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作成日:2026/07/30
【裁判例】同じ働き方なのに「労働者」になったり、ならなかったり? ― ワットラインサービス事件が示す二つの「労働者」概念
裁判例解説

同じ働き方なのに「労働者」になったり、ならなかったり?
― ワットラインサービス事件が示す二つの「労働者」概念


労契法上の労働者性は否定(東京地判令和6年10月21日)/労組法上の労働者性は肯定(東京高判令和6年11月6日)

2026年7月30日|社会保険労務士法人T&M Nagoya

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

「業務委託や請負で働いてもらっている個人事業主は、労働者ではないから労働法とは無関係」――そう考えていると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。

今回ご紹介するのは、電気メーターの取付・交換工事を個人で請け負っていた作業者らをめぐり、労働契約法上の「労働者」には当たらないとされる一方で、労働組合法上の「労働者」には当たるとされた、同じ会社を舞台とする二つの裁判例です。「労働者性」という言葉が、法律によって異なる広がりを持つことを、これほど分かりやすく示す事案は多くありません。

📌 この記事の要点

・電気メーター工事を個人で請け負う作業者らの契約更新拒絶をめぐり、東京地裁(令和6年10月21日判決)は労働契約法上の労働者性を否定し、地位確認請求を認めませんでした。
・他方、同じ会社の個人作業者について、東京高裁(令和6年11月6日判決)は労働組合法上の労働者性を肯定し、団体交渉拒否を不当労働行為とした労働委員会命令を維持しました。
・労契法上の「労働者」と労組法上の「労働者」は範囲が異なり、労組法上の労働者の方が広く解されています。
・「雇用契約ではないから団体交渉に応じる義務はない」という判断は危険です。業務委託・請負を活用する企業は、契約設計と労使対応の両面での点検が求められます。

1. 事案の概要 ― 個人請負の計器工事作業者と契約更新拒絶

労働新聞社の判例解説記事によれば、事案の概要は次のとおりです。

作業者らは、会社との契約により、個人で電気メーターの取付・据付および交換工事(計器工事)に従事し、労働組合に所属していました。会社は、発注元から一定期間分の計器工事を競争入札で受注しており、受注地域や工事数は年度により変動していました。会社は作業者らと個別面談を行って年間の割当工事数を提示し、作業者らは会社が提示した契約書に署名捺印して、担当地域や年間割当工事数について合意していました。

作業者らが従事する計器工事の内容は、契約書において仕様書のとおりとされ、会社が作成した「作業手順」に従うことが求められ、主要な手順の完了を確認する「チェック表」の携行も求められていました。他方、契約には作業日や稼働時間の定めはなく、会社は作業者らの稼働時間を管理していませんでした

作業者らは、会社が労働組合攻撃のために令和2年度の割当工事数を減少させ、令和3年2月に各契約の更新を拒絶したと主張して、労働契約上の地位の確認、更新拒絶後の月額賃金、割当工事数の不当な減少分についての損害賠償等を求めて提訴しました(民事訴訟)。

これと並行して、作業者らが加盟する労働組合は、会社が団体交渉の申入れに応じなかったこと等について労働委員会に不当労働行為救済命令を申し立てており、救済命令を不服とする会社が命令の取消しを求めた行政訴訟が別途進行していました。今回の東京高裁判決は、その控訴審にあたります。

2. 二つの判決の結論 ― 対比してみる

同じ会社・同じ就労実態をめぐる二つの判決の結論を、表で対比します。

項目 民事訴訟(地位確認等) 行政訴訟(労委命令の取消し)
判決 ワットラインサービス事件
東京地判令和6年10月21日
国・中労委(ワットラインサービス)事件
東京高判令和6年11月6日
問われた労働者性 労働契約法上の労働者か 労働組合法上の労働者か
結論 否定(労働契約上の地位確認等は認められず) 肯定(団交拒否を不当労働行為とした命令を維持)
判断の主な着眼点 契約書・仕様書による業務内容の明確な特定、指揮命令の余地、時間・場所的拘束の性質、報酬(請負金)の労務対償性 事業組織への組入れ(副業可能でも、多くは会社からの報酬等で生計を立てていたと推認)等

