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作成日:2026/05/06
【2026年最新版】IPO準備における労務管理の新基準−社労士が解説する「継続性を証明する」戦略的労務とは
IPO・上場準備

【2026年最新版】IPO準備における労務管理の新基準

社労士が解説する「継続性を証明する」戦略的労務とは

IPO(新規株式公開)を目指すスタートアップや成長企業にとって、労務管理は避けて通れない重要課題です。2026年現在、その位置づけは大きく変わりつつあります。

従来の「法律を守っていればOK」という受動的な労務管理から、「企業の継続性(ゴーイング・コンサーン)を証明する戦略的労務」へ。この変化を理解せずにIPO準備を進めると、上場直前で多額の簿外債務が発覚し、上場延期という最悪のシナリオに陥るリスクがあります。本記事では、社会保険労務士の視点から、2026年のIPO審査における労務管理の新基準と、成長フェーズ別の実務的な整備ステップを解説いたします。

📌 本記事の要点

・IPO審査では「企業の継続性(ゴーイング・コンサーン)」を証明する労務体制が重視される

・2026年労働基準法改正案の通常国会提出は見送られたが、自律的な労務ガバナンスがより重要に

・未払残業代等の簿外債務は上場延期の最大要因。早期の労務DDが必須

・社員数10〜30名の成長初期段階での労務基盤整備が最も効果的

・2026年10月の社会保険適用拡大(106万円の壁撤廃)への対応も急務

▼ IPO労務審査における「従来の視点」と「2026年の新基準」の比較

観点 従来の労務審査 2026年の新基準
基本姿勢 法令遵守(受動的) 継続性の証明(能動的)
重視される観点 違反の有無、簿外債務の不存在 人的資本、自律的ガバナンス、健康確保
勤怠管理 タイムカード等による把握 PC操作ログとの自動照合・客観性担保
健康確保措置 法定健診・ストレスチェックの実施 勤務間インターバルの自主導入等、能動的施策
情報開示 法定報告のみ 人的資本情報の積極開示
求められる成果 違反のない状態 持続的成長を支える人的資本基盤

※当法人作成。IPO審査における労務管理の位置づけの変化を整理したもの。

2026年IPO審査における労務管理の新基準とは

「企業の継続性」を示す労務体制が必須に

2026年のIPO審査で最も重視されるキーワードが「企業の継続性(ゴーイング・コンサーン)」です。これは単に「現時点で法令を遵守しているか」だけでなく、「将来にわたって持続的に成長できる組織体制が構築されているか」を問うものです。投資家や審査機関は、経営者が労務リスクを自律的に制御し、人的資本の持続可能性を担保できる能力を評価していると考えられます。

労基法改正案の提出見送り=猶予期間ではない

2025年12月、厚生労働省が検討していた労働基準法改正案(勤務間インターバル制度の義務化、法定休日の特定義務化等を含む)の通常国会への提出は見送られました。しかし、これは「準備を後回しにしてよい」という意味ではありません。むしろ、法律に頼らず自律的にルールを設定し運用できる経営力が問われる時代になったと捉えるべきです。過重労働による健康障害が一度でも発生すれば、企業の社会的信用と継続性は一瞬で失われかねません。

IPO準備で整備すべき労務管理の3つの柱

1. 法的リスクの自己制御能力

IPO審査では、以下のような法的リスクが排除されていることが前提条件となります。

■ 未払残業代の徹底排除

固定残業代制度を採用している企業は要注意です。「みなし残業代を支払っているから問題ない」と思っていても、実態として超過分が支払われていなければ、上場直前の労務デューデリジェンス(労務DD)で簿外債務として発覚します。なお、未払賃金の消滅時効は2020年4月以降「当分の間3年」(労働基準法第115条・附則第143条)に延長されており、過去3年分の未払債務がリスクとなります。

■ 36協定の適正運用

時間外労働に関する労使協定(36協定)が適切に締結・届出されているか、また協定の上限時間を超える残業が発生していないかを確認します。客観的な勤怠管理と照合し、違反の有無を点検することが不可欠です。

■ 名ばかり管理職の解消

管理監督者(労働基準法第41条第2号)として扱っている従業員が、実態として管理監督者の要件(経営への関与、労働時間の裁量、待遇の相応性)を満たしているかを精査します。役職名のみで判断すると、深夜割増を含む未払賃金請求のリスクが顕在化します。

