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作成日:2026/09/20
令和8年の賃上げ率は5.18%――3年連続5%台も伸びは鈍化 大手5.18%・連合全体5.01%・中小4.69%から読む2026年後半の賃金実務
労務トピックス

令和8年の賃上げ率は5.18%――3年連続5%台も伸びは鈍化
大手5.18%・連合全体5.01%・中小4.69%から読む2026年後半の賃金実務

厚労省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」(2026年7月31日公表)と連合最終集計を読み解く

2026年9月20日|社会保険労務士法人T&M Nagoya

2026年7月31日、厚生労働省が「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」を公表しました。平均妥結額は18,167円、賃上げ率は5.18%。前年(18,629円・5.52%)から額で462円、率で0.34ポイント低下したものの、妥結額は2年連続の18,000円台、賃上げ率は3年連続の5%台という高水準を維持しています。

「高水準だが、前年より鈍った」。この2つを同時に押さえることが、2026年後半の賃金実務を考えるうえでの出発点になります。本稿では、厚労省集計と連合の最終集計を並べて構図を整理し、中小企業の経営者・人事担当者が秋以降の賃金改定で押さえるべきポイントを解説します。

📌 本記事の要点

・厚労省集計(資本金10億円以上・従業員1,000人以上・組合ありの428社)の賃上げ率は5.18%(前年比0.34ポイント減)

・連合最終集計(7月3日公表)は全体5.01%、300人未満の中小組合は4.69%で前年比0.04ポイント増と健闘

・令和8年度の最低賃金目安は全国加重平均55円増・1,176円(7月28日答申)。中小企業は「上(賃金相場)と下(最低賃金)」から挟まれる構図に

・8月1日から雇用保険の基本手当日額も引上げ。賃金テーブルの見直しは、地方最低賃金審議会の答申が出そろう8月下旬〜9月が適期

1. 厚労省集計の中身――どんな企業を集計したのか

数字を読む前に、集計の母集団を確認しておくことが決定的に重要です。厚生労働省の集計対象は、妥結額などを把握できた、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業428社です。つまりこれは、日本の大企業のうち労働組合があるところの数字であり、中小企業の実感とははじめから別の世界を測っている統計だということになります。

経営者から「今年の賃上げは5%だそうですね」と言われたとき、「その5.18%は、資本金10億円以上・従業員1,000人以上・組合ありの428社の数字です」と補足できるかどうかで、その後の議論の質が大きく変わります。

■ 数値の整理(厚労省集計)

項目 令和8年(2026年) 令和7年(2025年) 増減
集計対象企業数 428社
平均妥結額 18,167円 18,629円 ▲462円
賃上げ率 5.18% 5.52% ▲0.34ポイント

※出典:厚生労働省「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」(2026年7月31日公表)。賃上げ率は現行ベース(交渉前の平均賃金)に対する率。なお、産業別・企業規模別の内訳(第1表〜第4表)は公表資料に掲載されていますが、本記事執筆時点では詳細数値の確認ができていません。

2. 連合の最終集計との対比――大手5.18%、連合全体5.01%、中小4.69%

厚労省集計だけを見ていると、実像を見誤ります。連合(日本労働組合総連合会)が2026年7月3日に公表した2026春季生活闘争の第7回(最終)回答集計(7月1日午前10時時点の集計)と並べると、構図がはっきりします。

■ 連合最終集計の数値(平均賃金方式・加重平均)

区分 集計組合数 賃上げ額 賃上げ率 前年同時期比
全体(定昇相当込み) 5,368組合 16,400円 5.01% 額+44円/率▲0.24pt
うち賃上げ分(ベア)が明確な組合 3,732組合 11,510円 3.50% 額▲217円/率▲0.20pt
300人未満の中小組合(定昇相当込み) 3,831組合 12,866円 4.69% 額+505円/率+0.04pt
うち中小のベアが明確な組合 2,385組合 9,840円 3.51% 額+372円/率+0.02pt

※出典:連合「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果」(2026年7月3日公表)。当法人にて連合公表のプレスリリースPDF原典を直接確認しています。

■ 3つの数字を並べる

集計主体 対象 賃上げ率
厚生労働省 資本金10億円以上・従業員1,000人以上・組合あり(428社) 5.18%
連合 傘下労組全体(5,368組合) 5.01%
連合 300人未満の中小組合(3,831組合) 4.69%

※3統計は集計対象・手法が異なるため厳密な比較はできませんが、規模による水準差を俯瞰する目安になります。

大手と中小の差は約0.5ポイント。この差をどう読むかが、実務上の分かれ目になります。

「中小の健闘」という読み方

注目すべきは、300人未満の中小組合の賃上げ率4.69%が、前年同時期比で0.04ポイント上昇し、額でも505円増となっている点です。全体が0.24ポイント下がるなかで、中小だけが微増した。つまり2026年春闘は「大手が減速し、中小が横ばい〜微増」という構図だったことになります。格差そのものは残っていますが、拡大はしていないという読み方ができます。

