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作成日:2026/07/02
令和7年「労使間の交渉等に関する実態調査」から読む 賃上げ交渉と労使コミュニケーションの最新潮流
労務トピック

令和7年「労使間の交渉等に関する実態調査」から読む
賃上げ交渉と労使コミュニケーションの最新潮流

2026年7月2日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則

厚生労働省は2026年6月、令和7(2025)年「労使間の交渉等に関する実態調査」の結果を公表しました。労働組合を対象とした調査ですが、そこに表れた賃上げ交渉の活発化非正規労働者の組合加入資格の動きは、労働組合の有無にかかわらず、中小企業の労務管理にも示唆を与えるものです。本記事では、経営者・人事担当者の視点から、調査結果のポイントと実務への活かし方を整理します。

📌 この記事でわかること

・調査の全体像(労使関係の「安定性」は9割で高止まり)
・賃金交渉が活発化し、労働協約の賃金額改定が前回から大きく増加していること
・非正規労働者の「組合加入資格」がむしろ縮小傾向にある事実とその読み解き方
・労働組合のない中小企業が、この調査から学べる労使コミュニケーションの実務

1.調査の概要 ―― 何を調べたものか

本調査は、労働環境が変化するなかでの団体交渉・労働争議・労働協約の締結等の実態を明らかにすることを目的に、おおむね2〜3年ごとに実施されているものです。今回は、民営事業所における労働組合員30人以上の労働組合のうち抽出された5,163組合を対象とし、令和7(2025)年6月30日現在の状況について調査、2,992組合から有効回答を得ています。

【調査の基本情報】

・調査名:令和7(2025)年「労使間の交渉等に関する実態調査」(厚生労働省)
・対象:民営事業所の労働組合員30人以上の労働組合(抽出5,163組合・有効回答2,992組合)
・基準時点:令和7(2025)年6月30日現在
・「過去3年間」の集計期間:令和4(2022)年7月1日〜令和7(2025)年6月30日

※本調査は労働組合を単位とした調査です。数値は「調査に回答した労働組合における割合」であり、企業全体・労働者全体の比率とは異なる点にご留意ください。以下でご紹介する前回比較は、項目により比較対象となる前回調査が異なります(労使関係・非正規に関する項目は令和5年「労働組合活動等に関する実態調査」、交渉・労働協約に関する項目は令和4年「労使間の交渉等に関する実態調査」が前回にあたります)。

2.労使関係は「安定的」9割 ―― 高い水準を維持

労使関係が「安定的」(「安定的に維持されている」+「おおむね安定的に維持されている」の合計)と認識している労働組合は90.9%で、前回(91.0%)とほぼ同水準を維持しました。組合が存在する事業所では、対立ではなく安定した関係を基調とする姿勢が引き続き主流であることがうかがえます。

一方で、後述のとおり賃金をめぐる交渉は活発化しています。「関係は安定しているが、賃金・処遇についてはしっかり交渉する」という構図が読み取れる点が、今回の調査の特徴といえます。安定=交渉の不在ではない、という点は、労使コミュニケーションを考えるうえで重要な視点です。

3.賃上げ交渉が活発化 ―― 労働協約の賃金額改定が大幅増

過去3年間に何らかの労使間交渉があった事項(複数回答)は、「賃金・退職給付に関する事項」が76.8%(前回72.6%)で最も高く、次いで「労働時間・休日・休暇に関する事項」73.7%(同70.0%)、「職場環境に関する事項」60.1%(同57.1%)と、いずれも前回から上昇しました。

さらに、交渉の結果として労働協約の改定・新設がなされた事項のうち、「賃金額」は38.8%(前回32.6%)、「賃金制度」は36.3%(同32.1%)と、いずれも前回から大きく増加しています。近年の物価上昇・賃上げ機運のなかで、交渉が実際の待遇改定という「結果」に結びついている様子が数字に表れています。

交渉・改定があった事項 今回 前回
賃金・退職給付に関する交渉 76.8% 72.6%
労働時間・休日・休暇に関する交渉 73.7% 70.0%
職場環境に関する交渉 60.1% 57.1%
労働協約で「賃金額」を改定・新設 38.8% 32.6%
労働協約で「賃金制度」を改定・新設 36.3% 32.1%

