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作成日:2026/07/25
最低賃金1,500円目標は「遅くとも2030年代前半」へ ―骨太方針2026閣議決定と、大詰めを迎えた令和8年度目安審議を読む
労務トピックス 2026年7月24日

最低賃金1,500円目標は「遅くとも2030年代前半」へ
――骨太方針2026閣議決定と、大詰めを迎えた令和8年度目安審議を読む

― 閣議決定の2日後、厚労大臣が審議会に「配意」を要請。中小企業がいま押さえるべきポイント ―

2026年7月25日|社会保険労務士法人T&M Nagoya

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

2026年7月21日、政府は「日本成長戦略」と「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針2026)」を閣議決定しました。その2日後の7月23日には、令和8年度の最低賃金の目安を審議する中央最低賃金審議会・目安に関する小委員会(第4回)が開催され、上野賢一郎厚生労働大臣から「閣議決定されたこれらの方針に配意した調査審議をお願いする」旨の依頼文が示されました。目安審議はまさに大詰めです。

今回の閣議決定文書で特に注目すべきは、政府の看板目標であった「2020年代に全国平均1,500円」の達成時期が「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」へと事実上見直されたことです。本記事では、目安小委員会に提出された資料をもとに、閣議決定文書のポイントと令和8年度審議の現在地、そして中小企業が今から準備すべき実務対応を解説します。

📌 本記事の要点

● 2026年7月21日、「日本成長戦略」と「骨太方針2026」が閣議決定。7月23日の目安小委員会(第4回)で、厚労大臣がこれらへの「配意」を審議会に要請
● 「2020年代に全国平均1,500円」目標は、「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」達成へと時期の表現が見直された
● 新KPIとして「2029年度までに実質賃金で年1%程度の上昇を賃上げのノルム(社会通念)として定着」を明記
● 令和8年度の目安額は本記事執筆時点(7月24日)で未確定。7月末を目途に答申、8月に地方審議、10月頃から順次発効の見込み
● 改正「同一労働同一賃金ガイドライン」(家族手当・住宅手当等の考え方を明確化)が2026年10月から適用されることも閣議決定文書に明記

1. いま何が起きているのか ― 閣議決定の2日後、大臣が審議会へ「配意」を要請

令和8年度の地域別最低賃金の目安審議は、2026年6月26日に上野賢一郎厚生労働大臣が中央最低賃金審議会(第74回)へ諮問し、同日の第1回目安小委員会からスタートしました。その後、7月10日に第2回、7月17日に第3回と審議が重ねられましたが、報道によれば、第3回では企業の支払い能力などの捉え方をめぐり労使の見解の溝が埋まらず、具体的な目安額の議論には至らなかったとされています。

こうした中で開催された7月23日の第4回小委員会には、「令和8年7月21日に、日本成長戦略及び経済財政運営と改革の基本方針2026が閣議決定されました。令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について、これらに配意した、貴会の調査審議をお願い申し上げます」という厚生労働大臣名の依頼文(令和8年7月23日付)と、両文書の関係部分の抜粋が資料として提出されました。

最低賃金の目安審議において、政府の経済政策方針(骨太の方針等)への「配意」が求められるのは例年の流れですが、今回は閣議決定が例年より1か月以上遅れ、目安審議の終盤に重なった点が特徴です。閣議決定の内容が、目安額をめぐる最終盤の議論に直接影響し得るタイミングでの提出となりました。

なお、6月26日の諮問の際、上野大臣は最低賃金法の3要素(労働者の生計費・賃金・通常の事業の賃金支払能力)や地域間格差の縮小に配意した審議を求めた一方、「1,500円」という具体的な政府目標には言及しなかったと報じられています。政府目標の位置づけの変化は、今年度審議を読み解く重要な補助線といえます。

2. 最大の変化 ― 「1,500円目標」の達成時期が「遅くとも2030年代前半」に

今回の閣議決定文書で実務上最も重要なのは、最低賃金の政府目標の「時期」の書きぶりです。骨太方針2025(2025年6月13日閣議決定)までの表現と比較してみましょう。

