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作成日:2026/06/13
【法改正】厚生年金「標準報酬月額の上限」が65万円→75万円へ ―2027年9月から3段階引き上げ
法改正解説

厚生年金「標準報酬月額の上限」が65万円→75万円
――2027年9月から3段階引き上げ。高所得社員・役員の保険料と企業負担はどう変わるか


2026.06.13|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重英則

2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)については、当ブログでもこれまで「106万円の壁」撤廃と被用者保険の適用拡大、在職老齢年金の支給停止基準額引き上げ、遺族厚生年金の見直しと、順次取り上げてきました。

今回はその残された大物論点、すなわち厚生年金保険の標準報酬月額の上限引き上げを解説します。

現在の厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円。これが2027年9月から3段階で引き上げられ、2029年9月には75万円になります。「高所得者だけの話」と思われがちですが、役員・管理職・専門職を抱える企業にとっては、会社負担分の人件費が確実に増える改正です。給与計算・人件費予算・役員報酬設計に直結するため、施行の1年以上前である今のうちから全体像を押さえておきましょう。

📌 この記事のポイント
✓ 厚生年金の標準報酬月額上限(65万円)が、2027年9月・2028年9月・2029年9月の3段階で75万円へ
✓ 影響を受けるのは報酬月額おおむね66.5万円以上の被保険者(役員を含む)
✓ 最終段階では本人・会社それぞれ月約9,100円(年約11万円)の負担増
✓ 一方で報酬比例の年金額も増えるため、「負担増」と「給付増」をセットで説明することが重要

役員報酬の高い中小企業(オーナー社長・役員複数名)ほど、実は影響が大きい改正です。

標準報酬月額の上限引き上げスケジュール(改正前→改正後)
施行時期 上限額 等級【解説ベース】
現行(改正前) 65万円 32等級まで
(報酬月額63.5万円以上で上限)
2027年9月 68万円 33等級新設
(報酬月額66.5万円以上が対象)
2028年9月 71万円 34等級新設
(報酬月額69.5万円以上が対象)
2029年9月 75万円 35等級新設
(報酬月額73万円以上が対象)

1. そもそも「標準報酬月額の上限」とは

厚生年金保険料は、実際の給与額そのものではなく、給与を等級表に当てはめた標準報酬月額に保険料率(18.3%・労使折半)を乗じて計算します。

現行の厚生年金の等級は1等級(8万8,000円)から32等級(65万円)まで。報酬月額がどれだけ高くても、上限の65万円で頭打ちになります。つまり月収66万円の人も月収300万円の役員も、厚生年金保険料は同じです(健康保険の標準報酬月額の上限は139万円で、これとは別の話です)。

近年の賃金上昇により、上限に達する被保険者の割合が増加しています。「実際の報酬に見合った保険料負担と給付」を実現するため、上限の引き上げが決まりました。

2. 引き上げのスケジュール ― 3年かけて3段階

冒頭の比較表のとおり、毎年9月に1段階ずつ、3年かけて引き上げる設計です。9月という時期は、定時決定(算定基礎届)による標準報酬月額の改定タイミング(9月適用)と重なります。

影響を受けるのは、賞与を除く報酬月額がおおむね66.5万円以上の被保険者です【解説ベース:66.5万円が新33等級の下限となる報酬月額のため】。役員も厚生年金の被保険者である限り、対象に含まれます。

3. 保険料への影響 ― 本人も会社も負担増

厚労省の試算によれば、報酬月額75万円以上の被保険者の場合、3段階の引き上げが完了した時点で、

本人負担分:月約9,100円の増加(標準報酬月額65万円→75万円の差額10万円×18.3%÷2=9,150円)
・社会保険料控除による税負担軽減を考慮した実質では月約6,100円の増加【解説ベース】

となります。年間では本人負担だけで約11万円の増加です。

そして忘れてはならないのが会社負担。労使折半ですから、会社も対象者1人あたり月約9,100円・年約11万円の負担増となります。単純計算で、対象者が5人いる企業なら月約4.6万円・年約55万円の追加負担です。役員報酬の高い中小企業(オーナー社長・役員複数名)ほど、実は影響が大きい改正といえます。

4. 年金額への影響 ― 負担増は「掛け捨て」ではない

標準報酬月額が上がれば、報酬比例で計算される老齢厚生年金の額も増えます。厚労省の試算では、報酬月額75万円以上の人が引き上げ後の保険料を10年間納めた場合、

年金額は月約5,100円の増額(年金課税を考慮した実質で月約4,300円【解説ベース】)
・これを生涯にわたって受け取れる

とされています。負担増の見返りが将来給付の増額として返ってくる構造であり、従業員説明の際には「保険料が上がる」だけでなく「年金も増える」ことをセットで伝えるのが重要です。

