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作成日:2026/10/03
年1回の「事業概況報告書」を出さなかった求人サービスが事業停止命令に 職業安定法43条の4が発動された経緯と、同日公表「令和7年度 使用者による障害者虐待の状況等」(認定610人・経済的虐待83.1%
労務トピックス
年1回の「事業概況報告書」を出さなかった求人サービスが事業停止命令に
職業安定法43条の4が発動された経緯と、同日公表「令和7年度 使用者による障害者虐待の状況等」(認定610人・経済的虐待83.1%)の読み方(厚生労働省 令和8年9月11日公表)
2026年10月3日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

厚生労働省は先週金曜日の9月11日、性質の異なる2本の報道発表を出しました。1本は、職業安定法43条の4に基づく特定募集情報等提供事業の停止命令。求人サイトやスカウトサービスを運営する事業者に対する行政処分です。もう1本は、令和7年度の「使用者による障害者虐待の状況等」の取りまとめです。

前者の処分理由は、不正な求人を掲載したことでも、求職者に不利益を与えたことでもありません。年1回の事業概況報告書を提出せず、その後の業務改善命令にも従わなかった。それだけです。後者は、通報・届出が増える一方で虐待の認定は減り、認定された虐待の8割超が「経済的虐待」、つまり賃金をめぐる問題だったことを示しています。手続と記録の不備が、悪意の有無を問わず、そのまま行政の処分や認定に直結する。2本の資料は、経営者に同じことを教えています。報道発表の本文だけでなく別添の内訳まで読み、自社に引きつけて整理します。

📌 この記事でわかること

✓ 9月11日、厚生労働省は職業安定法43条の4に基づき、特定募集情報等提供事業者に事業停止命令を出したこと。処分理由は令和7年6月1日現在の事業概況報告書の未提出と、令和8年5月22日の業務改善命令への違反であり、停止期間は「報告書が提出されるまでの間」であること

✓ 会員登録、メールアドレスの収集、閲覧履歴の利用など、求職者に関する情報を収集して求人情報を提供するサービスは「特定募集情報等提供事業」に当たり、令和4年10月1日施行の改正職業安定法により、事業開始前の届出と毎年8月31日までの事業概況報告書の提出が義務付けられていること

✓ 今回の処分は、期限徒過の後、指導、報告徴収、業務改善命令を経て停止命令に至っており、停止命令の直接の根拠は改善命令違反であること。改善命令違反には6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、停止命令違反には1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められていること

✓ 令和7年度の使用者による障害者虐待は、通報・届出が1,663事業所・1,953人(いずれも増加)、虐待が認められたのは421事業所・610人(いずれも減少)。認められた虐待の83.1%が経済的虐待で、労働局が講じた措置658件の85.3%が労働基準関係法令に基づく指導、うち207件が最低賃金法に基づくものであること

✓ 虐待が認められた事業所の56.5%は労働者30人未満で、業種は医療・福祉、製造業、卸売業・小売業の順に多いこと。障害者を雇用する会社は、最低賃金の減額特例の許可の範囲、賃金台帳と労働時間管理、通報義務と事業主の措置の3点を点検する局面であること

「悪意はなかった」は、処分理由にも認定結果にも影響しません。手続と記録を整えることが、そのまま会社の防御になります。

1 何が起きたか ― 報道発表の事実関係

9月11日付の報道発表「特定募集情報等提供事業者に対する事業停止命令について」(職業安定局需給調整事業課労働市場基盤整備室)によれば、厚生労働省は同日、職業安定法43条の4に基づく特定募集情報等提供事業停止命令を行いました。処分理由として挙げられているのは2点です。第1に、職業安定法43条の5が求める事業概況報告書について、令和7年6月1日現在の実施状況を記載したものを、職業安定法施行規則31条の3に定める提出期限を過ぎても提出しなかったこと。第2に、これに対する令和8年5月22日の職業安定法48条の3第1項に基づく業務改善命令に違反したことです。

命令の内容は、全ての特定募集情報等提供事業について、事業概況報告書が提出されるまでの間、当該事業を停止することです。停止期間が「何か月」ではなく「提出されるまで」と定められている点は、後述するとおり、この処分の性格を理解する鍵になります。

