トップ
事務所案内
お問合せ
労務コンテンツ一覧
サービス案内
人事労務ニュース
リーフレット
リンク先
IPO労務監査・改善
M&A労務監査
労働問題解決
高難度業務対応
就業規則作成・改定
給与監査顧問
給与計算代行
手続代行・手続監査
裁判例紹介・ブログ
作成日:2026/07/28
【裁判例】ハマキョウレックス事件(最二小判平成30年6月1日)― 労働契約法20条の解釈を最高裁が初めて示した“同一労働同一賃金の原点”
判例解説 同一労働同一賃金 最高裁5判決シリーズ
ハマキョウレックス事件(最二小判平成30年6月1日)― 「手当ごとに趣旨を問う」実務はここから始まった
労働契約法20条の解釈を最高裁が初めて示した“同一労働同一賃金の原点”
6つの手当のうち5つが「不合理」、住宅手当だけが「不合理でない」―― 結論を分けたのは、手当の“趣旨”でした
2026年7月28日 / 社会保険労務士法人T&M Nagoya
おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

令和8年(2026年)10月1日、同一労働同一賃金ガイドラインの改正(令和8年厚生労働省告示第203号による改正)をはじめとする「施行5年後見直し」が施行・適用されます。当法人ではこれまで、ガイドライン改正の全体像と、令和2年10月の最高裁3判決(日本郵便・メトロコマース・大阪医科薬科大学)を解説してきました。今回はその原点に立ち返ります。

旧労働契約法20条の解釈を最高裁が初めて示したハマキョウレックス事件(最高裁第二小法廷 平成30年6月1日判決)です。条文が労契法20条からパート・有期法8条へ移った今も、「手当ごとに趣旨を問う」という実務の基本動作はこの一件から始まっており、賃金規程の点検を担うすべての企業にとって立ち返るべき出発点です。
📌 この記事の要点
@ 正社員と職務内容が同じ契約社員トラック運転手への手当不支給について、最高裁は無事故手当・作業手当・給食手当・通勤手当・皆勤手当の5つを「不合理」、住宅手当のみ「不合理でない」と判断。
A 労契法20条は私法上の効力を持つが、違反しても契約社員の労働条件が正社員と同一になる「補充効」は否定。救済は差額相当額の損害賠償が基本ルートに。
B 不合理性は賃金総額の比較ではなく「賃金項目ごと・趣旨ごと」に判断する――現在のパート・有期法8条と改正ガイドラインに受け継がれた判断枠組みがここで確立。
C 令和8年10月1日施行の改正ガイドライン対応の第一歩は、本判決型の「手当の趣旨の棚卸し」。「昔からあるが趣旨を誰も説明できない手当」が最大のリスク。
1. 事案の背景 ― 何が起きたのか
被告は、全国に事業所を展開する物流会社(株式会社ハマキョウレックス)。原告は、滋賀県の彦根支店でトラック運転手として勤務する契約社員(有期雇用)でした。

原告の担当する配送業務の内容は、同じ支店の正社員トラック運転手と基本的に同一。ところが、正社員に支給される手当のうち、契約社員には支給されないものが複数ありました。上告審で判断の対象となったのは、次の6つの手当です。
【争われた6つの手当】
❶ 無事故手当 ❷ 作業手当 ❸ 給食手当 ❹ 住宅手当 ❺ 皆勤手当 ❻ 通勤手当
原告は、職務の内容が同一であるにもかかわらずこれらの手当に相違を設けることは、有期契約労働者と無期契約労働者の不合理な労働条件の相違を禁止する旧労働契約法20条(平成25年4月1日施行。現在のパート・有期法8条の前身)に違反すると主張し、正社員と同一の権利を有する地位の確認と、差額賃金・損害賠償の支払を求めました。
2. 争点 ― 3つの論点
本件の争点は、大きく次の3つに整理できます。

第1に、労契法20条の効力。同条に違反した場合、契約社員の労働条件は正社員と同一になるのか(いわゆる「補充効」の有無)。

第2に、「期間の定めがあることにより」の意味。どのような相違が同条の規制対象となるのか。

第3に、不合理性の判断方法。賃金総額で比較するのか、それとも手当ごとに判断するのか。そして、6つの手当それぞれの相違は不合理か。
3. 下級審の判断 ― 審級が上がるごとに「不合理」の範囲が広がった
一審(大津地裁彦根支部 平成27年9月16日判決)は、6手当のうち通勤手当の相違のみを不合理と認めました。

