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作成日:2026/09/27
実質賃金+2.4%で7か月連続プラス、現金給与総額43万6,401円(+4.7%) 毎月勤労統計 令和8年7月分速報を、10月の最低賃金改定を前にどう読むか(厚生労働省 令和8年9月8日公表)
労務トピックス
実質賃金+2.4%で7か月連続プラス、現金給与総額43万6,401円(+4.7%)
毎月勤労統計 令和8年7月分速報を、10月の最低賃金改定を前にどう読むか(厚生労働省 令和8年9月8日公表)
2026年9月27日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

厚生労働省は昨日9月8日、毎月勤労統計調査の2026年(令和8年)7月分結果速報を公表しました。事業所規模5人以上の労働者1人平均の現金給与総額は43万6,401円、前年同月比4.7%増。物価の影響を除いた実質賃金は2.4%増で、7か月連続のプラスとなりました。

数年前であれば「実質賃金がプラスに転じた」は大きな見出しでした。いまはプラスが続くことに読者が慣れ、記事の扱いは小さくなっています。しかし経営者と社会保険労務士にとって、7月分は特別な意味を持つ数字です。10月1日から地域別最低賃金の改定が順次発効し、全国加重平均は1,177円になります。賃金水準の底が動く直前の、いわば「改定前の最後の全体像」がこの速報です。公表資料の内訳まで読み、自社の10月以降の実務にどうつなぐかを整理します。

📌 この記事でわかること

✓ 2026年7月の現金給与総額は43万6,401円(前年同月比4.7%増)、実質賃金は2.4%増で7か月連続のプラス。報道によれば、3%以上の名目賃金の伸びが6か月続いたのは34年4か月ぶりとされること

✓ 伸びを押し上げたのは夏季賞与を含む「特別に支払われた給与」の6.3%増であり、毎月の給与である所定内給与の伸びは4.1%であること。実質化に用いられた消費者物価指数の上昇率は2.2%であること

✓ パートタイム労働者の時間当たり給与は1,460円(5.7%増)で、10月から順次発効する最低賃金の引上げ率(全国加重平均で約5.0%)をすでに上回る水準にあること

✓ 賃金の伸びが大きい局面では、標準報酬月額の随時改定(月額変更届)の判定漏れと、賞与に係る保険料の上限管理が実務上の落とし穴になること

✓ 「4.7%上げたのに社員の実感がない」という経営者の疑問には、名目と実質の差、そして社会保険料・税の控除という2段階の説明が必要であること

平均値は方向を示しますが、自社の賃金分布は自社の数字でしか分かりません。

1 公表された数字

厚生労働省の速報(事業所規模5人以上、調査産業計)から、賃金に関する主な数値を並べます。速報値は確報で改訂されることがあります。

項目 2026年7月(速報) 前年同月比
現金給与総額 436,401円 +4.7%
 うち きまって支給する給与 301,582円 +4.1%
  うち 所定内給与 280,797円 +4.1%
  うち 所定外給与 20,785円 +3.1%
 うち 特別に支払われた給与(賞与等) 134,819円 +6.3%
実質賃金(現金給与総額) 指数117.6 +2.4%
消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合) 実質化に使用 +2.2%
(参考)事業所規模30人以上の現金給与総額 501,717円 +5.3%

報道によれば、現金給与総額のプラスは55か月連続、実質賃金のプラスは7か月連続で2021年以来の長さ、そして名目賃金が3%以上の伸びを6か月続けたのは1992年3月以来34年4か月ぶりとされています。連続記録は速報資料そのものには記載がなく、報道に基づく数値です。

この表で最初に見るべきは、4.7%という総額の伸びと、4.1%という所定内給与の伸びの差です。総額を押し上げたのは、夏季賞与を含む特別に支払われた給与の6.3%増でした。毎月の給与の伸びも4%台に乗っており、これ自体は高い水準ですが、総額の4.7%をそのまま「月給の上がり方」と読むと実態より大きく見えます。

