休職が発令されていなかった点にも言及しており、私傷病休職期間の満了を前提とする自然退職扱いは成り立たないと判断されたものとみられます
  • 育児・介護休業法施行規則が定める介護休業の終了事由に「対象家族の施設入所」は含まれていません。就業規則に独自の終了事由を書き込んでいないか、点検が必要です
  • 本記事は労働新聞社の判例データベース掲載記事に基づく再構成です。判決全文・事件番号・確定の有無は確認できていません

本記事の信頼度:72%(ファクトチェック実施済み)

事案の概要・判旨の骨格・認容内容(労働契約上の地位の存続、慰謝料20万円)は、労働判例の専門出版社である労働新聞社の判例データベース掲載記事により確認しています。ただし判決全文および事件番号は確認できておらず、裁判所ウェブサイトの裁判例検索でも本件の登録を確認できませんでした。控訴の有無・確定の有無も不明です。確認できない点は「不明」と明示しています。実務への示唆は筆者の見解であり【私見】と表示しています。

はじめに ― 「施設に入ったのだから、もう介護休業は要らないでしょう」

介護休業のご相談で、人事のご担当者から必ずと言ってよいほど出てくるのが、この一言です。

「親御さんが特養に入所できたそうです。もう身の回りの世話をする必要はないですよね。だったら介護休業はもう終わりでいいのでは」

一見、筋が通っているように聞こえます。介護休業は「介護のための休業」なのだから、介護の実作業がなくなれば休業の理由も消える――という理屈です。

しかしこの理屈を、東京地裁は正面から否定しました。本日取り上げるファーストリテイリング事件(東京地判 令和7年9月12日)です。

2025年4月・10月と段階的に施行された改正育児・介護休業法により、介護離職防止の措置義務が大きく強化されたいま、企業が最も踏みやすい地雷を具体的に示した事案として、押さえておく価値は高いと考えます。

1.事案の背景

【事実】 労働新聞社の判例データベース掲載記事によれば、事案の骨格は次のとおりです。

時期 できごと
2017年 原告が被告会社(株式会社ファーストリテイリング)に「ナショナル社員」として雇用される
在職中 私傷病により複数回にわたって休職を経験
2024年6月 父親の介護のため介護休業を取得
休業期間中 父親が介護施設に入所。会社は「介護環境が安定し介護の必要性が解消された」として延長申請を認めない旨を通知
その後 原告は休業を申請しないまま欠勤となる
2025年3月 会社が原告を自然退職扱いとする
提訴 原告が労働契約上の地位の確認等を求めて提訴

【推測】 原告は私傷病休職を経ており、そのうえで介護休業に入っています。休職期間の満了と介護休業の終了が近接した時期に重なったことが、「復職できないまま自然退職」という結末につながったものと推測されます。ただし、就業規則上の自然退職条項と介護休業の終了とが具体的にどう連動していたのかは、確認できた資料からは判然としません。

2.争点 ― 「介護の必要性」は施設入所で消えるのか

争点@:対象家族が介護施設に入所した場合、介護休業の要件は失われるか

【事実】 育児・介護休業法上の「要介護状態」とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態を指します(厚生労働省「仕事と介護の両立」)。施設に入所し専門職による常時のケアが提供される以上、労働者本人が介護を担う必要はなくなった――というのが会社側の理解だったと考えられます。

争点A:会社が延長を認めなかったこと自体が違法か

【事実】 育児・介護休業法は、介護休業の申出を拒むことを原則として禁じており、休業の申出・取得を理由とする不利益取扱いも禁止しています。会社の通知が、この法の構造に照らしてどう評価されるかが問われました。

争点B:自然退職扱いの前提は整っていたか

【事実】 労働新聞社の判例要旨によれば、本件では原告が休業を申請しないまま欠勤となったものの、会社は休職を発令していなかったとされています。私傷病休職の期間満了を根拠とする自然退職扱いは、その前提となる休職発令があってはじめて成り立つため、この点も判断対象となったものと理解できます。

3.東京地裁の判断

【事実】 東京地裁は原告の主張を認め、労働契約が存続していることを認めたうえで、会社に慰謝料20万円の支払いを命じました。

(1) 施設入所しても、介護の必要性は失われない

裁判所は、対象家族が介護施設に入所したとしても、介護の必要性が失われるわけではないと判示しました。

これは実務感覚としても納得のいく判断です。施設入所は「介護の終わり」ではありません。入所の手続、費用負担の調整、ケアプランの確認、面会、体調急変時の対応、医療機関との連携、そして施設との相性が合わなかった場合の再調整――施設に入っても、家族が担うべき役割は数多く残ります。

