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作成日:2026/09/26
テレワークの制限・廃止で100人中41人が働き方を見直す 「出社回帰の代償」を数字で確かめ、経営者が出社に戻す理由を考える(スキルアップ研究所調べ)
労務トピックス
テレワークの制限・廃止で100人中41人が働き方を見直す
「出社回帰の代償」を数字で確かめ、経営者が出社に戻す理由を考える(スキルアップ研究所調べ)
2026年9月26日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

出社回帰が進んでいます。公益財団法人日本生産性本部が2026年7月30日に公表した第19回「働く人の意識調査」では、雇用者のテレワーク実施率が14.5%と、2020年5月の調査開始以来の最低を更新しました。テレワークを実施している人のうち週5日以上出勤する人は32.5%で過去最多、出勤日が0日の人は10.6%で過去最少です。

一方で、テレワークを制限・廃止したとき働く人がどう反応するのかを、数字で語る資料は多くありません。スキルアップ研究所(運営:株式会社ベンド)が2026年7月31日に公開した「出社回帰の代償に関する試算レポート」は、日本生産性本部の調査結果をテレワーク実施者100人の職場に当てはめ、その規模を試算したものです。結論は、100人のうち41人が何らかの見直しを検討するというものでした。

本記事では、このレポートを引用条件に従って紹介したうえで、レポートが扱っていない2つの点、すなわち企業が出社に戻す理由をどう読むべきか、そして出社回帰を決める前に経営者が確認すべき法的・実務的な点を、当法人の立場から整理します。

📌 この記事でわかること

✓ 雇用者のテレワーク実施率は、2020年5月の31.5%から2026年1月に15.4%、2026年7月には14.5%まで低下し、調査開始時の半分を下回ったこと(日本生産性本部「働く人の意識調査」)

✓ 勤め先のテレワーク制度が制限・廃止された場合、テレワーカーの16.4%が「退職・転職を検討する」、24.9%が「働き方の変更を検討する」と回答しており、合計41.3%、テレワーク実施者100人の職場なら41人に当たること(日本生産性本部2023年調査・スキルアップ研究所試算)

✓ 同じ設問で管理職の「退職・転職を検討する」は9.6%で、テレワーカーとの差は6.8ポイント、約1.7倍であること。ただし管理職の76.1%は部下のテレワークでの仕事ぶりに満足していること

✓ ITエンジニアでは出社回帰が「同じ職種での転職を考えるきっかけになる」が43.7%である一方、企業側で離職率の上昇を見込むのは21.0%にとどまること。すでに出社を増やした企業が挙げた理由の最多は「コミュニケーションが希薄になった」46.6%であること(レバテック2025年調査)

✓ テレワークが労働契約や就業規則で労働条件になっている場合、一方的な廃止は労働契約法8条から10条の問題になること。育児・介護休業法の2025年改正はテレワークを措置の選択肢に組み込んでおり、全面廃止はこの義務との整合を要すること

出社回帰は「元に戻す」判断ではなく、「何のために出社するのか」を設計し直す判断です。

出典と引用について

本記事の第1章から第4章の数値は、スキルアップ研究所「出社回帰の代償に関する試算レポート」(2026年7月31日公開、著作権者:株式会社ベンド)からの引用です(スキルアップ研究所調べ:https://reskill.gakken.jp)。同レポートが一次資料とする日本生産性本部、レバテック、Job総研の各調査については、当法人が各公表資料に当たって数値を確認し、レポート公開後に公表された最新の調査結果を補いました。

なお、引用した数値はいずれも意向を聞いた調査の結果であり、実際の退職・転職の発生率を示すものではありません。この点はレポート自身が留意事項として明記しているものです。

1 出社回帰は、数字の上でも進んでいる

まず、出社回帰が実際に起きているのかを確認します。日本生産性本部が2020年5月から雇用者1,100名を対象に継続している「働く人の意識調査」のテレワーク実施率は、次のとおり推移しています。レポートは第18回(2026年1月)までを扱っていますが、その後に第19回(2026年7月)が公表されたため、本記事では最新値まで示します。

