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作成日:2026/04/08
【緊急掲載】その36協定届、「とりあえず」で作っていませんか? ―記載内容の"思考停止"が招く重大リスク

労務管理 実務チェック
その36協定届、「とりあえず」で作っていませんか?
―記載内容の"思考停止"が招く重大リスク
2026.04.08|社会保険労務士法人T&M Nagoya
「36協定なんて、毎年同じ内容で出しておけばいいでしょ?」――そんな声を、顧問先企業様からしばしば耳にします。しかし、日々の顧問業務で36協定届を確認するなかで、記載内容を深く考えずに作成している企業が驚くほど多いというのが、私たちの率直な実感です。

36協定届(時間外労働・休日労働に関する協定届)は、単なる「届出書類」ではありません。法定労働時間を超えて働かせるための「免罰的効力」を得るための極めて重要な労使協定です。記載内容に不備があれば、協定そのものが無効となり、残業させていたすべての時間が「違法な時間外労働」となるリスクを孕んでいます。

今回は、実務の現場でよく見かける36協定届の「落とし穴」を整理し、経営者・人事担当者の皆様に改めて注意喚起したいと思います。
📌 この記事の要点
・36協定届の記載不備は、協定の無効=違法残業に直結する
・厚労省調査で約42%の事業場に違法な時間外労働が確認されている
・「具体的事由」「業務の種類」「過半数代表者の選出」が特に要注意
・特別条項の上限時間は「記載する枠」と「実際に働かせる時間」を区別して運用する
・年に一度の更新時こそ、記載内容を「考えて」作成するチャンス
1. なぜ今、36協定届の「記載内容」が問われるのか
厚生労働省が2025年7月に公表した「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果」によれば、監督指導を実施した26,512事業場のうち、11,230事業場(42.4%)で違法な時間外労働が確認されています。さらに、このうち月80時間を超える時間外・休日労働があった事業場は5,464(48.7%)にのぼります。

また、東京・上野労働基準監督署からは、「有効な36協定がないまま時間外・休日労働を行わせている事業場の増加」が報告されており、押印廃止や電子申請の普及に伴い、届出書と協定書の区別を正しく理解しないまま提出し、結果的に「協定書なし=協定未締結」の状態になっているケースが増えているとのことです。

36協定届は、労働基準監督署の定期監督において主要な調査項目の一つです。記載内容の不備は、単に「書類の書き直し」では済まず、是正勧告や書類送検につながるリスクがあることを、改めて認識していただきたいと思います。
2. よくある「思考停止」パターン ―実務で見かける9つの落とし穴
❶ 「業務の都合上必要な場合」という抽象的な事由

36協定届の「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」欄に、「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ないとき」と書いている企業が非常に多く見られます。しかし、当職としては、このような抽象的な記載はお勧めしません。

「具体的事由」は、時間外労働を必要最小限に留めるために設けられた欄ですが、記載例のごとく一般的に用いられている表現がそのまま用いられていることが多く、本当に自社に沿った内容になっていないことが多く見受けられます。当職は、自社に沿った、より具体的な内容を記載することが望ましいと考えます。一般的に用いられている表現や抽象的な記載では、時間外労働や休日労働をさせる理由になっていないと、紛争時の問題の対象になったりするリスクがあります。

さらに、このご時世、時間外労働や休日出勤の真の理由は「人手不足」であることがほとんどではないでしょうか。にもかかわらず、36協定届の具体的事由にこの理由を正面から記載している企業は多くありません。

当職は、具体的事由のひとつとして「人員不足に伴う業務量の増加への対応」を明記しておくことを強くお勧めします。人手不足が原因であるにもかかわらず、別の理由を記載してしまうと、協定の内容と実態が乖離してしまいます。実態に即した事由を正直に記載しておくことは、万が一の監督指導や紛争の場面でも、企業の誠実な姿勢を示すことにつながります。
❷ 「業務の種類」を大雑把に書いている

「事務」「営業」「製造」といった大括りの記載も散見されます。業務の種類は、できるだけ細分化して記載することが求められています。その理由は、各業務の種類によって、時間外労働・休日労働をさせる理由が異なるはずだからです。

たとえば、製造業であれば「事務」ではなく「経理」「総務」「人事」に分け、「製造」ではなく「品質検査」「機械組立」「部品加工」などに区分すべきです。業務の範囲を明確にすることで、どの業務にどれだけの時間外労働が必要かを具体的に把握でき、長時間労働の抑制にもつながります。
❸ 過半数代表者の選出が形骸化している

