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作成日:2026/05/30
遺族厚生年金の大改正 ―「子のない配偶者」は男女ともに原則5年の有期給付へ
LAW REFORM

【2028年4月施行】遺族厚生年金の大改正
―「子のない配偶者」は男女ともに原則5年の有期給付へ
男女差解消・有期給付加算・死亡時分割の新設を社労士が読み解く

2026年5月30日 / 社会保険労務士法人T&M Nagoya

📌 本記事の要点

・2025年6月13日成立の年金制度改正法により、遺族厚生年金が2028年4月から大きく変わる
60歳未満で子のない配偶者は男女ともに原則5年の有期給付に統一(60歳以上の死別は無期給付のまま)
・「有期給付加算」(老齢厚生年金の1/4)を新設、給付水準は約1.3倍に増額
・「死亡時分割制度」で残された配偶者自身の老後の年金額を底上げ
・収入要件(年収850万円未満)は撤廃、共働き世帯にも受給の道
・女性は約20年かけて段階的に移行、男性は施行時から一斉適用
・「保障」から「生活再建支援」へ ― 公的年金縮小を企業の退職給付・福利厚生で補完する設計が重要に

1. はじめに ― 「終身もらえる遺族年金」という常識が変わる

2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法は、在職老齢年金の見直し、社会保険の適用拡大(106万円の壁の撤廃)など、すでに多くの注目を集めてきました。しかし、その中で最も「家計の前提」を揺るがすにもかかわらず、まだ十分に知られていない改正があります。それが遺族厚生年金の抜本的な見直しです。

施行は2028年(令和10年)4月。「60歳未満で子のいない配偶者が受け取る遺族厚生年金を、男女ともに原則5年間の有期給付に統一する」という、現行制度の根本構造を転換する内容です。これまで「配偶者を亡くせば、妻は年齢にかかわらず終身で遺族年金を受け取れる」というのが多くの方の常識でした。その常識が、約20年をかけて段階的に書き換えられていきます。

本稿では、当法人の視点から、(1) 現行制度の男女差、(2) 改正後の5年有期給付、(3) 経過措置、(4) 新設される「有期給付加算」「死亡時分割」、(5) 顧問先企業・従業員が今から備えるべきポイントを徹底的に解説します。施行はまだ2年先ですが、ライフプラン・退職金・企業年金・生命保険の設計に直結するため、当法人として早期にお伝えすべきテーマです。

2. なぜ今、遺族年金を見直すのか ― 制度の前提が崩れた

現行の遺族年金制度は、「夫が外で働き、妻が家庭を守る」という片働きの家族モデルを前提に設計されてきました。夫を亡くした専業主婦が生活に困窮しないよう、妻に手厚い終身給付を用意する、というのが制度の発想です。

しかし、令和の日本では共働き世帯が専業主婦世帯を大きく上回り(2021年時点で共働き486万世帯、専業主婦458万世帯)、女性の就業も一般化しました。にもかかわらず、遺族厚生年金には大きな男女差が残っていました。この「時代に合わない男女差」を解消し、配偶者の死亡後の生活再建を支援する制度へと転換することが、今回の改正の核心です。

3. 現行制度の男女差 ― ここが不公平だった

遺族厚生年金には、「子のいない配偶者」をめぐって次のような男女差があります。

受給者の属性 現行の取扱い
妻(30歳以上・子なし) 原則として終身で遺族厚生年金を受給可能(40歳以上には中高齢寡婦加算も)
妻(30歳未満・子なし) 例外的に5年間の有期給付
夫(子なし) 妻の死亡時に55歳以上でなければ受給権が発生しない(支給開始は原則60歳から)。55歳未満の夫は遺族基礎年金等を除き受給不可

つまり、同じ「配偶者を亡くした」状況でも、性別によって受給できるか否か・終身か有期かが大きく異なっていました。共働きが当たり前になった今、この差は合理性を失っていたのです。