2 就業形態別と労働時間 ― 報道の本文に出ない内訳

報道は全体平均を伝えますが、速報には一般労働者とパートタイム労働者の内訳、そして労働時間の数値が載っています。実務に直結するのはこちらです。

項目 一般労働者 パートタイム労働者
現金給与総額 578,123円(+4.7%) 123,493円(+4.7%)
所定内給与 356,413円(+3.9%) 113,843円(+4.8%)
時間当たり給与(所定内) ― 1,460円(+5.7%)
総実労働時間 169.5時間(+0.1%) 80.2時間(−0.9%)
所定外労働時間 13.4時間(+0.7%) 2.2時間(0.0%)

調査産業計の総実労働時間は141.6時間(前年同月比0.2%減)、所定外労働時間は9.9時間(1.0%増)、出勤日数は18.3日(0.1日減)でした。常用雇用は5,227万3千人(0.8%増)、パートタイム労働者比率は31.28%(0.04ポイント上昇)です。

ここから読めることが2つあります。第1に、パートタイム労働者の所定内給与の伸び(4.8%)は一般労働者(3.9%)を上回り、時間当たりでは5.7%増となっています。総実労働時間が0.9%減っているのに月額が4.7%増えているのは、単価の上昇が時間の減少を上回っているためです。時給ベースの賃金は、最低賃金の引上げと人手不足の双方に押されて、月給制の正社員より速いテンポで上がっていると考えられます。

第2に、労働時間はほぼ横ばいで、賃金の伸びは「長く働いたから増えた」のではなく「単価が上がったから増えた」ものだと分かります。所定外給与の伸び(3.1%)が所定内給与の伸び(4.1%)を下回っているのも、この見方と整合します。残業の増加に頼らない賃金上昇であることは、人件費の設計を考えるうえで前提になる事実です。

3 実質賃金がプラスになった理由 ― 分子と分母

実質賃金は、名目賃金を消費者物価指数で割って求めます。したがってプラスになる経路は2つしかありません。分子である賃金が伸びるか、分母である物価が落ち着くかです。7月はその両方が起きました。

分子は、春の賃上げが所定内給与に反映されたうえに、夏季賞与が6.3%伸びたことです。分母は、実質化に用いられた消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の上昇率が2.2%にとどまったことです。名目4.7%から物価2.2%を差し引いた差が、おおむね2.4%の実質増に対応します。

ここで注意していただきたいのは、7月の実質プラスの幅は、賞与という一時的な要素と、物価の落ち着きという会社の外にある要素の2つに支えられているという点です。賞与が支給されない月には分子の押し上げがなくなりますし、物価が再び上向けば分母が大きくなります。所定内給与の伸び4.1%と物価2.2%の差である約2%が、月々の賃金が物価に勝っている実力値と見るのが実態に近いと考えられます。

なお、速報の注記によれば、実質化に用いられた消費者物価指数は2020年基準です。総務省は2026年7月分から消費者物価指数を2025年基準に移行しており、基準改定が実質賃金の系列にどう反映されるかは、今後の公表資料で確認する必要があります。

4 10月からの最低賃金改定と重ねて読む

2026年度(令和8年度)の地域別最低賃金は、7月28日の中央最低賃金審議会の目安(全国加重平均1,176円、55円引上げ)を受けて各都道府県で審議され、全国加重平均で1,177円(前年度1,121円から56円、約5.0%の引上げ)となる見込みです。発効日は都道府県ごとに異なり、10月1日から12月2日にかけて順次発効します。愛知県は1,195円で10月1日発効です。