項目 骨太方針2025(改正前の表現) 成長戦略・骨太方針2026(今回)
1,500円目標の達成時期 2020年代に全国加重平均1,500円を目指す 「2020年代に全国平均1,500円という高い目標」の達成に向け官民で努力を継続しつつ、遅くとも2030年代前半できる限り早期に達成
実質賃金の目標 物価上昇を上回る賃上げの定着(定性的な記述が中心) 2029年度までに実質賃金で年1%程度の上昇を賃上げのノルム(社会通念)として定着(KPIとして明記)
毎年の引上げ額の決め方 政府目標を掲げつつ審議会の審議を尊重 政府の取組も踏まえつつ、法定3要素のデータに基づき、公労使三者構成の審議会で「実態を踏まえた審議決定」となるよう議論
地域間格差 地域間格差にも配慮 地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る

出典:「日本成長戦略」「経済財政運営と改革の基本方針2026」(いずれも令和8年7月21日閣議決定)関係部分抜粋(令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第4回)提出資料)をもとに当法人作成

「2020年代に1,500円」という目標自体は「高い目標」として維持しつつ、達成期限を「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」と実質的に後ろ倒しする表現に落ち着きました。現在の全国加重平均1,121円から1,500円までは約380円の開きがあり、2020年代(2029年度まで)の達成には年率7%前後という異例のペースが必要とされてきました。時期の見直しにより、達成に必要な年平均の引上げ率は3〜4%程度まで緩和される計算になります。

もっとも、これを「引上げ鈍化のシグナル」と単純に読むのは早計です。文書は同時に、「労働供給制約社会においては、賃上げは単なる分配ではなく、人材を惹き付け、消費の拡大を通じた生産性向上投資を促す『供給力強化』そのものであり、成長戦略の起点」と位置づけ、実質賃金年1%上昇という新たなKPIを掲げています。物価上昇が続く限り、名目賃金には「物価+1%」の上昇圧力がかかり続ける構造です。

また、「毎年の引上げ額は法定3要素のデータに基づき審議会で決定」という記述が明確化された点も見逃せません。政府目標が審議を先導してきた近年の構図から、データと審議会の議論を重視する枠組みへの回帰を示唆する表現であり、労使双方が引用し得る文言となっています。

3. 令和8年度目安審議の現在地とスケジュール

令和8年度審議のこれまでの経過と今後の見通しを整理します。

時期 内容
6月26日 上野厚労大臣が中央最低賃金審議会(第74回)に諮問。同日、第1回目安小委員会
7月10日 第2回目安小委員会(賃金改定状況調査結果等を審議)
7月17日 第3回目安小委員会。報道によれば労使の溝が埋まらず、具体的な目安額の議論には至らず
7月23日 第4回目安小委員会。閣議決定された成長戦略・骨太方針2026への「配意」を求める大臣依頼文を提出
7月末(目途) 目安の取りまとめ・答申(※執筆時点で未了)
8月〜 各都道府県の地方最低賃金審議会で改定額を審議・答申
10月頃〜 新しい最低賃金が都道府県ごとに順次発効(発効日は都道府県により異なる)

※7月17日・答申時期の一部は報道ベースの情報を含みます。確定情報は厚生労働省の公表をご確認ください。

参考までに、令和7年度(2025年度)は、目安(全国加重平均63円)の答申後、地方審議会での上乗せが相次ぎ、39道府県が目安を上回る額で決着しました。その結果、全国加重平均は1,121円(前年比+66円・6.3%)と過去最大の引上げとなり、初めて全47都道府県で時給1,000円を超えました。一方で、発効日は10月から翌年3月末まで大きくばらつき、令和8年度審議では発効日の在り方も論点となっています。