4. 改正の全体像 ― 「男女共通の5年有期給付」への統一

2028年4月施行の改正では、60歳未満で子のいない配偶者が遺族厚生年金を受給する場合、男女ともに原則として5年間の有期給付に統一されます。一方、60歳以上で死別した場合は、男女ともに従来どおり無期(終身)給付となります(共働きで一定の収入要件がある場合の調整あり)。

ポイントを整理すると次のとおりです。

項目 現行ルール 改正後ルール(2028年4月〜、経過措置あり)
子のない妻(30歳以上・60歳未満) 原則終身給付 原則5年の有期給付へ(段階的)
子のない夫(60歳未満) 55歳以上のみ受給可 60歳未満まで対象拡大(5年の有期給付)
60歳以上で死別の場合 妻は終身/夫は55歳以上限定 男女ともに無期(終身)給付に統一
給付水準 死亡者の老齢厚生年金の3/4 3/4+「有期給付加算」(1/4)=合計100%相当(従来の約1.3倍)
収入要件 前年収入850万円未満(または所得655.5万円未満) 撤廃(同一生計要件のみ)
死亡時分割 制度なし 新設(婚姻期間の厚生年金記録を分割し、遺族の老後の老齢厚生年金に上乗せ)
中高齢寡婦加算 40歳〜65歳の妻に加算 段階的に縮小予定
制度の目的 遺族の生活保障(終身) 配偶者の生活再建支援(有期+上乗せ)

「給付が薄くなるのでは」という不安が生じますが、後述する「有期給付加算」や継続給付の配慮措置によって、激変を緩和する仕組みが用意されています。

5. 女性への経過措置 ― 約20年かけて段階的に

現行制度で手厚い給付を受けてきた女性について、いきなり5年有期に切り替えると影響が大きすぎます。そこで、長い時間をかけた段階的な経過措置が設けられます。

・まず、2028年度末時点で40歳未満であり、かつ18歳年度末までの子がいない女性が、新たに5年有期給付の対象となります(主に30代女性、当初の新規該当は厚労省推計で年間約250人)。

・その後、約20年をかけて、有期給付の対象となる年齢の上限を段階的に60歳未満まで引き上げていきます。

・すでに受給している方や、施行時点で対象年齢を超えている方には、従前の取扱いが維持されるなど、既得権への配慮がなされます。

一方、男性については、これまで55歳未満では受給できなかった制限が緩和され、18歳年度末までの子のいない60歳未満の男性も新たに給付対象に加わります(厚労省推計で年間約1万6,000人が該当)。男性については女性のような段階的な経過措置はなく、施行時から一斉に新制度が適用されます。男性にとってはむしろ「受給できる範囲の拡大」という側面を持つ点は、しっかり押さえておくべきです。

6. 激変緩和の要 ― 「有期給付加算」「継続給付」「死亡時分割」

6-1. 有期給付加算

有期給付の期間中、死亡した配偶者の老齢厚生年金の4分の1相当額を「有期給付加算」として上乗せします。現行の遺族厚生年金(おおむね死亡者の老齢厚生年金の4分の3相当)に、この4分の1が加わることで、合計で死亡者の老齢厚生年金のほぼ100%相当(従来の約1.3倍)が支給される計算になります。短い期間でも給付水準を厚くすることで、生活の立て直しを後押しする狙いです。

6-2. 継続給付(収入が低い場合等の配慮)

5年経過後も、収入が低いなど自立した生活再建が困難な場合には、給付が継続される仕組み(継続給付)が設けられます。具体的には、就労収入が月額約10万円(年122万円)以下の場合は全額支給、収入が増えるに従って段階的に減額され、おおむね月20〜30万円超で支給停止となる見込みです。「5年で一律に打ち切り」ではなく、実情に応じた配慮がなされる点は、従業員に正確に伝える必要があります。

