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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。 厚生労働省は先週金曜日の9月11日、性質の異なる2本の報道発表を出しました。1本は、職業安定法43条の4に基づく特定募集情報等提供事業の停止命令。求人サイトやスカウトサービスを運営する事業者に対する行政処分です。もう1本は、令和7年度の「使用者による障害者虐待の状況等」の取りまとめです。 前者の処分理由は、不正な求人を掲載したことでも、求職者に不利益を与えたことでもありません。年1回の事業概況報告書を提出せず、その後の業務改善命令にも従わなかった。それだけです。後者は、通報・届出が増える一方で虐待の認定は減り、認定された虐待の8割超が「経済的虐待」、つまり賃金をめぐる問題だったことを示しています。手続と記録の不備が、悪意の有無を問わず、そのまま行政の処分や認定に直結する。2本の資料は、経営者に同じことを教えています。報道発表の本文だけでなく別添の内訳まで読み、自社に引きつけて整理します。 |
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| 1 何が起きたか ― 報道発表の事実関係 | ||||||||||||||||||||||||
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9月11日付の報道発表「特定募集情報等提供事業者に対する事業停止命令について」(職業安定局需給調整事業課労働市場基盤整備室)によれば、厚生労働省は同日、職業安定法43条の4に基づく特定募集情報等提供事業停止命令を行いました。処分理由として挙げられているのは2点です。第1に、職業安定法43条の5が求める事業概況報告書について、令和7年6月1日現在の実施状況を記載したものを、職業安定法施行規則31条の3に定める提出期限を過ぎても提出しなかったこと。第2に、これに対する令和8年5月22日の職業安定法48条の3第1項に基づく業務改善命令に違反したことです。 命令の内容は、全ての特定募集情報等提供事業について、事業概況報告書が提出されるまでの間、当該事業を停止することです。停止期間が「何か月」ではなく「提出されるまで」と定められている点は、後述するとおり、この処分の性格を理解する鍵になります。 5月22日の業務改善命令の報道発表とあわせて読むと、経過は次のように整理できます。 |
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期限徒過から停止命令まで1年余り。行政は段階を踏んでいます。5月の報道発表には、指導に従わず、報告徴収にも応じなかったことが処分理由として明記されており、少なくとも4回の行政からの働きかけを経て停止に至ったことが分かります。 被処分者について付言します。9月11日の報道発表は、被処分者を「別添の一覧表に記載のとおり」としていますが、別添の報道発表資料全体版は画像形式のPDFであり、当法人は本稿執筆時点で事業者名をテキストとして確認できていません。5月22日の業務改善命令の別添には、対象として法人1者と個人事業主1者の名称・所在地が記載されていましたが、9月の停止命令がその双方に出されたのか一方なのかも、本稿では確認できていません。事業者名が必要な方は、末尾の出典に掲げた厚生労働省の報道発表ページから別添PDFをご確認ください。 |
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| 2 「特定募集情報等提供事業」とは ― 令和4年改正で届出制になった範囲 | ||||||||||||||||||||||||
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求人情報を掲載する媒体は、求人と求職を結び付けて雇用関係の成立をあっせんする「職業紹介」(職業安定法4条1項)とは区別され、長らく許可も届出も不要でした。ところが、会員登録、閲覧履歴に基づくおすすめ表示、スカウトメールといった機能が一般化し、「掲載しているだけ」とは言い難いサービスが増えました。そこで令和4年10月1日施行の改正職業安定法は、「募集情報等提供」の範囲をクローリングや他媒体からの転載にまで広げたうえで、そのうち労働者になろうとする者に関する情報を収集して行うものを「特定募集情報等提供」と定義し(同法4条7項)、これを事業として行う者に厚生労働大臣への届出を義務付けました(同法43条の2第1項)。 ここでいう「労働者になろうとする者に関する情報」は、氏名などの個人を識別できる情報に限りません。厚生労働省のリーフレットは、メールアドレス、経歴、サイトの閲覧履歴等を含むと明記しています。したがって、線引きは次のようになります。 |
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届出をした後にも、継続的な義務があります。今回の処分で問われたのは、このうち毎年の事業概況報告書です。 |
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なお、自社の従業員を募集するために自社の採用ページで求人を出す行為は、自ら行う「労働者の募集」(職業安定法4条5項)であって、他者の求人情報を提供する「募集情報等提供」ではありません。したがって一般の会社の採用サイトは、原則としてこの届出の対象になりません。ただし、グループ会社や取引先の求人もまとめて掲載し、応募者や閲覧者の情報を収集しているような場合は、自社募集の範囲を超えていないかを整理しておく必要があると考えられます。 |
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| 3 行政処分は段階を踏む ― 停止命令の直接の根拠は「改善命令違反」 | ||||||||||||||||||||||||