(2) 介護休業は「介助作業をするための休み」ではない

【事実】 介護休業が「対象家族1人につき通算93日」という、実際の介護期間としては明らかに短い日数に設定されているのは、労働者自身が93日で介護を終えることを想定しているからではありません。93日の間に、介護保険サービスの申請・ケアマネジャーとの調整・施設の選定といった「体制構築」を行い、その後は働きながら介護を続けられる状態をつくることが制度の狙いです。

【私見】 つまり、施設入所は介護休業の目的の「達成」ではなく、体制構築のプロセスの一部です。入所直後こそ、手続や環境調整で最も手がかかる時期でもあります。会社の「施設に入ったから休業は不要」という理解は、制度趣旨を正反対に読み違えたものだったことになります。

(3) 会社の通知は「休業を違法に妨げる」不法行為

【事実】 そのうえで裁判所は、会社が施設入所を理由に延長が認められない旨を通知したことを、休業を違法に妨げる行為と評価し、不法行為等の成立を認めました。慰謝料20万円は、この違法な妨害に対する損害賠償です。

(4) そもそも休職が発令されていなかった

【事実】 ここが実務上とりわけ重要な点です。労働新聞社の判例要旨によれば、裁判所は、原告が休業を申請しないまま欠勤となったものの休職は発令されておらず、仮に発令されたとしても……と論を進めています。

自然退職条項は「休職期間が満了したこと」を要件とするのが通常です。その前提となる休職発令という会社の意思表示が存在しなければ、休職期間の満了もあり得ず、自然退職の効果も生じません

【推測】 本件の自然退職扱いが覆った理由は、介護休業の妨害という違法性だけでなく、この「手続の前提を欠いていた」という、より基礎的な瑕疵にもあった可能性が高いと考えられます(判決文の論理構成そのものは確認できていません)。

4.確認できなかった点(正直に記します)

本記事の作成にあたり、以下の点は確認できませんでした。この限界を前提にお読みください。

  1. 事件番号および判決全文。裁判所ウェブサイトの裁判例検索において本件の登録を確認できず、判旨の直接引用はできていません。本記事の判旨部分は判例解説記事に基づく再構成です。
  2. 控訴の有無・判決の確定状況。本件が確定しているかは不明です。地裁段階の一事例であり、上級審で判断が変わる可能性は排除できません。
  3. 「延長」の法的性質。介護休業は対象家族1人につき通算93日・3回まで分割が上限です。本件の「延長申請」が、@93日の枠内での再度の申出だったのか、A会社独自の法定超えの休業制度に基づくものだったのか、B私傷病休職期間の延長と重なる問題だったのか――この区別は判決の射程を測るうえで重要であり、実務判断にあたっては判決全文(労働判例誌への掲載が見込まれます)の確認をお勧めします。
  4. 私傷病休職と介護休業の期間の具体的な内訳、原告の職種・勤務地等の詳細。
  5. 原告が求めた請求額の全体像(慰謝料20万円は認容額であり、請求額は不明です)。

5.実務への示唆

(1)「施設に入ったから休業は終わり」という運用は、そのまま違法リスクになる

【事実】 本判決が最も明確に否定したのはこの運用です。介護休業の期間中に対象家族が施設入所したという事実だけを理由に、休業の終了・延長不承認・復職命令を行うことは、少なくとも本判決の枠組みでは違法と評価され得ます。

【私見】 人事のご担当者から「施設に入ったのだから」と言われたら、まず「入所の手続や環境調整はもう終わっていますか」と確認すべきです。入所は介護のゴールではなく、多くの場合は最も慌ただしい局面の入口です。

(2) 就業規則の「介護休業の終了事由」を点検する

【事実】 育児・介護休業法施行規則は、介護休業の終了事由として「対象家族の死亡」「離婚・婚姻の取消し・離縁等による親族関係の消滅」などを定めていますが、「対象家族の施設入所」は終了事由として掲げられていません

【私見】 ところが実務では、就業規則や社内マニュアルに「対象家族が入院・入所したときは介護休業を終了する」といった独自の終了事由を書き込んでいる例が散見されます。これは法定基準を下回る定めであり、本判決を踏まえれば紛争の火種になります。

(3) 私傷病休職と介護休業が重なる局面を、あらかじめ設計しておく

【私見】 中高年層では、自身の健康問題と親の介護が同時期に押し寄せることは珍しくありません。にもかかわらず、多くの就業規則は「私傷病休職」と「介護休業」を別々の条文で規律したまま、両者が重なったときの処理を定めていません。最低限、次の点は明文化しておくべきです。

