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EMPLOYEE RELATIONS
「対応に苦慮する従業員」への対応
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▸ OUR STANCE / 本稿における当法人のスタンス
いわゆる「問題社員」(当法人では「対応に苦慮する従業員」と呼称します)への対応について、ご相談をいただく機会は少なくありません。 しかし、ある行動が「問題」と映る背景には、業務適性のミスマッチ、コミュニケーションの行き違い、職場環境、本人の心身の不調等、多様な要因があります。一面的な見方で結論を急ぐことは、法的リスクだけでなく、組織にとっても望ましくない結果を招きます。 当法人は、一方的に従業員を排除するための助言は行いません。お手伝いするのは、事実の正確な把握、法的・心理的に適切なプロセスの設計、そして会社と当該従業員の双方にとって納得感のある着地点の模索です。 同時に、真面目に働く他の従業員の雇用と職場環境を守ることも、経営者の重要な責務です。誠実に対話を重ね、必要な場面では毅然とした判断を下す——そのプロセスを、経営者と共に歩みます。 |
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※ 本稿では便宜上「対応に苦慮する従業員」という表現を用いますが、これは会社側から見た状況の呼称であり、当該従業員に責任の全てがあることを意味するものではありません。表現の選択そのものが、対応の方向性を左右するという認識の下、慎重に言葉を選んでおります。 |
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目次 / CONTENTS
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対応に苦慮する従業員のご相談をいただく際、経営者の方が最初に語られるのは、多くの場合「感情的な印象」です。「協調性がない」「態度が悪い」「やる気が感じられない」——こうした表現は、受け取る側には強い印象を残しますが、法的・実務的な対応を設計する上では出発点になりません。
対応の第一歩は、印象と事実を切り分け、客観的な記録を積み上げることです。
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▸ 「印象」を「事実」に変換する問いかけ
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事実を整理する過程で、当初「問題」と見えていた状況が、業務指示の不明確さ、配置のミスマッチ、職場の人間関係、本人の心身の不調等に起因していることが判明するケースも少なくありません。
当法人の紛争解決実務(年間350件以上の労務相談、20年を超える経験)においても、事実整理の段階で解決の方向性が大きく変わる事案は多数経験しています。急がば回れ、まずは事実の棚卸しから始めることが、結果的に最短の解決につながります。
「対応に苦慮する従業員」と一括りにしても、実態は多様です。類型ごとに法的対応も心理的アプローチも異なります。ここでは代表的な5類型を整理します。
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TYPE 01
業務適性のミスマッチ型
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状況:期待される業務レベルに達しない。配置換え後も改善しない。 アプローチ:まず客観的な業務評価と指導履歴の整備。具体的・書面での目標設定、指導、フィードバックを段階的に実施。それでも改善しない場合に、配置転換や処遇見直しを検討。能力不足を理由とする解雇は、改善機会の付与と記録が不可欠です。 避けるべき対応:指導なしの突然の解雇、パフォーマンスを理由とした不合理な降格・減給。 |
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TYPE 02
勤怠不良型
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状況:遅刻・欠勤の繰り返し、無断欠勤、連絡不通。 アプローチ:勤怠記録の客観的整備、書面での注意・指導、改善されない場合の段階的懲戒処分(譴責→減給→出勤停止→諭旨退職→懲戒解雇)。一方で、背景にメンタル不調や家庭事情がある場合が多いため、単純な処分では問題が悪化することも。 重要な確認:勤怠不良の「原因」の把握。産業医・健康相談窓口の活用。 |
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TYPE 03
コミュニケーション摩擦型
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状況:上司・同僚との衝突、感情的な応答、指示への反発。 アプローチ:摩擦が双方向である場合が多いため、一方的な処分は禁物。双方の事情聴取、職場環境の診断、必要に応じた配置調整を検討。本人の気質やコミュニケーションスタイルへの理解が前提となります。 注意点:上司側の指導方法にハラスメント的要素がないかの並行検証も重要。 |
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TYPE 04
服務規律違反・非違行為型
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状況:業務命令違反、横領・不正、ハラスメント加害、SNSでの不適切投稿等。 アプローチ:就業規則上の懲戒事由への該当性判断、事実調査、弁明機会の付与、懲戒委員会等の適正手続を経た上での処分決定。フジ興産事件(最判平15.10.10)等の判例が示す適正手続が不可欠です。 避けるべき対応:感情的な即時解雇、調査不十分なままの処分決定。 |
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TYPE 05 ▸ 最も慎重な対応が必要
メンタル不調が背景にある型
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状況:能力低下、勤怠の乱れ、感情の不安定、対人関係の困難——これらの背景にうつ病・適応障害・発達特性等、心身の不調が存在するケース。 当法人の基本姿勢:このタイプは、そもそも「対応に苦慮する従業員」として扱うべきではありません。まず医療的ケア、休職制度の活用、産業医面談、復職支援プログラム、合理的配慮の検討が優先されるべきです。 法的リスク:メンタル不調を適切に把握せずに懲戒や退職勧奨を行うことは、安全配慮義務違反(労契法第5条)、東芝(うつ病・解雇)事件(最判平26.3.24)が示すような解雇無効・損害賠償のリスクを生じさせます。 実務上の確認:勤怠・業績の変化時期、本人の様子の変化、周囲の気づき、過去の健診・ストレスチェック結果の確認。迷う場合は、処分判断の前に必ず産業医面談・専門家相談を実施してください。 |