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職業安定法43条の4は、特定募集情報等提供事業者が同法5条の5(求職者等の個人情報の取扱い)、43条の3(求職者からの報酬受領の禁止)、51条(秘密を守る義務)に違反したとき、または48条の3第1項の規定に基づく命令(業務改善命令)に違反したときに、厚生労働大臣が期間を定めて事業の全部又は一部の停止を命ずることができると定めています。 ここで注意していただきたいのは、事業概況報告書の未提出それ自体は、43条の4が列挙する停止命令の発動事由には入っていないことです。今回の停止命令の直接の根拠は、未提出に対して出された業務改善命令に違反したことです。つまり法律の構造上、報告書を1回出し忘れた瞬間に事業が止まるわけではありません。指導(48条の2)、報告徴収(50条1項)、業務改善命令(48条の3第1項)という段階を経て、それでも従わないときに初めて停止命令(43条の4)が出る仕組みになっており、今回の事案はその段階を全て通過しています。 もう1点、命令の期間です。43条の4は「期間を定めて」停止を命ずるとしていますが、今回の命令は「事業概況報告書が提出されるまでの間」と定められました。報告書を出せば停止は解ける設計です。この点から当法人は、今回の命令は違反に対する制裁というより、法律上の義務の履行を確保するための措置としての性格が強いと見ています。ただし、停止中に事業を続ければ64条の刑事罰の対象になりますし、厚生労働省は改善命令の段階から事業者の名称・代表者・所在地を公表しています。求人サービスにとって、「厚生労働省から命令を受けた事業者」として名称が公表されること自体が、命令の内容以上に重い結果だと考えられます。 |
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| 4 自社に関係するのはどんな場合か ― 運営する側と利用する側 | ||||||||||||||||||||||||
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この処分は、2つの立場の会社に関係します。 (1)求人サービスや採用媒体を運営している会社 自社サイトで他社の求人を扱っている会社は、まず自社のサービスが特定募集情報等提供事業に当たらないかを確認する必要があります。判断の軸は「求職者の情報を収集しているか」であり、会員登録やメールアドレスの取得、閲覧履歴の利用があれば該当する可能性が高くなります。該当するなら届出が済んでいるか、そして毎年8月31日までの事業概況報告書が実際に提出されているかを確認してください。届出は事業を始めるときの1回限りの手続と受け止められやすく、毎年の報告書の存在が社内で引き継がれていないことが起こりえます。今回の事案は、まさにこの毎年の報告書が問われたものでした。 (2)求人サイトやスカウト媒体を使って採用している会社 採用を特定の媒体に依存している会社にとって、利用中の媒体が行政処分で止まることは、採用計画に直結するリスクです。今回の命令は報告書が提出されれば解除される設計ですから、短期で復旧する可能性はあります。しかし採用のピーク時に媒体が止まれば、募集の遅れは避けられません。複数媒体の併用、ハローワークの活用、社員紹介など、応募経路を分散させておくことが備えになります。あわせて、媒体を選ぶ際には、届出済みの事業者かどうかを確認する視点も持っておきたいところです。厚生労働省は、届出を受理した特定募集情報等提供事業者の一覧を公表しています。 (3)「届出を出したら終わり」の制度は少ない これは職業安定法に限った話ではありません。労働者派遣事業の事業報告書、有料職業紹介事業の事業報告書、毎年6月1日現在で報告する障害者雇用状況報告と高年齢者雇用状況等報告など、「ある日現在の状況を、毎年決まった期限までに報告する」義務は労働法令の各所にあります。自社に課された定期報告を一覧にし、年間の労務カレンダーに提出期限が載っているか。今回の処分は、その点検を促す材料になります。 |
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| 5 同日公表「令和7年度 使用者による障害者虐待の状況等」 ― 公表資料の数字 | ||||||||||||||||||||||||
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同じ9月11日、厚生労働省雇用環境・均等局総務課労働紛争処理業務室は「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」を公表しました。障害者虐待防止法28条が厚生労働大臣に毎年度の公表を義務付けているもので、令和7年4月1日から令和8年3月31日までに都道府県労働局が把握した通報・届出と対応結果を取りまとめています。ここでいう障害者は障害者基本法2条1号の定義によるもので、障害者手帳を取得していない人も含みます。 報道発表本文のポイントは3点ですが、別添には5年分の推移、虐待種別、事業所の規模別・業種別、労働局が講じた措置の内訳まで載っています。まず推移から見ます。認定率は公表資料にはなく、当法人が人数から計算したものです。 |
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通報・届出は令和3年度の1,230事業所から5年間で3割以上増え、一方で虐待が認められた障害者数は令和5年度の761人をピークに2年連続で減っています。分母が広がり、認定の割合が下がっている構図です。公表資料はこの理由を説明していません。通報の仕組みが浸透して相談のハードルが下がれば、虐待に当たらない事案も含めて母数が広がり、認定率は下がる方向に働きます。当法人はそう読んでいますが、これは推論であり、実際に職場での虐待が減ったのか、把握されていない事案が増えたのかは、この統計からは分かりません。 次に、虐待が認められた610人について、認定された虐待の種別です。1人に複数の虐待が認められた場合は重複計上されており、延べ627人が母数です。 |
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経済的虐待は令和3年度以降、毎年度77%から87%の間で推移しており、令和7年度の83.1%も例年並みの水準です。通報・届出の段階では心理的虐待が868人(39.3%)と経済的虐待997人(45.1%)に迫っていますが、認定の段階では心理的虐待が62人に絞られる一方、経済的虐待は521人が認定されています。賃金の問題は帳簿で確認でき、認定に至りやすい。認定率の差はそのことを示しています。 虐待が認められた421事業所の規模と業種の内訳です。 |
