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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。 2026年7月21日、政府は「日本成長戦略」と「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針2026)」を閣議決定しました。その2日後の7月23日には、令和8年度の最低賃金の目安を審議する中央最低賃金審議会・目安に関する小委員会(第4回)が開催され、上野賢一郎厚生労働大臣から「閣議決定されたこれらの方針に配意した調査審議をお願いする」旨の依頼文が示されました。目安審議はまさに大詰めです。 今回の閣議決定文書で特に注目すべきは、政府の看板目標であった「2020年代に全国平均1,500円」の達成時期が「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」へと事実上見直されたことです。本記事では、目安小委員会に提出された資料をもとに、閣議決定文書のポイントと令和8年度審議の現在地、そして中小企業が今から準備すべき実務対応を解説します。
1. いま何が起きているのか ― 閣議決定の2日後、大臣が審議会へ「配意」を要請令和8年度の地域別最低賃金の目安審議は、2026年6月26日に上野賢一郎厚生労働大臣が中央最低賃金審議会(第74回)へ諮問し、同日の第1回目安小委員会からスタートしました。その後、7月10日に第2回、7月17日に第3回と審議が重ねられましたが、報道によれば、第3回では企業の支払い能力などの捉え方をめぐり労使の見解の溝が埋まらず、具体的な目安額の議論には至らなかったとされています。 こうした中で開催された7月23日の第4回小委員会には、「令和8年7月21日に、日本成長戦略及び経済財政運営と改革の基本方針2026が閣議決定されました。令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について、これらに配意した、貴会の調査審議をお願い申し上げます」という厚生労働大臣名の依頼文(令和8年7月23日付)と、両文書の関係部分の抜粋が資料として提出されました。 最低賃金の目安審議において、政府の経済政策方針(骨太の方針等)への「配意」が求められるのは例年の流れですが、今回は閣議決定が例年より1か月以上遅れ、目安審議の終盤に重なった点が特徴です。閣議決定の内容が、目安額をめぐる最終盤の議論に直接影響し得るタイミングでの提出となりました。 なお、6月26日の諮問の際、上野大臣は最低賃金法の3要素(労働者の生計費・賃金・通常の事業の賃金支払能力)や地域間格差の縮小に配意した審議を求めた一方、「1,500円」という具体的な政府目標には言及しなかったと報じられています。政府目標の位置づけの変化は、今年度審議を読み解く重要な補助線といえます。 2. 最大の変化 ― 「1,500円目標」の達成時期が「遅くとも2030年代前半」に今回の閣議決定文書で実務上最も重要なのは、最低賃金の政府目標の「時期」の書きぶりです。骨太方針2025(2025年6月13日閣議決定)までの表現と比較してみましょう。
出典:「日本成長戦略」「経済財政運営と改革の基本方針2026」(いずれも令和8年7月21日閣議決定)関係部分抜粋(令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第4回)提出資料)をもとに当法人作成 「2020年代に1,500円」という目標自体は「高い目標」として維持しつつ、達成期限を「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」と実質的に後ろ倒しする表現に落ち着きました。現在の全国加重平均1,121円から1,500円までは約380円の開きがあり、2020年代(2029年度まで)の達成には年率7%前後という異例のペースが必要とされてきました。時期の見直しにより、達成に必要な年平均の引上げ率は3〜4%程度まで緩和される計算になります。 もっとも、これを「引上げ鈍化のシグナル」と単純に読むのは早計です。文書は同時に、「労働供給制約社会においては、賃上げは単なる分配ではなく、人材を惹き付け、消費の拡大を通じた生産性向上投資を促す『供給力強化』そのものであり、成長戦略の起点」と位置づけ、実質賃金年1%上昇という新たなKPIを掲げています。物価上昇が続く限り、名目賃金には「物価+1%」の上昇圧力がかかり続ける構造です。 また、「毎年の引上げ額は法定3要素のデータに基づき審議会で決定」という記述が明確化された点も見逃せません。政府目標が審議を先導してきた近年の構図から、データと審議会の議論を重視する枠組みへの回帰を示唆する表現であり、労使双方が引用し得る文言となっています。 3. 令和8年度目安審議の現在地とスケジュール令和8年度審議のこれまでの経過と今後の見通しを整理します。
