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作成日:2026/07/08
「労災かくし」は犯罪です ―橋梁工事の労災を約1年7か月隠ぺい、元請・下請の2法人3人を書類送検(加治木労基署)
労災 書類送検 建設業

「労災かくし」は犯罪です
――橋梁工事の労災を約1年7か月隠ぺい、元請・下請の2法人3人を書類送検(加治木労基署)

2026年8月8日|社会保険労務士法人T&M Nagoya

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

2026年7月14日、加治木労働基準監督署(鹿児島県)は、労働安全衛生法違反(いわゆる労災隠し、虚偽陳述)などの疑いで、元請の大手建設会社と下請2社の関係者、計2法人3人を鹿児島地検加治木支部に書類送検したと報じられました。労災の発生から報告までに約1年7か月を要し、その間、監督署への報告書に事故を記載せず、立ち入り調査でも虚偽の陳述をしたとされる事案です。元請・下請が重層的に関与する建設現場の「労災かくし」の典型例として、本記事で事案の内容と、企業が押さえるべき労災報告の実務を整理します。

📌 この記事の要点

■ 2024年6月の橋梁建設工事での労災(クレーンから落下した型枠材による負傷)について、元請の作業所長が監督署への報告書に事故を記載せず、下請側も共謀して労働者死傷病報告を2026年1月まで提出しなかった疑い【報道ベース】
■ 労働者死傷病報告の不提出・虚偽報告は「労災かくし」として50万円以下の罰金(労働安全衛生法120条5号・100条1項)。監督官の立ち入り検査での虚偽陳述も同様に処罰対象(同法120条4号・91条)
■ 本件では元請法人・元請社員(作業所長)・下請法人・下請代表者がそれぞれ送検対象に。元請・下請の重層構造の中でも、報告義務と刑事責任は免れられない
■ 労働者死傷病報告は2025年1月から電子申請が原則義務化。休業4日以上は「遅滞なく」、4日未満は四半期ごとの提出が必要

1.事案の概要――何が起きたのか

報道によると、送検されたのは、元請会社の三井住友建設(東京都)と作業所長だった50代の男性社員、2次下請の友和工業(鹿児島県鹿屋市)と同社代表取締役の50代男性、1次下請の餅井建設(宮崎県都城市)の代表取締役の60代男性の計2法人3人です。舞台となったのは鹿児島県霧島市の橋梁建設工事で、地元テレビ局の報道では東九州自動車道・隼人道路の4車線化工事と伝えられています。

報道されている経緯を時系列で整理すると、次のとおりです。

時期 報道されている内容
2024年6月3日 霧島市の橋梁建設工事で、2次下請・友和工業の作業員がクレーンから落下した型枠材に当たり、腰椎圧迫骨折などの労災が発生
労災発生後 元請の作業所長が、監督署に提出する統括管理状況報告に事故を記載せず提出した疑い
2025年4月 労働基準監督官の立ち入り調査時、事実を隠ぺいするため虚偽の陳述をした疑い(地元テレビ局報道による時期)
〜2026年1月 下請側も共謀して、労働者死傷病報告を監督署に提出しなかった疑い(発生から約1年7か月)
2026年7月14日 加治木労働基準監督署が、労働安全衛生法違反(労災隠し、虚偽陳述)などの疑いで2法人3人を鹿児島地検加治木支部に書類送検

なお、被災者の負傷内容について、南日本新聞は「腰椎圧迫骨折など」、地元テレビ局は「肩や腰などのけが」と報じており、腰椎圧迫骨折という重い負傷を伴う事案であったとみられます。書類送検は「起訴」や「有罪」を意味するものではなく、今後の処分は検察の判断に委ねられます。

2.「労災かくし」とは――何をすると犯罪になるのか

労働者が労働災害等により死亡し、または休業したときは、事業者は所轄労働基準監督署長に「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません(労働安全衛生法100条1項、労働安全衛生規則97条)。この報告を故意に提出しない、または虚偽の内容を記載して提出する行為が、いわゆる「労災かくし」です。厚生労働省も「『労災かくし』は犯罪です」と明言し、司法処分を含めて厳正に対処する方針を示しています。

