| 法改正解説 / M&A・事業承継 【2026年5月25日施行】事業譲渡等指針の改正で何が変わるか ―企業価値担保権とM&A・事業承継の労務実務 「価格交渉」だけでは終わらない。M&Aの成否を左右する「人」への対応を、改正のポイントとともに社会保険労務士が解説します。 |
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📌 この記事の要点
・2026年5月25日、改正後の「事業譲渡等指針」が適用開始。改正の核心は「企業価値担保権」の実行手続に関する項目の新設です。
・事業譲渡は「特定承継」のため、従業員ごとの個別かつ真意による承諾が必要。形式的な同意書だけでは不十分です。 ・個別協議をしていても、労働組合からの適法な団体交渉申入れは拒否できません。 ・企業価値担保権の実行では裁判所が管財人を選任。雇用維持を原則とした承継先選定が求められます。 ・合併は「包括承継」で個別同意は原則不要ですが、合併後の労働条件統一には別途の手続が必要です。 |
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ここに注意 ― 「事業譲渡のルール全体が変わった」わけではありません
事業譲渡・合併における基本的な労務ルール(特定承継・真意による承諾・団体交渉への対応など)は、平成28年8月17日の厚生労働省告示第318号で従来から定められていた内容です。今回の改正で新たに加わったのは、あくまで企業価値担保権の実行手続に関する項目です。報道等で「対応義務が強化された」と表現されることがありますが、正確には「企業価値担保権という新たな局面に対応する規定が追加された」と理解するのが適切です。
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| 項目 | 改正前(〜2026年5月24日) | 改正後(2026年5月25日〜) |
| 事業譲渡時の 個別承諾 |
特定承継として個別の真意による承諾が必要(既定) | 同左(変更なし) |
| 団体交渉への 対応 |
労働条件等は団交事項として誠実対応が必要(既定) | 同左(変更なし) |
| 企業価値担保権の 実行手続 |
規定なし(制度自体が未施行) | 新設。管財人の情報提供の努力、雇用維持を原則とする承継先選定、善管注意義務等が明記 |
| 平時の 労使対話 |
指針上の明示的記載は限定的 | 新設。担保権設定企業は平時から経営課題を労働者と共有・情報提供することが望ましいと整理 |
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✓ 押さえておきたいポイント
「価格だけで承継先を決めない」という考え方は、あくまで企業価値担保権の実行局面に関する規定です。通常の事業譲渡や株式譲渡に直ちに法的義務として及ぶものではありません。もっとも、雇用や取引関係を重視する選定の考え方が公的な指針で示された意義は大きく、一般のM&Aにおける承継先選定の議論にも実務上の参考となり得ます。
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| 手法 | 承継の性質 | 個別同意 | 労働条件 |
| 事業譲渡 | 特定承継 | 必要(真意の承諾) | 承継条件を個別に提示 |
| 合併 | 包括承継 | 原則不要 | 原則維持(統一時は別手続) |
| 株式譲渡 | 会社の支配権移転(雇用主は不変) | 不要 | 原則維持(既存の権利義務を承継) |
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✓ 局面別アクションリスト
【事業譲渡の場合】
☐ 承継対象者の範囲を明確にする(職種・部門・雇用形態) ☐ 説明資料を準備する(譲受会社の概要、労働条件比較表) ☐ 個別説明会・面談のスケジュールを組み、時間的余裕をもって協議する ☐ 承諾取得のプロセスを記録・証跡化する ☐ 労働条件変更を伴う場合は変更内容を明示し、別途同意を得る設計にする ☐ 労働組合からの団体交渉申入れに備える 【企業価値担保権を活用する場合】 ☐ 平時から経営課題を従業員と共有する場を設ける ☐ 情報提供のルールを社内規程・危機対応フローに盛り込む ☐ 管財人・裁判所との窓口を一本化する体制を整える ☐ 雇用維持を前提とした承継先選定方針を明確にする 【合併の場合】 ☐ 包括承継であることを従業員に説明する ☐ 労働条件の統一計画がある場合は、不利益変更手続を確認する ☐ 就業規則の統合スケジュールを策定する |
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誤解1:「同意書をもらえばOK」
形式的な同意書だけでは不十分です。説明・協議のプロセスが重視されており、後から「説明を受けていない」「理解していなかった」と主張されるリスクがあります。
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誤解2:「労働組合がなければ団体交渉は関係ない」
社内に組合がなくても、外部の合同労組(ユニオン)が介入するケースがあります。労働条件に関する事項は団体交渉事項であり、拒否すれば不当労働行為となり得ます。
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誤解3:「企業価値担保権を設定すると雇用が不安定になる」
設定それ自体で雇用主が変わったり労働条件が変わるわけではありません。実行局面でも、雇用維持が原則とされています。
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✓ 早期に着手したいこと
☐ 労務デューデリジェンスを徹底する(未払い残業代・労働条件の不一致の把握)
☐ 従業員への説明・協議プロセスを設計する ☐ 労働組合・ユニオン対応の体制を整える ☐ 社会保険労務士などの専門家に早期相談する |
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■ 根拠法令・参考資料
・事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(平成28年8月17日厚生労働省告示第318号、令和8年1月20日改正)
・事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号)第109条・第122条 ・労働契約法(第8条・第9条・第10条・第16条) ・労働組合法(第7条) ・厚生労働省「事業譲渡等指針の改正等について」/金融庁関連公表資料 |
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※本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案への法的助言を行うものではありません。実際のM&A・事業承継にあたっては、事案の具体的事情に応じて、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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| WRITTEN BY 三重 英則(みえ ひでのり) 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号 第160175号) |