これは最も是正勧告を受けやすいポイントです。

「いつもの課長にお願いしている」「親睦会の幹事がそのまま代表者になっている」「社長が指名した」――これらはすべて不適切な選出方法です。管理監督者は過半数代表者になれず(労基法第41条第2号)、選出は投票・挙手などの民主的手続きによる必要があります。

不適切な方法で選出された代表者が締結した36協定は無効となり、その期間中のすべての時間外労働が違法となります。岩国労働基準監督署の事例では、無効な36協定のもとで技能実習生に時間外労働を行わせたとして書類送検されたケースも報告されています。
❹ 「協定届」と「協定書」の混同 ―押印廃止の落とし穴

2021年4月の様式改正により、36協定「届」の押印・署名は原則不要となりました。しかし、36協定届を協定書としても兼ねる場合は、引き続き過半数代表者の署名又は記名押印が必要です。

この点を正しく理解しないまま押印を省略し、結果的に「協定書が存在しない=労使協定が成立していない」という事態に陥っている企業が増えています。届出書の提出だけでは36協定は有効になりません。必ず、協定書としての要件を満たしているかを確認してください。
❺ 特別条項の上限時間の「意味」を理解せずに設定している

特別条項付き36協定における1年間の延長時間について、当職は、上限は法定の最大枠である「720時間」で設定しておくことが望ましいと考えています。

なぜなら、特別条項はあくまで「万が一の事態」に備えるための安全弁だからです。実際に想定外の受注急増や大規模なトラブル対応が発生した場合に、協定上の枠が足りずに違法状態に陥ることは、企業にとって最も避けるべき事態です。最大枠を確保しておくことは、リスクマネジメントの観点から合理的な判断といえます。

ただし、ここで極めて重要なのは、「720時間と記載すること」と「720時間まで働かせること」はまったく別の問題だということです。

特別条項で720時間を設定したからといって、そこまで働かせてよいわけではありません。36協定の締結にあたっては、労使双方がこの点を明確に認識し、「上限枠は最大限確保するが、実際の運用では限度時間(月45時間・年360時間)にできる限り近づけるよう努める」という姿勢を共有することが不可欠です。

この認識がないまま「720時間まで大丈夫」と現場に伝わってしまうと、長時間労働の歯止めが効かなくなります。協定の締結時に、上限時間の意味と運用方針について労使間でしっかり協議し、その内容を議事録等に残しておくことをお勧めします。

なお、特別条項の「臨時的に限度時間を超えて労働させる必要のある具体的事由」は、一般条項と同様に具体的な記載が必要です。また、1か月の上限についても、過労死ラインである月80時間(時間外+休日労働の合計で月100時間未満)を十分に意識して設定してください。
❻ 「限度時間を超えて労働させる場合における手続」を軽視している

特別条項付き36協定の様式(様式第9号の2)には、「限度時間を超えて労働させる場合における手続」を記載する欄があります。ここに「労働者代表への事前申し入れ」「労使協議を経て」などと記載している企業は多いものの、実際にその手続きを履行している企業は極めて少ないというのが、当職の実感です。

この手続きは、いわば「特別条項の発動手続き」です。特別条項付き36協定を締結しているだけでは足りず、実際に月45時間・年360時間の限度時間を超えて労働させる場面が生じたときには、その都度、協定に記載した手続きを経なければなりません。

具体的には、「労使協議」と記載した場合は従業員代表者に対して事前に特別条項を発動する旨を申し入れ、協議を行う必要があります。「通告(通知)」と記載した場合でも、従業員代表者に対して書面等で通知を行い、その記録を残す必要があります。

なぜこの手続きが重要なのか。それは、以下の理由によります。
⚠ 特別条項の発動手続きを怠った場合のリスク
@ 特別条項が適正に発動されていないと評価される
 36協定に定めた手続きを経ずに限度時間を超えて労働させた場合、特別条項が適正に発動されていないと判断される可能性があります。この場合、月45時間・年360時間を超えた時間外労働は、36協定の範囲を逸脱した「違法な時間外労働」となり得ます。

A 監督署の臨検で手続履行の証拠を求められる
 労働基準監督署の調査では、特別条項を発動した際に所定の手続きが行われたかどうか、その記録の提示を求められることがあります。協議書・通知書等の記録がなければ、適正な運用がなされていたことを立証できません。