⚖ 本件に関係する主な罰則(労働安全衛生法)
@ 報告義務違反(労災かくし)
 労働者死傷病報告等の報告をせず、または虚偽の報告をした者は50万円以下の罰金(法120条5号・100条1項)。

A 立ち入り検査での虚偽陳述
 労働基準監督官の立ち入り検査(法91条1項)を拒み・妨げ・忌避し、または質問に対して陳述をせず、もしくは虚偽の陳述をした者も50万円以下の罰金(法120条4号)。

B 両罰規定
 行為者を罰するほか、法人にも罰金刑が科されます(法122条)。本件で行為者個人と法人の双方が送検されているのは、この両罰規定によるものです。

罰金額だけを見ると軽く感じられるかもしれませんが、実際のダメージは刑事罰にとどまりません。書類送検されれば実名で報道され、建設業であれば公共工事の指名停止措置や発注者からの信用失墜に直結します。本件でも、元請・下請の社名が全国に報道されています。「隠すことで守ろうとした信用」が、隠したことによって最も大きく毀損される――これが労災かくしの構造です。

3.本件の特徴――元請・下請の重層構造と「共謀」

本件の最大の特徴は、元請(作業所長・法人)と下請(1次・2次の各代表者)がそろって送検された点です。報道では、下請側も「共謀して」労働者死傷病報告を提出しなかった疑いとされています。

労働者死傷病報告の提出義務を負うのは、原則として被災労働者を雇用する事業者(本件では2次下請)です。他方、建設業の元請(特定元方事業者)は、現場全体の安全衛生を統括管理する立場にあり(労働安全衛生法30条)、監督署に対して現場の管理状況等の報告を求められる立場でもあります。本件で問題とされた「統括管理状況報告」は、監督署が特定元方事業者に提出を求める現場の統括安全衛生管理の状況等に関する報告と解され【解説ベース】、報道によれば、作業所長はこの報告書に事故を一切記載せずに提出したとされています。

建設現場では、「元請に迷惑をかけられない」「無災害記録や評価点に響く」といった力学の中で、下請が労災の報告をためらう構図が指摘されてきました。しかし本件が示すとおり、隠ぺいに元請が関与すれば元請の担当者・法人も、下請が追従すれば下請の代表者・法人も、それぞれ刑事責任を問われます。重層構造は責任の「分散」ではなく「連鎖」を生むと理解すべきです。

🔍 労災かくしはなぜ発覚するのか
労災かくしの多くは、@被災労働者本人や家族からの申告・相談、A治療にあたった医療機関からの情報、B労災保険を使わず健康保険で治療したことによる保険者側からの照会、C監督署の調査・臨検などをきっかけに発覚するとされています。負傷の事実は本人・医療機関・保険のデータに必ず痕跡が残るため、隠し通せる可能性は極めて低いのが実態です。本件でも、発生から約1年7か月を経て監督署の調査により事案化しています。

4.労働者死傷病報告の実務――2025年1月から電子申請が原則義務化

労働者死傷病報告の提出ルールは、休業日数によって異なります。また、2025年1月1日からは報告事項が改正され、電子申請が原則義務化されています(経過措置として、電子申請が困難な場合は当分の間、書面による報告も可能)。

区分 提出期限・方法
死亡・休業4日以上 遅滞なく提出。実務上は1〜2週間以内が目安とされ、報告が発生から概ね1か月を超えると遅延理由書の提出を求められることがあります
休業4日未満(1日以上) 四半期(1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月)ごとに取りまとめ、各期間の最後の月の翌月末日までに提出
提出方法(2025年1月〜) 電子申請が原則義務化。厚生労働省の入力支援サービスを利用してe-Gov経由で申請。従前の様式第23号・第24号は使用不可。事業の種類・職種・傷病名等はコード入力方式に変更

