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作成日:2026/04/06
入社初日に退職代行── 新入社員の"超早期離職"に企業はどう備えるか
人事・労務トピックス
入社初日に退職代行──
新入社員の"超早期離職"に企業はどう備えるか
2026.04.06|社会保険労務士法人T&M Nagoya

2026年4月1日──。各地で入社式が行われたその日から、退職代行サービスには新入社員からの依頼が殺到しました。ある退職代行業者では、4月1日から3日までの3日間だけで新入社員からの依頼が11件に上り、全体依頼数の3割を占めたとの報道がなされています。「入社1日で自分には向いていないと思った」「事前に合意した労働条件と実際の内容が異なっていた」──こうした声が相次いでいます。

新入社員が入社直後に退職するという現象は、もはや一過性のトピックではありません。企業の採用・定着戦略、そして労務コンプライアンスに直結する構造的な課題です。本稿では、この「超早期離職」の実態と法的背景を整理し、経営者・人事担当者が今すぐ取り組むべき対策を解説します。

📌 この記事の要点
・退職代行を利用した新入社員の退職依頼は年々増加。2026年は前年比30%増のペースとの報道も
・最多の退職理由は「入社前の説明と実際の労働条件の相違」──労基法15条違反のリスク
・2024年4月施行の労働条件明示ルール改正への対応が、早期離職防止の鍵
・大卒新卒の3年以内離職率は約35%。1年以内でも約1割が離職する現実
・「選ばれる企業」になるためのオンボーディング設計と労務体制の再構築が急務
1. 数字で見る「超早期離職」の実態

厚生労働省が公表した最新データ(2024年10月公表・令和3年3月卒業者)によると、新規大卒就職者の3年以内離職率は34.9%に達しています。うち1年以内の離職率は約12%で、入社後1年で約10人に1人が職場を去っている計算です。

さらに注目すべきは、退職代行サービスの利用急増です。退職代行大手「モームリ」の公表データによれば、2025年4月の最初の1週間だけで新入社員から80件以上の依頼があり、前年同時期の56件から大幅に増加しました。2026年はさらにそのペースを上回るとの見方もあります。

📊 離職率データの全体像
■ 3年以内離職率(令和3年3月卒)
・大学卒:34.9%(前年度比+2.6ポイント)
・短大等卒:44.6%(同+2.0ポイント)
・高校卒:38.4%(同+1.4ポイント)

■ 産業別で高い3年以内離職率(大卒)
・宿泊業・飲食サービス業:56.6%
・生活関連サービス業・娯楽業:53.7%
・小売業:41.9%

出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」

ただし、冷静にデータを見ることも重要です。退職代行利用者の総数は、大卒新卒就職者数(年間約44万人)に対すればまだごく一部であり、「新入社員が皆すぐ辞める」という一般化は正確ではありません。しかし、退職代行が年々増加している背景には、企業側が見過ごしてはならない構造的な問題が存在しています。

2. なぜ辞めるのか──退職理由の分析

退職代行各社の報告や報道を総合すると、新入社員が入社直後に退職を決断する理由は大きく以下の3つに分類されます。

@ 労働条件の相違(ミスマッチ)
最も多い退職理由です。「入社前に合意した休日日数と実際が異なっていた」「正社員のはずが契約社員だった」「接客業務と聞いていたのに実際は全く異なる業務だった」など、事前説明と実態の乖離が不信感を生み、即座の退職判断につながっています。

A 職場環境・人間関係
入社式での威圧的な言動、研修中のハラスメント的指導、「配属ガチャ」と呼ばれる希望と異なる配属への不満など、入社直後の体験が退職の直接的な引き金となるケースです。

B 自己適性への不安
「自分には向いていないと1日目で思った」という声に象徴されるように、就職活動の段階で十分な自己分析やキャリア選択ができないまま入社し、現実との落差に直面するケースも少なくありません。

3. 企業が押さえるべき法的ポイント

早期離職問題は「若者の根性がない」で片付けられる問題ではありません。法令上、企業側に責任が生じ得るケースが含まれていることを認識する必要があります。

✅ 企業の法的チェックポイント
【1】労働条件の明示義務(労基法15条1項)
使用者は労働契約の締結に際し、賃金・労働時間その他の労働条件を書面で明示しなければなりません。明示された労働条件と事実が相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます(同条2項)。違反には30万円以下の罰金が科されます(労基法120条1号)。

【2】2024年4月施行・労働条件明示ルールの改正
労働基準法施行規則の改正により、以下の事項の明示が新たに義務化されました。
 ・就業場所および従事すべき業務の「変更の範囲」
 ・有期労働契約の更新上限の有無および内容
 ・無期転換申込権に関する事項
 ・無期転換後の労働条件
新卒採用においては、内定時点で労働契約が成立するのが一般的であり、この時点での労働条件明示が求められます。

【3】退職の自由と退職代行の法的位置づけ
民法627条1項により、期間の定めのない雇用契約では、労働者は2週間前に申し入れればいつでも退職できます。退職代行サービスのうち、弁護士や労働組合が運営するものは法的交渉が可能ですが、民間業者は退職意思の伝達のみに限られます。企業が退職を拒否・妨害することは法的に認められません。