5月22日の業務改善命令の報道発表とあわせて読むと、経過は次のように整理できます。

時期 出来事(根拠条文)
令和7年6月1日 事業概況報告書の基準日。この日現在の事業の実施状況を記載する
令和7年8月31日 提出期限(職業安定法43条の5、同法施行規則31条の3第1項)。提出されず
(時期は非公表) 職業安定法48条の2に基づく指導、同法50条1項に基づく報告徴収。いずれにも応じず(5月22日付報道発表の処分理由に記載)
令和8年5月22日 職業安定法48条の3第1項に基づく業務改善命令。内容は、令和7年6月1日現在の事業概況報告書をe-Gov電子申請で提出すること。従わず
令和8年9月11日 職業安定法43条の4に基づく事業停止命令。全ての特定募集情報等提供事業を、報告書が提出されるまで停止

期限徒過から停止命令まで1年余り。行政は段階を踏んでいます。5月の報道発表には、指導に従わず、報告徴収にも応じなかったことが処分理由として明記されており、少なくとも4回の行政からの働きかけを経て停止に至ったことが分かります。

被処分者について付言します。9月11日の報道発表は、被処分者を「別添の一覧表に記載のとおり」としていますが、別添の報道発表資料全体版は画像形式のPDFであり、当法人は本稿執筆時点で事業者名をテキストとして確認できていません。5月22日の業務改善命令の別添には、対象として法人1者と個人事業主1者の名称・所在地が記載されていましたが、9月の停止命令がその双方に出されたのか一方なのかも、本稿では確認できていません。事業者名が必要な方は、末尾の出典に掲げた厚生労働省の報道発表ページから別添PDFをご確認ください。

2 「特定募集情報等提供事業」とは ― 令和4年改正で届出制になった範囲

求人情報を掲載する媒体は、求人と求職を結び付けて雇用関係の成立をあっせんする「職業紹介」(職業安定法4条1項)とは区別され、長らく許可も届出も不要でした。ところが、会員登録、閲覧履歴に基づくおすすめ表示、スカウトメールといった機能が一般化し、「掲載しているだけ」とは言い難いサービスが増えました。そこで令和4年10月1日施行の改正職業安定法は、「募集情報等提供」の範囲をクローリングや他媒体からの転載にまで広げたうえで、そのうち労働者になろうとする者に関する情報を収集して行うものを「特定募集情報等提供」と定義し(同法4条7項)、これを事業として行う者に厚生労働大臣への届出を義務付けました(同法43条の2第1項)。

ここでいう「労働者になろうとする者に関する情報」は、氏名などの個人を識別できる情報に限りません。厚生労働省のリーフレットは、メールアドレス、経歴、サイトの閲覧履歴等を含むと明記しています。したがって、線引きは次のようになります。

届出が必要になる例(厚生労働省リーフレット) 届出が不要な例
会員登録を求めている場合
メールアドレスを集めて求人情報を配信している場合
閲覧履歴に基づく情報提供をしている場合
紙媒体でのみ情報提供している場合
(求職者の情報を一切収集せず、求人情報を一方的に掲示するだけのサービスも「特定」には当たりません)

届出をした後にも、継続的な義務があります。今回の処分で問われたのは、このうち毎年の事業概況報告書です。

義務 内容と期限 根拠
事業の届出 事業を行おうとする者は、名称・住所等を厚生労働大臣に届け出る。原則としてe-Gov電子申請 職業安定法43条の2第1項
変更・廃止の届出 届出事項の変更は変更日の翌日から30日以内、廃止は廃止日から10日以内に届け出る 同法43条の2第2項・第3項、厚生労働省リーフレット
事業概況報告書 毎年6月1日現在の事業の実施状況を記載し、毎年8月31日までに提出する 同法43条の5、同法施行規則31条の3第1項
罰則 届出をしないで事業を行った者、業務改善命令に違反した者は6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金。事業停止命令に違反した者は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 同法65条7号・8号、64条

なお、自社の従業員を募集するために自社の採用ページで求人を出す行為は、自ら行う「労働者の募集」(職業安定法4条5項)であって、他者の求人情報を提供する「募集情報等提供」ではありません。したがって一般の会社の採用サイトは、原則としてこの届出の対象になりません。ただし、グループ会社や取引先の求人もまとめて掲載し、応募者や閲覧者の情報を収集しているような場合は、自社募集の範囲を超えていないかを整理しておく必要があると考えられます。

3 行政処分は段階を踏む ― 停止命令の直接の根拠は「改善命令違反」

職業安定法43条の4は、特定募集情報等提供事業者が同法5条の5(求職者等の個人情報の取扱い)、43条の3(求職者からの報酬受領の禁止)、51条(秘密を守る義務)に違反したとき、または48条の3第1項の規定に基づく命令(業務改善命令)に違反したときに、厚生労働大臣が期間を定めて事業の全部又は一部の停止を命ずることができると定めています。