6-3. 死亡時分割制度の導入

夫婦が婚姻期間中に納めた厚生年金の記録を、配偶者の死亡時に分割できる「死亡時分割制度」が導入されます。これにより、遺された配偶者自身の将来の老齢厚生年金額が増えることになり、有期給付の終了後の老後保障につながります。離婚時の年金分割と発想を同じくする、自立支援型の仕組みです。なお、上乗せ後の金額は夫婦の老齢厚生年金合計の2分の1までが上限となります。

7. 収入要件の撤廃 ― 共働き世帯への影響

現行では、遺族厚生年金を受給するために前年収入850万円未満(または所得655.5万円未満)といった生計維持要件が求められていました。改正後は、この収入要件が撤廃され、同一生計であることを基本要件として受給可能となります。共働きで一定以上の収入がある配偶者にも受給の道が開かれる一方、給付が有期化される――この「広く・薄く・自立支援型へ」という方向性が、改正全体を貫く思想です。

8. 当法人から顧問先・従業員にお伝えしたい実務ポイント

✓ チェックポイント ― 顧問先企業が押さえるべき4つの実務

ポイント1:「終身もらえる前提」のライフプランは要見直し

特に30代〜50代の共働き世帯では、「配偶者が亡くなっても遺族年金で生活できる」という従来の前提が崩れます。民間の生命保険・収入保障保険の必要保障額の再計算が不可欠です。福利厚生やライフプランセミナーのテーマとして、企業から従業員へ情報提供する価値が高いテーマです。

ポイント2:男性従業員には「受給拡大」の朗報でもある

これまで妻を亡くしても遺族厚生年金を受け取れなかった現役世代の男性が、新たに対象となります。男女差解消は「女性の給付削減」と受け止められがちですが、男性にとっては保障の拡大という側面があることを、バランスよく説明しましょう。

ポイント3:企業年金・退職給付制度との整合性を点検する

公的年金の遺族保障が有期化される分、企業年金(DB・企業型DC)や死亡退職金、弔慰金規程が果たす役割が相対的に高まります。自社の退職給付・遺族保障制度が、公的年金の縮小を補完できているかを点検する好機です。IPO準備企業やM&Aの労務デューデリジェンスでも、遺族保障の設計は確認すべき論点になります。

ポイント4:施行は2028年4月 ― 「今から」周知を始める

施行まで約2年あります。だからこそ、慌てて駆け込むのではなく、従業員のライフプラン見直しの時間を確保する意味で、今から段階的に情報提供を始めることが望まれます。就業規則そのものの改定は不要でも、福利厚生・教育の文脈で先回りした対応ができる事業所は、従業員の安心と信頼を得られます。

9. まとめ ― 「保障」から「生活再建支援」へのパラダイム転換

今回の遺族厚生年金改正は、単なる男女差の解消にとどまりません。「遺された配偶者を終身で養う制度」から「自立した生活再建を一定期間支援する制度」へという、年金思想の大きな転換です。

観点 改正のメッセージ
男女差 性別による格差を解消し、共働き時代に合わせる
給付の性格 終身保障から、有期+上乗せの「生活再建支援」へ
自立支援 死亡時分割で遺族自身の老後年金を底上げ
企業の役割 公的保障の縮小を企業年金・死亡退職金で補完

📎 根拠法令・参考資料

・社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(2025年6月13日成立、令和7年法律)
・厚生年金保険法第58条以下(遺族厚生年金)
・厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html
・厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」(社会保障審議会年金部会 資料)
・大和総研「遺族年金継続給付の手取り額試算」(2025年6月30日、是枝俊悟)

※本記事は2026年5月21日時点で公表されている法令・解説に基づくものです。経過措置の詳細や政省令は今後さらに整備される予定であり、適用にあたっては最新の厚生労働省資料および専門家の判断をご確認ください。個別事案については当法人または所轄の年金事務所にご相談ください。

AUTHOR

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員

特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員

名古屋を拠点に、中小企業から上場準備企業まで幅広く労務顧問・労務監査を提供。IPO労務監査・M&A労務デューデリジェンス・休職/復職制度設計を得意とし、経営者と共に歩む伴走者として、健全で持続可能な職場づくりを支援している。