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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。 最高裁判所事務総局の令和7年司法統計により、全国の地方裁判所が令和7年に新たに受け付けた労働関係訴訟が4,112件であったことが分かりました。本日9月17日付の労働新聞社の報道によれば、4,000件を超えるのは2年連続で、平成4年以降では、過去最多だった前年に次ぐ2番目の多さです。 総数は前年からわずかに減りました。しかし内訳を見ると、賃金や退職金などを求める「金銭目的」の訴訟が300件減った一方で、地位確認などの「金銭目的以外」の訴訟が198件増えています。件数の水準が高止まりしたまま、中身の構成が動いたというのが今回の数字の特徴です。本記事では、確認できた数字と確認できていない数字を分けたうえで、企業の労務管理にとって何を意味するのかを整理します。 |
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| 1 公表された数字 | ||||||||||||||||||||||||
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本日付の労働新聞社の報道と、同社が前年・前々年に報じた司法統計の記事から、直近3年の数字を並べます。令和7年分について当法人は最高裁判所の原表を確認できておらず、以下はいずれも報道に基づく数値です。 |
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※令和6年の金銭目的以外の件数は、報道に明示されていません。令和6年の総数4,214件から金銭目的3,144件を差し引いた値であり、令和7年の報道にある「198件増」とも一致します。 総数は前年比で102件、約2.4%の減少です。これを「減った」と読むか「高止まりした」と読むかでいえば、後者が実態に近いと考えられます。平成4年以降で見て1位と2位が直近2年に並んでいるからです。訴訟と労働審判を合わせても年間7,500件を超える水準が2年続いています。 |
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| 2 内訳の動き ― どこまで言えるか | ||||||||||||||||||||||||
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金銭目的の訴訟は3,144件から2,844件へ、約9.5%減りました。金銭目的以外は1,070件から1,268件へ、約18.5%増えました。この結果、訴訟全体に占める金銭目的以外の割合は約25.4%から約30.8%へ上がっています。 ここで2つの留保が必要です。第1に、これは1年分の変化です。令和6年は総数が過去最多を記録した年であり、その反動を含んでいる可能性があります。「質の転換が起きた」と言い切るには、令和8年以降の数字で同じ方向の動きが続くかを確かめる必要があります。 第2に、区分の中身です。報道は金銭目的以外の例として地位確認と損害賠償を挙げていますが、当法人は原表の区分の定義を確認できていません。損害賠償請求は金銭の支払を求める訴えでもあるため、どの類型がどちらに分類されているかは原表で確かめるべき点です。本記事では、金銭目的以外の代表的な類型である地位確認(解雇・雇止めの効力を争う訴え)を中心に考えます。 |
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| 3 金銭目的の訴訟が減った理由は、統計からは分からない | ||||||||||||||||||||||||
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統計は件数を示すだけで、理由を示しません。そのうえで、考えられる説明と、それぞれに対する反論を並べておきます。いずれも当法人の推論であり、統計による裏づけはありません。 1つ目は、労働時間の客観的な把握が進んだという説明です。2019年4月から、労働安全衛生法66条の8の3により、管理監督者を含めて労働時間の状況の把握が事業者に義務づけられました。勤怠システムの普及とあわせ、労働時間の記録がないために推計で争う類型の紛争は起きにくくなっていると考えられます。ただし、この変化は数年かけて進んだもので、令和7年の1年間だけで300件減ったことを説明する力は弱いといえます。 2つ目は、訴訟以外の手続で解決する割合が増えたという説明です。労働審判は88件増えましたが、訴訟の金銭目的の減少幅(300件)を埋める規模ではありません。労働審判への移行だけでは説明がつきません。 3つ目は、前年の反動です。令和6年に金銭目的の訴訟が多かったのであれば、令和7年の減少は水準の正常化にすぎない可能性があります。これを確かめるには、令和5年以前の内訳と比べる必要があり、本記事では確認できていません。 なお、2020年4月施行の労働基準法の改正により、賃金請求権の消滅時効は2年から5年(当分の間は3年)に延長されています(労働基準法115条、同法附則143条3項)。未払残業代を請求できる期間が長いという前提は変わっておらず、金銭目的の訴訟が減ったことをもって、未払賃金のリスクが下がったと受け止めるのは誤りです。 |
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| 4 地位確認型の紛争が増えると、企業の負担はどう変わるか | ||||||||||||||||||||||||
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金銭目的以外の訴訟が増えたことを、企業の側から見るとどうなるでしょうか。 解雇や雇止めの効力を争う地位確認の訴訟は、判決まで進めば「雇用が続いているか否か」という結論になります。もっとも、実際には、会社が解決金を支払い、労働者が合意退職するという和解で終わることが少なくありません。したがって「地位確認は和解しにくい」と一般化するのは正確ではありません。 企業が注意すべきなのは、解決金の中身です。解雇が無効と判断されれば、会社は解雇の時点から判決までの賃金(いわゆるバックペイ)を支払う義務を負うことになります(民法536条2項)。和解の場面でも、この見込み額が解決金の水準の基準になります。つまり、地位確認型の紛争では、争いが長引くほど、会社が負担し得る金額が月単位で積み上がるという構造があります。未払残業代の請求が過去の一定期間の金額で上限が画されるのと、ここが大きく違います。 さらに、解雇の有効性は、就業規則上の根拠、指導や注意の経過、弁明の機会といった手続の記録で判断が大きく左右されます(労働契約法16条)。記録が乏しければ争点を早い段階で絞り込めず、審理が長引き、その分だけバックペイの見込み額が膨らみます。記録の有無が、勝ち負けだけでなく、紛争の期間と費用を決めるということです。 |
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| 5 今回の記事で確認できていないこと | ||||||||||||||||||||||||
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| 6 企業が点検すべきこと | ||||||||||||||||||||||||
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地位確認型の紛争に備えるうえで、平時に整えておける点を4つ挙げます。いずれも、紛争になってから作ることはできない記録です。 |
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| 7 当法人の視点 | ||||||||||||||||||||||||
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「労働訴訟が4,000件を超えた」という見出しは、経営者の行動を変えません。変える力があるのは、どういう型の紛争に、どういう費用構造で備えるべきかという情報です。 今回の数字から当法人が読み取るのは、次の1点です。未払賃金の紛争は、過去の労働時間を記録で再現できれば、金額の上限が見える紛争です。これに対して解雇や雇止めの紛争は、記録が乏しいほど長引き、長引くほど金額が膨らむ紛争です。金銭目的以外の訴訟の割合が上がったことが一時的な動きか傾向かは、翌年以降の数字を待つ必要があります。しかし、どちらであっても、手続の記録を平時から残すことの価値は変わりません。 |
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| まとめ | ||||||||||||||||||||||||
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令和7年の労働関係訴訟の新受件数は4,112件で、2年連続の4,000件超、平成4年以降で2番目の多さでした。内訳は金銭目的が2,844件(300件減)、金銭目的以外が1,268件(198件増)で、労働審判は3,447件(88件増)です。いずれも報道に基づく数値であり、原表での確認と、翌年以降の推移による検証が必要です。地位確認型の紛争は期間に比例して負担が積み上がる構造を持つため、手続の記録を平時から整えておくことが実務上の備えになります。 当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。解雇・雇止めや処遇変更の手続を、紛争になる前の段階から一緒に点検し、記録の残し方まで含めて整えてまいります。 |
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