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作成日:2026/06/02
職場の熱中症対策が罰則付きで義務化 ―安衛則第612条の2(令和7年6月1日施行) 施行2年目の夏を前に企業が再点検すべき実務
法改正解説
2026.6.2

職場の熱中症対策が罰則付きで義務化
―安衛則第612条の2(令和7年6月1日施行)
施行2年目の夏を前に企業が再点検すべき実務

「やったつもり」を許さない―重篤化防止のための3つの義務と再点検の急所
📌 本記事のポイント
改正労働安全衛生規則第612条の2が令和7年6月1日に施行され、職場の熱中症対策が罰則付き義務となった
対象はWBGT28度以上または気温31度以上連続1時間以上または1日4時間超の作業(屋内も含む)
事業者の3義務:@報告体制の整備、A重篤化防止手順の作成、B関係者への周知
違反時は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。法人にも両罰規定(同日施行の改正刑法で「懲役」は「拘禁刑」に一本化)
施行2年目の今夏は、「紙はあるが動かない」状態を放置せず実効性の検証が急務

はじめに ― あと10日で「2年目の夏」が始まる

本記事を執筆している2026年5月22日、まもなく6月を迎え、現場は本格的な暑熱シーズンに入ります。職場における熱中症対策が罰則付きの義務となった改正労働安全衛生規則(以下「安衛則」)第612条の2が施行されたのは、ちょうど1年前の令和7年(2025年)6月1日でした。つまり今夏は「義務化2年目の夏」です。

施行初年度は「とりあえず体制だけ整えた」という企業も多かったのが実情です。しかし2年目を迎える今、形だけの対応では足りません。本記事では、改正の内容を改めて整理したうえで、施行2年目に向けて当法人が顧問先に再点検を促すべき実務の急所を、徹底解説します。

改正前後の比較 ― 「努力義務」から「罰則付き義務」へ

項目 改正前
(令和7年5月31日まで)
改正後
(令和7年6月1日施行)
義務の性質 努力義務(ガイドライン中心)
※未対応でも直ちに罰則なし
罰則付きの法的義務
※安衛則612条の2新設
対象作業の
判定基準
明確な数値基準なし
(ガイドラインで配慮)
WBGT28度以上または気温31度以上
かつ連続1時間以上または1日4時間超の作業
事業者の
具体的措置
WBGT低減、休憩・水分塩分補給、健康管理等の自主的取組(指針による奨励) 3つの義務を法令上明記
@報告体制の整備
A重篤化防止手順の作成
B関係者への周知
違反時の
罰則
直接の刑事罰なし
(行政指導中心)
6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(安衛法119条1号)
法人にも50万円以下の罰金(両罰規定・122条)
行政措置 是正勧告・指導が中心 作業停止・使用停止・変更命令等(安衛法98条)
⚠ 「懲役」表記についての補足
令和7年6月1日に改正刑法(令和4年法律第67号)が施行され、従来の「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。安衛則第612条の2の施行日と同日です。安全衛生分野の解説記事のなかには改正前の表現で「懲役」と記載しているものも残っていますが、現行法上は「拘禁刑」と読み替える必要があります。

1.なぜ義務化されたのか ― 背景にある「死亡災害の深刻さ」

職場での熱中症対策は、長年にわたり努力義務にとどまっていました。しかし、近年の記録的な猛暑を背景に、職場における熱中症の死傷者・死亡者は高止まりが続いています。とりわけ問題視されたのは、熱中症による死亡災害の多くが「初期症状の放置」や「発見の遅れ」によって重篤化している点でした。

すなわち、「暑さそのもの」よりも、「異変に気づいた後の対応の遅れ」が命を分けるという現実があったのです。そこで今回の改正は、予防だけでなく「早期発見」と「重篤化防止」に焦点を当て、これを罰則付きの義務として明確化しました。

2.改正の核心 ― 安衛則第612条の2が定める「対象作業」と「3つの義務」

(1) 義務の対象となる作業

すべての作業が対象になるわけではありません。安衛則第612条の2では、「熱中症を生ずるおそれのある作業」を以下のとおり定義し、これに該当する場合に義務が発生します。

▼ 対象作業の定義

WBGT(暑さ指数)28度以上、又は気温31度以上の作業場において行われる作業であって、継続して1時間以上、又は1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれるもの

ここで注意したいのは、屋外の建設・運送現場だけでなく、空調が十分でない屋内(工場・倉庫・厨房など)も対象になりうる点です。「うちは屋内だから関係ない」という思い込みは禁物です。

(2) 事業者に課される3つの義務

対象作業を行う事業者には、次の3つの措置が義務付けられます。

@ 報告体制の整備

熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症のおそれがある作業者を見つけた者が、その旨を速やかに報告できる体制(連絡先・担当者)を、あらかじめ事業場ごとに定め、関係作業者に周知します。「誰に・どうやって・どこへ知らせるか」を明確にすることがポイントです。

