作成日:2026/05/15
令和8年10月1日改正対応・同一労働同一賃金ルールの対応について−パートタイム・有期雇用労働者の労働条件明示義務追加と ガイドライン改正への実務対応
| 情報 / 法改正 |
| 同一労働同一賃金ルールの対応について |
令和8年10月1日施行・適用 パートタイム・有期雇用労働者の労働条件明示義務追加と ガイドライン改正への実務対応 |
| 公布日:令和8年4月28日 / 施行・適用日:令和8年10月1日 |
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| 📌 本記事の要点 |
■ 令和8年4月28日付で「パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則」、「同一労働同一賃金ガイドライン(告示)」、「雇用管理指針(告示)」が改正・公布され、令和8年10月1日から施行・適用されます。 ■ 改正の柱は次の3点です。 @ パートタイム・有期雇用労働者の雇い入れ時の労働条件明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」が追加されました。 A 同一労働同一賃金ガイドラインに、近年の最高裁・高裁判決を踏まえた賞与・退職金・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・無事故手当・褒賞・病気休職等に関する整理が追記されました。 B 雇用管理指針に、待遇差の説明や雇用管理の改善等に関する規定が追加・整理されました。 ■ 経営者・人事担当者は、令和8年10月1日までに、労働条件通知書(雇用契約書)の改訂、待遇差の点検、説明体制の整備に着手する必要があります。 |
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パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が大企業に施行されてから6年、中小企業への全面適用からも5年が経過しました。この間、最高裁では、ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件(佐賀・大阪・東京)など、待遇差の不合理性を判断する一連の重要判決が積み重ねられてきました。 こうした司法判断の蓄積と、令和7年2月から開催された労働政策審議会同一労働同一賃金部会の議論を踏まえ、令和8年3月の労政審諮問・答申を経て、改正後の省令・指針が令和8年4月28日に公布されました(令和8年厚生労働省令第87号、同告示第202号・第203号)。施行・適用は令和8年10月1日です。 本記事では、経営者・人事担当者の視点から、改正の全体像と実務対応のポイントを整理します。 |
| 今回の改正は、@省令改正(労働条件明示事項の追加)、A同一労働同一賃金ガイドライン改正(告示)、B雇用管理指針改正(告示)の3つで構成されています。それぞれの位置づけと根拠法令は次のとおりです。 |
| 改正区分 |
改正内容の概要 |
根拠法令・告示番号 |
施行・適用日 |
@省令改正 労働条件明示 |
雇い入れ時の労働条件明示事項に「法第14条第2項の規定による説明を求めることができる旨」を追加 |
令和8年厚生労働省令第87号 (パートタイム・有期雇用労働法施行規則の改正) |
令和8年10月1日 |
Aガイドライン改正 不合理な待遇差の判断指針 |
近年の最高裁・高裁判決を踏まえ、賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・無事故手当・褒賞・病気休職等の取り扱いを追記・整理 |
令和8年厚生労働省告示第203号 (短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針の一部改正) |
令和8年10月1日 |
B雇用管理指針改正 事業主が講ずべき措置 |
事業主が講ずべき雇用管理の改善等に関する措置の内容を改正・整理 |
令和8年厚生労働省告示第202号 (雇用管理指針の一部改正) |
令和8年10月1日 |
| 2. 改正点@ 労働条件明示事項の追加(省令改正) |
今回の改正で、実務上最も対応の必要性が高いのが、労働条件明示事項の追加です。パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項では、従来から、パート・有期雇用労働者から求めがあったときに、通常の労働者(正社員)との待遇の相違の内容・理由等を説明する義務が事業主に課されていました。 今回の省令改正では、この「求めることができる」という労働者の権利の存在自体を、雇い入れ時にあらかじめ書面等で明示することを義務付けるものです。 |
| 現行(令和8年9月30日まで) |
改正後(令和8年10月1日以降) |
【パートタイム・有期雇用労働法第6条による明示事項】 @ 昇給の有無 A 退職手当の有無 B 賞与の有無 C 相談窓口 ※労働基準法第15条第1項に基づく明示事項に加えて、上記4項目が明示義務の対象 |
【現行の4項目に加えて】 D 通常の労働者との間の待遇の相違の内容・理由等について、事業主に説明を求めることができる旨(法第14条第2項関係) ※厚生労働省から「労働条件通知書」が公表されており、新様式への切替えが必要 |
| ✓ 実務対応のポイント |