  • 私傷病休職期間中に介護休業の申出があった場合の取扱い(休職の中断・通算の可否)
  • 介護休業の終了後、直ちに復職できない場合の手順(復職判定のプロセス)
  • 休職を発令する場合は、必ず書面で発令日・期間・満了日を明示すること(本判決で問題となった「休職未発令」のまま自然退職扱いに進むことを防ぐため)
  • 自然退職条項を適用する前に、必ず個別面談と書面での意思確認を行うこと

(4) 2025年施行の改正育介法との接続を意識する

【事実】 2025年4月1日施行の改正育児・介護休業法により、介護に直面した旨の申出をした労働者への個別周知・意向確認40歳到達時等の早期の情報提供雇用環境の整備(介護休業に関する研修・相談体制の整備等のうちいずれかの措置)が事業主の義務となりました。あわせて介護休暇の取得要件が緩和され(勤続6か月未満を労使協定で除外できなくなる)、介護のためのテレワーク導入が努力義務化されています。

【私見】 本件の会社の対応は、この「個別周知・意向確認」の趣旨とも整合しません。改正法は、労働者が介護休業等を「使える」状態にすることを事業主に求めています。にもかかわらず、実際の申出局面で「施設に入ったから不要でしょう」と会社側の判断で打ち切ってしまえば、法が整備を求めた仕組みは空洞化します。

介護休業の要件充足を判断する主体は、会社ではありません。要介護状態にある対象家族を介護するために休業を申し出た労働者に対し、事業主は原則として申出を拒めないというのが法の建て付けです。会社が独自に「介護の必要性」を評価して門前払いすることは、制度の設計そのものに反します。

(5) 慰謝料20万円という金額をどう読むか

【私見】 20万円という金額だけを見れば、企業にとって大きな負担ではないように映るかもしれません。しかし本件で企業が実際に負ったコストは、慰謝料ではありません。労働契約が存続していると認められたことにより、自然退職扱いとした時点以降の賃金支払義務が復活することこそが、経済的にははるかに重い帰結です(認容された賃金相当額の具体的な数額は確認できていません)。「20万円で済んだ事案」ではなく、「自然退職扱いが覆った事案」として読むべきです。

6.まとめ

  1. 対象家族が介護施設に入所しても、介護の必要性は失われない。
  2. 介護休業は「介助作業のための休み」ではなく、「仕事と介護を両立する体制を整えるための期間」である。
  3. 施設入所を理由に休業の延長を認めない通知は、休業を違法に妨げる不法行為となり得る。
  4. 自然退職扱いは、休職の発令という前提手続がなければ成り立たない。

介護離職の防止は、いまや国の労働政策の中心的な課題の一つです。制度は整備されました。次に問われるのは、その制度を現場の管理職・人事担当者が正しく理解しているかです。本判決は、その理解が一歩ずれただけで自然退職扱いが覆り、損害賠償に至ることを具体的に示しました。就業規則と運用実態を、この機会にぜひ点検してください。

介護休業・休職制度の設計と運用は当法人へ

社会保険労務士法人T&M Nagoyaでは、介護休業・私傷病休職の規程整備から、休職発令・復職判定・自然退職条項の運用フロー構築、実際に生じた紛争への対応まで、経営者に伴走して支援しています。「うちの規程は大丈夫か」という段階でのご相談こそ、最も効果的です。

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根拠法令・出典
・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)11条〜15条、同法施行規則
・民法709条(不法行為による損害賠償)
・労働新聞社「ファーストリテイリング事件(東京地判令7・9・12)私傷病休職に介護重なる、復職できず退職扱い 介護休業の延長制限は違法」
 https://www.rodo.co.jp/precedent/222965/
・労働新聞社「労働判例(休職)」一覧(本件の掲載を確認)
 https://www.rodo.co.jp/precedent/precedent_tag/%E4%BC%91%E8%81%B7/
・厚生労働省「仕事と介護の両立 〜介護離職を防ぐために〜 よくあるお問い合わせ(労働者の方へ)」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/otoiawase_roudousya.html
・厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(2025年4月1日・10月1日施行分)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

※判決の書誌情報:東京地方裁判所 令和7年9月12日判決。事件番号は現時点で確認できていません。判決全文は未確認であり、労働判例誌への掲載が確認でき次第、改めて検証することをお勧めします。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。本件は地方裁判所の一事例であり、控訴の有無・確定状況は確認できていません。介護休業の取扱いは、就業規則の定めや個別の事情により結論が変わり得ます。実際のご対応にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号:第160175号