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TOPIC | AI時代の人事・労務 「AI失業」で日本が本当に備えるべきは“若者”ではない
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📌 この記事の要点
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本記事は、第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 主席エコノミストの星野卓也氏によるレポート「AI失業、日本で本当に危ないのは『若者』ではない」(2026年6月13日公表。東洋経済オンラインにも同趣旨が転載)を起点としています。経済分析としての示唆に富む内容であるため、当法人の労務実務の視点を加えて再構成し、企業がとるべき備えまで掘り下げます。
同レポートが指摘するのは、AIの雇用への影響が、欧米と日本でまったく異なる形で現れるという見立てです。欧米では、AIへの曝露度が高いホワイトカラー職、なかでもエントリーレベル(入口)の仕事から代替が進み、その影響が若年層に直撃しているとされます。実際、米ニューヨーク連銀の集計では、22〜27歳の大卒者の失業率は2026年3月時点で5.6%と、全労働者(16〜65歳)の4.2%を1.4ポイント上回ったと報告されています。従来は新卒者の失業率が全体平均を下回るのが常でしたが、2023年以降にこれが逆転したとされます。スウェーデンの実証研究(Lodefalk et al., 2026)でも、生成AIへの曝露度が高い職業で22〜25歳の採用が減少する一方、50歳以上の雇用はむしろ増えたことが示されています。
これに対し日本では、人手不足を背景に新卒採用の「売り手市場」が続いています。文部科学省・厚生労働省の調査によれば、2026年3月卒業の大卒者の就職率(2026年4月1日時点)は98.0%と、調査開始以来2番目に高い水準を維持しました。「AIが若者の入口を奪う」という欧米型の構図は、日本では同じ姿では現れにくい――これが同レポートの中核的な見立てです。
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日本でもAI活用は確実に進んでいる 厚生労働省「労働経済動向調査(令和8年2月)」では、AIを導入している事業所は31%、そのうちAI活用後に効果があったとする割合は78%にのぼり、効果の内容では「作業負担の軽減や作業効率の改善」が91%で最多でした。AIによる定型業務の省力化が現実に進行している以上、「日本だけは影響がない」わけではなく、影響の“現れ方”が異なる、と理解するのが正確です。 |
鍵は労働市場の構造の違いにあります。ジョブ型が基本の欧米では、企業は職務(ジョブ)に紐づけて人を採用するため、AIがエントリーレベルの職務を代替すると、無スキルの若者・新卒者の受け皿が直接縮みます。一方、メンバーシップ型の色彩が残る日本では、企業は特定の職務ではなく「組織の一員」を採用し、新卒は将来の専門人材・幹部候補を育成するポテンシャル採用として機能しています。定型業務が省力化されても、将来の伸び代を見込んで新卒を確保・育成するインセンティブは容易には消えません。むしろ、デジタルツールへの抵抗が小さくリスキリングコストの低い若年層の優位性は、AI時代にこそ際立つ面があります。
代わりに余剰感が顕在化しやすいのが、年功的な賃金カーブの名残で生産性に対して賃金が高くなりがちな中高年層です。「社内失業」「窓際族」といった言葉が示すとおり、出世ルートを外れて社内に活躍の場を失った層が、AIによる業務効率化のなかで真っ先に整理対象として意識されやすくなります。
| 2025年度 上場企業「早期・希望退職募集」の特徴 | 数値 |
| 募集人数 | 2万781人(前年度8,326人の約2.5倍) |
| 実施した上場企業数 | 46社 |
| 黒字企業の割合 | 約7割(いわゆる「黒字リストラ」) |
| 対象年齢の傾向 | 中高年層(50歳以上)に偏る |
※出典:東京商工リサーチ「2025年度の『早期・希望退職』は2万781人」(2026年4月公表)
もう一つ見落とせないのが、AI曝露度が高いとされる事務職の担い手の構成です。総務省「労働力調査」をもとにした同レポートの分析によれば、事務的職業従事者には中高年の女性や女性・非正規雇用層が大きな割合を占めています。子育て後に簡単な事務職に就くというキャリアパスが珍しくなかった世代を中心に、定型事務の自動化が進んだとき、雇用調整が真っ先に及びやすいのがこの層だと指摘されています。
つまり、「エントリーレベルの仕事=新卒の若者」という欧米型の単純な対応関係が日本では成り立たない。だからこそ、AIによる影響は中高年層と事務職を担う女性・非正規雇用層に向かいやすい――というのが、経済分析としての結論です。ここから先は、では企業の現場で何が起きるのか、社会保険労務士の視点で具体的な労務リスクに落とし込みます。
「余剰感のある中高年層を整理したい」という発想は、実務では退職勧奨・希望退職・配置転換・整理解雇といった具体的な手段に落とし込まれます。しかしいずれも、進め方を誤ると違法・無効と評価され、かえって紛争コストを抱え込むリスクがあります。
@ 退職勧奨は「お願い」であって「強制」ではない