B 健康福祉確保措置の実施記録も3年間保存が必要
 特別条項の発動と連動して、限度時間を超えて労働させた労働者に対する健康福祉確保措置(医師の面接指導、勤務間インターバルの確保、代償休日の付与等)の実施状況を記録し、36協定の有効期間満了後3年間保存する義務があります(指針第8条第5項)。

C 労働紛争時に不利な証拠となる
 万が一、長時間労働に起因する労災申請や民事訴訟が発生した場合、特別条項の発動手続きが形骸化していたことは、企業の安全配慮義務違反を裏付ける重要な間接事実となり得ます。
当職は、この「特別条項の発動手続き」の重要性について、以前の記事でも詳しく解説しています。特別条項付き36協定を締結している企業は、ぜひあわせてご確認ください。

▶ 関連記事:限度時間を超えて労働させる場合における手続について
❼ 休日労働の始業・終業時刻が「とりあえず平日の定時」

休日労働の始業・終業時刻欄に、特に考えることなく平日の所定労働時間をそのまま転記しているケースがあります。しかし、休日労働の実態は平日の勤務とは異なることが通常です。

実態にそぐわない記載は、協定内容と実際の労働の乖離を生み、監督指導の際に問題視される可能性があります。休日に実際にどのような時間帯で労働が行われるのかを想定し、合理的な時刻を記載するようにしましょう。
❽ チェックボックスの確認漏れ

新様式には、「時間外労働と休日労働を合計して月100時間未満、2〜6か月平均で月80時間を超えないこと」を労使で確認した上でチェックするボックスがあります。このチェックがない場合、有効な協定届として受理されません。

同様に、協定当事者(過半数代表者)が適正に選出されたかどうかを確認するチェックボックスも設けられています。記載内容の最終確認時に、これらのチェック漏れがないか必ず確認してください。
❾ 「1日」の延長時間の意味を理解していない

36協定届には「1日」「1か月」「1年」それぞれの延長時間を記載しますが、この「1日」の延長時間が持つ意味を正しく理解しないまま届出をしている企業がかなり多いと感じています。

たとえば、「1日の法定労働時間を超える時間数」を「5時間」と記載しているケースを考えてみてください。一見、「1日8時間+5時間=13時間まで働ける」と理解されがちですが、ここで見落としてはならないのが、法定休日以外の休日(いわゆる所定休日・法定外休日)に労働させた場合の取り扱いです。

法定休日以外の休日における労働は、36協定届の「休日労働」の欄ではなく、「時間外労働」の欄に該当します。つまり、所定休日に出勤させた場合、その日の労働時間は「1日の延長時間」の上限に制約されるのです。

上記の例でいえば、所定休日には1日5時間しか労働させることができないことになります。「休日出勤なのだから8時間くらいは働かせられるだろう」と考えて実際に8時間労働させてしまえば、36協定で定めた延長時間を3時間超過する違反となってしまいます。

この点は、法定休日労働(週1日の法定休日における労働)と法定外休日労働(それ以外の休日における労働)の区別に直結する、極めて実務的かつ重要なポイントです。所定休日に出勤が発生し得る企業は、「1日」の延長時間の設定を慎重に検討してください。
3. 36協定届が無効になった場合のリスク
36協定届の記載不備や手続上の瑕疵によって協定が無効となった場合、以下のようなリスクが生じます。
⚠ 36協定が無効となった場合に想定されるリスク
@ 刑事罰のリスク
 協定なしの時間外労働は労基法第32条違反。6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(同法第119条)の対象となります。