調査時期 テレワーク実施率 備考
2020年5月(第1回) 31.5% 調査開始時・最高値
2023年7月(第13回) 15.5% 新型コロナ「5類」移行後の初回
2024年1月(第14回) 14.8% ―
2024年7月(第15回) 16.3% 一時的に上昇
2025年1月(第16回) 14.6% 当時の過去最低
2025年7月(第17回) 16.8% 一時的に上昇
2026年1月(第18回) 15.4% レポートが用いた直近値
2026年7月(第19回) 14.5% 過去最低を更新(2026年7月30日公表)

低下は一本調子ではなく、2024年7月と2025年7月には上昇した局面もあります。ただ、直近3年ほどはおおむね14%から17%の範囲で推移しており、「5類」移行後の平均は15.6%と公表されています。31.5%から14.5%への低下幅は17.0ポイントで、調査開始時の半分を下回る水準まで下がったことになります。

働く人の側から見た調査も、同じ方向を示しています。パーソルキャリアのJob総研が2026年4月13日に公表した「2026年 出社に関する実態調査」(社会人327人)では、出社頻度が「増える」と答えた人が75.5%、出社頻度は「週5日」が48.3%で最多となり、増える背景として最も多かったのは「会社の方針が変わった」39.7%でした。2025年1月公表の前年調査(675人)では、出社回帰が「ある」「ある予定」の合計が51.9%、理想の出社頻度は「週3日以下」の合計が70.9%でした。会社の方針として出社が増え、働く人の理想とは開きがあるという構図が読み取れます。

1点、レポート自身が注意を促している区別があります。以降で扱う日本生産性本部の調査は「テレワーク制度が制限もしくは廃止となった場合」を聞いたものです。出社頻度を上げても制度自体は残す会社もあるため、「出社回帰」と「テレワーク制度の制限・廃止」は同義ではありません。以下の数値は、出社回帰のうち制度の制限・廃止を伴う場合について読む必要があります。

2 テレワークを制限・廃止すると、41.3%が働き方を見直すと答えている

レポートの主軸は、日本生産性本部が2023年8月7日に公表した「テレワークに関する意識調査」です。この調査は、20歳以上で管理職ではなく直近3か月以内にテレワークを実施した雇用者(テレワーカー)1,000名と、20歳以上の課長相当職で部下が直近3か月以内にテレワークを実施した管理職1,000名を対象に、2023年5月29日から6月6日にかけて実施されました。

この調査では、勤め先でテレワーク制度が制限もしくは廃止となった場合にどう考えるかを、選択肢から1つ選ぶ形式で聞いています。テレワーカーの回答と、それを100人の職場に当てはめたレポートの試算は次のとおりです。

回答(単一回答) 割合 100人当たり(試算)
今の勤め先で継続して働く 58.7% 58.7人
今の勤め先で継続して働くが、時短勤務など働き方の変更を検討する(検討した) 24.9% 24.9人
退職、転職を検討する(退職、転職した) 16.4% 16.4人
何らかの見直しを検討する(上2つの合計) 41.3% 41.3人

「退職、転職を検討する」と「働き方の変更を検討する」は同じ設問の別々の選択肢であり、重複しないため、合計すると41.3%になります。テレワーカーの4割超が、制度が制限・廃止されれば今と同じ働き方を続けない可能性があると答えていることになります。経営の側から見れば、退職・転職の16.4%だけでなく、残る24.9%も労働力の量的な減少や配置の見直しにつながる数字です。

この数値を読むときの注意点が3つあります。第1に、これはテレワークを実施している人の中での割合であって、全従業員に対する割合ではありません。第2に、「検討する」は意向であり、実際に退職・転職が発生する割合ではありません。第3に、調査は2023年5月から6月に実施されたもので、レポートによればこの設問は2026年7月時点で同一の設問での再調査が確認できていません。日本生産性本部の第18回調査(2026年1月)では「転職をするつもりはない」が66.7%、勤め先の業績に不安を感じないが55.3%と、いずれも調査開始以来の最多になっており、雇用者全体の転職意向は2023年時点より低下している可能性があります。41.3%は、上限の見積もりとして読むのが適切だと考えられます。

3 管理職とテレワーカーで、退職・転職の検討率は約1.7倍違う

同じ調査は、管理職1,000名にも同じ設問を投げかけています。両者を並べると次のようになります。

回答 テレワーカー 管理職 差
今の勤め先で継続して働く 58.7% 64.1% −5.4ポイント
働き方の変更を検討する 24.9% 26.3% −1.4ポイント
退職、転職を検討する 16.4% 9.6% +6.8ポイント(約1.7倍)