さらに連合の集計では、中小のベア分3.51%が全体のベア分3.50%を率でわずかに上回ったことも示されています。

ただし注意が必要です。連合の中小組合の数字は、あくまで労働組合がある中小企業の数字です。日本の中小企業の多くには労働組合がなく、組合のない中小企業の実態はこの統計には現れていないと考えられます(この点は当法人の推測を含みます)。

3. なぜ鈍化したのか――3つの仮説(当法人の推測)

厚労省・連合ともに、鈍化の理由を明示的に分析した記載は確認できていません。以下はあくまで当法人の推測として整理します。

仮説@ 3年分の積み上げによる「分母効果」。2024年から3年連続で5%台の賃上げが続いた結果、賃金水準そのものが相当に上がっています。同じ絶対額を積んでも、分母が大きくなれば率は下がります。18,167円という額は前年比462円減にとどまり、率の低下(0.34ポイント)の一部はこの分母効果で説明できる可能性があります。

仮説A 原資の限界。一方で、額そのものが減っているのも事実です。原材料価格・エネルギー価格・人件費の同時上昇のなかで、賃上げ原資の確保が3年目にして限界に近づいている企業があるという可能性は否定できません。

仮説B 実質賃金との関係。物価上昇率が落ち着けば、名目賃上げ率が下がっても実質ではプラスを維持できます。労使双方にとって、5%台を死守する動機が前年より弱まった可能性があります。

いずれも確認された分析ではなく、現時点で鈍化の要因を断定できる公的資料は見つかっていません。

4. 最低賃金との関係――「上と下」から挟まれる中小企業

2026年の賃金実務を考えるうえで、春闘の数字と切り離せないのが最低賃金です。2026年7月28日、中央最低賃金審議会は令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を取りまとめました。目安は全国加重平均で55円増・時給1,176円(引上げ率4.9%)です。今後、8月にかけて各都道府県の地方最低賃金審議会が答申を行い、例年どおりであれば10月頃に改定額が発効する流れとなります。

ここで生じるのが、中小企業にとっての「挟み撃ち」の構造です。下からは、最低賃金の引上げにより賃金テーブルの下限が押し上げられる。上からは、大手の5%台賃上げにより採用競争上の賃金相場が押し上げられる。下限が上がり、相場も上がる。その間に挟まれた中小企業では、下位等級と上位等級の差が縮まる「賃金テーブルの圧縮」が進行しやすくなると考えられます。

この局面は、待ちの姿勢では対応できません。賃金テーブル全体のレンジ設計を見直す時期に来ている企業が相当数あると当法人は考えています。

5. 8月に押さえておきたい、その他の公表事項

■ 雇用保険の基本手当日額が8月1日から引上げ(7月31日公表)

厚生労働省は7月31日、雇用保険の基本手当日額を8月1日から変更する旨を公表しました。主な変更点は次のとおりです。

項目 変更前 変更後(8月1日〜)
基本手当日額の下限額 2,411円 2,562円(+151円)
基本手当日額の上限額 年齢階層別(例:45〜60歳未満 8,870円) 年齢階層に応じて+195円〜+240円(例:45〜60歳未満 9,110円)
高年齢雇用継続給付の支給限度額 386,922円 397,369円
育児時短就業給付金の支給限度額 471,393円 484,121円

※出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更」(2026年7月31日公表・8月1日適用)。下限額の伸びが大きいのは、地域別最低賃金の全国加重平均額をもとに算定される最低賃金日額が適用されたためであり、ここでも最低賃金の引上げが他制度に波及していることが確認できます。

■ 令和8年度「全国労働衛生週間」(第77回・7月31日公表)

厚生労働省は、令和8年度(第77回)全国労働衛生週間の実施を発表しました。本週間は10月1日(木)〜7日(水)、準備期間は9月1日〜30日です。今年度のスローガンは「ひとりひとりが貴重な人材 心も体も健やかに みんな生き生き健康職場」とされています。重点事項には、高年齢労働者を含めた労働者の健康管理、過労死等の防止と長時間労働による健康障害対策、メンタルヘルス対策、病気と仕事の両立支援、化学物質対策(特定化学物質障害予防規則・石綿障害予防規則の徹底)、各事業場でのリスクアセスメントと低減対策の実施促進などが掲げられています。

高年齢労働者の健康管理が筆頭に置かれている点は注目に値します。2026年4月から改正労働安全衛生法により高年齢労働者の労働災害防止対策が事業者の努力義務となったこととの連続性がうかがえます。準備期間は9月1日からですので、社内周知や衛生委員会での取り上げは8月中に準備しておくのが実務的でしょう。