ここで注意していただきたいのは、事業概況報告書の未提出それ自体は、43条の4が列挙する停止命令の発動事由には入っていないことです。今回の停止命令の直接の根拠は、未提出に対して出された業務改善命令に違反したことです。つまり法律の構造上、報告書を1回出し忘れた瞬間に事業が止まるわけではありません。指導(48条の2)、報告徴収(50条1項)、業務改善命令(48条の3第1項)という段階を経て、それでも従わないときに初めて停止命令(43条の4)が出る仕組みになっており、今回の事案はその段階を全て通過しています。

もう1点、命令の期間です。43条の4は「期間を定めて」停止を命ずるとしていますが、今回の命令は「事業概況報告書が提出されるまでの間」と定められました。報告書を出せば停止は解ける設計です。この点から当法人は、今回の命令は違反に対する制裁というより、法律上の義務の履行を確保するための措置としての性格が強いと見ています。ただし、停止中に事業を続ければ64条の刑事罰の対象になりますし、厚生労働省は改善命令の段階から事業者の名称・代表者・所在地を公表しています。求人サービスにとって、「厚生労働省から命令を受けた事業者」として名称が公表されること自体が、命令の内容以上に重い結果だと考えられます。

4 自社に関係するのはどんな場合か ― 運営する側と利用する側

この処分は、2つの立場の会社に関係します。

(1)求人サービスや採用媒体を運営している会社

自社サイトで他社の求人を扱っている会社は、まず自社のサービスが特定募集情報等提供事業に当たらないかを確認する必要があります。判断の軸は「求職者の情報を収集しているか」であり、会員登録やメールアドレスの取得、閲覧履歴の利用があれば該当する可能性が高くなります。該当するなら届出が済んでいるか、そして毎年8月31日までの事業概況報告書が実際に提出されているかを確認してください。届出は事業を始めるときの1回限りの手続と受け止められやすく、毎年の報告書の存在が社内で引き継がれていないことが起こりえます。今回の事案は、まさにこの毎年の報告書が問われたものでした。

(2)求人サイトやスカウト媒体を使って採用している会社

採用を特定の媒体に依存している会社にとって、利用中の媒体が行政処分で止まることは、採用計画に直結するリスクです。今回の命令は報告書が提出されれば解除される設計ですから、短期で復旧する可能性はあります。しかし採用のピーク時に媒体が止まれば、募集の遅れは避けられません。複数媒体の併用、ハローワークの活用、社員紹介など、応募経路を分散させておくことが備えになります。あわせて、媒体を選ぶ際には、届出済みの事業者かどうかを確認する視点も持っておきたいところです。厚生労働省は、届出を受理した特定募集情報等提供事業者の一覧を公表しています。

(3)「届出を出したら終わり」の制度は少ない

これは職業安定法に限った話ではありません。労働者派遣事業の事業報告書、有料職業紹介事業の事業報告書、毎年6月1日現在で報告する障害者雇用状況報告と高年齢者雇用状況等報告など、「ある日現在の状況を、毎年決まった期限までに報告する」義務は労働法令の各所にあります。自社に課された定期報告を一覧にし、年間の労務カレンダーに提出期限が載っているか。今回の処分は、その点検を促す材料になります。

5 同日公表「令和7年度 使用者による障害者虐待の状況等」 ― 公表資料の数字

同じ9月11日、厚生労働省雇用環境・均等局総務課労働紛争処理業務室は「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」を公表しました。障害者虐待防止法28条が厚生労働大臣に毎年度の公表を義務付けているもので、令和7年4月1日から令和8年3月31日までに都道府県労働局が把握した通報・届出と対応結果を取りまとめています。ここでいう障害者は障害者基本法2条1号の定義によるもので、障害者手帳を取得していない人も含みます。

報道発表本文のポイントは3点ですが、別添には5年分の推移、虐待種別、事業所の規模別・業種別、労働局が講じた措置の内訳まで載っています。まず推移から見ます。認定率は公表資料にはなく、当法人が人数から計算したものです。

