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作成日:2026/04/19
戦略17分野を支える「働き方改革」原案 裁量労働制拡大・変形労働時間制の柔軟化で 何が変わるのか
労働市場改革 裁量労働制 変形労働時間制

戦略17分野を支える「働き方改革」原案
裁量労働制拡大・変形労働時間制の柔軟化で
何が変わるのか

〜経営者が今、備えるべき労働市場改革の全体像〜

📌 この記事のポイント

政府は、半導体や量子など「戦略17分野」への官民投資を後押しするため、労働市場改革や人材育成に関する課題解決策の原案をまとめました。柱となるのは、裁量労働制の対象拡大と変形労働時間制の柔軟化であり、年内の結論を目指すとされています。本稿では、当法人の視点から、経営者が押さえるべき制度改正の方向性と、今から備えるべき実務上のポイントを整理します。

2026年4月19日、読売新聞オンラインは、政府が近くまとめる労働市場改革・人材育成の「課題解決策原案」の内容を報じました。これは、政府が選定した半導体や量子などの「戦略17分野」への官民投資を後押しするための横断的施策の一つです。労働市場改革については、裁量労働制の対象拡大や変形労働時間制の柔軟化が柱に据えられており、年内に結論を出す方針が示されました。

これらの制度改正は、単なる法改正論議にとどまらず、人手不足時代における企業経営のあり方そのものを問うものです。以下、原案の全体像と、経営者が今から備えるべき実務ポイントを解説します。

1.政府が示す「課題解決策原案」の全体像

報道によれば、今週にも開催される日本成長戦略会議において、議長を務める高市首相が関係閣僚に対し、戦略17分野の「横断的課題」(8項目)について、それぞれの解決策を示すよう指示する見通しです。労働市場改革・人材育成分野の主な原案は次のとおりです。

■ 原案の主要項目

【労働市場改革】

・裁量労働制の対象拡大
・変形労働時間制の柔軟化
・労働者の「適切な処遇確保や健康管理」を前提に、年内結論を目標

【人材育成】

・理工農・デジタル・保健系の大学定員比率を2024年の35%から、2040年に50%まで引き上げ
・国立大学法人運営費交付金などの「大幅拡充」

【家事負担軽減】

・育児・介護中の家事負担による離職防止
・家事支援サービスの国家資格を来年秋までに創設

【賃上げ環境整備】

・中小企業のM&A(合併・買収)に関する資格制度の創設検討

【スタートアップ支援】

・防衛省・経済産業省が技術開発から事業化まで一貫して支援
・社債発行規制の緩和により、民間企業の設備投資資金調達を円滑化

これらの原案は、「人手不足」と「生産性向上」という二つの構造的課題に同時に応えようとするものです。とりわけ労働市場改革は、中小企業を含むあらゆる業種の経営者に直接影響を及ぼす内容となっています。

2.裁量労働制の対象拡大とは何か

裁量労働制は、業務の遂行方法や時間配分を労働者の裁量に委ねることを前提に、あらかじめ労使で合意した「みなし労働時間」だけ働いたものとみなす制度です(労働基準法第38条の3・第38条の4)。現行制度では、対象業務が「専門業務型」(研究開発、システム設計、新聞記者、公認会計士など20業務)と「企画業務型」(経営の中枢に関する企画・立案・調査・分析業務)に限定されています。

政府は2024年4月の省令改正で銀行・証券会社のM&A業務を専門業務型に追加しましたが、今回の原案では、さらに対象業務の拡大を検討する方向が示されました。これは、経団連などの経済界が、専門職や自律的な働き方が求められる分野における一律の時間管理が生産性を阻害していると指摘してきたことを背景としています。

✓ 実務上の重要ポイント

裁量労働制は「残業代ゼロ」の制度ではありません。みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合は時間外割増賃金の支払いが必要であり、深夜労働(22時〜翌5時)や法定休日労働には通常どおり割増賃金が発生します(労働基準法第37条)。また、2024年4月の改正以降、企業には「健康・福祉確保措置」の実施と、本人同意の取得(企画業務型については本人同意の撤回手続の整備も含む)が義務付けられています。これらの手続を欠いた運用は制度自体が無効と判断され、未払残業代のリスクを招きます。

3.変形労働時間制の柔軟化とは何か

変形労働時間制は、一定期間内での労働時間の総枠を維持しつつ、繁忙期と閑散期で労働時間を調整できる制度です。労働基準法では、1か月単位(第32条の2)、1年単位(第32条の4)、1週間単位(第32条の5)、フレックスタイム制(第32条の3)が規定されています。

経済界からは、「1日8時間の原則」が人手不足を助長しているとして、より柔軟に運用できるよう要件緩和を求める声が強まっています。日本商工会議所の小林健会頭は、2026年4月の記者会見で変形労働時間制の要件緩和を改めて訴えており、今回の原案はこうした経済界の要望を受けたものといえます。

