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作成日:2026/06/08
「解雇の金銭解決」議論がついに再始動 ― 厚労省が2026年に検討会を新設、約4年ぶりに動く労働契約解消金構想
労務トピックス/法政策動向
「解雇の金銭解決」議論がついに再始動 ―
厚労省が2026年に検討会を新設、約4年ぶりに動く労働契約解消金構想

2026年6月8日 / 社会保険労務士法人T&M Nagoya

「不当解雇と裁判で認められても、職場には戻れない(戻りたくない)。ではお金で解決できないのか」――労使双方から長年問われ続けてきたこのテーマが、約4年の沈黙を経て再び動き出しました。厚生労働省が、解雇が無効と判断された場合に金銭の支払いで労働契約を終了させる「解雇無効時の金銭救済制度」(いわゆる解雇の金銭解決制度)について、2026年に有識者による検討会を新設する方針を明らかにしたものです。

本記事では、この制度の経緯・論点・今後の見通しを社労士の視点から整理します。

📌 この記事の要点
 厚労省が2025年11月18日、労働政策審議会の分科会で有識者検討会の設置を表明。2026年に新設し、約4年ぶりに議論を再開する
 過去の検討会(2018年〜2022年)では「労働者の請求により使用者が金銭を支払い、労働契約を終了させる」骨格が念頭に置かれてきた
 最大の争点は「申立権を誰に認めるか」と「解決金の水準」。労使対立は依然として大きい
 制度はまだ存在せず、現段階は「号砲が鳴った」入口。社労士は過度な期待にも不安にも傾かず、一次情報を冷静に伝える役割が求められる
1. 何が起きたのか ― 約4年ぶりの議論再開

事実として確認できる動きは次のとおりです。

・厚生労働省は2025年11月18日、労働政策審議会の分科会で、解雇無効時の金銭救済制度の制度設計に向けた有識者検討会を2026年に新設する方針を表明し、了承されました(日本経済新聞ほか報道)。
上野賢一郎厚生労働大臣は令和7年(2025年)12月16日の記者会見で、この検討会について「分科会長から、より具体的な資料やデータを用いた専門家による検討が必要との総括があり、これを基に発足させたい」「具体的な発足時期は未定」「法学者だけでなく経済学者も交えた議論」「安易な解雇を促進しかねないとの意見もあり、丁寧かつ慎重に議論を進める必要がある」と述べています。

つまり2026年6月の現時点では、検討会の設置方針が示され、これから本格的な議論が始まるという、いわば号砲が鳴った段階です。制度の中身が固まったわけではなく、社労士としては「これから議論が進む論点」として、顧問先に冷静に情報提供すべき段階だと当法人は考えます。

2. そもそも「解雇の金銭解決制度」とは何か

現在の日本の解雇ルールでは、裁判で解雇が無効と判断された場合、労働者は職場復帰解雇期間中の賃金(バックペイ)を請求できます。しかし実務では、勝訴しても職場の人間関係などの理由で実際に復職する労働者は限られるのが実情です。

※復職に至る割合については、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査シリーズNo.244『解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査』(2024年)等の調査研究があります。なお、しばしば引用される「約37%」といった具体的数値は調査結果に基づく参考値であり、当法人で原典の最新版を直接確認できていないため、本記事では数値を断定せず参考としてのみ示します。

⚠ 社労士が誤解を避けるべき重要点

過去の検討会で念頭に置かれてきた骨格は、「無効な解雇がなされた場合に、労働者の請求によって使用者が一定の金銭(労働契約解消金)を支払い、その支払によって労働契約が終了する仕組み」です(内閣府規制改革推進会議への厚労省事務局報告資料による)。「使用者が金を払えば自由に解雇できる」という制度ではありません。使用者側にも申立権を認めるかは、労働側の反発が強く、制度設計上の最大の論点の一つです。