二審(大阪高裁 平成28年7月26日判決)は、これに加えて無事故手当・作業手当・給食手当の相違も不合理と判断し、一審を一部変更して会社に損害賠償の支払を命じました。他方、皆勤手当と住宅手当については不合理とはいえないとしました。

なお、正社員と同一の地位の確認請求(補充効を前提とする請求)は、一審・二審とも認めていません。

※下級審の認容範囲の細部は、判決文の引用を含む複数の専門解説(弁護士事務所・専門機関)に基づく整理です。手当ごとの認容範囲・金額の詳細は判決原文でご確認ください。
4. 最高裁の判断 ― 4つの重要判示
最高裁第二小法廷(平成28年(受)第2099号・第2100号)は平成30年6月1日、会社側の上告を棄却する一方、皆勤手当に関する部分について原判決を破棄しました。判示のポイントは次の4点です。
判示@ 労契法20条は私法上の効力を持つ ― ただし「補充効」はない
同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となり、不法行為に基づく損害賠償による救済の対象となります。しかし、違反したからといって契約社員の労働条件が当然に正社員と同一になるわけではない(補充効の否定)と明示しました。正社員用と契約社員用の就業規則が別個独立に作成されている以上、正社員就業規則を契約社員に適用する解釈も困難としています。救済の基本ルートが「差額相当額の損害賠償」に定まったのは、この判示によります。
判示A 「期間の定めがあることにより」=期間の定めの有無に「関連して」生じた相違
期間の定めを「理由として」いることまでは不要で、労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであれば足りるとしました。正社員と有期社員とで就業規則・賃金規程の体系が別建てになっている場合、その労働条件の相違は同条の規制対象になる、という広い入口を設定したものです。
判示B 不合理性は「手当ごと・趣旨ごと」に判断する
「不合理と認められるもの」とは、労働条件の相違が不合理であると評価することができるものをいうとしたうえで、個々の手当について、その趣旨を踏まえて不合理か否かを判断しました。現在のパート・有期法8条と同一労働同一賃金ガイドラインに受け継がれた判断枠組みが、ここで確立されました。
判示C 6手当の個別判断 ― 5つが不合理、住宅手当のみ不合理でない
二審で不合理とされた4手当(無事故・作業・給食・通勤)の判断を維持したうえで、二審が適法とした皆勤手当についても不合理と判断。支給要件の充足等を審理させるため、皆勤手当部分について原判決を破棄し大阪高裁に差し戻しました。住宅手当のみ、不合理でないとされました。
■ 6つの手当の判断と理由(最高裁)
手当 結論 最高裁が着目した手当の趣旨
無事故手当 不合理 安全運転・事故防止の必要性は、職務の内容が同じである以上、両者で異ならない
作業手当 不合理 特定の作業への金銭的評価であり、作業が同じなら雇用形態で異なる理由はない
給食手当 不合理 勤務時間中に食事をとる必要性は、雇用形態と無関係
通勤手当 不合理 通勤に要する費用は、契約期間の定めの有無によって変わらない
皆勤手当 不合理
(破棄・差戻し)
出勤する運転手を確保する必要性は、職務内容が同じなら異ならない。支給要件充足の審理のため大阪高裁に差戻し
住宅手当 不合理でない 正社員は転居を伴う配転が予定されており、住宅費用が多額となり得る
「手当の趣旨」から結論が分かれる――この対比こそが、本判決が実務に残した最大の教材です。
5. 実務への示唆 ― 令和8年10月1日の改正ガイドライン施行を前に
(1) 手当の「趣旨」を言語化する棚卸し
本判決以降、待遇差の適法性は「その手当は何のために払うのか」の説明可能性で決まります。賃金規程上のすべての手当について、支給趣旨・対象・金額根拠を一覧化する棚卸しが第一歩です。「昔からあるが趣旨を誰も説明できない手当」が最大のリスクです。

(2) 「総額で上回っているから大丈夫」は通用しない
判断は手当ごとです。基本給や賞与で優遇していても、通勤手当や給食手当のような生活関連・実費補償型の手当の不支給は、それ単体で不合理と評価され得ます。

(3) 令和8年10月1日施行の改正への接続
施行5年後見直しでは、雇入れ時に「待遇差の説明を求めることができる旨」の明示が義務化されるなど、説明義務の実効性強化が省令・告示レベルで手当てされます(2026年4月28日公布・令和8年10月1日施行)。ハマキョウレックス型の「手当ごとの趣旨説明」を、雇入れ時・求めがあった時に文書で行える体制を整えることが、見直し対応の中核になります。詳細は当法人のガイドライン改正解説記事をご参照ください。