■ 労働条件通知書・雇用契約書の様式改訂 令和8年10月1日以降にパートタイム・有期雇用労働者を新規採用する場合、および労働契約を更新する場合には、新様式の労働条件通知書を用いる必要があります。厚生労働省公表のモデル様式を参考に、自社書式の改訂作業を進めてください。 ■ 「契約更新時」も明示義務の対象 パートタイム・有期雇用労働法第6条の「雇い入れたとき」には、初回契約時だけでなく労働契約の更新時も含まれます(厚生労働省解釈通達)。令和8年10月1日以降に更新する有期労働契約についても、新たな明示事項を反映した通知書が必要です。 ■ 過料の対象 パートタイム・有期雇用労働法第6条の明示義務違反は、行政指導でも改善されなければ同法第31条に基づき1人につき10万円以下の過料の対象となります。 |
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| 3. 改正点A 同一労働同一賃金ガイドラインの改正 |
同一労働同一賃金ガイドライン(正式名称「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)は、パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇差の禁止)、第9条(差別的取扱いの禁止)、労働者派遣法第30条の3・第30条の4の解釈指針として、待遇差の不合理性を判断する原則的な考え方と具体例を示すものです。 今回の改正は、令和2年以降に蓄積された最高裁・高裁判決の判断枠組みを反映し、実務における判断基準の明確化を図るものです。とくに次の待遇については、ガイドライン上の記載が追記・整理されたと報告されています。 |
| 対象待遇 |
改正で示された考え方(要旨) |
背景となる主要判例 |
| 賞与 |
職務内容等の違いに応じた均衡のとれた賞与を支給せず、見合いとなる基本給の上乗せ等もない場合、賞与の相違は不合理と認められる可能性があると整理 |
大阪医科薬科大学事件(最判令2.10.13)、日本郵便(佐賀)事件(最判令2.10.15) |
| 退職手当(退職金) |
「労務の対価の後払い」「功労報償」など複合的な性質・目的を持つことを前提に、職務内容や配置範囲の違いに見合う退職手当を支給せず、代替的な基本給上乗せ等もない場合は不合理と判断され得るとの整理 |
メトロコマース事件(最判令2.10.13、東京高判平31.2.20) |
| 家族手当(扶養手当) |
「継続的な勤務が見込まれる」非正規労働者には正社員と同一の家族手当を支給しなければならないとされた一方、契約更新を繰り返していない労働者の不支給は問題とならない例として整理 |
日本郵便(大阪)事件(最判令2.10.15) |
| 住宅手当 |
転居を伴う配置変更がある有期雇用労働者には、正社員と同一の住宅手当を支給する必要があるとの整理。名目上「転居を伴う配置変更が見込まれる」ことを理由に正社員のみに支給しながら実態が伴わない場合は「問題となる例」に該当することが示された |
ハマキョウレックス事件(最判平30.6.1)、井関松山ファクトリー事件等 |
| 夏季・冬季休暇 |
心身のリフレッシュを図る趣旨の特別休暇は、有期雇用労働者にも同様に趣旨が妥当することから、付与しないことは不合理と認められ得るとの整理 |
日本郵便(東京)事件(最判令2.10.15) |
| 無事故手当 |
安全運転と事故防止の意識向上を目的とする手当は、業務内容が同様の有期雇用労働者にも同一の支給が求められるとの整理 |
ハマキョウレックス事件(最判平30.6.1) |
| 褒賞・永年勤続表彰 |
永年勤続表彰、改善提案への報奨金、社内表彰制度等についても、その目的・性質に照らした均衡待遇の検討が必要であるとの整理 |
メトロコマース事件(東京高判平31.2.20) |
| 病気休職 |
派遣労働者(短時間・有期問わず)について、派遣就業期間終了後の取扱いを含めて整理。労働契約が継続する範囲で、正社員と同一の病気休職の取得を認める必要があるとの考え方が示された |
日本郵便(東京)事件等を踏まえた整理 |
雇用管理指針(正式名称「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」、令和8年厚生労働省告示第202号)も同時に改正されました。 雇用管理指針は、パートタイム・有期雇用労働法第10条〜第13条等に基づき、事業主が講ずべき雇用管理の改善等に関する措置の具体的内容を示すものです。今回の改正では、ガイドラインの改正内容と整合する形で、待遇差の説明、賃金制度、教育訓練、福利厚生、正社員転換等に関する事項が整理されたと報告されています。 |
| 5. 経営者・人事担当者が今すぐ着手すべき5つの実務対応 |
| 令和8年10月1日の施行まで、残された準備期間は約5か月です。当法人は、経営者・人事担当者の方々に対して、次の5つの実務対応に優先的に着手することを推奨します。 |
| ✓ 令和8年10月1日施行に向けた5つの実務対応 |
@ 労働条件通知書・雇用契約書様式の改訂 厚生労働省公表のモデル労働条件通知書を参考に、新たな明示事項(説明を求めることができる旨)を追加した自社様式を整備します。新規採用・契約更新の両場面に対応する必要があります。 A 正社員・非正規労働者の待遇差の総点検 基本給、賞与、退職金、各種手当、福利厚生、休暇、教育訓練、安全衛生措置に至るまで、すべての待遇項目について「正社員と非正規労働者でどのような相違があるか」「相違の理由は職務の内容・配置の変更の範囲・その他の事情のいずれで説明できるか」を整理します。 B 説明文書(待遇差の理由説明書)の事前準備 明示義務の追加により、施行後は労働者から待遇差の説明を求められる場面が増えることが想定されます。事前に、待遇項目ごとの「相違の内容」「相違の理由」「考慮事項」を客観的・具体的に整理した説明文書を準備しておくことが、説明義務違反のリスクを大幅に下げます。 C 就業規則・賃金規程の点検と必要に応じた改訂 ガイドラインに新たに整理された判断基準(家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇、病気休職等)に照らして、現行規程が不合理な待遇差を生じさせていないかを点検します。とくに、規程上は「転居を伴う配置変更がある」ことを前提とした手当を設定しながら、実態として正社員の異動運用が伴っていないケースは要注意です。 D 管理職・人事担当者への研修 現場の管理職や人事担当者が、改正内容と説明義務の趣旨を正しく理解していないと、不適切な説明や対応により紛争のきっかけを作りかねません。施行までに最低1回の研修実施が望まれます。 |