6. 実務上のポイント――秋以降の賃金改定にどう備えるか

■ 「うちは何%上げるべきか」への答え方を用意する

秋以降、経営会議で必ず出る論点です。このとき、5.18%という数字を単独で扱うのは危険だと当法人は考えます。参照すべきは「大手(組合あり・1,000人以上)5.18%/組合のある企業全体5.01%/組合のある中小(300人未満)4.69%」という3層構造であり、そのうえで「自社が採用競争で誰と競合しているか」を軸に検討することです。同業の中小と競合しているのか、大手と競合しているのかで、目指すべき水準はまったく変わります。

■ 賃金テーブルの「圧縮」を可視化する

最低賃金の引上げが続く局面では、下位等級だけが機械的に押し上げられ、等級間の差が消える現象が起きやすくなります。これは昇格のインセンティブを失わせ、中堅層の離職を招きうる問題です。対策の第一歩は、現行テーブルの各等級の下限額と、改定後の最低賃金とを重ねた図を作ること。これだけで経営層に問題を可視化できます。地方最低賃金審議会の答申が出そろう8月下旬〜9月が、この作業の適期です。

■ 賃上げと「昇給の仕組み」をセットで考える

連合集計では、ベア分は全体3.50%・中小3.51%と、ベア率については大手と中小でほとんど差がありません。差がついているのは、主に定期昇給部分を含めた総額です。つまり、中小企業に不足しているのは「上げる意思」よりも「昇給の仕組み(等級制度・評価制度・定期昇給の枠組み)」である可能性があると考えられます。賃上げの検討を、制度整備の検討に接続することが、持続可能な賃金政策への近道です。

☑ 8月〜9月のチェックポイント

☑ 自県の地方最低賃金審議会の答申(8月中)と発効日(例年10月頃)を確認したか

☑ 改定後の最低賃金額で、現行の賃金テーブル(最下位等級・地域手当・時給者)に抵触する者がいないか試算したか

☑ 等級間の昇給ピッチが圧縮されていないか(下位等級だけが上がっていないか)を確認したか

☑ 8月1日以降の離職者について、雇用保険の基本手当日額の変更を踏まえた説明ができるか

☑ 全国労働衛生週間(準備期間9月1日〜)の社内周知・衛生委員会での取り上げを準備したか

7. 現時点で確認できなかった事項

正確性の観点から、本記事執筆時点で確認できなかった事項を明示します。

・厚労省集計の産業別・企業規模別の内訳(第1表〜第4表)および過去10年の推移(第2表)の詳細数値:現時点では確認できていません。本記事では、厚労省本文に明記された「2年連続18,000円台」「3年連続5%台」という記述のみを事実として記載しています。

・賃上げ鈍化の要因分析:厚労省・連合いずれも公式な要因分析は確認できていません。本記事第3章はすべて当法人の推測です。

・令和8年度地域別最低賃金の各都道府県の答申状況:本記事執筆時点では、各地方最低賃金審議会の答申は確認していません。

まとめ

2026年の賃上げをめぐる数字を、最後にもう一度整理します。

・厚労省「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」(7月31日公表):428社/18,167円/5.18%(前年:18,629円/5.52%)

・連合 2026春季生活闘争 最終集計(7月3日公表):5,368組合/16,400円/5.01%(前年同時期比 額+44円・率▲0.24ポイント)

・連合 300人未満の中小組合:3,831組合/12,866円/4.69%(同 額+505円・率+0.04ポイント)

・令和8年度最低賃金の目安(7月28日答申):全国加重平均55円増・1,176円(4.9%)

3年連続の5%台。しかし伸びは鈍化。そして中小はわずかに持ちこたえた。この局面で求められるのは、率の高低を論評することではなく、「その率を、自社のどの等級に、どう配分するか」という設計です。8月から9月にかけて、最低賃金の答申が出そろいます。賃金テーブルを開くなら、今です。

賃金テーブルの見直し・賃金制度の設計は当法人にご相談ください

社会保険労務士法人T&M Nagoyaでは、給与監査顧問就業規則作成・改訂給与計算代行を通じて、最低賃金対応から等級制度・賃金テーブルのレンジ設計まで一貫して支援しています。

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▼ 出典・参考資料

・厚生労働省「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況を公表します」(令和8年7月31日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74889.html

・連合「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果について」(2026年7月3日) https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2026/yokyu_kaito/

・厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(令和8年7月28日)

・厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更」(令和8年7月31日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74837.html

・厚生労働省「令和8年度『全国労働衛生週間』を10月に実施します」(令和8年7月31日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74929.html

※本記事は2026年8月3日時点の公表情報に基づき作成しています。統計数値は各集計主体の公表資料によりますが、集計対象・手法が異なるため相互の厳密な比較はできません。賃上げ水準および賃金制度の設計は、業種・地域・企業規模・経営状況により大きく異なります。実際の制度設計にあたっては、事案に即した個別の検討をお願いいたします。本記事中の分析・見通しのうち推測である旨を付した部分は、当法人の見解であり、公的機関の公式見解ではありません。

― 執筆 ―

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号 第160175号