一見すると矛盾しているように見えますが、これは裁判所の判断のブレではなく、労契法と労組法とで「労働者」の範囲がそもそも異なることによるものです。以下、それぞれの判決を見ていきます。

3. 東京地裁判決 ― 労契法上の労働者性を否定した理由

東京地裁は、作業者らが労働契約法上の労働者に当たるとは認められないと判断しました。労働新聞社の解説記事によれば、判断の柱は次の点にあります。

▼ 東京地裁が労働者性を否定した主な理由

@ 請負業務の内容が契約書とこれと一体の仕様書で明確に定められており、発注者の指揮命令が入る余地がなかったこと
A 時間的・場所的な拘束があるとしても、それは工事の性質によるものであること(契約に作業日・稼働時間の定めはなく、会社は稼働時間を管理していない)
B 報酬が工事完了数に応じて設定され、請負契約と評価される支払方法であったこと(「請負金」の労務対償性を否定)

労契法上の労働者(労契法2条1項)は「使用されて労働し、賃金を支払われる者」であり、労基法上の労働者と基本的に同一と解されています。その判断にあたっては、昭和60年の労働基準法研究会報告が示した「指揮監督下の労働」か否か、報酬の労務対償性等の判断要素が実務上参照されることがあります。解説記事も、本判決は同報告の考え方(包括的な仕事の依頼を受諾した場合に個々の依頼を拒否しにくいことだけから直ちに指揮監督関係を肯定することはできず、契約内容等も勘案する必要がある、という指摘)を考慮した判断ともいえる、と評しています。

本件では、業務の中身が契約書・仕様書のレベルで具体的に確定しており、その都度の指揮命令がなくても業務が遂行できる建付けになっていたこと、そして実際の運用もそれに沿っていたことが、労働者性の否定につながったと整理できます。

4. 東京高裁判決 ― 労組法上の労働者性を肯定した理由

他方の行政訴訟では、個人作業者らが加盟する労働組合との団体交渉を、会社が「労働契約を締結している従業員ではない」として拒否し続けたことが不当労働行為(労組法7条2号)に当たるかが争われました。労働委員会は団交拒否を不当労働行為と判断し、会社がその取消しを求めましたが、一審・東京地裁に続き、控訴審の東京高裁も個人作業者の労組法上の労働者性を肯定し、会社側の主張を退けました。

労働新聞社の解説記事によれば、控訴審では次の点が特徴的です。

▼ 東京高裁判決のポイント

@ 事業組織への組入れに関して、個人作業者は副業・兼業が可能であったものの、その多くは会社からの報酬等で生計を立てていたと推認されること
A 会社と請負契約を結んだ別法人(委託法人)側の作業者も働いていたが、委託法人が事業組織に組み入れられているかどうかは、個人作業者の判断に影響しないとされたこと
B 新国立劇場運営財団事件(最三小判平成23年4月12日)等の最高裁判例に沿った判断基準を提示したうえで、あてはめを行い、労働者性を肯定したこと
C 労組法上の要件を満たす組合か否か(法適合組合性)の問題は、労働委員会の救済命令の取消事由にはならないことが改めて確認されたこと

労組法上の労働者性については、最高裁判例を通じて、@事業組織への組入れ、A契約内容の一方的・定型的決定、B報酬の労務対価性を基本的な要素とし、C業務依頼に対する諾否の自由、D指揮監督・時間的場所的拘束の有無を補完的に考慮し、E顕著な事業者性が認められる場合には労働者性を否定しうる、という判断枠組みが確立しています。解説記事も、本判決は各要素を「就業実態に応じて」判断するものであり、副業が可能であることや委託法人との比較といった会社側の反論が、本件では労働者性を否定する材料には至らなかった点が実務上の参考になる、と指摘しています。

5. なぜ結論が分かれるのか ― 二つの「労働者」概念

労契法・労基法上の「労働者」は、指揮監督下の労働と報酬の労務対償性を中核とする「使用従属性」で判断されます。解雇規制や残業代など、使用者への強い義務づけを伴うため、その範囲は相対的に絞られます。

これに対し労組法上の「労働者」(労組法3条)は、団体交渉という交渉力格差を是正するための保護を及ぼすべき者かという観点から判断され、形式上は業務委託・請負であっても、事業組織に組み込まれ、契約内容が一方的に決定され、報酬が労務の対価としての性格を持つ場合には、労働者性が肯定されやすくなります。つまり、労組法上の労働者は、労契法上の労働者よりも広い概念です。