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| 6. 当法人の見解 ― 「説明できる体制」への転換 |
今回の改正で見落としてはならないのは、「説明を求めることができる旨」を雇い入れ時に明示するという点が持つ実務上のインパクトです。これは単なる書式追加ではなく、事業主に対して、待遇差を求められたときにいつでも合理的に説明できる体制を平時から整えておくことを、事実上求めるものといえます。 パートタイム・有期雇用労働法第8条が定める「不合理な待遇差の禁止」は、施行から5年を経て、最高裁・高裁の判断が積み重なり、判断基準が次第に明確化してきました。今回のガイドライン改正は、その到達点を行政指針に取り込んだものと位置付けられます。 当法人では、待遇差の点検は「不合理な待遇差を発見して訴訟リスクを回避する」という消極的な視点ではなく、「自社の雇用区分ごとに役割・責任・キャリアパスをどう設計するか」という積極的な人事制度設計の機会として捉えることが重要であると考えています。職務内容、配置の変更範囲、その他の事情を整理し直すこと自体が、雇用区分ごとの位置づけを明確化し、結果として人材定着と組織活性化に資するからです。 施行まで残り約5か月。準備期間は決して長くありません。早期の着手を強く推奨いたします。 |
労働条件通知書の改訂、待遇差の点検、説明文書の整備まで、 当法人が貴社の実情に応じた具体的な対応をご支援いたします。 |
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| 【根拠法令・告示】 |
・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第6条、第8条、第9条、第10条〜第14条、第31条 ・労働基準法第15条第1項 ・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則(令和8年厚生労働省令第87号による改正) ・短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)(令和8年厚生労働省告示第203号による改正) ・事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第202号による改正) |
| 【免責事項】 |
| 本記事は、令和8年5月15日時点で公表されている厚生労働省資料および関連情報に基づき、一般的な解説を行うものです。個別事案への適用にあたっては、最新の公表資料および所轄労働局・労働基準監督署の見解を確認するとともに、専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、当法人は責任を負いかねます。 |
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| 【執筆者】 |
三重 英則(みえ ひでのり) 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議 賛助会員 中小企業からIPO準備企業まで、経営者と共に歩き最善の解を導き出すことを使命に、労務監査・人事制度設計・労働紛争予防の領域で経営者を伴走支援しています。 |
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| 【出典・参考文献】 |
・厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」(令和8年4月28日改正省令・告示公布関連資料) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html ・厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号、令和8年4月28日改正)」 ・厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン 新旧対照表(解説付き)」 ・厚生労働省「モデル労働条件通知書」 ・厚生労働省「改正省令及び告示の周知に係るQ&A」 ・厚生労働省「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則及び短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則の一部を改正する省令等の公布等について」(令和8年4月28日職発0428第9号・雇均発0428第1号) ・最高裁判所判決(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件・大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件・日本郵便(佐賀・大阪・東京)事件 各事件) |
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