項目 令和5年度 令和6年度 令和7年度
通報・届出のあった事業所数 1,512 1,593 1,663(+4.4%)
通報・届出の対象となった障害者数 1,854人 1,827人 1,953人(+6.9%)
虐待が認められた事業所数 447 434 421(−3.0%)
虐待が認められた障害者数 761人 652人 610人(−6.4%)
(参考)認定率=認定障害者数÷通報・届出障害者数(当法人計算) 41.0% 35.7% 31.2%

通報・届出は令和3年度の1,230事業所から5年間で3割以上増え、一方で虐待が認められた障害者数は令和5年度の761人をピークに2年連続で減っています。分母が広がり、認定の割合が下がっている構図です。公表資料はこの理由を説明していません。通報の仕組みが浸透して相談のハードルが下がれば、虐待に当たらない事案も含めて母数が広がり、認定率は下がる方向に働きます。当法人はそう読んでいますが、これは推論であり、実際に職場での虐待が減ったのか、把握されていない事案が増えたのかは、この統計からは分かりません。

次に、虐待が認められた610人について、認定された虐待の種別です。1人に複数の虐待が認められた場合は重複計上されており、延べ627人が母数です。

虐待の種別(認定分) 人数(構成比) 法律上の定義(障害者虐待防止法2条8項)
経済的虐待 521人(83.1%) 障害者の財産を不当に処分すること、その他障害者から不当に財産上の利益を得ること
心理的虐待 62人(9.9%) 著しい暴言、著しく拒絶的な対応、不当な差別的言動、その他著しい心理的外傷を与える言動
身体的虐待 31人(4.9%) 外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行、正当な理由のない身体拘束
放置等による虐待 9人(1.4%) 著しい減食や長時間の放置、他の労働者による虐待行為の放置など
性的虐待 4人(0.6%) わいせつな行為をすること、又はさせること

経済的虐待は令和3年度以降、毎年度77%から87%の間で推移しており、令和7年度の83.1%も例年並みの水準です。通報・届出の段階では心理的虐待が868人(39.3%)と経済的虐待997人(45.1%)に迫っていますが、認定の段階では心理的虐待が62人に絞られる一方、経済的虐待は521人が認定されています。賃金の問題は帳簿で確認でき、認定に至りやすい。認定率の差はそのことを示しています。

虐待が認められた421事業所の規模と業種の内訳です。

規模別(事業所数・構成比) 業種別(事業所数・構成比、上位6業種)
5人未満 70(16.6%)
5〜29人 168(39.9%)
30〜49人 47(11.2%)
50〜99人 32(7.6%)
100〜299人 28(6.7%)
300人以上 8(1.9%)
不明 68(16.2%)
医療、福祉 102(24.2%)
製造業 87(20.7%)
卸売業、小売業 58(13.8%)
宿泊業、飲食サービス業 46(10.9%)
サービス業(他に分類されないもの) 37(8.8%)
建設業 32(7.6%)

30人未満の事業所が238事業所、56.5%を占めます。100人未満まで広げると317事業所、75.3%です。虐待を行った使用者429人のうち事業主が359人(83.7%)で、上司は45人(10.5%)にとどまります。就労形態別では、虐待が認められた障害者610人のうちパート・アルバイトが272人(44.6%)、正社員が203人(33.3%)でした。経済的虐待521人の内訳でも、パート・アルバイトが258人と正社員151人を上回っています。時給制で働く障害者の賃金計算に、問題が集中している姿が見えます。

労働局が虐待に対して講じた措置は658件で、労働基準関係法令に基づく指導等が561件(85.3%)、うち最低賃金法に基づく指導等が207件(31.5%)でした。障害者雇用促進法に基づく助言・指導等は45件(6.8%)、労働施策総合推進法に基づくものは39件(5.9%)です。認定された虐待の8割が経済的虐待であることと、措置の8割が労働基準関係法令に基づくことは、同じ事実の表と裏です。

6 経済的虐待83.1%の中身 ― 最低賃金法・労働基準法の違反がそのまま「虐待」として数えられる

公表資料の別添2には、労働局が対応した事例が5件掲載されています。経済的虐待の事例は、労働基準監督署が監督指導で発見したもので、卸売業・小売業の従業員5人から29人の事業所において、パート・アルバイトとして働く発達障害の労働者の約定賃金が地域別最低賃金を1時間当たり約600円下回っていたというものです。労働基準監督署は賃金台帳等を確認して事実を認め、最低賃金法に基づき差額の支払いを指導しました。