「退職、転職を検討する」と答えた割合は、テレワーカーが16.4%、管理職が9.6%です。差は6.8ポイントで、テレワーカーは管理職の約1.7倍に当たります。同じ設問・同じ選択肢に対する回答であり、異なるのは回答者の役職です。

ただし、この差の理由をこの調査から特定することはできません。調査は管理職が出社方針の決定に関与しているかどうかを聞いておらず、レポートは両調査の平均年齢に差があること(管理職48.79歳、テレワーカー44.34歳)も指摘しています。役職の違いだけが差を生んでいるとは断定できません。

むしろ注目すべきは、同じ調査で管理職の76.1%が部下のテレワークでの仕事ぶりに満足しており、83.0%が今後も部下にテレワークを継続してほしいと回答していることです。管理職がテレワークに否定的だという構図ではありません。その一方で、テレワークの課題として「孤独感や疎外感の解消策」を挙げる管理職が46.8%にのぼります。管理職は部下の成果には満足しつつ、部下の孤立という別の問題を見ている。出社回帰の議論が「成果が落ちた」という問題としてではなく、「つながりが薄れた」という問題として現れていることが、ここからうかがえます。

4 ITエンジニアでは43.7%、企業側で離職率の上昇を見込むのは21.0%

職種を限定した調査でも、同じ方向の結果が出ています。レバテック株式会社は2025年、正社員のITエンジニア654名(2025年7月15日から18日)と、ITエンジニアを採用する企業でリモートワーク導入可否の決定に関与する担当者・経営者534名を対象とする調査を、それぞれ実施しました(調査主体はレバレジーズ株式会社)。

ITエンジニア側では、現在リモートワークをしている人に「今後勤務先が出社回帰の方針を打ち出した場合、キャリアプランにどのような影響を与えるか」を聞いたところ、「同じ職種での転職を考えるきっかけになる」が43.7%で最多、「特に大きな影響はない」が41.6%でした。現在リモートワークをしている人の約8割が今後も継続を希望し、ITエンジニア全体の約7割が、リモートワークが可能であることを働くうえで重要な条件と答えています。

企業側の調査では、出社頻度を増やすことによるITエンジニアの離職率への影響について「上昇すると思う」が21.0%でした。レポートによれば「大きな影響はない」が63.3%、「低下すると思う」が10.7%です。働く側で転職のきっかけになると答えた43.7%と、企業側で離職率の上昇を見込む21.0%との間には開きがありますが、この2つは設問も対象も異なります。前者は個人が自身のキャリアプランを答えたもの、後者は企業担当者が自社の離職率の見通しを答えたものであり、「企業が離職リスクを2倍過小評価している」と読み替えることはできません。また43.7%はITエンジニアかつ現在リモートワークをしている人に限った数値で、全職種に一般化できません。職種を限定しない数値としては、第2章の16.4%のほうが保守的です。

この企業調査には、出社回帰の理由を知るうえで重要な設問が2つあります。すでに出社頻度を増やした企業(回答企業の36.1%)が挙げた理由と、今後増やすことを検討している企業(25.3%)が挙げた理由です。

すでに出社頻度を増やした企業の理由(複数回答) 今後の増加を検討している企業の理由(複数回答)
コミュニケーションが希薄になった 46.6% マネジメントをしやすくするため 52.6%
新人教育がしにくい 34.2% 生産性を向上させるため 47.4%
従業員の生産性が全体的に低下した 32.1% コミュニケーションを効率化させるため 37.0%
― 他社の出社回帰の動向に影響されたから 35.6%

左右の列は回答企業が異なり、左は出社頻度を増やした企業、右は増加を検討している企業(企業調査534社の25.3%、単純計算で約135社)に限られます。いずれも複数回答であり、上位の項目のみを示しています。このうち「コミュニケーションを効率化させるため」37.0%はレポートの記載によります。