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▸ 類型判定が最も重要な最初の一歩
実際の現場では、複数の類型が重なっているケースがほとんどです。「勤怠不良(TYPE 02)」と見えていたものが、実は「メンタル不調(TYPE 05)」であり、「コミュニケーション摩擦(TYPE 03)」が背景にあった——といった複合型は珍しくありません。類型の見極めを誤ると、対応全体が方向を誤ります。 |
対応に苦慮する従業員への措置は、強度の弱いものから順に指導 → 配置転換 → 懲戒処分 → 退職勧奨 → 解雇と段階化されます。それぞれに適法要件があり、飛ばして進むと法的リスクが急増します。
口頭指導から始まり、文書による注意(指導書・警告書)へと段階化します。「指導した記録」が残っていることが、以後のあらゆる措置の前提となります。指導は感情的にならず、具体的な事実と期待される改善内容を明示することが重要です。
業務適性のミスマッチ型に有効な場合があります。ただし、就業規則上の配転命令権の根拠、業務上の必要性、不当な動機・目的がないこと、労働者の不利益の程度を総合的に判断する必要があります(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14)。
職種限定合意・勤務地限定合意がある場合、または育児・介護等の事情がある場合は、配転の可否・範囲が制限されます。
懲戒処分が有効とされるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
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REQUIREMENT 01
就業規則に懲戒の種別・事由が定められていること(フジ興産事件・最判平15.10.10)
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REQUIREMENT 02
行為が懲戒事由に該当すること(該当性判断の客観性)
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REQUIREMENT 03
処分内容が行為の軽重に照らして相当であること(労契法第15条・ダイハツ工業事件)
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REQUIREMENT 04
適正手続(弁明機会の付与、調査手続の公正性)を経ていること
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退職勧奨は、使用者が従業員に対し退職を促す行為であり、それ自体は違法ではありません。ただし、勧奨の態様が社会通念上相当な範囲を超えた場合、違法な退職強要となります(下関商業高校事件・最判昭55.7.10)。
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▸ 退職勧奨で避けるべき態様
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適切に設計された退職勧奨は、本人にとっても会社にとっても最も負担の少ない解決策となる場合があります。しかし、プロセス設計を誤ると一転して違法行為となり、損害賠償請求・解雇無効争訟の原因となります。
解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、権利濫用として無効となります(労契法第16条・日本食塩製造事件・最判昭50.4.25)。能力不足を理由とする解雇については、高知放送事件(最判昭52.1.31)が示すように、改善機会の付与・指導の実施・他部署への配転可能性の検討等、解雇回避努力が厳しく問われます。
法的に正しい対応であっても、現場でうまく機能しないケースがあります。それは、人間は感情と認知バイアスで動く存在であり、「正論」をぶつけられた側は、たとえ内容が正しくても受け入れられないどころか、かえって態度を硬化させるからです。
当法人代表は、社会保険労務士資格に加え経営心理士の資格を有しており、紛争解決実務の経験と経営心理学の知見を組み合わせたアプローチを提供しています。
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▸ 経営心理学から見た、面談でつまずきやすいポイント
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「徹底的なやさしさ」と「必要な場面での毅然とした判断」は矛盾しません。むしろ、相手を一人の人間として尊重する姿勢があってこそ、毅然とした判断が受け入れられるのです。
面談は、単発のイベントではなく、準備・実施・記録・フォローの一連のプロセスとして設計する必要があります。
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FACE-TO-FACE PROCESS
面談プロセスの4ステップ
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特に重要なのは、「一度の面談で結論を出そうとしない」ことです。複雑な案件ほど、本人に考える時間を与え、複数回の面談を経て合意形成に至るのが実務上の定石です。急いで結論を求めるほど、後日の紛争リスクが高まります。
解雇は、従業員の生活基盤を失わせる重大な措置であり、最終手段として位置づけられるべきものです。また、解雇無効訴訟が提起された場合、会社側の立証負担は重く、敗訴した場合の影響(バックペイ、職場復帰、レピュテーション)も甚大です。
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▸ 解雇検討前のチェックリスト
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このチェックリストに一つでも「いいえ」がある場合、解雇は重大なリスクを伴います。迷ったら、解雇の前に必ず専門家に相談してください。
さまざまな対応を尽くした結果、経営判断として当該従業員との雇用契約の解消が必要と判断される場面は、どうしても生じ得ます。真面目に働く他の従業員の雇用と職場環境を守るためにも、避けて通れない決断となることがあります。
このとき、当法人がクライアントに対して取る方針は明確です。
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OUR POLICY
契約解消をご希望の場合、当法人は必ず退職勧奨を推奨します
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クライアントが従業員との契約解消を望まれる場合、当法人は解雇ではなく、必ず退職勧奨による合意解約を推奨いたします。これは、20年以上の紛争解決実務の経験から導き出された、会社と従業員の双方にとって最も合理的な道筋であるとの確信に基づきます。 なぜ解雇ではなく退職勧奨なのか——その理由は、以下の通りです。 |