令和8年度の目安額について、報道では「数十円規模の引上げ・全国加重平均1,100円台後半が攻防ライン」との見方が伝えられていますが、本記事執筆時点(2026年7月24日)で目安額は確定していません。答申は近日中に示される見込みであり、確定次第、自社所在地の地方審議会の動向とあわせてご確認ください。

4. 閣議決定文書に盛り込まれた中小企業向け施策 ― 「賃上げの責任を事業者に丸投げしない」

今回の成長戦略は、「政府は、賃上げの責任を事業者に丸投げせず、中堅・中小企業の『稼ぐ力』の強化を強力に後押ししていく」と明記し、賃上げ環境整備の施策パッケージを列挙しています。人事労務の観点から特に押さえておきたいのは次の4点です。

(1) 価格転嫁・取引適正化の徹底

2026年1月に施行された取適法(中小受託取引適正化法)・振興法の着実な執行のため、取引Gメンの拡充や公正取引委員会の体制強化を進めるとしています。労務費の転嫁は賃上げ原資の確保に直結するため、下請・受託の立場にある企業は、労務費上昇分の価格交渉に制度的な後ろ盾があることを意識すべき局面です。

(2) 省力化投資促進プランと各種助成金

中小企業省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金、業務改善助成金等の補助金・助成金の充実・活用促進が明記されました。特に業務改善助成金は、事業場内最低賃金の引上げと設備投資をセットで行う場合に費用の一部が助成される制度で、最低賃金引上げ対応の中核的な支援策です。年度により要件・受付状況が変動するため、最新の公募要領の確認が必要です。

(3) 官公需における価格転嫁の加速

ビルメンテナンス業・警備業・印刷業など官公需依存度の高い業種を念頭に、低入札価格調査制度等の措置を2027年度末までに国・地方公共団体で100%実施する目標が掲げられました。予定価格の60%未満の極端な低入札は原則失格とする運用見直しにも言及しており、該当業種の受注環境・賃金原資に影響し得る内容です。

(4) 改正「同一労働同一賃金ガイドライン」の2026年10月適用

正社員と非正規雇用労働者の不合理な待遇差の解消に向け、家族手当・住宅手当等に関する考え方を明確化した改正ガイドラインを2026年10月から適用し、都道府県労働局による報告徴収等を通じて履行確保に取り組むことが明記されました。最低賃金の引上げと同じ2026年10月のタイミングで、非正規社員の手当の点検が求められることになります。パート・契約社員に家族手当・住宅手当を支給していない企業は、支給基準の説明可能性を早急に点検する必要があります。

✓ 2026年10月は「二重の対応期限」

2026年10月頃には、@改定後の最低賃金の順次発効と、A改正同一労働同一賃金ガイドラインの適用が重なります。時給引上げの検討と、正社員・非正規社員間の手当格差の点検を同じタイミングで完了させるスケジュール管理が必要です。

5. 企業が今から準備すべき5つの実務対応

目安額の確定を待ってから動き始めるのでは、10月の発効に間に合わないケースが出てきます。次の5項目は、金額が未確定のいまから着手できる準備です。

@ 抵触リスクの洗い出し:時給者だけでなく月給者も、月給を月平均所定労働時間で割った時間額で確認する。精皆勤手当・通勤手当・家族手当や割増賃金は比較対象から除外して計算する

A 「+50円」「+70円」の複数シナリオで人件費試算:社会保険料の事業主負担増も含めた年間コストを把握する

B 賃金テーブル全体への波及の検討:最低賃金付近の層だけ引き上げると中堅層との差が圧縮され、不満・離職の火種になる。賃金カーブ全体の再設計を視野に入れる

C 支援策の情報収集:業務改善助成金・省力化投資補助金等の最新の公募要領を確認し、賃上げと生産性向上投資をセットで設計する

D 非正規社員の手当点検(同一労働同一賃金):家族手当・住宅手当等の支給基準を確認し、待遇差の説明資料を整備する

なお、自社の所定労働時間の把握が不正確なままでは、@の時間額換算そのものを誤ります。就業規則上の所定労働時間・年間休日と実態が一致しているかの確認も、この機会にあわせて行うことをおすすめします。