この表には見落とせない対比があります。実際に出社を増やした企業は「コミュニケーションが希薄になった」を最多の理由に挙げ、これから増やす企業は「マネジメントをしやすくするため」を最多に挙げているのです。前者は経験に基づく理由、後者は見込みに基づく理由と読むことができます。そして後者では、3社に1社超が「他社の動向」を判断材料の1つに挙げています。

5 企業はなぜ出社に戻すのか――データが示す理由と、当法人の見解

ここまでの数字を整理すると、出社回帰の理由として調査に現れているのは、コミュニケーションの希薄化(レバテック企業調査46.6%)、新人教育の難しさ(同34.2%)、生産性の低下(同32.1%)、マネジメントのしやすさ(同52.6%)、他社の動向(同35.6%)、そして働く人の側から見た「会社の方針が変わった」(Job総研39.7%)です。調査が測定しているのはここまでであり、なぜコミュニケーションの希薄化が経営上の損失になるのかは、どの調査も測っていません。以下は、その空白を埋める当法人の見解です。

当法人の見解

職場のコミュニケーションには2種類あります。会議、報告、承認といった予定されたやり取りと、雑談、立ち話、隣の席への相談、たまたま耳に入った他部署の話といった予定されないやり取りです。テレワークは前者をオンラインでほぼ再現できましたが、後者を再現できませんでした。そして、新しい発見や気づき、行き詰まった問題の打開は、多くの場合、後者から生まれます。

当法人は、多くの経営者がテレワークを経験して初めて、この予定されないやり取りが経営上の資産であったことを認識したと考えています。テレワークの間、報告は届き、成果も出ていた。管理職の76.1%が部下の仕事ぶりに満足していたという調査結果はそれを裏づけます。それでも「コミュニケーションが希薄になった」が出社を増やした理由の最多になるのは、失われたものが成果ではなく、成果の手前にある発見と打開の機会だったからだと当法人は読んでいます。

ただし、これは調査データから直接導かれる結論ではありません。調査が示すのは「希薄になった」という認識までであり、希薄化と発見・打開の機会との因果関係を測った調査は見当たりません。当法人の実務上の観察に基づく見解として受け止めてください。

また、反対の見方も成り立ちます。これから出社を増やす企業の最多理由は「マネジメントをしやすくするため」であり、「他社の動向」も35.6%あります。管理の都合や横並びで戻すのであれば、従業員にはそのように伝わります。出社の理由を「予定されないやり取りを取り戻す」と言語化し、その場を実際に設計できるかどうかが、100人中41人の見直しを招くかどうかの分かれ目になると考えられます。

6 出社回帰を決める前に確認すべき5つの点

レポートが扱っていないのは、出社回帰の法的な側面です。テレワークの制限・廃止は、会社によっては単なる運用変更ではなく、労働条件の変更に当たります。社会保険労務士の立場から、決定の前に確認すべき点を整理します。

点検1 テレワークが労働条件になっていないか

就業規則、雇用契約書、労働条件通知書、募集要項を確認してください。労働基準法15条1項と同法施行規則5条により、就業の場所は書面で明示すべき事項であり、2024年4月からはその「変更の範囲」も明示事項になっています。就業場所が「自宅」とされ、変更の範囲に事業所が含まれていなければ、出社を命じることは労働条件の変更であり、原則として本人の合意が必要です(労働契約法8条)。就業規則でテレワークを制度として定めている場合、その廃止は就業規則の不利益変更として、同法9条・10条の合理性が問われ得ます。

同種の裁判例として、就業場所を原則として自宅とする労働契約のもとで、業務上の必要性のない出社命令を無効とし、出社しなかった期間の賃金請求を認めた例があります(アイ・ディ・エイチ事件・東京地方裁判所令和4年11月16日判決)。職種を限定する合意がある場合に使用者の一方的な配転命令を違法とした最高裁判決(滋賀県社会福祉協議会事件・最高裁判所第二小法廷令和6年4月26日判決)の考え方は、就業場所を限定する合意にも及ぶと考えられます。

逆に、コロナ対応の臨時措置として社内通知で始め、就業規則にも契約にも定めがない場合は、労働条件になっていないと整理できる余地が大きいと考えられます。ただし、長期間継続し、採用時に「テレワーク可」と説明していた従業員については、個別に合意の有無を確認する必要があります。