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REASON 01
紛争リスクが大幅に低減される
解雇は、従業員の同意なく一方的に労働契約を終了させる行為であり、解雇無効訴訟・地位確認請求・バックペイ請求の対象となります。一方、退職勧奨による合意解約は、従業員の自由意思による合意に基づく契約終了であり、後の紛争リスクが構造的に低くなります。 |
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REASON 02
従業員にとっても望ましい着地点
解雇は、従業員の次の就職活動において不利に働くことが少なくありません。退職勧奨による合意退職(会社都合退職)であれば、雇用保険の特定受給資格者としての取扱い、再就職先への説明、経歴への影響等、いずれの面でも従業員にとって現実的な着地となります。 |
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REASON 03
他の従業員・職場への影響が最小化される
解雇は職場に強い緊張と不安をもたらします。合意による退職であれば、職場への影響は最小化され、残る従業員のエンゲージメント・心理的安全性への打撃を抑えられます。 |
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REASON 04
時間的・経済的コストが圧倒的に少ない
解雇訴訟は解決までに1〜3年、場合によってはそれ以上を要します。敗訴時のバックペイは、その間の給与全額に及び、数百万円〜数千万円規模となることも珍しくありません。退職勧奨による合意解約は、適正に進めれば短期間で、かつ予見可能なコストで解決に至ります。 |
ただし、退職勧奨は進め方を誤ると違法な退職強要となり、かえって大きな法的リスクを生む行為でもあります(下関商業高校事件・最判昭55.7.10)。適切に設計されたプロセスで実施することが絶対条件です。
当法人は、契約解消のご相談をお受けした場合、以下を含む退職勧奨シナリオを作成し、クライアントに提供いたします。
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OUR DELIVERABLE
退職勧奨シナリオに含まれる内容
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さらに、必要に応じて面談への同席も行います。経営者おひとりで矢面に立たれるのではなく、専門家が同席することで、交渉の進行・記録の適正性・法的リスクの回避が担保されます。
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▸ なぜ「シナリオ」にまで踏み込むのか
退職勧奨の実務では、面談の最初の一言から最終的な合意書の文言まで、ひとつひとつの言葉の選択が結果を左右します。「勢いで進める」「その場の判断で答える」といった進め方は、違法な退職強要と評価されるリスクを高めます。 当法人が紙に書き起こしたシナリオまで作成してお渡しするのは、経営者の方が孤立した決断のなかでも、判例が許容する範囲で、かつ人間的な誠実さを保った対話ができるよう、全力でバックアップするためです。 |
もっとも、当法人が「必ず退職勧奨を推奨する」と申し上げるのは、契約解消が経営判断として必要であり、かつ法的に正当化できる事実関係が整っている場合に限ります。
事実関係が不十分な場合、背景にメンタル不調等が疑われる場合、問題の本質が別にある場合等は、退職勧奨そのものを推奨しません。その場合は、指導・配置転換・職場環境の改善・医療的ケア等、より根本的な対応をご提案します。安易な契約解消が、かえって会社にとって大きなリスクとなることも、20年以上の実務経験から熟知しているためです。
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契約解消の決断は、経営者にとって重い決断です。 |
社会保険労務士法人T&M Nagoyaでは、対応に苦慮する従業員の問題に、以下の4段階で伴走支援を行っています。
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OUR APPROACH
事実整理から合意形成まで、経営者と共に歩みます
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▸ 労使双方の実務経験から生まれる中立的な視点
弁護士事務所での労働紛争実務経験を含む20年以上の経験から、使用者側・労働者側の双方の論理を理解した上で、「どちらか一方に偏らない、真に実効性のある解決策」をご提案します。 |
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▸ 経営心理士としての独自アプローチ
法律論だけでは解きほぐせない人間関係のトラブルに対し、経営心理学の知見を組み合わせたアプローチで、本質的な解決に向けた対話プロセスを設計します。 |
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▸ 孤独な経営者の「心の負担」に寄り添う
従業員対応は、経営者が最も孤独を感じる仕事の一つです。一人で抱え込まず、面談の設計から同席、合意後のフォローまで、経営者と共に歩みます。 |
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OUR PHILOSOPHY
一方的に誰かを排除するための助言は、私たちの仕事ではありません。 |
従業員の対応でお悩みの経営者の方、面談プロセスの設計から同席、合意後のフォローまで、一貫してサポートいたします。一人で抱え込まず、まずは現状をお聞かせください。専門家の視点から、冷静で誠実なご提案を差し上げます。
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お問い合わせ・ご相談
052-211-7430
受付時間:平日 9:00 〜 18:00
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※ 本稿は一般的な論点の整理を目的としたものであり、個別事案への法的助言を行うものではありません。個別の具体的なご相談については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
※ 記載の法令・判例等は執筆時点のものです。 |
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社会保険労務士法人 T&M Nagoya
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TEL:052-211-7430 |