3. 過去の経緯と今回の位置づけ ― 2018〜2022年の検討会

この議論は今回が初めてではありません。確認できる経緯と今回の再始動を比較すると、次のとおりです。

観点 過去の検討会(2018〜2022年) 今回の再始動(2026年〜)
名称・体制 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会(座長:山川隆一・東京大学教授/有識者のみ) 新検討会を2026年に新設予定。法学者に加え経済学者も参加見込み(正式名称・構成員・初回開催日は未定)
開催・成果 2018年6月設置、計17回開催。2022年4月12日に報告書を公表(法技術的論点を整理) 過去報告書を土台に、解決金の水準を含む制度設計へ踏み込む段階
その後 労働政策審議会で労使の合意形成に至らず、法制化は事実上先送り 労使対立という最大の壁は依然として残る

今回の再始動は、ゼロからの議論ではなく、2022年報告書で整理された法技術的論点を土台に、解決金の水準を含めた制度設計へ一歩踏み込もうとするものと当法人はみています。過去の蓄積がある分、議論は前回より具体化しやすい一方、最大の壁である労使対立は依然として残っています。

4. 主な論点 ― 何がもめるのか
@ 解決金(労働契約解消金)の水準
予見可能性を高める観点から上限・下限を設ける案が議論されています。過去報告書では勤続年数・年齢・給与額などを考慮した算定が整理されましたが、具体的な計算式は今後の議論次第です。
A 申立権を誰に認めるか
労働者側のみとするか、使用者側にも認めるか。ここが制度の性格を決定づける最大の対立軸であり、労働側が最も警戒する点です。
B 「解雇規制の緩和」との関係
経済界には労働市場の流動化を促す観点から創設を歓迎する声がある一方、労働組合(全労連等)は「解雇の金銭解決は解雇の自由化につながる」として強く反対する談話を出しています。
C 解雇の類型ごとの扱い
整理解雇・能力不足解雇など、類型によって妥当な解決水準が異なり得るため、一律の制度設計が難しいことも予想されます。
5. 社労士・企業はどう備えるべきか
✓ いま押さえておくべき視点
1. 「予防」の重要性は変わらない。金銭解決制度ができても、それは「不当解雇と判断された後」の話。そもそも無効な解雇を出さないための入口管理(解雇理由の精査・手続の適正化・記録化)こそが本領です。
2. 顧問先の過度な期待を抑制する。「お金を払えば解雇できる制度ができる」という誤解を経営者が抱かないよう、制度の性格(労働者側申立てが軸)と未確定であることを正確に伝えます。
3. 退職・合意解約の実務との接続。現行でも紛争の多くは合意退職・退職勧奨・労働審判での解決金で処理されています。本議論を、自社の退職管理・合意書実務を見直す契機とするのが建設的です。
4. 一次情報のアップデート。今後、検討会の資料・議事録が厚労省サイトで順次公開されます。揺れ動く議論を冷静に翻訳して顧問先に伝えることが価値になります。
6. まとめ

「解雇の金銭解決」は、約4年の沈黙を破って2026年に再び検討の俎上に載りました。ただし現段階は検討会設置の方針が示された入口であり、解決金の水準も、申立権の主体も、法制化の時期も、すべてこれからの議論です。社労士としては、過度な期待にも不安にも傾かず、「予防こそ最大の解決」という原点に立ち返りつつ、一次情報を追い続ける姿勢が求められます。

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【参考情報・出典】

・日本経済新聞「『解雇の金銭解決』議論再開 26年に検討会設置、厚労省」(2025年11月18日)
・厚生労働省「上野大臣会見概要(令和7年12月16日)」
・厚生労働省「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」報告書(2022年4月12日公表)
・労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.244『解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査』(2024年)
・全国労働組合総連合(全労連)談話/日本労働組合総連合会(連合)談話(2022年4月6日)

【免責事項】

本記事は2026年6月8日時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。記載の制度はいずれも検討段階であり、今後の議論により内容が変わる可能性があります。

この記事を書いた人
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員