【当法人の見立て】 「1,500円目標の時期見直し」は引上げの終わりではなく、「異次元の引上げ」から「高水準の引上げの常態化」への移行と捉えるべきと考えます。実質賃金年1%上昇のノルム化・地域間格差是正(最低額の比率引上げ)・同一労働同一賃金の履行確保強化という3点セットは、いずれも中小企業の人件費構造に中期的な上昇圧力をかけ続けるものです。単年度の目安額に一喜一憂するのではなく、3〜5年スパンでの賃金制度・価格戦略の見直しが本質的な備えになります。

※令和8年度の具体的な目安額・改定額は執筆時点で未確定です。確定情報は厚生労働省および中央・地方最低賃金審議会の正式発表をご確認ください。

6. よくあるご質問(FAQ)

Q1. 令和8年度(2026年度)の最低賃金はいくらになりますか?

A. 本記事執筆時点(2026年7月24日)では未確定です。中央最低賃金審議会が7月末を目途に引上げ額の「目安」を答申し、それを受けて8月に各都道府県の地方最低賃金審議会が改定額を審議、10月頃から順次発効する見込みです。報道では数十円規模の引上げが見込まれていますが、確定情報は厚生労働省の発表をご確認ください。

Q2. 「1,500円目標」はなくなったのですか?

A. 目標自体は維持されています。2026年7月21日閣議決定の骨太方針2026・日本成長戦略では、「2020年代に全国平均1,500円という高い目標」の達成に向けて官民で努力を継続しつつ、「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」達成すると、時期の表現が見直されました。引上げ自体は今後も継続する枠組みです。

Q3. 月給制の正社員にも最低賃金の確認は必要ですか?

A. 必要です。月給を月平均所定労働時間で割った「時間額」が地域別最低賃金以上でなければなりません。精皆勤手当・通勤手当・家族手当や時間外割増賃金などは比較対象から除外して計算するため、額面が高くても最低賃金を下回るケースがあり得ます。

Q4. 最低賃金の引上げに使える支援策はありますか?

A. 事業場内最低賃金の引上げと設備投資をセットで行う場合に費用の一部が助成される「業務改善助成金」のほか、中小企業省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金などがあります。今回の閣議決定文書でもこれらの充実・活用促進が明記されました。要件・受付状況は年度により変動するため、最新の公募要領をご確認ください。

Q5. 2026年10月に最低賃金以外で対応が必要なことはありますか?

A. 家族手当・住宅手当等の考え方を明確化した改正「同一労働同一賃金ガイドライン」が2026年10月から適用されます。都道府県労働局による報告徴収等を通じた履行確保も予定されており、正社員と非正規社員の手当格差の点検・説明資料の整備を、最低賃金対応と並行して進める必要があります。

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この記事の執筆者

三重 英則(社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員・特定社会保険労務士・経営心理士)

経営法曹会議賛助会員。SRP認証番号第160175号。名古屋市中区を拠点に、中小企業の労務管理・労働紛争対応・IPO労務監査等を支援。労働法制の最新動向をわかりやすく解説し、経営者と共に最善の解を導くことをミッションとしています。

出典・参考資料

・「日本成長戦略」「経済財政運営と改革の基本方針2026」(令和8年7月21日閣議決定)関係部分抜粋(令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第4回・令和8年7月23日)提出資料)

・厚生労働省「令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第1回)資料」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74088.html

・厚生労働省「令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第2回)資料」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74463.html

・時事通信「最低賃金上げ、目安額の議論至らず 厚労省審議会、3回目会合」(2026年7月17日)ほか各種報道

・厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度改定)

※本記事は2026年7月24日時点の情報に基づいています。令和8年度の目安額・各都道府県の改定額は執筆時点で未確定であり、今後の正式発表により内容が変わる可能性があります。個別の対応については専門家にご相談ください。