A 是正勧告・書類送検
 労基署の臨検監督により是正勧告が交付されます。改善がなければ送検に至るケースもあります。

B 企業名の公表
 重大・悪質な違反は厚生労働省ウェブサイトで企業名が公表され、採用・取引に深刻な影響を及ぼします。

C 未払残業代のリスク増大
 協定の無効が判明すれば、過去に遡って違法な時間外労働と認定され、未払い割増賃金の請求リスクが高まります。

D 労災認定時の不利益
 従業員がメンタルヘルス不調や過労死に至った場合、適正な36協定の不存在は安全配慮義務違反の重要な考慮要素となり得ます。
4. 「良い」36協定届にするための実務ポイント
では、どのような点に留意すれば、実態に即した適正な36協定届を作成できるのでしょうか。以下のポイントを押さえてください。
✅ 36協定届 作成時チェックリスト
過半数代表者は管理監督者以外から、投票・挙手等の民主的方法で選出しているか
「時間外労働をさせる具体的事由」は抽象的でなく、臨時的・具体的に記載しているか
「業務の種類」は「事務」「製造」等の大括りでなく、職種ごとに細分化しているか
時間外労働の上限は、一般条項で月45時間・年360時間以内に収まっているか(1年単位の変形労働時間制採用企業は月42時間・年320時間)
休日労働の始業・終業時刻は、実態を反映した合理的な時刻を記載しているか
協定届を協定書と兼ねる場合、過半数代表者の署名又は記名押印があるか
「月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内」のチェックボックスにチェックしているか
過半数代表者の選出方法に関するチェックボックスにチェックしているか
届出は協定の効力発生日の「前日」までに提出しているか
複数事業場がある場合、事業場ごとに締結・届出をしているか
【特別条項がある場合】臨時的事由は具体的か。上限時間は過労死ラインを意識しているか
【特別条項がある場合】限度時間を超えて労働させる場合の「発動手続き」を定め、実際に履行・記録しているか
【特別条項がある場合】健康確保措置の内容は具体的に記載しているか
【特別条項がある場合】限度時間を超える場合の割増賃金率を定めているか
「1日」の延長時間は、法定外休日の出勤も考慮した上で設定しているか
5. 「具体的事由」の良い記載例と悪い記載例
記載例の良し悪しを比較してみましょう。厚生労働省が公表している記載例も参考に、自社の業態に即した具体的な記載を心がけてください。
項目 ✕ 悪い記載例 ○ 良い記載例
具体的事由
(一般条項)
「業務の都合上必要な場合」
「業務上やむを得ないとき」
「使用者の判断による」
「臨時の受注増加・納期変更への対応」
「月末・四半期末の決算事務処理」
「顧客からの緊急クレーム対応」
「人員不足に伴う業務量の増加への対応」
具体的事由
(特別条項)
「業務上必要になった場合」
「繁忙のため」
「製品のリコール発生に伴う顧客対応と原因究明のため」
「大規模システム障害発生時の緊急復旧対応のため」
6. 毎年の更新を「見直しの好機」に変える
36協定は通常1年ごとに更新するため、多くの企業で年に一度の手続きが発生します。この更新のタイミングこそが、記載内容を「考えて」作り直す最大のチャンスです。

前年度の実績を振り返り、以下のような視点で見直しを行いましょう。
🔄 更新時の見直しポイント
@ 実態との乖離はないか
 前年度に実際に時間外労働が発生した業務と、協定に記載した「業務の種類」「具体的事由」は整合しているか確認しましょう。

A 実績と上限の乖離を確認する
 前年度の実績をもとに、一般条項の上限時間が実態に即しているか検証しましょう。特別条項については最大枠を確保しておくことが合理的ですが、実際の時間外労働が常に上限に張り付いている場合は、上限の見直しではなく業務改善や人員配置の見直しが必要です。

B 組織変更への対応
 部署の新設・統合・廃止があった場合、業務の種類や対象労働者数を更新する必要があります。

C 法改正への対応
 建設業・自動車運転業務・医師については、2024年4月から新たな上限規制が適用されています。適用猶予が終了した業種に該当する場合は、対応する新様式で届出をしているか確認してください。
まとめ ―36協定は「出すもの」ではなく「考えるもの」
36協定届は、「毎年なんとなく出す書類」ではありません。時間外労働という本来違法な行為を適法にするための、極めて重要な法的手続きです。

記載内容を「考えて」作成すること。それは、従業員の健康と安全を守り、企業を法的リスクから守ることに直結します。

「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」――私たちは、36協定の締結・届出においても、単なる書類作成の代行ではなく、企業の実態に即した適正な協定内容の策定をお手伝いしています。

「うちの36協定、これで大丈夫かな?」と少しでも不安を感じられた方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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📖 根拠法令・参考資料
・労働基準法第32条(労働時間)、第36条(時間外及び休日の労働)、第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)、第119条(罰則)
・労働基準法施行規則第16条(様式第9号・様式第9号の2)
・「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第323号)第8条(健康福祉確保措置の実施状況記録の保存義務)
・平成30年12月28日基発1228第15号(特別条項の具体的事由・手続に関する行政通達)
・厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
・厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果」(令和7年7月30日公表)
・厚生労働省「36協定届の記載例(一般条項)(特別条項)」
※本記事は2026年4月時点の法令・行政情報に基づいて作成しています。具体的な法的判断や手続きについては、社会保険労務士、弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容により生じた損害について、当法人は一切の責任を負いかねます。
✍ 執筆者
三重 英則(Hidenori Mie)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員