この事例が示すのは、経済的虐待の典型が、最低賃金を下回る賃金の支払いや賃金の不払いだということです。障害者の財産を持ち去るような行為ではなく、労働基準法・最低賃金法の違反が、被害者が障害者であることによって「虐待」として統計に計上される。経営者にとって、この構図を知っておくことは重要です。通常の賃金計算の誤りであれば是正勧告で終わる事案が、障害者に対するものであれば「使用者による障害者虐待」として労働局から都道府県に情報提供され、公表統計の1件になります。障害者を雇用している会社が点検すべきは、次の3点だと考えられます。

点検1 最低賃金の減額特例の許可を受けているなら、許可の範囲と期間を超えていないか

精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い労働者については、都道府県労働局長の許可を受けて最低賃金を減額して支払うことができます(最低賃金法7条)。この許可は労働者ごと、減額率ごと、期間ごとに出るものです。許可の期間が切れた後も減額した賃金を払い続けていれば、その時点で最低賃金法4条違反であり、経済的虐待に該当しえます。許可を受けた日付と期間、対象者、減額率を一覧にし、更新の要否を賃金改定の時期にあわせて確認する運用が必要です。10月1日から順次発効する令和8年度の地域別最低賃金の改定にあわせて、減額後の時給が新しい水準に照らして正しく計算されているかも確認してください。

点検2 賃金台帳と労働時間の記録が、障害者についても他の労働者と同じ精度で残っているか

経済的虐待の認定は帳簿から始まります。労働基準監督署は賃金台帳と出勤簿を照合して最低賃金割れや不払いを認定するため、記録が不十分であれば会社は反論の手段を失います。短時間勤務や作業内容に応じた特別な時給設定をしている場合ほど、時給、労働時間、控除の根拠を明確にしておく必要があります。就労継続支援A型事業所を運営している法人は特に注意が必要です。A型の利用者は雇用契約に基づいて働く労働者であり、労働基準法と最低賃金法が適用されます。虐待が認められた事業所の業種で医療・福祉が最多の102事業所である背景には、こうした事業所が含まれている可能性が考えられますが、公表資料に業種のさらなる内訳はありません。

点検3 通報義務と事業主の措置を、管理職が理解しているか

障害者虐待防止法22条は、使用者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に、速やかに市町村又は都道府県に通報する義務を課しています。この「発見した者」に会社の管理職や同僚が含まれることを、社内で認識している会社は多くありません。また、同法21条は、障害者を雇用する事業主に、労働者に対する研修の実施、障害者とその家族からの苦情を処理する体制の整備など、虐待防止のための措置を講ずることを求めています。通報や届出をした労働者に対する解雇その他の不利益な取扱いは禁止されています。なお、ここでいう使用者には、派遣労働者の役務の提供を受ける派遣先の事業主も含まれます。障害者を雇用する会社、派遣で受け入れている会社は、ハラスメント相談窓口の設計にこの通報義務と苦情処理体制を組み込んでおくことが実務的です。

7 当法人の視点

2本の公表資料に共通しているのは、行政は「悪意があったか」ではなく「義務が履行されているか」を見るということです。事業停止命令の処分理由に、求職者への被害や不正の意図は一言も出てきません。報告書が出ていない、命令に従っていない、それだけです。障害者虐待の統計でも、経済的虐待の認定に使用者の動機は関係なく、賃金台帳と最低賃金額の差額があるかどうかで決まります。

停止命令については、法律の構造を正確に理解しておく必要があります。報告書の未提出は、それだけで事業を止める事由ではありません。指導、報告徴収、改善命令という3段階の働きかけに応じなかったことが停止命令の根拠であり、今回の事案は行政の側から見れば「十分に待った」事案です。逆にいえば、最初の指導の段階で対応していれば、公表も停止もなかった。行政からの文書に対応する担当者と期限を決めておくこと、届出済みの事業について毎年の報告義務を年間カレンダーに載せておくことが、この処分から会社が引き出すべき教訓だと当法人は考えます。

障害者虐待の統計については、「虐待」という言葉の重さと、その中身の大半が賃金計算の問題であることの落差を、経営者に知っていただきたいと思います。障害者を雇用している会社にとって、最低賃金の減額特例の管理、賃金台帳の精度、通報義務の周知は、障害者雇用の質を上げる取組である以前に、自社が「虐待事業所」として労働局から都道府県に情報提供される事態を避けるための、最低限の守りです。