本事案は、この「広い・狭い」の関係が同じ会社・同じ働き方について現実に現れた事例です。形式上は労働契約上の労働者でなくとも、労組法上は労働者であると判断される事案は少なくないと解説記事でも指摘されており、コンビニエンスストアの店長の労働者性について労働委員会の間でも判断が分かれた事案があることにも触れられています。

6. 実務への示唆 ― 業務委託・請負を活用する企業の点検ポイント

本事案から、業務委託・請負契約を活用する企業が押さえておくべきポイントを整理します。

✅ CHECK POINT

@ 契約設計は「その都度の指揮命令が要らない」レベルまで具体化する
解説記事も指摘するとおり、委任・準委任・請負契約を締結する場合には、発注内容を具体的かつ明確にし、その都度の指揮命令がなくとも業務を遂行できるよう契約内容を明確にすることが求められます。仕様書・作業手順書の整備は、本判決で労働者性否定の決め手の一つとなりました。

A 契約どおりの運用を徹底する
契約書がどれほど精緻でも、実態として日常的な指揮命令や時間管理が行われていれば、労働者性が肯定される方向に働きます。契約に沿った業務遂行ができていることも必要です。

B 「雇用でない=団交拒否できる」ではない
労契法上の労働者性が否定される働き方であっても、労組法上の労働者性は別に判断されます。個人事業主が加入する労働組合から団体交渉の申入れがあった場合、「従業員ではない」という理由だけで応じないと、本件のように不当労働行為と判断されるリスクがあります。

C 副業可能・他社作業者の存在は決定打にならない
本件控訴審では、副業・兼業が可能であることや、別法人経由の作業者が混在していることは、労組法上の労働者性を否定する材料には至りませんでした。生計の実態(主たる収入源かどうか)まで含めて見られる点に注意が必要です。

なお、フリーランス・個人事業主の活用をめぐっては、労働者性の問題に加えて、取引適正化に関する法規制への対応も求められる時代になっています。契約書の整備、運用実態の点検、そして労働組合対応を含む紛争局面の初動は、いずれも「起きてから」では選択肢が大きく狭まります。個別の労使紛争への対応については労働紛争解決サービスを、労働者性の判断を含む難易度の高い労務課題への継続的な備えについては高難度業務対応型顧問をご参照ください。

🔎 本記事の確信度について

本記事は、労働新聞社の判例解説記事2本(ワットラインサービス事件・東京地判令和6年10月21日/国・中労委(ワットラインサービス)事件・東京高判令和6年11月6日)を主たる情報源とし、東京都労働委員会の公表資料等で関連事件の存在を確認のうえ執筆しています【解説ベース】。判決原文は参照できていないため、判旨の詳細な表現は解説記事に依拠しています。労組法上の労働者性の判断枠組み(6要素)は、最高裁判例により確立された一般的な整理です【確認済み】。実際の事案への適用にあたっては、必ず判決原文および専門家の助言をご確認ください。

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【根拠法令・裁判例】
・労働契約法2条1項(労働者の定義)
・労働組合法3条(労働者の定義)、7条2号(団体交渉拒否の不当労働行為)
・ワットラインサービス事件(東京地判令和6年10月21日・労働経済判例速報2570号35頁)
・国・中労委(ワットラインサービス)事件(東京高判令和6年11月6日)
・新国立劇場運営財団事件(最三小判平成23年4月12日)

【出典・参考資料】
・労働新聞社「ワットラインサービス事件(東京地判令6・10・21)」(令和7年12月8日第3524号14面掲載)
・労働新聞社「国・中労委(ワットラインサービス)事件(東京高判令6・11・6)」(令和7年6月16日第3501号14面掲載)
・東京都労働委員会 命令書交付のお知らせ(ワットラインサービス関連事件) https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/07/2025071705
・厚生労働省「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」 https://www.mhlw.go.jp/content/001462701.pdf

【免責事項】
本記事は執筆時点で確認できた公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。労働者性の判断は事実関係により結論が異なりうるため、具体的な対応にあたっては弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
WRITTEN BY
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)