2025年6月11日、改正「公益通報者保護法」(以下「改正法」)が公布されました。2026年内の政令指定日に施行される予定です(公布から1年6か月以内に施行)。
この改正の主な目的は、「通報の実効性を高めること」にありますが、事業者にとっては対応の見直しが必要な大規模な変更と言えます。
1.制度強化の背景
2022年6月に既存法を改正し、通報制度の制度化を図ったものの、実務上の不備(通報されない、対応しない、通報者への不利益処分など)が多く見られました。
こうした課題や、フリランスを含む働き方の多様化、国際的なトレンドを踏まえ、2024年12月に「制度検討会報告書」が発表され、2025年3月には改正案が閣議決定。6月に成立・公布されました。
2.主な改正項目と実務対応
改正項目は下記の3分野に大別されます。
【主な改正項目と実務対応】
(1)「公益通報」の主体・対象範囲拡大
@ 改正ポイント:
l フリランス等の「特定受託業務従事者」を公益通報の対象に追加
A 実務対応:
l 通報窓口の整備、外部関係者からの通報受付体制の構築が必要
(2)通報者の保護強化
@ 改正ポイント:
l 解雇・懲戒が通報を理由としたと「推定」される新制度(通報から1年以内)
l 通報を理由とする懲戒・解雇に刑罰を新設(個人:拘禁刑・罰金/法人:罰金最大3,000万円)
A 実務対応:
l 懲戒・解雇の理由を説明・証明できる証拠資料の整備
l 内部通報制度への安心感醸成と、対応マニュアルの整備が必須
(3)事業者の義務強化と新たな禁止規定
B 改正ポイント:
l 消費者庁の立入検査や命令権限の付与
l 通報制度の「社内周知」義務の明文化
l 「通報妨害」「通報者探索」の明確な禁止規定の導入
C 実務対応:
l 社内研修・就業規則の整備
l 就業規則・秘密保持契約の見直し(通報妨害や探索とならないよう配慮)
l 消費者庁の指導対応も想定した内部体制の点検と文書化が必要
3.事業者がすべき対応とは?
各改正点に対応する実務ポイントは以下の通りです。
(1)フリランスからの通報も想定した受付体制の整備
(2)通報者への解雇・懲戒に際し、事業者が「通報とは無関係である」ことを証明できる準備
(3)刑罰規定ができたことを踏まえ、通報者への不当処分は重いリスクがあることを共有・周知
(4)消費者庁の調査対応を想定し、通報体制を文書で明確化・定期確認
(5)「通報しない合意」「通報者探索」など明文化された禁止行為に注意し、就業規則との整合性を確認
4.スケジュルと今後の見通し
(1)2025年6月11日:改正法公布
(2)2026年内:政令指定により施行予定
(3)消費者庁によるガイドラインやQ&A、解説資料の整備が進む見込み
(4)施行後3年間で制度の実効性を検証するための各種実態調査も計画
5.まとめ
改正法は、通報制度の実効性を高め、通報者を法的にも制度的にも手厚く保護するものであり、企業のコンプライアンス体制強化と安心できる内部通報の両立を目指すものです。企業としては、施行までの間に以下を着実に進めましょう。
(1)社内規程・窓口の見直し
(2)周知・研修の強化
(3)就業規則・合意内容の再確認
(4)弁護士等専門家の助言を得て、他機関への対応体制を整備
以上、施行までに備えるべき点を中心にわかりやすく整理しました。今後の対応のご相談は、三重総合社労士事務所までお気軽にお問い合わせください。