※7月17日・答申時期の一部は報道ベースの情報を含みます。確定情報は厚生労働省の公表をご確認ください。 参考までに、令和7年度(2025年度)は、目安(全国加重平均63円)の答申後、地方審議会での上乗せが相次ぎ、39道府県が目安を上回る額で決着しました。その結果、全国加重平均は1,121円(前年比+66円・6.3%)と過去最大の引上げとなり、初めて全47都道府県で時給1,000円を超えました。一方で、発効日は10月から翌年3月末まで大きくばらつき、令和8年度審議では発効日の在り方も論点となっています。 令和8年度の目安額について、報道では「数十円規模の引上げ・全国加重平均1,100円台後半が攻防ライン」との見方が伝えられていますが、本記事執筆時点(2026年7月24日)で目安額は確定していません。答申は近日中に示される見込みであり、確定次第、自社所在地の地方審議会の動向とあわせてご確認ください。 4. 閣議決定文書に盛り込まれた中小企業向け施策 ― 「賃上げの責任を事業者に丸投げしない」今回の成長戦略は、「政府は、賃上げの責任を事業者に丸投げせず、中堅・中小企業の『稼ぐ力』の強化を強力に後押ししていく」と明記し、賃上げ環境整備の施策パッケージを列挙しています。人事労務の観点から特に押さえておきたいのは次の4点です。 (1) 価格転嫁・取引適正化の徹底2026年1月に施行された取適法(中小受託取引適正化法)・振興法の着実な執行のため、取引Gメンの拡充や公正取引委員会の体制強化を進めるとしています。労務費の転嫁は賃上げ原資の確保に直結するため、下請・受託の立場にある企業は、労務費上昇分の価格交渉に制度的な後ろ盾があることを意識すべき局面です。 (2) 省力化投資促進プランと各種助成金中小企業省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金、業務改善助成金等の補助金・助成金の充実・活用促進が明記されました。特に業務改善助成金は、事業場内最低賃金の引上げと設備投資をセットで行う場合に費用の一部が助成される制度で、最低賃金引上げ対応の中核的な支援策です。年度により要件・受付状況が変動するため、最新の公募要領の確認が必要です。 (3) 官公需における価格転嫁の加速ビルメンテナンス業・警備業・印刷業など官公需依存度の高い業種を念頭に、低入札価格調査制度等の措置を2027年度末までに国・地方公共団体で100%実施する目標が掲げられました。予定価格の60%未満の極端な低入札は原則失格とする運用見直しにも言及しており、該当業種の受注環境・賃金原資に影響し得る内容です。 (4) 改正「同一労働同一賃金ガイドライン」の2026年10月適用正社員と非正規雇用労働者の不合理な待遇差の解消に向け、家族手当・住宅手当等に関する考え方を明確化した改正ガイドラインを2026年10月から適用し、都道府県労働局による報告徴収等を通じて履行確保に取り組むことが明記されました。最低賃金の引上げと同じ2026年10月のタイミングで、非正規社員の手当の点検が求められることになります。パート・契約社員に家族手当・住宅手当を支給していない企業は、支給基準の説明可能性を早急に点検する必要があります。
5. 企業が今から準備すべき5つの実務対応目安額の確定を待ってから動き始めるのでは、10月の発効に間に合わないケースが出てきます。次の5項目は、金額が未確定のいまから着手できる準備です。
なお、自社の所定労働時間の把握が不正確なままでは、@の時間額換算そのものを誤ります。就業規則上の所定労働時間・年間休日と実態が一致しているかの確認も、この機会にあわせて行うことをおすすめします。
6. よくあるご質問(FAQ)
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出典・参考資料 ・「日本成長戦略」「経済財政運営と改革の基本方針2026」(令和8年7月21日閣議決定)関係部分抜粋(令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第4回・令和8年7月23日)提出資料) ・厚生労働省「令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第1回)資料」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74088.html ・厚生労働省「令和8年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第2回)資料」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74463.html ・時事通信「最低賃金上げ、目安額の議論至らず 厚労省審議会、3回目会合」(2026年7月17日)ほか各種報道 ・厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度改定) ※本記事は2026年7月24日時点の情報に基づいています。令和8年度の目安額・各都道府県の改定額は執筆時点で未確定であり、今後の正式発表により内容が変わる可能性があります。個別の対応については専門家にご相談ください。 |