(4) 是正の方法にも注意
不合理な相違を解消する際、正社員の手当を引き下げて“下方統一”する方法は、労働条件の不利益変更として別の紛争リスクを生みます(賃金など重要な労働条件の不利益変更への同意については、山梨県民信用組合事件〔最二小判平成28年2月19日〕が「自由な意思」に基づく同意と認めるに足りる合理的な理由の存在を求めています)。原資配分の再設計は計画的に進めるべきです。
✅ 自社チェックポイント(住宅手当の読み方に注意)
本判決で住宅手当が「不合理でない」とされた理由は、正社員に転居を伴う配転が予定されているという具体的な違いに支えられています。当法人の見解としては、転勤の実態がない・ほとんど運用されていない会社が「正社員は転勤があるから」と説明しても、実態を伴わなければ通らない可能性が高いと考えます(この点は事案ごとの評価であり、確定した判例法理ではありません)。なお、令和8年10月1日施行の改正ガイドラインでは住宅手当の項目が新設されており、「勝ちパターン」の安易な流用は一層危険になります。
6. まとめ ― 5判決シリーズの「原点」として
ハマキョウレックス事件は、@私法上の効力と補充効の否定、A「期間の定めの有無に関連して」という広い入口、B手当ごと・趣旨ごとの判断、という現在の同一労働同一賃金実務の三本柱を打ち立てた判決です。令和2年10月の3判決(日本郵便・メトロコマース・大阪医科薬科大学)も、令和8年10月1日施行の改正ガイドラインも、すべてこの判断枠組みの延長線上にあります。

同日に判決が言い渡された長澤運輸事件(定年後再雇用の文脈)とあわせてお読みいただくと、「同じ判断枠組みでも、事情が変われば結論が変わる」ことがよく分かります。
🔎 本記事の確認状況について
本件の事件番号(平成28年(受)第2099号・第2100号)・判決日・法廷(第二小法廷)は、同日の長澤運輸事件判決原文(裁判所ウェブサイト掲載)中の引用により一次確認しています。事案の骨子(彦根支店の契約社員運転手・6手当)、4つの判示内容、6手当の個別結論と皆勤手当部分の差戻しは、判決文の引用を含む複数の弁護士事務所・専門機関の解説で相互に確認しました。下級審の認容範囲の細部は二次情報に依拠しています。各手当の具体的な金額は資料間で記載に幅があったため、本記事では記載していません。改正ガイドラインとの接続に関する評価は当法人の見解として区別しています。
根拠法令・判例・出典
【法令・指針】
・労働契約法旧20条(平成25年4月1日施行、平成30年法律第71号による改正前)
・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)8条
・短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(平成30年厚生労働省告示第430号。令和8年厚生労働省告示第203号による改正、令和8年10月1日施行・適用)

【判例】
・ハマキョウレックス事件(最二小判平成30年6月1日・平成28年(受)第2099号、第2100号。一審:大津地裁彦根支部平成27年9月16日判決、二審:大阪高裁平成28年7月26日判決)
・長澤運輸事件(最二小判平成30年6月1日・平成29年(受)第442号)
・山梨県民信用組合事件(最二小判平成28年2月19日)

【一次情報源】
・裁判所ウェブサイト「裁判例検索」 https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html
・長澤運輸事件判決全文(ハマキョウレックス事件の事件番号引用を含む) https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-87785.pdf
・厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
貴社の手当、「何のために払うのか」を全部説明できますか? 当法人が、手当の趣旨の棚卸しから就業規則・賃金規程の改訂IPO労務監査まで一貫してサポートいたします。 無料相談のお申込みはこちら →
⚠ 免責事項
本記事は、公開された判例・法令・指針に基づく一般的な情報提供を目的とするものであり、個別具体的な法的助言を構成するものではありません。個別の事案への対応にあたっては、判決原文・改正告示の原文をご確認のうえ、弁護士・特定社会保険労務士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づく行動により生じた損害について、執筆者および当法人は一切の責任を負いません。
AUTHOR
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)
中小・中堅企業の経営者と並走し、IPO労務監査・M&A労務デューデリジェンス・就業規則整備・人事制度設計を含めた包括的な人事労務支援を提供。「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」を信条とする。

― 誠 / Think more / 伴走 ―