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厚生労働省は2026年8月5日、毎月勤労統計調査 2026(令和8)年6月分結果速報を公表しました。6月分は夏季賞与が反映され始める月であり、年間の賃金動向を占ううえで注目度の高い回です。本記事では、公表資料の数値を整理したうえで、社労士の視点から「賃上げの持続力」と業種間格差の読み方を解説します。
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📌 この記事のポイント ✓ 現金給与総額は531,677円・前年同月比3.4%増。5か月連続で3%以上の伸びは34年3か月ぶり(1992年3月以来) ✓ 実質賃金(持家の帰属家賃を除く総合ベース)は+1.6%・6か月連続プラス。ただし物価の伸び鈍化(+1.9%)に支えられた面が大きい ✓ 業種別の現金給与総額の伸びは最大21ポイント超の開き。ただし主因は賞与であり、きまって支給する給与ではほとんどの業種がプラス ✓ 10月発効の最低賃金引上げ(目安:全国加重平均55円・4.9%)と併せた原資確保の議論が急務 |
まず、公表された数字を整理します(いずれも事業所規模5人以上、カッコ内は前年同月比)。
| 項目 | 金額 | 前年同月比 |
| 現金給与総額〔規模5人以上〕 | 531,677円 | 3.4%増 |
| 現金給与総額〔規模30人以上〕 | 646,206円 | 3.3%増 |
| きまって支給する給与 | 299,232円 | 3.4%増 |
| 所定内給与 | 279,189円 | 3.4%増 |
| 所定外給与 | 20,043円 | 2.8%増 |
| 特別に支払われた給与(賞与等) | 232,445円 | 3.5%増 |
| 区分 | 項目 | 金額 | 前年同月比 |
| 一般労働者 | 現金給与総額 | 715,604円 | 3.6%増 |
| 一般労働者 | 所定内給与 | 355,475円 | 3.6%増 |
| パートタイム労働者 | 現金給与総額 | 129,042円 | 3.5%増 |
| パートタイム労働者 | 所定内給与 | 112,192円 | 3.0%増 |
| パートタイム労働者 | 時間当たり給与(所定内) | 1,444円 | 4.3%増 |
| 実質化に用いた指数 | 前年同月比 | 参考:消費者物価指数の前年同月比 |
| 消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合) | 1.6%増(6か月連続プラス) | 1.9%上昇 |
| 消費者物価指数(総合) | 1.7%増 | 1.7%上昇 |
| 項目 | 実数 | 前年同月比/前年差 |
| 総実労働時間 | 139.2時間 | 0.3%減 |
| 所定内労働時間 | 129.5時間 | 0.3%減 |
| 所定外労働時間 | 9.7時間 | 0.0%(横ばい) |
| 出勤日数 | 18.1日 | 前年差 0.0日 |
今回の発表資料で厚労省自身が付した注記が、この数字の異例さを物語っています。
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公表資料に付された連続記録の注記 ・現金給与総額〔規模5人以上〕:5か月連続で3%以上の伸び。これは34年3か月ぶり ・現金給与総額〔規模30人以上〕:5か月連続で3%以上。34年10か月ぶり ・きまって支給する給与:5か月連続で3%以上。34年2か月ぶり ・所定内給与:6か月連続で3%以上。33年8か月ぶり ・一般労働者の現金給与総額:5か月連続で3%以上は、調査開始(1994年1月)以来 ・一般労働者の所定内給与:6か月連続で3%以上は、調査開始(1994年1月)以来 ・パートタイム労働者の時間当たり給与:60か月連続プラス(=5年間連続) |
「34年ぶり」とは、およそ1992年前後、すなわちバブル経済の余熱が残っていた時期以来という意味です。一般労働者について「調査開始以来」とされているのは、現行の統計が始まった1994年以降、5か月・6か月と連続して3%台の賃上げが続いたことが一度もなかったということです。
【私見】この数字が示しているのは、単年度の春闘が好調だったということではなく、「賃上げが月次の統計に定着として現れる段階に入った」ということです。2024年・2025年・2026年と3年連続で高い賃上げ率が続いた結果、所定内給与という最も動きの遅い項目が、6か月連続で3%台に乗ったわけです。
実質賃金は、名目賃金指数を消費者物価指数で割って算出します。厚労省は2つの指標を併記しており、持家の帰属家賃を除く総合(賃金の購買力を示す主指標)で実質化したベースで+1.6%・6か月連続プラス、総合(国際比較用)で実質化したベースで+1.7%です。
当法人のブログでは、2026年7月に「4月分の実質賃金+1.9%・4か月連続プラス」「5月分の実質賃金+1.4%・5か月連続プラス」を取り上げました。今回の6月分(+1.6%)で、6か月連続プラスとなります。