現時点で具体的な改正内容は示されていませんが、厚生労働省の労働基準関係法制研究会などでは、テレワーク時の部分的フレックスタイム制(コアデイ設定)の導入や、フレックスタイム制の部分適用を可能とする仕組みなどが議論されています。変形労働時間制全体についても、運用要件の見直しが検討される可能性があります。

4.「処遇確保と健康管理」という前提条件

見落としてはならないのが、原案が労働者の「適切な処遇確保や健康管理」を前提としている点です。これは単なる枕詞ではありません。裁量労働制や変形労働時間制の柔軟化は、同時に使用者側の管理責任の強化を意味します。

実際、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会では、次のような議論が並行して進められています。

■ 並行して議論されている健康確保措置

・勤務間インターバル制度の義務化(11時間以上)の検討
・連続勤務日数の上限規制(13日を超える連続勤務の禁止)の検討
・法定休日の特例である「4週4休」を「2週2休」に見直す案
・管理監督者を含む全労働者の労働時間の客観的把握の義務化
・2027年4月から定期健康診断項目に「血清クレアチニン検査」を追加(慢性腎臓病の早期発見)

つまり、裁量労働制の対象拡大や変形労働時間制の柔軟化は、「時間管理の緩和」と「健康確保義務の強化」がセットで進むと考えるのが妥当です。制度の拡大を活用する企業ほど、より精緻な労働時間把握と健康管理の体制構築が求められることになります。

5.当法人の視点:経営者が今備えるべきこと

当法人は、中小企業の経営者・人事労務責任者の皆様との日々のご相談を通じて、制度改正への備えには「3つの段階」があると考えています。

✓ 制度改正に備える3つの段階

【第1段階:現状の棚卸し】
現行の労働時間制度(通常勤務・変形・フレックス・裁量)ごとに、対象者、運用状況、労働時間の把握方法、36協定の内容、就業規則の記載を棚卸しします。特に変形労働時間制を採用している企業では、法定休日の特定状況と年間カレンダーの整合性を確認することが重要です。

【第2段階:業務実態との適合性チェック】
制度の形式と業務実態が乖離していないかを検証します。例えば、企画業務型裁量労働制を導入しているにもかかわらず、対象労働者が具体的な指示を受けて業務を遂行している、管理監督者として扱っているが実質的な権限・処遇を欠いている、といった乖離は、改正議論にかかわらず未払残業代リスクの温床となります。

【第3段階:健康管理体制の整備】
客観的な労働時間把握(ログ取得、勤怠管理システム)、勤務間インターバルの運用ルール、長時間労働者への医師面接指導、ストレスチェックの実施体制を整備します。これらは現行法でも一部義務化されていますが、制度拡大後はより厳格な運用が求められる可能性が高いといえます。

当法人のミッションは「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことにあります。制度改正の方向性が明らかになってから対応するのでは遅く、今から段階的に体制整備を進めることで、改正時の混乱を最小化し、むしろ自社の生産性向上のきっかけとすることができます。

6.今後のスケジュール感

政府の原案では、労働市場改革について「年内の結論」を目標に掲げています。他方、労働基準法の改正案は、当初2026年の通常国会提出が想定されていたものの、2025年10月の高市首相による労働時間規制緩和の指示を受けて議論が継続されており、具体的な施行スケジュールは未定です。

従って、今後の動きとしては、@年内に成長戦略会議での結論、A2026年夏に向けた労働政策審議会での具体化、B2027年以降の法改正・施行、という大まかな流れが想定されます。特に中小企業においては、制度改正の施行前に準備期間を十分に確保することが難しいケースも多いため、早期の情報収集と対応方針の検討が不可欠です。

裁量労働制・変形労働時間制の見直しについて、
当法人にご相談ください

制度改正への備えは、就業規則の見直しだけでは完結しません。
業務実態の棚卸しから労働時間管理体制の整備まで、
経営者の皆様と共に最善の解を導き出します。

無料相談はこちら >

【根拠法令・参考情報】

・労働基準法第32条(労働時間)、第32条の2〜第32条の5(変形労働時間制・フレックスタイム制)、第37条(時間外・休日・深夜労働の割増賃金)、第38条の3・第38条の4(裁量労働制)
・労働安全衛生法第66条の8(長時間労働者への医師面接指導)、第66条の10(ストレスチェック)
・読売新聞オンライン(2026年4月19日配信)「戦略17分野の後押しへ政府が『課題解決策』原案」
・厚生労働省「労働基準関係法制研究会」資料、労働政策審議会労働条件分科会資料
・首相官邸「日本成長戦略会議」関連資料

【免責事項】

本記事は2026年4月19日時点で公表された情報に基づき作成しています。制度改正に関する具体的な内容は、今後の労働政策審議会および国会審議により変更される可能性があります。個別の事案については、必ず社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

【執筆者】

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
労働紛争・労務管理に関する豊富な実務経験をもとに、
経営者と共に最善の解を導き出すことを使命としています。