留意すべきは、労働者死傷病報告と労災保険給付の手続は別物だという点です。労災保険を使ったかどうかにかかわらず、死亡・休業があれば死傷病報告の提出義務が生じます。「本人が労災保険を使わないと言っているから報告不要」という理解は誤りであり、健康保険での治療を促す行為はそれ自体が労災かくしの端緒とみなされるリスクがあります。また、建設工事では、下請労働者の被災であっても報告書に元方事業者の労働保険番号や工事名等を記載する必要があり、元請・下請間の正確な情報共有が前提となります。

✅ 実務チェックポイント――労災発生時に会社が確認すべきこと

□ 被災者の救護・治療を最優先したうえで、発生日時・場所・状況・原因を速やかに記録したか
□ 休業の有無・見込み日数を確認し、死亡・休業4日以上なら「遅滞なく」死傷病報告を電子申請したか
□ 休業4日未満でも、四半期ごとの報告対象として管理しているか(報告漏れの多発ゾーン)
□ 労災保険の請求手続と死傷病報告を混同していないか(健康保険での治療を促していないか)
□ 建設業の場合、元請・下請間で被災情報を共有し、元方事業者の労働保険番号・工事名等を正確に記載できる体制か
□ 監督署の調査には事実をありのまま説明する方針を、現場責任者まで徹底しているか(虚偽陳述はそれ自体が犯罪)

5.当法人の視点――「報告する会社」が最終的に守られる

労災かくしの動機としては、労災保険料(メリット制)への影響、発注者・元請からの評価低下、手続の煩雑さへの忌避などが指摘されています。しかし、いずれも報告を怠る理由として成立しません。むしろ、適時・正確に報告した事実は、監督署対応においても、被災者との関係においても、会社が誠実に対応した証拠として機能します。

とりわけ本件のように報告の遅れが年単位に及ぶと、当初は「報告漏れ」で済んだかもしれない事案が、虚偽報告・虚偽陳述・共謀という悪質性の高い事案へと段階的に重くなっていきます。労災発生直後の初動――事実の記録、休業日数の把握、報告期限の管理――を仕組みとして整えておくことが、結果的に会社と現場責任者個人を守る最善の方法です。労働保険関係の手続体制の点検については、当法人の労務手続代行・監査サービスもご参照ください。

🔎 本記事の確信度について

事案の内容(送検日・送検先・当事者・容疑事実・時系列)は、南日本新聞(2026年7月14日)および鹿児島読売テレビの報道に基づく【報道ベース】です。書類送検は容疑段階の手続であり、起訴・有罪が確定したものではありません。「統括管理状況報告」の法的位置づけに関する説明は、労働安全衛生法100条の報告徴収の枠組みからの当法人の解説【解説ベース】です。労働者死傷病報告の制度・罰則・2025年1月の電子申請義務化は、厚生労働省公表資料および法令(一次情報)で確認済みです。

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根拠法令・出典

・労働安全衛生法100条1項(報告等)、91条1項(労働基準監督官の権限)、120条4号・5号(罰則)、122条(両罰規定)、30条(特定元方事業者等の講ずべき措置)
・労働安全衛生規則97条(労働者死傷病報告)
・厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)」
・厚生労働省「『労災かくし』は犯罪です。」
・南日本新聞「労災隠しや虚偽陳述の疑いで2法人3人を書類送検 加治木労基署」(2026年7月14日)
・鹿児島読売テレビ「隼人道路4車線化工事で"労災かくし"疑い」(2026年7月14日)

【免責事項】本記事は、公開された報道および法令等に基づく一般的な解説であり、個別事案への法的助言ではありません。事案の内容は容疑段階の報道に基づくものであり、関係者の刑事責任が確定したものではありません。実際の対応にあたっては、必ず専門家にご相談ください。記事の内容は執筆時点(2026年7月16日)の情報に基づきます。

執筆者

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号第160175号
中小企業の労務管理・労働紛争対応・IPO労務監査を専門とし、経営者と共に歩む実務対応を信条とする。