点検2 育児・介護中の従業員への措置と整合しているか

育児・介護休業法の2024年改正により、2025年4月1日から、3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるようにする措置が事業主の努力義務となり、短時間勤務が困難な場合の代替措置にもテレワークが加わりました。介護を行う労働者についても、テレワークの措置が努力義務になっています(同法23条・24条)。

さらに2025年10月1日からは、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者について、事業主は「柔軟な働き方を実現するための措置」として、始業時刻等の変更、テレワーク等(月10日以上)、保育施設の設置運営等、養育両立支援休暇(年10日以上)、短時間勤務の5つから2つ以上を選択して講じる義務を負い、労働者はその中から1つを選んで利用できます(同法23条の3)。措置の選択には過半数労働組合等からの意見聴取が必要で、対象者への個別周知と意向確認も義務づけられています。

テレワークをこの措置として選択している会社が全面廃止に踏み切れば、措置の差し替え、再度の意見聴取、周知のやり直しが必要になります。少なくとも育児・介護中の従業員への例外を設計しないまま全員出社を命じると、制度上の矛盾が生じると考えられます。

点検3 手当と費用の変更を、賃金の変更として扱っているか

在宅勤務手当の廃止と通勤手当の復活は、賃金の変更です。賃金規程の変更と届出(労働基準法89条)、過半数労働組合等からの意見聴取(同法90条)が必要になります。テレワークガイドライン(厚生労働省、令和3年3月25日)も、労働者に費用負担をさせる場合は就業規則に定めることを求めています。また通勤手当は社会保険の報酬に含まれるため、通勤手当の新設・増額は固定的賃金の変動として、随時改定の要否を確認する必要があります(健康保険法43条、厚生年金保険法23条)。手当の変更を運用の変更として給与担当者だけで処理すると、後から規程との不一致が問題になります。

点検4 理由を言語化し、段階を踏んでいるか

テレワークガイドラインは、導入に当たって労使で十分に話し合うことを求めています。廃止や制限のときも同じです。「他社がそうしているから」は3社に1社超の企業が判断材料に挙げた理由ですが、従業員を納得させる理由にはなりません。出社日に何をするのか(対面でのレビュー、新人の同席、企画の議論など)を特定し、試行期間を設けて効果を確認してから本格実施に移ることが、41人の見直しを減らす現実的な方法だと考えられます。従業員への説明は、目的、対象、例外、手当、時期の順に、書面で行うことをお勧めします。

点検5 離職リスクを自社の数字で試算しているか

自社のテレワーク実施者数に16.4%を掛けた人数が退職・転職を検討する目安、24.9%を掛けた人数が働き方の変更を検討する目安です。これに1人当たりの採用コストと戦力化までの期間を掛ければ、出社回帰の「代償」が金額になります。ITエンジニアの約7割がリモートワークを働くうえでの重要な条件と答えているという調査結果からすれば、中途採用市場での競争力への影響も見積もりに入れるべきです。意向であって発生率ではありませんが、上限の目安として使う価値があります。

7 当法人の視点

100人中41人という数字は、制度を廃止したときに何が起きるかの上限の見積もりです。実際に41人が辞めるわけではありません。しかし、41人が「今と同じ働き方は続けない可能性がある」と答えている職場で、理由を説明しないまま制度を廃止するのは、経営判断として粗いと当法人は考えます。

出社回帰の是非を、当法人は判断しません。出社には対面での育成や偶発的な発見という目的があり、それを重視する経営判断は合理的です。ただ、「戻す」という言葉が示すように、多くの会社が2019年の職場を基準にしています。2019年の出社ルールに戻しても、2019年の職場は戻ってきません。テレワークを経験した従業員は、出社に対価を求めるようになりました。その対価は、予定されないやり取りが生む発見と成長の機会であり、それを会社が意図して設計し、提供できるかどうかが問われています。

法的に見ると、テレワークが労働条件として定着している会社ほど、慎重な手続が必要になります。そして育児・介護休業法の改正は、テレワークを「あってもなくてもよい福利厚生」から「事業主が講じる措置の選択肢」へと位置づけを変えました。全面出社を選ぶのであれば、例外の設計、規程の改定、手当の見直し、従業員への説明を、1つの計画として組み立てる必要があります。