指標 伸び率 主に影響する層
現金給与総額(全体平均・7月) +4.7%(賞与を含む) 正社員を中心とする全体平均。賞与の影響が大きい
所定内給与(全体平均・7月) +4.1% 毎月の基本給・諸手当の水準
パートタイム労働者の時間当たり給与(7月) +5.7%(1,460円) 時給制で働く層の実勢
地域別最低賃金(10月から順次) +56円・約5.0%(全国加重平均1,177円) 時給が下限に近い層。パート・アルバイト比率の高い業種ほど影響が大きい

毎月勤労統計の4.7%と最低賃金の約5.0%は、率としては似た水準です。しかし効く先がまったく違います。前者は賞与を含む全体平均の動きであり、後者は時給の下限を法律で引き上げるものです。パートタイム労働者の時間当たり給与がすでに5.7%伸びているという事実は、時給制の層では市場実勢が最低賃金の引上げ幅に先行していることを示しています。

経営者が「世の中は5%上がっているらしいから、うちも一律5%」と考えると、原資の議論を飛ばした賃上げになりかねません。まず自社の賃金分布を確認し、最低賃金の改定で底上げが必要になる層と、市場実勢との比較で見直しを検討する層を分けて設計することが、統計を実務に接続する最初の一歩です。最低賃金を下回る時給が1人でも残れば、それは最低賃金法4条違反であり、賃上げの是非を論じる以前の問題になります。

5 賃金が伸びる局面で見落とされる3つの手続

名目賃金が4%台で伸び続けているということは、社会保険の手続にも連鎖が起きているということです。統計を自社に引きつけて読むなら、点検すべきは次の3点です。

点検1 随時改定(月額変更届)の判定を、改定月ごとに回しているか

随時改定は、固定的賃金の変動があり、変動月から3か月間の報酬の平均が現在の標準報酬月額と2等級以上異なり、3か月とも支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)であるときに必要になります(健康保険法43条、厚生年金保険法23条)。昇給幅が大きい年は、例年なら1等級の差で収まっていた社員が2等級動きます。7月昇給なら10月改定、10月改定の最低賃金対応で時給を上げるなら翌年1月改定の判定が発生します。給与計算の後工程に判定が組み込まれているかを確認してください。

点検2 賞与の保険料上限に到達する対象者を把握しているか

7月の押し上げ要因が賞与であったことは、賞与支払届と賞与に係る保険料の増加を意味します。標準賞与額には、健康保険で年度累計573万円(健康保険法45条)、厚生年金保険で1か月当たり150万円(厚生年金保険法24条の4)の上限があります。賞与の伸びが続けば、上限に達する対象者が増え、上限到達後の計算を誤ると年度末に精算が生じます。年度累計の管理が給与計算ソフト任せになっていないかを確認してください。

点検3 最低賃金の発効日と、自社の賃金締切日の関係を確認したか

最低賃金は発効日以降の労働に適用されます(最低賃金法4条)。愛知県のように10月1日発効の場合、賃金計算期間が月の途中で始まる会社では、同じ計算期間の中で発効日の前後で適用される時給が変わります。時給者だけでなく、月給者についても月給を時間額に換算した額が最低賃金を下回っていないか、日給者・出来高払いの者も含めて確認が必要です。固定残業代や一部の手当は最低賃金の比較対象から除かれる点にも注意してください。

6 「賃上げしたのに社員の実感がない」への答え方

経営者からよく聞く疑問です。今回の速報は、この疑問に数字で答える材料になります。

第1段階は名目と実質の差です。名目で4.7%上がっても、物価が2.2%上がっていれば、買えるものの量で測った改善は2.4%です。従業員が感じているのは後者です。第2段階は控除です。標準報酬月額が上がれば社会保険料の本人負担も増え、所得税・住民税も増えます。支給額の伸びと手取りの伸びは一致しません。

「4.7%上げたのに感謝されない」のではなく、「4.7%上げて、ようやく生活水準が2%強改善する局面にある」というのが、統計に即した正確な理解です。この2段階を経営者自身が説明できるかどうかで、従業員の受け止め方は変わると考えられます。