退職勧奨自体は適法ですが、労働者が明確に拒否した後も執拗に面談を繰り返す、退職以外に選択肢がないかのように迫る、といった態様は、社会的相当性を逸脱した違法な退職強要として損害賠償の対象になり得ます(下関商業高校事件・最判昭和55年7月10日)。AIによる業務削減を背景に「もう仕事がない」と告げて退職へ誘導するような運用は、特に慎重さが求められます。
A 配置転換にも限界がある
事務職をAIで省力化し、営業や他部門へ配置転換する動きはレポートでも事例として挙げられています。配転命令は広く認められる一方、業務上の必要性が乏しい、不当な動機・目的による、または労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、権利の濫用として無効となります(東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日)。さらに近年は、職種や勤務地を限定する合意がある労働者については、本人の同意なく職種変更を命じる権限はないと最高裁が明示しました(滋賀県社会福祉協議会事件・最判令和6年4月26日)。中高年のベテラン事務職ほど職種限定の黙示的合意が問題となりやすく、注意が必要です。
B 整理解雇は「4要素」の総合判断
希望退職が集まらず整理解雇に踏み込む場合、裁判例上は(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続の妥当性、の4要素が総合的に判断されます。「AIで効率化できたから」という理由だけで人員削減の必要性が当然に認められるわけではなく、年齢のみを基準とした人選は合理性を問われやすい点に留意が必要です。
有期・パート等の非正規雇用層に雇用調整が及ぶ場面では、別の法理が問題になります。反復更新により期待が生じている有期契約の雇止めは、客観的合理性と社会的相当性を欠けば認められません(労働契約法第19条/雇止め法理)。通算5年を超えて反復更新された有期労働者には無期転換申込権が生じます(同法第18条)。「AIで事務が減ったから更新しない」という判断が、これらの規律に抵触しないか確認が必要です。
あわせて、正規・非正規間の不合理な待遇差を禁じるパートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条、性別を理由とする差別的取扱いを禁じる男女雇用機会均等法の観点も外せません。事務職に女性・非正規が偏在している実態をふまえると、雇用調整が結果的に特定の属性に偏る運用は、説明責任と公平性の両面でリスクを生みます。
同レポートは、日本企業がエントリーレベル業務を再整理しつつ、より高度な業務を求める形に組み替えて採用枠を維持・拡大している点を特徴として挙げています。事務職の再定義、リスキリング支援、バックオフィスの総合職化といった動きです。こうした「職務の組み替え」は前向きな施策である一方、職務内容・期待水準・評価基準が曖昧なまま進めると、後の配置転換や処遇をめぐる紛争の火種になります。採用時の労働条件明示、就業規則・賃金規程・評価制度の整合、教育訓練の位置づけを、制度として整えておくことが安定運用の前提になります。
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✓ 経営者・人事がいま点検すべきチェックポイント
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■ 根拠法令・参考裁判例 労働契約法第18条(無期転換)・第19条(雇止め法理)/労働施策総合推進法第9条(募集・採用における年齢均等)/パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条/男女雇用機会均等法/高年齢者雇用安定法。下関商業高校事件(最判昭和55年7月10日)、東亜ペイント事件(最判昭和61年7月14日)、滋賀県社会福祉協議会事件(最判令和6年4月26日)。 ■ 参考資料・出典 星野卓也「AI失業、日本で本当に危ないのは『若者』ではない」第一ライフ資産運用経済研究所(2026年6月13日)/東京商工リサーチ「2025年度の『早期・希望退職』は2万781人」(2026年4月)/文部科学省・厚生労働省「令和7年度大学等卒業者及び高等学校卒業者の就職状況調査」(2026年5月22日公表)/厚生労働省「労働経済動向調査(令和8年2月)」/総務省「労働力調査」/Lodefalk, M. et al. (2026) "Same Storm, Different Boats", Örebro University Working Paper 2/2026。 ■ 免責事項 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。掲載内容は公表時点の情報・法令に基づいており、その後の改正等により取扱いが変わる可能性があります。実際のご判断にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。 |
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執筆:三重 英則 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士・経営心理士・経営法曹会議賛助会員) |