当法人の見解

出社回帰は「元に戻す」判断ではなく、出社の目的と例外を設計し直す判断です。設計のない回帰は41人の見直しを現実にし、設計のある回帰は出社を「選ばれる理由」に変えます。

そのために経営者が最初にすべきことは、出社日に何が起きてほしいのかを自分の言葉で語ることです。「コミュニケーションが希薄になった」という診断は正しくても、処方箋は「出社させる」ではなく「出社した日に予定されないやり取りが生まれる場をつくる」でなければ、代償だけが残ると考えられます。

まとめ

雇用者のテレワーク実施率は、2020年5月の31.5%から2026年7月には14.5%まで低下し、出社回帰は数字の上でも進んでいます。日本生産性本部の調査では、テレワーク制度が制限・廃止された場合にテレワーカーの16.4%が退職・転職を、24.9%が働き方の変更を検討すると答えており、合計41.3%、100人の職場なら41人に当たります。管理職の退職・転職検討率は9.6%で約1.7倍の差がありますが、管理職の76.1%は部下のテレワークでの仕事ぶりに満足しています。すでに出社を増やした企業の理由の最多は「コミュニケーションが希薄になった」46.6%で、これから増やす企業の最多は「マネジメントをしやすくするため」52.6%でした。テレワークが労働条件になっている会社では、その廃止は労働契約法8条から10条の問題になり、育児・介護休業法の2025年改正はテレワークを措置の選択肢に組み込んでいます。

当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。出社回帰を「戻す」作業として終わらせず、出社の目的と例外を設計し、規程と手続を整え、従業員に説明するところまでを、経営者と一緒に進めてまいります。

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【根拠法令】

労働契約法8条(労働契約の内容の変更)、9条・10条(就業規則による労働条件の変更)/労働基準法15条1項(労働条件の明示)、89条(就業規則の作成・変更・届出)、90条(意見聴取)/労働基準法施行規則5条(就業の場所及びその変更の範囲の明示)/育児・介護休業法23条、23条の3(柔軟な働き方を実現するための措置)、24条(テレワーク等に関する努力義務)(2024年改正、2025年4月1日及び10月1日施行)/健康保険法43条、厚生年金保険法23条(随時改定)/厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月25日)

【参考判例】

アイ・ディ・エイチ事件・東京地方裁判所令和4年11月16日判決(労働判例1287号52頁。就業場所を原則として自宅とする労働契約のもとで、業務上の必要性のない出社命令を無効とした事案)/滋賀県社会福祉協議会事件・最高裁判所第二小法廷令和6年4月26日判決(労働判例1308号5頁。職種限定合意がある場合の使用者の一方的な配転命令を違法とした事案)

【出典・引用】

スキルアップ研究所調べ「出社回帰の代償に関する試算レポート」(2026年7月31日公開、著作権者:株式会社ベンド)https://reskill.gakken.jp/5245/スキルアップ研究所 https://reskill.gakken.jp/公益財団法人日本生産性本部「テレワークに関する意識調査」(2023年8月7日公表)、「第18回 働く人の意識調査」(2026年1月29日公表)、「第19回 働く人の意識調査」(2026年7月30日公表)/レバテック株式会社「リモートワークに関する実態調査」(ITエンジニア対象:2025年8月7日公表、企業対象:2025年8月19日公表。調査主体:レバレジーズ株式会社)/パーソルキャリア株式会社Job総研「2025年 出社に関する実態調査」(2025年1月27日公表)、「2026年 出社に関する実態調査」(2026年4月13日公表)

【免責事項】

本記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。引用した数値はいずれも意向を聞いたアンケート調査の結果であり、実際の退職・転職の発生率や離職率を示すものではありません。100人当たりの人数は、調査の回答割合をテレワーク実施者100人の職場に当てはめたスキルアップ研究所の単純推計であり、業種・企業規模・年齢構成・調査時点以降の雇用環境の変化は考慮されていません。アイ・ディ・エイチ事件については判決文の原文ではなく、複数の判例解説に基づいて記載しています。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。当法人は、テレワーク規程・就業規則・賃金規程の整備、育児・介護休業法改正への対応、労働条件変更の手続設計、従業員説明資料の作成支援を担い、出社命令の拒否や労働条件変更の効力をめぐる交渉・訴訟対応が必要な局面では提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDENORI MIE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。