【推測】もっとも、受給開始までの期間や受給期間の長短によって損得の感じ方は変わるため、若年層と60歳前後の役員とでは受け止めが異なると考えられます。説明の際は年齢層に応じた丁寧な情報提供が望ましいでしょう。

5. 企業が今から準備すべき実務対応

(1) 対象者の洗い出しと人件費試算

報酬月額66.5万円以上(役員報酬含む)の被保険者をリストアップし、2027年9月・2028年9月・2029年9月の各段階での会社負担増を試算しておきましょう。人件費予算・中期経営計画への織り込みは早いほど安全です。

(2) 給与計算システム・実務フローの確認

等級表の改定(33〜35等級の新設)にシステムが対応するか、ベンダーのアップデート方針を確認しておきます。毎年9月の改定は定時決定の反映と同じタイミングで走るため、2027年〜2029年の算定実務は例年以上に検算が必要です。

(3) 役員報酬・報酬設計の点検

【推測】役員報酬月額が66.5万円前後の企業では、報酬額の設定次第で等級が変わるため、定期同額給与の改定時期に合わせて報酬水準を再検討する動きが出ると考えられます。ただし、社会保険料の負担回避だけを目的とした報酬操作は税務・年金双方のリスクがあるため、税理士と連携した総合判断が必要です。

(4) 従業員・役員への事前周知

手取りが変わる改正は、事前説明の有無で受け止めが大きく変わります。「なぜ上がるのか」「いくら上がるのか」「年金はどう増えるのか」を、2027年夏までに対象者へ個別に案内する段取りを組んでおきましょう。

✅ 2027年9月までの準備チェックリスト
□ 報酬月額66.5万円以上の被保険者(役員含む)をリストアップしたか
□ 3段階それぞれの時点での会社負担増を試算し、人件費予算に織り込んだか
□ 給与計算システムの等級表改定への対応方針をベンダーに確認したか
□ 対象者への説明資料(負担増と年金増額をセットで示すもの)を準備したか
□ 役員報酬の改定スケジュールと施行時期の関係を確認したか

6. 社労士の視点 ― 「壁の撤廃」と「天井の引き上げ」はセットで理解する

2025年金制度改正法は、低所得側では「106万円の壁」撤廃により適用の裾野を広げ、高所得側では標準報酬月額の上限引き上げにより負担の天井を上げる――つまり、被用者保険を「収入の下にも上にも」広げる改正です。

短時間労働者の適用拡大(2026年10月〜)と本改正(2027年9月〜)は施行時期が約1年差で連続します。顧問先には、個別の改正をバラバラに伝えるのではなく、社会保険コストが構造的に増えていくロードマップとして一枚絵で示すことが、これからの労務管理の要諦です。

まとめ

・厚生年金の標準報酬月額上限(現行65万円)が、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へと3段階で引き上げられる(2025年6月13日成立の年金制度改正法による)

・影響を受けるのは報酬月額おおむね66.5万円以上の被保険者(役員を含む)

・最終段階では本人・会社それぞれ月約9,100円(年約11万円)の負担増、一方で年金額も増える

・企業は対象者の試算・システム対応・役員報酬の点検・従業員説明を今から準備すべき

社会保険料の負担増シミュレーション、給与計算実務の改定対応はお任せください

当法人は、法改正への先回り対応から給与計算・社会保険手続の実務まで、
特定社会保険労務士が経営者と共に歩き、最善の解を導き出します。


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根拠法令・出典・参考資料
・社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年5月16日国会提出・衆議院で修正のうえ令和7年6月13日成立)
・厚生年金保険法20条(標準報酬月額)
・厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00024.html
※新設等級の区切り額(66.5万円・69.5万円・73万円)および税・社会保険料控除考慮後の実質負担額・実質年金増額は、上記厚労省ページに基づく各種解説の記載を参照したものであり、本文中に【解説ベース】と付しています。今後の政省令で細部が確定するため、実務適用時には最新の保険料額表をご確認ください。

※本記事は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の法律相談・年金相談に代わるものではありません。保険料額・年金額の試算はモデルケースに基づく概算であり、個別の金額は加入状況等により異なります。具体的な対応については専門家にご相談ください。記事の内容は2026年6月11日時点の情報に基づきます。

執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号:第160175号

労働紛争の予防と解決、IPO・M&Aに伴う労務監査、高難度の人事労務課題への対応を専門とする。「誠実」「Think more」「伴走」を価値観に、経営者と共に歩き、最善の解を導き出すことを使命としている。

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