2. 人的資本による持続可能性の証明

深刻な労働力不足が続く中、優秀な人材を獲得し定着させられる労働環境を自律的に構築できるかが、上場後の成長を支える鍵となります。具体的には、評価制度の透明性確保、勤務間インターバル(11時間等)の自主導入、勤務時間外の連絡を制限する「つながらない権利」のルール化などが、ガバナンスと持続可能性の証明として評価される傾向にあります。

3. 財務的継続性:オフバランス負債の排除

未払残業代、社会保険料の未納、有給休暇の未消化分の取扱いなど、潜在的な労務負債(オフバランス負債)は、IPO審査における最大の「欠格事由」です。これらは財務諸表に表れませんが、労務DDで必ず精査されます。上場準備の早期段階で洗い出し、解消しておく必要があります。

成長フェーズ別:IPO労務管理の実務ロードマップ

労務管理の整備は「IPO直前」では間に合いません。実務上、最も効果的なタイミングは社員数10〜30名の成長初期段階です。以下、フェーズごとの整備ポイントを整理します。

フェーズ 社員数の目安 主な整備内容 法的義務発生のポイント
@創業期 0〜5名 労働条件通知書の作成、雇用契約書フォーマット統一 労働条件明示義務(労基法第15条)
A初期成長期 5〜15名 就業規則の作成・届出、勤怠システム導入 常時10人以上で就業規則の作成・届出義務(労基法第89条)
B拡大期 15〜30名 評価・等級制度の導入、就業規則の改定・周知記録 パワハラ防止措置義務(労働施策総合推進法第30条の2)
C成長加速期 30〜50名 人件費管理、教育体系構築、相談窓口設置 常時50人以上で衛生管理者・産業医選任、ストレスチェック義務(労働安全衛生法第12条・第13条)
D上場準備期 50名以上 内部統制、労務DD対応、模擬監査、デジタル統合 上場審査基準(東証)への対応

✔ 重要なチェックポイント:常時50人以上の事業場の義務

・衛生管理者の選任(労働安全衛生法第12条、業種・規模に応じた人数)

・産業医の選任(労働安全衛生法第13条、選任後14日以内)

・衛生委員会の設置(毎月1回以上開催、労働安全衛生法第18条)

・ストレスチェックの年1回以上の実施(労働安全衛生法第66条の10)

・労働基準監督署への各種報告

労務DDで確認される主要項目

IPO準備における労務DDでは、以下の項目が重点的に確認されます。多くの実務では、上場申請期(n期)の2〜3年前である直前々期(n-2期)までに労務DDを実施し、是正を完了させておくことが望ましいとされています。

確認領域 主な確認項目 関連法令
採用・労働条件 労働条件通知書、雇用契約書と実態の整合性 労基法第15条
給与・評価 給与規程、固定残業代の有効性、評価制度の運用 労基法第37条等
勤怠管理 客観的労働時間把握、36協定の遵守状況 労基法第32条・第36条、労働安全衛生法第66条の8の3
ハラスメント 相談窓口の設置・周知、過去事案の対応履歴 労働施策総合推進法第30条の2
安全衛生 衛生管理者・産業医選任、健診・ストレスチェック 労働安全衛生法第12条・第13条・第66条
社会保険 短時間労働者の加入要件適合性 健康保険法、厚生年金保険法

よくある失敗と対策

失敗1:就業規則を作成しただけで満足

作成しても従業員に周知されていない、実態と乖離している場合は、IPO審査で「運用の実効性なし」と判断されかねません。周知方法(説明会、社内イントラ掲載、署名取得等)を記録に残し、年1回は見直すことが望まれます。

失敗2:固定残業代制度の誤った運用

みなし残業代を超える残業が発生しても差額を支払っていない、固定残業代部分と基本給が明確に区分されていない等の問題が頻発しています。雇用契約書・給与明細で固定残業代の金額と時間数を明示し、超過分は必ず別途支払う運用を徹底することが必要です。

失敗3:名ばかり管理職の放置

役職名だけで管理監督者扱いにしている場合、未払残業代が多額に上る可能性があります。深夜労働の割増賃金は管理監督者にも支払いが必要であり、見落とされがちな点です。

失敗4:社会保険の加入漏れ

パート・アルバイトの加入要件を理解しておらず、加入義務がある従業員を未加入のまま放置するケースが見られます。2026年10月からは賃金要件(月額8.8万円以上)が撤廃され、特定適用事業所では週20時間以上勤務の短時間労働者の加入対象がさらに広がります。早期の対応が必要です。