A 重篤化防止のための手順(実施手順)の作成

熱中症のおそれがある作業者を把握した場合に、重篤化を防ぐための措置の内容と実施手順を定め、関係作業者に周知します。具体的には次の事項をあらかじめ手順化することが求められます。

(a) 作業からの離脱
(b) 身体の冷却
(c) 必要に応じた医師の診察・処置
(d) 緊急連絡網・緊急搬送先(連絡先・所在地)の把握と周知
B 関係者への周知

@Aで定めた体制と手順を、対象作業に従事する作業者および関係者へ周知します。マニュアルを作って終わりではなく、現場の全員が「いざという時にどう動くか」を理解している状態にすることが義務の趣旨です。

3.罰則 ―「努力義務」から「罰則付き義務」への決定的転換

今回の改正で最も重いのは、義務違反に罰則が伴う点です。安衛則第612条の2の義務に違反した場合の法的効果は次のとおりです。

根拠条文:労働安全衛生法22条(事業者の健康障害防止措置義務)違反として扱われる
行為者の罰則6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(安衛法119条1号)
法人の罰則(両罰規定):法人にも50万円以下の罰金(安衛法122条)
行政措置:都道府県労働局長又は労働基準監督署長から、作業停止・建設物等の使用停止・変更命令等が出される可能性(安衛法98条)

努力義務の時代は「やらなくても直ちに罰せられない」状態でしたが、義務化後は未対応それ自体が法令違反となります。さらに、万一熱中症による労災(特に死亡災害)が発生した場合、安全配慮義務違反による民法上の損害賠償や、悪質なケースでは送検のリスクも現実味を帯びます。

4.施行2年目に向けた「再点検」の急所

施行初年度を経た今、当法人が顧問先に促すべきは「整えた仕組みが本当に機能するか」の検証です。

✓ (1) 体制・手順の「実効性」を確認する

昨年作成した報告体制・実施手順が、現場で実際に運用できる内容になっているかを点検します。担当者が異動・退職していないか、緊急搬送先の連絡先は最新か、夜間・休日の連絡網は機能するか――「紙はあるが動かない」状態を放置しないことが重要です。

✓ (2) WBGTの「測定」を習慣化する

義務の発動要件はWBGT28度(又は気温31度)です。これを判定するには、現場でWBGT値を実測する必要があります。WBGT計の設置・点検、測定記録の保存をルーティン化し、「対象作業に該当するか否か」を客観的に判断できる体制を整えましょう。

✓ (3) 教育・周知を「毎シーズン」繰り返す

熱中症対応は1年に1度しか実践機会がないため、知識が風化しやすい分野です。新入社員・異動者・外国人労働者・派遣労働者を含め、シーズン前の教育(誰に報告するか、初期症状をどう見分けるか、どう動くか)を毎年実施することが、重篤化防止の鍵です。

✓ (4) 行政の最新動向にも注意

熱中症対策をめぐっては、義務化後も国が「職場における熱中症対策ガイドライン」の周知や運用の強化を進めています。クールワークキャンペーン(毎年5〜9月、特に7月は重点期間)等の行政の動きとあわせ、最新の通達・リーフレットを確認しておくことをお勧めします。

5.業種別・規模別の留意点

建設業・運送業・警備業・農業など屋外作業中心の業種

最も典型的な対象業種です。直行直帰・1人作業の場面で「報告体制」が形骸化しやすいため、スマートフォン等を活用した連絡手段の整備が有効です。

製造・物流(屋内)

空調の効きにくい工場・倉庫・厨房は要注意。屋内でもWBGT実測で基準を超える場面は珍しくありません。

中小・小規模事業場

「専任の安全衛生担当がいない」企業ほど対応が後手に回りがちです。安衛則の義務は規模を問わず適用されるため、テンプレートを活用した最低限の体制整備を急ぐべきです。

おわりに ―「命を守る義務」を経営の信頼につなげる

熱中症対策の義務化は、単なる規制強化ではありません。労働者の命と健康を守るための最低限のルールであり、これを着実に履行することは、人手不足時代における「選ばれる職場づくり」にも直結します。安全配慮を尽くす企業は、従業員からの信頼を獲得し、定着率の向上にもつながります。

当法人は、顧問先が「昨年作って終わり」にしてしまわないよう、シーズン前の今こそ再点検と教育の実施を働きかけています。あと10日で2年目の夏が始まります。「うちは大丈夫」という思い込みこそ、最大のリスクです。

根拠法令・出典
  • 労働安全衛生規則第612条の2(令和7年4月15日改正・令和7年6月1日施行)
  • 労働安全衛生法22条・98条・119条1号・122条
  • 厚生労働省労働基準局長通達「基発0520第6号」(令和7年5月20日)
  • 厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」
  • 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号・令和7年6月1日施行)
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WRITER
三重 英則 / MIE Hidenori
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員
※本記事は2026年5月22日時点で確認できる法令・通達・公開情報に基づき作成しています。最新の改正内容・運用については、厚生労働省の通達・リーフレット等をご確認ください。個別事案の判断については、当法人までご相談ください。