7 当法人の視点

この速報を「実質賃金が7か月連続プラスなので、賃上げはひと段落」と読むのは危ういと当法人は考えます。7月のプラス幅を作ったのは賞与と物価の落ち着きであり、いずれも会社が来年も同じ条件で使える材料ではありません。所定内給与の伸びと物価の差である約2%が、月々の賃金の実力値です。この数字を基準に、自社の月例賃金が物価に追いついているかを見るべきです。

同時に、パートタイム労働者の時間当たり給与が5.7%伸びているという事実は、10月の最低賃金改定が「法律に追いつく」対応で終わらないことを示しています。最低賃金に張り付いた時給で採用できる時代は、統計上すでに終わっています。最低賃金への対応と、市場実勢を踏まえた時給設計は、別の問題として同時に進める必要があると考えられます。

当法人の見解

統計の全体平均は、経営判断の方向を示す羅針盤にはなりますが、自社の賃金をどう設計するかの答えにはなりません。答えは自社の賃金分布、すなわち誰の時給がいくらで、最低賃金の改定でどの層に何円の引上げが必要になり、それが月例賃金と賞与と社会保険料にいくらの影響を与えるかという、自社の数字の中にしかありません。

名目4.7%という数字が独り歩きする前に、自社の賃金台帳で同じ計算をしておくこと。それが、10月の改定を受け身で迎えるか、設計して迎えるかの分かれ目になると考えられます。賃上げの原資は統計からは出てきません。原資を生む設計は、自社の数字を知るところから始まります。

まとめ

2026年7月の毎月勤労統計速報では、現金給与総額が43万6,401円(4.7%増)、実質賃金が2.4%増で7か月連続のプラスとなりました。伸びを押し上げたのは夏季賞与を含む特別に支払われた給与(6.3%増)で、所定内給与の伸びは4.1%、実質化に用いられた消費者物価指数の上昇率は2.2%でした。パートタイム労働者の時間当たり給与は1,460円(5.7%増)で、10月から順次発効する最低賃金の引上げ率(約5.0%)を上回っています。実務では、随時改定の判定、賞与の保険料上限、最低賃金の発効日と賃金締切日の関係の3点を点検する局面です。

当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。全体平均の数字を自社の賃金台帳に引き直し、最低賃金への対応と市場実勢を踏まえた賃金設計を、原資の見通しとあわせて一緒に組み立ててまいります。

10月の最低賃金改定を、設計して迎える準備はできていますか

自社の賃金分布の点検、最低賃金対応と時給設計、随時改定・賞与支払届の運用点検、賃上げ原資の見通しづくりまで、
社会保険労務士法人T&M Nagoya がご相談をお受けします。

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【根拠法令・出典】

最低賃金法4条(最低賃金の効力)/健康保険法43条(随時改定)、45条(標準賞与額の決定・年度累計573万円の上限)/厚生年金保険法23条(随時改定)、24条の4(標準賞与額の決定・1か月150万円の上限)/厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年7月分結果速報」(令和8年9月8日公表。事業所規模5人以上、調査産業計。速報値は確報で改訂されることがあります)/厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(令和8年7月28日答申)/各都道府県労働局公表の令和8年度地域別最低賃金の答申状況

【参考判例】

本記事は統計の解説であり、特定の裁判例を扱っていません。

【免責事項】

本記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。本記事の統計数値は速報値であり、確報で改訂される可能性があります。連続記録(55か月連続、7か月連続、34年4か月ぶり)は速報資料に記載がなく、報道に基づく数値です。地域別最低賃金の額と発効日は各地方最低賃金審議会の答申段階の情報であり、官報公示により確定します。産業別の内訳は本記事では扱っていません。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。当法人は、賃金制度の設計、最低賃金への対応、社会保険の随時改定・賞与支払届の運用点検、就業規則・賃金規程の整備を担い、賃金をめぐる交渉代理・訴訟対応が必要な局面では提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDENORI MIE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。