デジタル技術を活用した労務ガバナンス

2026年のIPO審査では、デジタル技術を活用した労務ガバナンスが評価される傾向にあります。具体的には以下のような取り組みです。

PC操作ログと勤怠データの自動照合

従業員の自己申告による勤怠管理では実態との乖離が生じやすくなります。PC操作ログ(シャットダウン時刻等)と勤怠データを自動照合し、乖離がある場合にアラートを出す仕組みを導入することで、客観性と透明性が担保されます。

勤怠管理システムと給与計算の連携

勤怠データを手入力で給与計算システムに転記する運用ではミスや不正のリスクがあります。API連携等でシームレスにデータ連携させることで、正確性と効率性が向上します。

人的資本開示への対応

上場後は人的資本情報の開示も求められます。離職率、研修時間、ダイバーシティ指標などのデータを日常的に蓄積・可視化できる体制を構築しておくことが、投資家からの信頼獲得につながると考えられます。

経営者が今すぐ取るべき実務対応ステップ

STEP 1

現状の労務リスクを棚卸し 就業規則・36協定・賃金規程・雇用契約書を再確認し、実態との乖離を点検する。

 

STEP 2

客観的勤怠管理の確立 タイムカード・ICカード・PC操作ログ等の客観記録を確保し、自己申告制と併用する場合は実態確認手順を整える。

 

STEP 3

固定残業代・管理監督者の有効性チェック 簿外債務リスクの最大要因。要件適合性を専門家と確認する。

 

STEP 4

2026年10月の社会保険適用拡大対応 短時間労働者のリストアップとシフト体制の見直し。

 

STEP 5

直前々期までに労務DDを実施 外部の専門家による模擬監査で潜在的リスクを早期発見。

まとめ:労務管理をIPO成功の武器に

労務管理は、もはや「守りのコンプライアンス」ではありません。適切に整備された労務体制は、優秀な人材を惹きつける「選ばれる企業」としてのブランド、投資家に対する「持続的成長力」の証明、上場後の企業価値向上を支える「経営基盤」として機能します。

IPO準備における労務管理は、専門性が高く、かつ経営全体に影響を及ぼす重要テーマです。特に、社員数10〜30名の成長初期段階での基盤整備、上場2〜3年前からの労務DD対応、簿外債務(未払残業代等)の早期発見と解消については、IPO支援経験が豊富な社会保険労務士に早めに相談することで、上場延期リスクを大幅に低減できると考えられます。「法律を守る」だけでなく、「継続性を証明する」労務管理へ。2026年のIPO審査を勝ち抜くための新しい視点を、ぜひ経営戦略に取り入れてください。

IPO準備の労務管理にお悩みの経営者様へ

当法人では、IPO準備企業向けの労務デューデリジェンス、就業規則整備、固定残業代制度の有効性チェック、社会保険適用拡大対応など、上場準備に向けた包括的なサポートを提供しております。「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命に、貴社の継続的成長を支える労務基盤づくりに伴走いたします。

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【主な根拠法令】

・労働基準法(第15条、第32条、第36条、第37条、第41条、第89条、第115条、附則第143条)

・労働安全衛生法(第12条、第13条、第18条、第66条、第66条の8の3、第66条の10)

・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(第30条の2)

・健康保険法、厚生年金保険法

・労働時間等の設定の改善に関する特別措置法

【免責事項】

本記事は2026年5月時点の法令・公的情報をもとに、IPO準備における労務管理の一般的な考え方を解説したものであり、個別具体的な事案への法的助言を提供するものではありません。実際の対応にあたっては、必ず社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。法改正の状況や審査基準は今後変動する可能性がありますので、最新情報を厚生労働省・日本取引所グループ等の公式サイトでご確認ください。

【出典・参考】

・厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」

・厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」

・厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました」

・厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」

・日本公認会計士協会「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」

【執筆者】

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員

「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」を使命に、IPO準備企業から中小企業まで幅広く労務管理体制の構築支援を行っています。「法律を守るだけ」ではなく、「企業価値を高める労務戦略」をご提案します。