実質賃金がプラスを維持している要因は、名目賃金の伸び(3.4%)が、物価の伸び(1.9%)を上回っていることに尽きます。ここで重要なのは、物価上昇率が鈍化しているという点です。参考値の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比は1.9%で、2023年前後に3〜4%台で推移していた局面と比べれば明確に落ち着いています。
【推測】したがって現在の実質賃金プラスは、「賃上げが加速したから」というより、「賃上げが高水準で維持されているところに、物価の伸びが落ちてきたから」という要因が大きいと考えられます。逆に言えば、物価が再加速すれば、名目3%台でも実質賃金はマイナスに転落しうるということです。エネルギー価格や為替の動向次第では、秋以降に構図が変わる可能性があります。
6月は夏季賞与の支給が始まる月です。特別に支払われた給与は232,445円(3.5%増)でした。現金給与総額531,677円のうち約43.7%が特別給与であり、6月の賃金統計は実質的に賞与統計でもあります。
注意すべきは、賞与の支給時期は企業によってばらつきがあるという点です。6月支給の企業と7月支給の企業があるため、6月分だけで夏季賞与の全体像を判断することはできません。【私見】7月分(9月上旬公表見込み)と合わせて評価するのが実務上は適切です。
とはいえ、特別給与が3.5%増と、きまって支給する給与の伸び(3.4%増)とほぼ同水準になっている点は注目に値します。【推測】基本給の引上げ分が賞与算定基礎にも反映され、賃上げが一時金にも波及していると読めます。
統計表(第1表)から現金給与総額の前年比を業種別に見ると、極めて大きな開きが生じています。
| 業種 | 現金給与総額 | 前年比 |
| 学術研究等 | 892,262円 | 11.7%増 |
| 金融業,保険業 | 1,125,656円 | 11.6%増 |
| 生活関連サービス等 | 320,881円 | 9.4%増 |
| 電気・ガス業 | 1,262,688円 | 7.3%増 |
| 医療,福祉 | 455,586円 | 5.8%増 |
| 教育,学習支援業 | 817,746円 | 5.4%増 |
| 情報通信業 | 1,017,876円 | 4.9%増 |
| 業種 | 現金給与総額 | 前年比 |
| 鉱業,採石業等 | 670,076円 | 9.7%減 |
| 不動産・物品賃貸業 | 643,432円 | 4.7%減 |
| 建設業 | 607,369円 | 1.2%減 |
| 複合サービス事業 | 674,106円 | 1.3%減 |
| 卸売業,小売業 | 410,644円 | 0.4%減 |
学術研究等(+11.7%)と鉱業等(▲9.7%)の間には、最大21ポイント超の開きがあります。
ここで重要なのが、きまって支給する給与では、これらの業種もプラスを維持しているという事実です。建設業は現金給与総額▲1.2%ですが、きまって支給する給与は+3.2%・所定内給与は+3.8%(特別給与▲7.8%)。卸売業・小売業も現金給与総額▲0.4%に対し、きまって支給する給与+2.9%・所定内給与+3.0%(特別給与▲5.8%)。鉱業・採石業等も現金給与総額▲9.7%に対し、きまって支給する給与は+0.8%(特別給与▲19.2%)です。
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⚠️ 実務上の注意 マイナスの正体は月例給の引下げではなく、賞与の減少(または支給時期のずれ)です。顧問先から「うちの業界は賃金が下がっているらしい」と相談を受けた際、現金給与総額だけを見て回答するのは危険です。きまって支給する給与・所定内給与を確認し、賞与の変動要因を切り分けて説明する必要があります。 |
所定外労働時間が9.7時間と前年同水準にとどまっている点は、賃金の伸びが残業代によるものではなく、所定内給与によるものであることを裏づけています。実際、所定外給与は20,043円(+2.8%)と、所定内給与の伸び(+3.4%)を下回っています。
業種別の所定外労働時間では、運輸業・郵便業が20.9時間(3.6%増)と全業種で最長です。2024年4月からの自動車運転業務の時間外労働上限規制(年960時間)を踏まえると、月20時間台での推移は上限内に収まる水準ではありますが、増加傾向にある点は注視が必要です。【私見】繁忙期の偏りを考慮すると、年間ベースでの管理が引き続き重要です。
一方、金融業・保険業の所定外労働時間は13.9時間(9.5%増)と大きく伸びています。【推測】賃金(+11.6%)の伸びと合わせて、業績好調に伴う業務量増加を示唆している可能性があります。
厚労省が資料上で明示している注意事項です。顧問先への説明時に必ず添えるべき内容です。
