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2026年4月19日、読売新聞オンラインは、政府が近くまとめる労働市場改革・人材育成の「課題解決策原案」の内容を報じました。これは、政府が選定した半導体や量子などの「戦略17分野」への官民投資を後押しするための横断的施策の一つです。労働市場改革については、裁量労働制の対象拡大や変形労働時間制の柔軟化が柱に据えられており、年内に結論を出す方針が示されました。 これらの制度改正は、単なる法改正論議にとどまらず、人手不足時代における企業経営のあり方そのものを問うものです。以下、原案の全体像と、経営者が今から備えるべき実務ポイントを解説します。 1.政府が示す「課題解決策原案」の全体像報道によれば、今週にも開催される日本成長戦略会議において、議長を務める高市首相が関係閣僚に対し、戦略17分野の「横断的課題」(8項目)について、それぞれの解決策を示すよう指示する見通しです。労働市場改革・人材育成分野の主な原案は次のとおりです。
これらの原案は、「人手不足」と「生産性向上」という二つの構造的課題に同時に応えようとするものです。とりわけ労働市場改革は、中小企業を含むあらゆる業種の経営者に直接影響を及ぼす内容となっています。 2.裁量労働制の対象拡大とは何か裁量労働制は、業務の遂行方法や時間配分を労働者の裁量に委ねることを前提に、あらかじめ労使で合意した「みなし労働時間」だけ働いたものとみなす制度です(労働基準法第38条の3・第38条の4)。現行制度では、対象業務が「専門業務型」(研究開発、システム設計、新聞記者、公認会計士など20業務)と「企画業務型」(経営の中枢に関する企画・立案・調査・分析業務)に限定されています。 政府は2024年4月の省令改正で銀行・証券会社のM&A業務を専門業務型に追加しましたが、今回の原案では、さらに対象業務の拡大を検討する方向が示されました。これは、経団連などの経済界が、専門職や自律的な働き方が求められる分野における一律の時間管理が生産性を阻害していると指摘してきたことを背景としています。
3.変形労働時間制の柔軟化とは何か変形労働時間制は、一定期間内での労働時間の総枠を維持しつつ、繁忙期と閑散期で労働時間を調整できる制度です。労働基準法では、1か月単位(第32条の2)、1年単位(第32条の4)、1週間単位(第32条の5)、フレックスタイム制(第32条の3)が規定されています。 経済界からは、「1日8時間の原則」が人手不足を助長しているとして、より柔軟に運用できるよう要件緩和を求める声が強まっています。日本商工会議所の小林健会頭は、2026年4月の記者会見で変形労働時間制の要件緩和を改めて訴えており、今回の原案はこうした経済界の要望を受けたものといえます。 現時点で具体的な改正内容は示されていませんが、厚生労働省の労働基準関係法制研究会などでは、テレワーク時の部分的フレックスタイム制(コアデイ設定)の導入や、フレックスタイム制の部分適用を可能とする仕組みなどが議論されています。変形労働時間制全体についても、運用要件の見直しが検討される可能性があります。 4.「処遇確保と健康管理」という前提条件見落としてはならないのが、原案が労働者の「適切な処遇確保や健康管理」を前提としている点です。これは単なる枕詞ではありません。裁量労働制や変形労働時間制の柔軟化は、同時に使用者側の管理責任の強化を意味します。 実際、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会では、次のような議論が並行して進められています。
つまり、裁量労働制の対象拡大や変形労働時間制の柔軟化は、「時間管理の緩和」と「健康確保義務の強化」がセットで進むと考えるのが妥当です。制度の拡大を活用する企業ほど、より精緻な労働時間把握と健康管理の体制構築が求められることになります。 5.当法人の視点:経営者が今備えるべきこと当法人は、中小企業の経営者・人事労務責任者の皆様との日々のご相談を通じて、制度改正への備えには「3つの段階」があると考えています。
当法人のミッションは「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことにあります。制度改正の方向性が明らかになってから対応するのでは遅く、今から段階的に体制整備を進めることで、改正時の混乱を最小化し、むしろ自社の生産性向上のきっかけとすることができます。 6.今後のスケジュール感政府の原案では、労働市場改革について「年内の結論」を目標に掲げています。他方、労働基準法の改正案は、当初2026年の通常国会提出が想定されていたものの、2025年10月の高市首相による労働時間規制緩和の指示を受けて議論が継続されており、具体的な施行スケジュールは未定です。 従って、今後の動きとしては、@年内に成長戦略会議での結論、A2026年夏に向けた労働政策審議会での具体化、B2027年以降の法改正・施行、という大まかな流れが想定されます。特に中小企業においては、制度改正の施行前に準備期間を十分に確保することが難しいケースも多いため、早期の情報収集と対応方針の検討が不可欠です。
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