※交渉・改定の各割合の「前回」は令和4年「労使間の交渉等に関する実態調査」。複数回答項目を含みます。

4.非正規の「組合加入資格」は縮小傾向 ―― 何を意味するか

事業所に正社員以外の労働者がいる労働組合について、労働者の種類別に「組合加入資格がある」とした割合は、次のとおりいずれも前回から低下しました。

労働者の種類 今回 前回
パートタイム労働者 38.1% 40.7%
有期契約労働者 40.4% 42.5%
嘱託労働者 39.5% 37.9%
派遣労働者 4.8% 7.0%

※非正規に関する各割合の「前回」は令和5年「労働組合活動等に関する実態調査」。嘱託労働者のみ前回から上昇しています。

派遣労働者は自社ではなく派遣元との雇用関係にあるため、もともと加入資格が付与されにくい構造にあります。パート・有期の割合が低下した背景については本調査からは断定できませんが、組合加入という形をとらずとも、非正規の処遇改善が別の枠組みで進んでいる可能性も考えられます。とりわけ、パートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)による不合理な待遇差の禁止(均衡・均等待遇)が定着し、法制度そのものが非正規の待遇を底上げしている面は無視できません。

(注)上記の「可能性」は当法人による一つの見方であり、本調査が原因を示したものではありません。数値の解釈は複数あり得る点にご留意ください。

5.組合のない中小企業への示唆 ―― 「対話の設計」が問われる

「うちには労働組合がないから関係ない」――そう感じられるかもしれません。しかし、この調査が示すのは「賃金・処遇について、従業員が声を上げ、会社と協議する動きが強まっている」という社会全体の空気です。組合の有無にかかわらず、次のような対応が中小企業にも求められます。

✓ 組合がなくても整えておきたい実務ポイント

@ 賃金・賞与の決定プロセスの「見える化」:昇給・賞与の考え方を説明できるようにしておく
A 労使コミュニケーションの場の設計:労使協議・意見交換の機会を制度化し、記録を残す
B 過半数代表者の適正な選出:36協定・就業規則の意見聴取等で選ばれる代表者の選出手続を適法に行う
C 非正規の待遇点検:パート有期法に沿って、正社員との待遇差に不合理がないかを定期的に確認する
D 合同労組(ユニオン)からの団体交渉への備え:社外の合同労組を通じた団交申入れは、組合が社内になくても起こり得る

とりわけDは見落とされがちです。社内に労働組合がなくても、従業員が個人で加入できる社外の合同労組(ユニオン)から団体交渉を申し入れられることがあります。使用者は正当な理由なくこれを拒否できず(労働組合法7条2号)、対応を誤ると不当労働行為と評価されるおそれがあります。日頃からの就業規則の整備と、いざというときの交渉対応体制が、経営を守る備えになります。

労使トラブルの予防・団体交渉対応のご相談は当法人へ

就業規則の整備から団体交渉への実務対応まで、使用者側・労働者側双方の紛争を数多く見てきた経験をもとに伴走します。

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【根拠法令・出典】

・労働組合法6条(交渉権限)、7条2号(団体交渉拒否の不当労働行為)、14条〜16条(労働協約)
・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期雇用労働法)8条・9条
・厚生労働省「令和7(2025)年 労使間の交渉等に関する実態調査の概況」(2026年6月公表)
  厚生労働省 各種統計調査:https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/index.html
  労使関係総合調査(実態調査)一覧:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/list15-19.html
  政府統計の総合窓口 e-Stat:https://www.e-stat.go.jp/statistics/00450111

【免責事項】本記事は、公表された統計・法令等をもとに一般的な情報を提供するものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。統計数値の解釈のうち一部は当法人の見解を含みます。実際のご対応にあたっては、事実関係を踏まえ、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

執筆者

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員

「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」をミッションに、労務管理体制の構築・就業規則の整備・労使紛争の予防に注力しています。労使コミュニケーションや団体交渉対応についても、お気軽にお問い合わせください。