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30人未満の事業所が238事業所、56.5%を占めます。100人未満まで広げると317事業所、75.3%です。虐待を行った使用者429人のうち事業主が359人(83.7%)で、上司は45人(10.5%)にとどまります。就労形態別では、虐待が認められた障害者610人のうちパート・アルバイトが272人(44.6%)、正社員が203人(33.3%)でした。経済的虐待521人の内訳でも、パート・アルバイトが258人と正社員151人を上回っています。時給制で働く障害者の賃金計算に、問題が集中している姿が見えます。 労働局が虐待に対して講じた措置は658件で、労働基準関係法令に基づく指導等が561件(85.3%)、うち最低賃金法に基づく指導等が207件(31.5%)でした。障害者雇用促進法に基づく助言・指導等は45件(6.8%)、労働施策総合推進法に基づくものは39件(5.9%)です。認定された虐待の8割が経済的虐待であることと、措置の8割が労働基準関係法令に基づくことは、同じ事実の表と裏です。 |
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| 6 経済的虐待83.1%の中身 ― 最低賃金法・労働基準法の違反がそのまま「虐待」として数えられる | ||||||||||||||||||||||||
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公表資料の別添2には、労働局が対応した事例が5件掲載されています。経済的虐待の事例は、労働基準監督署が監督指導で発見したもので、卸売業・小売業の従業員5人から29人の事業所において、パート・アルバイトとして働く発達障害の労働者の約定賃金が地域別最低賃金を1時間当たり約600円下回っていたというものです。労働基準監督署は賃金台帳等を確認して事実を認め、最低賃金法に基づき差額の支払いを指導しました。 この事例が示すのは、経済的虐待の典型が、最低賃金を下回る賃金の支払いや賃金の不払いだということです。障害者の財産を持ち去るような行為ではなく、労働基準法・最低賃金法の違反が、被害者が障害者であることによって「虐待」として統計に計上される。経営者にとって、この構図を知っておくことは重要です。通常の賃金計算の誤りであれば是正勧告で終わる事案が、障害者に対するものであれば「使用者による障害者虐待」として労働局から都道府県に情報提供され、公表統計の1件になります。障害者を雇用している会社が点検すべきは、次の3点だと考えられます。 |
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| 7 当法人の視点 | ||||||||||||||||||||||||
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2本の公表資料に共通しているのは、行政は「悪意があったか」ではなく「義務が履行されているか」を見るということです。事業停止命令の処分理由に、求職者への被害や不正の意図は一言も出てきません。報告書が出ていない、命令に従っていない、それだけです。障害者虐待の統計でも、経済的虐待の認定に使用者の動機は関係なく、賃金台帳と最低賃金額の差額があるかどうかで決まります。 停止命令については、法律の構造を正確に理解しておく必要があります。報告書の未提出は、それだけで事業を止める事由ではありません。指導、報告徴収、改善命令という3段階の働きかけに応じなかったことが停止命令の根拠であり、今回の事案は行政の側から見れば「十分に待った」事案です。逆にいえば、最初の指導の段階で対応していれば、公表も停止もなかった。行政からの文書に対応する担当者と期限を決めておくこと、届出済みの事業について毎年の報告義務を年間カレンダーに載せておくことが、この処分から会社が引き出すべき教訓だと当法人は考えます。 障害者虐待の統計については、「虐待」という言葉の重さと、その中身の大半が賃金計算の問題であることの落差を、経営者に知っていただきたいと思います。障害者を雇用している会社にとって、最低賃金の減額特例の管理、賃金台帳の精度、通報義務の周知は、障害者雇用の質を上げる取組である以前に、自社が「虐待事業所」として労働局から都道府県に情報提供される事態を避けるための、最低限の守りです。 |
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| まとめ | ||||||||||||||||||||||||
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令和8年9月11日、厚生労働省は職業安定法43条の4に基づき、事業概況報告書を提出せず業務改善命令にも従わなかった特定募集情報等提供事業者に対し、報告書が提出されるまで全ての特定募集情報等提供事業を停止する命令を出しました。求職者の情報を収集して求人情報を提供するサービスには、届出と毎年8月31日までの事業概況報告書の提出が義務付けられており、停止命令は指導、報告徴収、改善命令を経た最終段階の措置です。同日公表された令和7年度の使用者による障害者虐待の状況では、通報・届出が1,663事業所・1,953人と増える一方、虐待が認められたのは421事業所・610人と減り、認定された虐待の83.1%が経済的虐待、労働局の措置の85.3%が労働基準関係法令に基づく指導でした。虐待が認められた事業所の56.5%は30人未満の事業所です。 当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。自社に課された届出と定期報告の棚卸し、求人サービスの該当性の整理、障害者を雇用する会社の最低賃金・賃金台帳・通報体制の点検を、経営者と一緒に組み立ててまいります。 |
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