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(1) 調査対象事業所の部分入替えによる「断層」 2026年1月に調査対象事業所の部分入替えが行われ、入替え前後の新旧比較で現金給与総額に▲1,582円(▲0.5%)、きまって支給する給与に▲801円(▲0.3%)の断層が生じています。前年同月比の数値には、この断層の影響が含まれています。 |
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(2) 速報値は確報で改訂されうる 今回の数値はあくまで速報値です。直近の月次データにも確報時に改訂された値が含まれています。 |
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(3) 共通事業所ベースの数値も併記されている サンプル入替えの影響を受けにくい「共通事業所」ベースでは、現金給与総額は就業形態計+4.4%・一般労働者+4.5%・パートタイム労働者+3.3%。公表値より1ポイント程度高く、【推測】断層の影響を除いた実勢は公表値よりやや強い可能性があります。なお今回の調査対象事業所数は33,059事業所、回答は21,749事業所、回収率は65.8%でした。 |
2026年7月28日、中央最低賃金審議会の目安小委員会は、2026年度の地域別最低賃金の目安を全国加重平均55円(引上げ率4.9%)・改定後1,176円とする答申を取りまとめました(当法人ブログ7月記事参照)。一方、今回の統計が示すパートタイム労働者の時間当たり給与は1,444円(+4.3%)です。最低賃金の目安引上げ率4.9%は、パート時給の実勢の伸び(4.3%)をやや上回る水準にあります。
【私見】これは、最低賃金の引上げが市場実勢を追いかける段階から、実勢を押し上げる段階へ移りつつあることを示唆します。地域別最低賃金に近い水準で人を雇っている顧問先ほど、10月の発効に向けた原資の確保が急務です。
顧問先の賃金改定を支援する際、「世間相場」の裏づけとして本統計は有用です。ただし、賃上げ率の説明には「きまって支給する給与」「所定内給与」(+3.4%)を、年収ベースの説明には「現金給与総額」(+3.4%)を、パートの時給改定には「時間当たり給与」(1,444円・+4.3%)を使い分けるべきです。現金給与総額は賞与の支給時期に大きく左右されるため、月例給の改定率を議論する場に持ち込むと議論が混乱します。賃金体系や割増賃金の整合性の点検には、当法人の給与監査顧問もご活用いただけます。
実質賃金には、持家の帰属家賃を除く総合で実質化したもの(+1.6%)と、総合で実質化したもの(+1.7%)の2種類があります。報道によってどちらを使うかが異なるため、数値が食い違って見えることがあります。厚労省は前者を「賃金の購買力を示す」主指標、後者を「国際比較用」と位置づけています。
・2026年夏季賞与の最終的な水準:6月分速報のみでは判断できません。7月分(9月上旬公表見込み)を待つ必要があります。
・秋以降の物価動向と実質賃金の見通し:本記事では予測を行いません。物価の前提次第で結論が大きく変わるためです。
・2026年度の地域別最低賃金の各都道府県の答申状況:本記事作成時点(2026年8月5日)では、目安(全国加重平均55円)が示された段階までを確認済みです。
本日公表された6月分速報が示したのは、@名目賃金の3%台の伸びが定着したこと(一般労働者は1994年の調査開始以来はじめての連続記録)、A実質賃金は6か月連続プラスだが物価の鈍化に支えられており構図は変わりうること、B業種間格差は最大21ポイント超だが主因は賞与であり月例給はほとんどの業種でプラスであること、の3点です。
社労士としては、「賃金が上がっている/下がっている」という粗い議論に付き合わず、月例給と賞与を切り分け、所定内給与の伸びを軸に説明することが求められます。当法人は、この統計を土台に、10月の最低賃金発効に向けた原資確保まで含めて、経営者に伴走しながら賃金戦略の設計を支援してまいります。
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【出典】 ・厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年6月分結果速報」(2026年8月5日公表) 【免責事項】 本記事は2026年8月5日時点の公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的・経営判断上の助言を構成するものではありません。統計数値は速報値であり、確報で改訂される場合があります。【私見】【推測】と付した部分は筆者の見解であり、厚生労働省の公式見解ではありません。具体的な事案については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。 |
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この記事を書いた人 三重 英則(みえ ひでのり) 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 |