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作成日:2026/03/25
【考察】36協定の特別条項の発動は「事前に」手続をしないと直ちに違法?

COLUMN | 36協定の実務

36協定の特別条項の発動は「事前に」手続をしないと直ちに違法?
── 法的拘束力と安全な実務運用のポイント

社会保険労務士法人T&M Nagoya

特別条項付き36協定を締結している企業で、こんな疑問を持ったことはありませんか?

「事前申入れをしないで残業させたら、すぐに違法になってしまうの?」

この問題は、人事担当者や経営者の方から特に多くいただくご質問の一つです。結論を先にお伝えすると、次のようになります。

POINT ─ 結論

@ 「事前申入れ」という行為自体が法律上の義務ではありません。

A ただし、自社の36協定書に記載した手続を怠れば違法となります。

B 企業防衛の観点では「事前に手続を行う」運用が最も安全です。

 

1. まず押さえたい「法律の構造」

労働基準法施行規則 第16条第1項第4号では、特別条項付き36協定に次の事項を記載するよう求めています。

労基法施行規則 第16条第1項第4号

「限度時間を超えて労働させる場合における手続

ここで重要なのは、法律は「手続を定めること」自体を義務にしていますが、その手続の中身──「事前申入れ」にするのか、「協議」にするのか、「通告」にするのか──までは指定していない、ということです。つまり、具体的な手続の内容は各企業が労使で自由に決めてよいのです。

▼ 法律が求めていること/求めていないこと

法律が義務付けていること

特別条項に何らかの「手続」を定めること

法律が指定していないこと

手続の具体的内容(事前申入れ・協議・通告など、何でもOK)

 

2. 核心:手続の拘束力は「協定書の記載」で決まる

では、実際にどのような手続が求められるのかは、どこで決まるのでしょうか。答えは「自社の36協定書に何と書いてあるか」です。協定書に記載された手続が、そのままその会社の法的義務になります。

以下の表で、記載内容ごとに拘束力がどう変わるかを整理しました。

協定書の記載内容

拘束力・実務上の扱い

リスク度

「事前申入れ」

事前の申入れ実施が義務。これを経ない限度時間超過は違法な時間外労働となる。

不履行=違法

「通告」「連絡」

会社側からの通告・連絡で足りる。「事前申入れ」までは要求されない。

通告実施が必要

「協議」

労使間の協議が必要。ただし「事前申入れ」は不要。

協議実施が必要

記載なし

必須記載事項の欠落。特別条項そのものが無効となるリスクがある。

最も危険

なぜ「事前申入れ」が広く普及しているのか?

厚生労働省が公表している標準書式(様式第9号の2)の手続欄に、例示として「事前申入れ」が印刷されているためです。多くの企業がこの書式をそのまま使うことで、結果的に「事前申入れ」が手続内容として協定書に載っているケースが非常に多くなっています。愛知労働局のFAQでも、「労使協議」の場合は協議書を、「通告」の場合は通知書を作成するよう案内されており、手続の内容は会社ごとの協定に従うことが前提とされています。

 

3. 「手続を何もしない」は明確に違法

「事前申入れ」は法律上の義務ではない──とはいえ、「手続を一切踏まずに限度時間を超過させる」ことは明確に違法です。

平成31年4月1日付 基発0401第43号通達では、協定書に定めた手続を経ない限度時間の超過は法違反になるとされています。手続を不履行のまま限度時間を超過した場合、特別条項の免罰的効力(=残業させても罰則が適用されない効力)が発生しません。その結果、原則の法定上限を超えた違法な時間外労働として扱われます。

▼ 手続不履行が「違法」になるメカニズム

特別条項に定めた手続を行わなかった

特別条項の免罰的効力が発生しない

原則の法定上限(月45時間等)超過 = 違法な時間外労働

要注意:協定書に記載されていない手続(たとえば「事前申入れ」と書いていないのに事前申入れ)まで強制されるわけではありません。あくまで「自社の協定書に書いた手続を確実に実行し、書面で証跡を残すこと」が法的に求められています。

 

4. 実務ではどうすればよいか?── 安全な運用のために

「事前でなければ違法」と明確に断定した通達は確認されていません。しかし、厚労省のパンフレットや労働局のFAQを確認すると、行政実務としては「特別条項の発動は、発動前に要件判断および所定手続を行うことを前提としている」と読み取れます。

つまり、仮に協定書に「事前」と明記していなくても、発動前に手続が行われていないと、適法に上限を超えたとは評価されないリスクがあるのです。

▼ 安全な運用フロー(推奨)

STEP 1

限度時間を超える
見込みの発生

STEP 2

事前に協定書所定の
手続を実施

STEP 3

書面で
証跡を保存

STEP 4

特別条項を
適法に発動

突発的事態への備え

「突発的でやむを得ないときは事後手続とすることもある」と協定書にあらかじめ明記しておけば、事後対応も許容されるとする専門家見解もあります。どうしても事前対応が難しい業種・業態では、こうした例外規定を盛り込んでおくことも手段の一つでしょう。

 

5. 自社の状況を確認するチェックリスト

No.

チェック項目

1

自社の36協定書(特別条項)の「手続」欄に何と記載されているか把握していますか?

2

記載された手続は、実際の運用と一致していますか?(書いてあるだけで実行していない、ということはありませんか?)

3

手続を実施した際の記録(申入れ書、協議書、通知書など)を書面で保存していますか?

4

特別条項の発動は、限度時間を超える「前」に手続を行う運用になっていますか?

5

突発的事態に備えた「事後手続」の例外規定を協定書に盛り込んでいますか?

 

まとめ

法律上の要件

手続の「内容」は法律で指定されていない。「事前申入れ」が唯一の正解ではない。

協定書の拘束力

自社の協定書に記載した手続は必ず実行しなければならない。不履行=法違反。

安全な運用

企業防衛の観点では「事前に手続を行い、書面で証跡を残す」運用が最も安全。

36協定の手続は「決めたルールを守る」という、いわば当たり前のことが問われます。しかし、日々の業務の忙しさの中で形骸化しやすいポイントでもあります。この機会に自社の協定書と運用実態を見直してみてはいかがでしょうか。

36協定の点検・見直しのご相談はお気軽にどうぞ

「自社の協定書の記載内容が適切か分からない」「運用を改善したい」など、
36協定に関するご相談を承っています。

社会保険労務士法人T&M Nagoya

※本記事は一般的な法令解説を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な事案については、社会保険労務士や弁護士等の専門家にご相談ください。