【4】ハラスメント防止義務
入社式や研修中のパワハラ的言動は、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づく雇用管理上の措置義務違反に該当し得ます。2026年にはカスタマーハラスメント対策の義務化も予定されており、ハラスメント対策の重要性はさらに高まっています。
4. 早期退職に伴う企業側のリスク

新入社員の早期退職は、企業に多面的なダメージをもたらします。

■ 採用コストの損失
一般的に新卒1人あたりの採用コストは50〜100万円程度と言われています。入社直後の退職はこの投資が全て無駄になることを意味します。

■ 組織モラルの低下
同期や先輩社員への心理的影響は無視できません。「自分も辞めようかな」という連鎖退職のリスクもあります。

■ レピュテーションリスク
SNSや口コミサイトへの投稿により、企業イメージが損なわれ、翌年以降の採用活動にも悪影響が及ぶ可能性があります。

■ 労働条件相違による法的リスク
明示した労働条件と実態が異なる場合、労基法違反として行政指導の対象になるだけでなく、損害賠償請求に発展する可能性もあります。

5. 今すぐ取り組むべき5つの対策

早期離職を防ぐために、企業が今すぐ着手すべき実務対応を整理します。

🔑 早期離職防止のための5つの実務対応
対策1:労働条件通知書の総点検
2024年4月改正に対応した労働条件通知書を使用しているか、改めて確認してください。特に「就業場所・業務の変更の範囲」の記載漏れがないか、実際の労働条件と通知書の内容に齟齬がないかを重点的にチェックしましょう。内定時点で交付する書面の内容も見直しが必要です。

対策2:採用プロセスでの「リアルな情報開示」
早期離職の最大要因は「入社前後のギャップ」です。ある建設会社では、入社前に100時間以上にわたって先輩社員と会話する機会を設け、ネガティブな面も含めたリアルな情報を提供することで、離職率を大幅に改善した事例があります。選考段階から仕事の厳しい面も含めて率直に伝えることが、結果的にミスマッチを防ぎます。

対策3:オンボーディングの設計と実施
入社後1〜3カ月の受け入れ体制を「オンボーディング」として計画的に設計してください。メンター制度の導入、定期的な1on1面談、段階的な業務アサインなど、新入社員が孤立しない仕組みづくりが重要です。HR総研の調査では、育成期間を「1年未満」とする企業ほど離職率が高い傾向が示されています。

対策4:ハラスメント防止の徹底
入社式や研修での威圧的な言動が退職の直接原因になるケースが報告されています。受け入れ側の管理職・トレーナーへの研修を実施し、「指導」と「ハラスメント」の境界を明確にしましょう。特に入社直後は新入社員の心理的安全性を確保することが最優先です。

対策5:退職時のヒアリング体制の構築
退職を止めることだけに注力するのではなく、退職理由を正確に把握し、組織改善に活かす仕組みが重要です。退職代行を通じた退職の場合でも、可能であれば匿名アンケート等により退職理由を収集し、採用・育成・労務管理の改善サイクルを回してください。
6. 「早期退職した人」のその後──転職市場の現実

退職を選んだ若者のその後にも目を向ける必要があります。報道で取り上げられた事例では、入社2カ月で退職した男性が転職活動で70社以上に応募し、面接に進めたのはわずか5〜6社にとどまったケースが紹介されています。

一方で、その男性は最終的に自分に合った職場を見つけ、現在はストレスなく働けているとも語っています。早期退職は転職市場でのハンディキャップになり得る一方で、心身の健康を損なう前に環境を変えることの重要性も示しています。企業としては、「辞めさせない」ことだけを目標にするのではなく、「辞めたくならない職場づくり」に本質的な解を求めるべきでしょう。

7. まとめ──「選ばれ続ける企業」への転換

新入社員の超早期離職は、企業の採用力・組織力が問われる現象です。「最近の若者は…」と嘆く前に、まず以下の点を自問してみてください。

 ・労働条件通知書は最新の法改正に対応しているか
 ・採用プロセスで仕事のリアルを正直に伝えているか
 ・入社後の受け入れ体制は計画的に設計されているか
 ・管理職・トレーナーのコミュニケーションスキルは十分か
 ・退職理由を組織改善に活かす仕組みがあるか

人材確保が年々困難になる中、一人ひとりの社員が「この会社で働き続けたい」と思える環境を整備することは、経営の最重要課題の一つです。法令遵守はその土台であり、その上に「人を大切にする文化」を築くことが、真の意味で持続可能な組織づくりにつながると考えます。

📖 根拠法令・参考情報
・労働基準法15条(労働条件の明示)、同法120条1号(罰則)
・民法627条1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
・労働基準法施行規則5条(明示事項の具体的内容)
・令和5年厚生労働省令第39号(労基法施行規則等の改正・2024年4月施行)
・労働施策総合推進法30条の2(パワーハラスメント防止措置義務)
・厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」(2024年10月公表)
・厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」リーフレット
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※本記事は2026年4月時点の法令・報道等に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。個別具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
執筆者
三重 英則
社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」をミッションに、
労務コンプライアンスと人材定着支援の両面から経営をサポートしています。