2026年5月13日、参議院本会議で「物資の流通の効率化に関する法律の一部を改正する法律」(改正物流効率化法)が可決・成立しました。トラックドライバーの長距離輸送を複数事業者・複数ドライバーで分担する「中継輸送」の仕組みづくりを進めることが柱で、運転手が日帰りで業務を完了できる環境を整え、担い手確保にもつなげることが目的とされています。 本改正は、2024年4月から適用されているトラックドライバーの時間外労働年960時間上限規制(いわゆる「2024年問題」)への構造的対応として位置づけられるものであり、運送事業者・荷主企業双方の労務管理実務に直接影響します。本記事では、改正法の内容と実務への影響、当法人の視点から整理した対応の方向性を解説いたします。 1. 改正法の全体像と成立の経緯本改正法案は2026年3月6日に閣議決定された後、両院での審議を経て、2026年5月13日の参議院本会議で可決・成立しました。国土交通省の公表資料によれば、改正の柱は大きく以下の2点に整理されています。
国土交通省の閣議決定資料では、認定計画に基づく取組について「各種支援を実施」とされており、具体的な支援措置の内容は今後の政省令・税制改正等で整備される見込みです。報道では、中継拠点施設の整備に対する税制上の優遇措置や、公的金融機関による出融資、計画策定経費等への国の支援措置が想定されているとされており、国土交通省としても中継拠点の全国的な整備を進める方針が示されています。 2. 改正前後の主な変更点既存の物流効率化法(2025年4月・2026年4月段階施行)との関係で、今般の改正による変更点を整理します。
3. 改正の背景にある「2024年問題」と輸送力危機本改正の背景には、トラックドライバーの労働環境と輸送力をめぐる深刻な構造問題があります。2024年4月から、自動車運転業務には時間外労働の年960時間上限規制が適用されており、長距離輸送を一人のドライバーが完結させる従来の働き方そのものの見直しが法的・実務的に迫られています。 政府の試算では、現在の物流体制と荷主の商慣行を放置した場合、2030年度には全国で必要とされる輸送力の約34%が不足するとされており、地方への配送ほどこの影響は大きく現れます。一方、ドライバーの平均年齢は他業種に比べて高く、若年層の入職も低迷しています。長距離輸送に伴う車中泊・宿泊を伴う働き方は若年層に敬遠される傾向が指摘されており、「日帰りで業務が完結する運行設計」への転換は、人材確保の観点からも喫緊の課題と整理できます。 中継輸送は、こうした課題への構造的な対応策と位置づけられます。例えば長距離輸送において中間地点で2人のドライバーが荷物または車両を引き継ぎ、それぞれ出発地に戻る運用とすれば、宿泊を伴わない日帰り運行が可能となり、拘束時間も大幅に短縮されます。 4. 中継輸送の主要な方式と実務上の特徴国土交通省は中継輸送を「長距離・長時間に及ぶ運行等において、運行途中の中継地等において他の運転者と乗務を交替する輸送形態」と定義しています。実務上は次の方式が用いられており、改正法はこれらいずれの実施も後押しする内容となっています。
5. 中継輸送導入に伴う労務管理上の主要論点中継輸送は労働時間規制への有効な対応策であると同時に、運送事業者にとっては運行管理・労務管理の枠組みを再設計する課題でもあります。改正法を活用する際に当法人として留意すべきと考える論点を整理します。 (1) 運行管理体制の整備原則として運行管理は事業用自動車の配置営業所で行う必要があります。中継輸送を実施するために他営業所所属の運転者を乗務させる場合、当該運転者を配置営業所に兼務させ、点呼・労務管理を行う必要があるとされています。異なる事業者間で実施する場合は、運行区間・運転者交替場所・運行管理および車両管理の責任関係・損害賠償に関する事項等を協定書等で定めることが従来から求められており、改正法の運用においてもこの整理は維持されると想定されます。 (2) 点呼の実施方法中継地点での交替に際しては、対面点呼が物理的に困難な場合があり、IT点呼・電話点呼等の活用と、その手順の社内規程化が必要となります。点呼簿の記録・保存方法、アルコールチェック実施手順についても運用ルールを定めることが望まれます。 (3) 拘束時間・休息期間の管理改善基準告示上の拘束時間・休息期間の管理は、運行設計の変更に伴い再点検が必要となります。日帰り運行へ移行する場合は宿泊を伴う運行特例の適用がなくなる一方で、勤務間インターバル(原則11時間以上、最低9時間)を確保しやすい設計が可能になります。中継地点での待機時間が発生する場合、その時間の労働時間性(手待時間か休憩時間か)の整理も重要論点となります。 (4) 賃金体系の見直し運送業では距離給・歩合給を一部に組み込んだ賃金体系が広く用いられていますが、中継輸送への移行で1運行あたりの距離が短縮されると、賃金水準への影響が生じます。年収水準の維持を前提とした賃金規程の再設計、固定残業代を採用している場合の見合いの精査、就業規則改定手続の履践が必要となるケースが想定されます。
6. 今後のスケジュールと事業者の備え改正法の具体的な施行日や、中継輸送実施計画の認定基準・申請手続の詳細は、今後公布される政省令および国土交通大臣告示で定められる見込みです。基本方針が策定された段階で、認定制度の運用要件・支援措置の対象範囲が明確化されることになります。 2025年4月施行の改正物流効率化法(努力義務段階)、2026年4月の特定事業者規制(中長期計画・定期報告・CLO選任義務)と段階的に強化されてきた一連の物流法制は、今般の中継輸送推進法によって、運送事業者の働き方そのものを再設計する段階へと進んだと整理できます。 運送事業者・荷主企業の双方にとって、中継輸送の導入は単なる効率化策ではなく、ドライバー確保戦略と一体の労務改革と位置づけて検討する視点が重要と考えられます。当法人では、運送業の労務管理体制の構築、運行管理規程・賃金規程の見直し、改善基準告示への対応、IPO準備企業における物流関連内部統制の整備等について、伴走型の支援を行っております。
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