当法人の見解

労働法令の定期報告は、届出や許可の「更新」に当たるものです。1回出したら終わりの手続ではなく、毎年同じ時期に、同じ基準日で、同じ期限までに出す。自社にどの定期報告が課されているかを一覧にし、基準日と期限と担当者を年間の労務カレンダーに固定することが、今回の停止命令が示した最も実務的な対策だと考えられます。

障害者雇用については、雇う(法定雇用率)、接する(差別の禁止と合理的配慮)、扱う(虐待防止)の3つが、同じ会社の中で同時に走ります。雇用率の達成だけを目標にして賃金計算の精度が伴わなければ、雇った人数が増えるほど経済的虐待として認定されるリスクも増えます。障害者雇用の拡大と、賃金・労働時間の記録の整備は、一体で進めるべきものです。

まとめ

令和8年9月11日、厚生労働省は職業安定法43条の4に基づき、事業概況報告書を提出せず業務改善命令にも従わなかった特定募集情報等提供事業者に対し、報告書が提出されるまで全ての特定募集情報等提供事業を停止する命令を出しました。求職者の情報を収集して求人情報を提供するサービスには、届出と毎年8月31日までの事業概況報告書の提出が義務付けられており、停止命令は指導、報告徴収、改善命令を経た最終段階の措置です。同日公表された令和7年度の使用者による障害者虐待の状況では、通報・届出が1,663事業所・1,953人と増える一方、虐待が認められたのは421事業所・610人と減り、認定された虐待の83.1%が経済的虐待、労働局の措置の85.3%が労働基準関係法令に基づく指導でした。虐待が認められた事業所の56.5%は30人未満の事業所です。

当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。自社に課された届出と定期報告の棚卸し、求人サービスの該当性の整理、障害者を雇用する会社の最低賃金・賃金台帳・通報体制の点検を、経営者と一緒に組み立ててまいります。

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求人サービスの届出該当性の整理、定期報告の年間カレンダー化、障害者雇用の最低賃金減額特例・賃金台帳・通報体制の点検まで、
社会保険労務士法人T&M Nagoya がご相談をお受けします。

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【根拠法令・出典】

職業安定法4条1項・5項・6項・7項(定義)、43条の2(特定募集情報等提供事業の届出)、43条の4(事業停止命令)、43条の5(事業概況報告書の提出)、48条の2(指導及び助言)、48条の3第1項(改善命令)、50条1項(報告)、64条・65条(罰則)/職業安定法施行規則31条の3(事業概況報告書の提出期限)/障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)2条8項(使用者による障害者虐待の定義)、21条(事業主の措置)、22条(通報義務)、28条(厚生労働大臣による公表)/最低賃金法4条(最低賃金の効力)、7条(最低賃金の減額の特例)/厚生労働省「特定募集情報等提供事業者に対する事業停止命令について」(令和8年9月11日報道発表)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76028.html/厚生労働省「特定募集情報等提供事業者に対する業務改善命令について」(令和8年5月22日報道発表)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73138.html/厚生労働省「『令和7年度使用者による障害者虐待の状況等』の結果を公表します」(令和8年9月11日報道発表)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000172598_00013.html および同別添「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」(PDF)/厚生労働省リーフレット「募集情報等提供事業者の皆さまへ 職業安定法が改正され、『募集情報等提供』の範囲が拡大し、事業運営のルールが変わります。」https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000983825.pdf

【参考判例】

本記事は行政処分と公表統計の解説であり、特定の裁判例を扱っていません。

【免責事項】

本記事は2026年9月14日時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。事業停止命令の被処分者の名称は、厚生労働省の報道発表資料全体版(別添PDF)が画像形式であるため、当法人は本記事執筆時点でテキストとして確認できておらず、記載していません。令和8年5月22日の業務改善命令の対象2者(法人1者・個人事業主1者)のうち、停止命令の対象がその双方か一方かも未確認です。障害者虐待の統計数値は厚生労働省の公表資料に基づきますが、事業所数や虐待種別は重複計上を含み、認定率は当法人が公表数値から計算したものです。特定募集情報等提供事業への該当性は、サービスの機能と情報の取扱いによって判断が分かれるため、判断に迷う場合は都道府県労働局の需給調整事業担当部門に照会してください。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。当法人は、特定募集情報等提供事業の該当性の整理と届出・事業概況報告書の作成、労働法令上の定期報告の棚卸し、障害者雇用に関する最低賃金・賃金台帳・相談体制の点検を担い、行政処分に対する不服申立てや訴訟対応、労働者との紛争が必要な局面では提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDENORI MIE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。