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作成日:2026/11/05
【命令】「ハラスメントは調査委員会の手続で審議するので、団体交渉にはなじまない」は通らない 京都府労委令和8年3月25日命令(公立大学法人京都市立芸術大学事件)
労働委員会命令解説
「ハラスメントは調査委員会の手続で審議するので、団体交渉にはなじまない」は通らない
京都府労委令和8年3月25日命令(公立大学法人京都市立芸術大学事件)が示した、委員会の独立性と誠実交渉義務の線引き
2026年11月5日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

ハラスメントの申立てを受けたとき、外部の専門家を加えた調査委員会を設けて事実を調べる企業や大学が増えています。調査の公正さと関係者のプライバシーを守るには、委員会の独立性を保ち、審議の内容を外に出さないことが欠かせません。では、申立てをした社員が加入した労働組合から、調査の経過や結論の根拠の説明を求めて団体交渉を申し入れられたら、会社は「委員会の手続だから」と断ることができるのでしょうか。

京都府労働委員会は2026年3月25日、ハラスメントの被害申立てについての組合の団体交渉に対し、防止対策委員会の手続に関する事項であることを理由に説明や交渉を拒んだ公立大学法人の対応を、不誠実団交、そして正当な理由のない団体交渉拒否に当たると判断しました。委員会も法人の組織の一部であり、その審議・対応は法人自らのものだというのがその理由です。一方で命令は、委員会の公正さとプライバシーを守るための一定の秘匿は許されるとも述べています。本記事では、命令の内容に基づいて、この線引きを整理します。

📌 この記事でわかること

✓ 京都府労働委員会は2026年3月25日、ハラスメント被害申立てへの対応経過、決定通知の根拠の説明などを求める組合の団体交渉について、防止対策委員会も法人の組織の一部であり、その審議・対応は法人自らのものだとして、義務的団交事項に当たると判断したこと

✓ 団体交渉で「どこまで出せるか検討する」「議事録等を確認する」と約束を重ねながら、最終的に説明を拒否した対応は、後日に資料を提出したことを考慮しても誠実に対応していないとされ、4回目の申入れを「交渉事項になじまない」として拒否したことは正当な理由のない団体交渉拒否とされたこと

✓ 委員会の公正さとプライバシーを守るための一定の秘匿は許され、説明を拒んでも不誠実団交とすべきではないとしつつ、秘匿事項を限定せず一律に拒むことは認められず、少なくとも委員会の開催日程や、どのような根拠に基づきどのような事実を認定して結論を出したのかの説明は可能だったとされたこと

✓ 一方で、組合員の雇用問題について説明がされなかったことは、組合の交渉の進め方により時間切れとなったことが大きな要因だとして、不誠実団交に当たらないとされたこと

「委員会事項だから」は、説明しない理由になりません。説明できない部分を特定し、その理由を具体的に示すことが求められます。

1 本記事の情報源と事案の概要

本記事は、労働判例1354号(2026年8月1日・15日合併号)161頁に掲載された京都府労働委員会令和8年3月25日命令(令和7年(不)第1号)の命令ダイジェストに基づいています。掲載されているのは命令の要旨であり、命令書の全文ではありません。同号182頁には本命令の評釈も掲載されています。中央労働委員会の命令データベースでは、本命令は「全部救済」に分類されています。再審査の申立てや取消訴訟の有無は確認できていません。組合員の氏名は掲載誌でも仮名とされており、本記事でも個人を特定する記載はしません。

法人は京都市立芸術大学を設置する公立大学法人で、組合は個人加盟の労働組合です。組合員は2016年4月から大学で構想設計技術指導員として、同年6月からはコーディネーターとしても働いていました。

時期 命令ダイジェストが示す経過
2021年2月19日 組合員が、就労中に大学の職員から強い叱責等を受けたこと、その相談を受けた総務広報課長の対応がハラスメントに当たるとして、学内のハラスメント防止規程に基づき被害申立て
2021年3月〜2023年2月 防止対策委員会が開催され、調査委員会を設置。2022年9月、組合員は申立てが放置されているとして学長に嘆願書を提出。2023年2月8日付けで、防止対策委員会が「いずれもハラスメント認定できない」と通知(結論に至った根拠は示されていなかった)
2023年12月〜2024年4月 組合員が組合に加入。組合は、決定通知の根拠の説明、対応経過の説明、ハラスメントと認定すること、勤務時間が削減された理由の説明、再雇用などを求めて3回の団体交渉を申し入れ、法人は3回とも応じた。この間、2024年3月31日に組合員と法人の雇用関係が終了した
2024年4月〜6月 組合員が規程に基づき不服申立て。法人は第3回団交の後に「審議経過」と題する資料を組合に提出。組合は、その資料の説明と、組合員が相談や申立てを続けてきたことへの大学の認識の説明を求めて4回目の団体交渉を申し入れたが、法人は6月20日、「団体交渉はお受けできません」と記載した文書をファックスで送信
2025年1月〜2026年3月 組合が救済を申し立て、京都府労働委員会は2026年3月25日、防止対策委員会等の手続に関する事項であることを理由とする団体交渉拒否を禁じる命令を発した(評釈によれば、組合が求めたポストノーティスは命じられていない)
2 委員会の手続も「使用者が処分可能な」義務的団交事項とされた理由

命令はまず、義務的団交事項を「団体交渉を申し入れた労働組合の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇等に関する事項で使用者に処分可能なもの」と述べ、対応経過の説明、決定通知の根拠の説明、ハラスメントと認定することという組合の要求は、組合員の職場環境に関するものとして「労働条件その他の待遇」に関するものだとしました。

法人は、防止対策委員会と不服申立委員会の手続は法人から独立して中立的な立場で行われるべきもので、法人は関与できないから処分可能でない、と主張しました。これに対し命令は、使用者は職場環境配慮義務の一環としてハラスメントの相談窓口や迅速な対応の仕組みを整える必要があり、法人も規程の整備や委員会の設置をその観点から行っていると指摘しました。そのうえで、専門家を含めた委員会を設けることには合理性があるが、委員会も法人の組織の一部であることに変わりはなく、そこでの審議・対応は法人自らのものにほかならないとし、規程の改廃や委員会の運用は法人が自らの権限と責任で行えるのだから、委員会を設けたことをもって組合との関係で処分可能性がないと主張することは許されないとしました。

この判断は、使用者が自ら設けた仕組みを、使用者の責任を免れるための理由には使えない、という考え方に立っています。調査委員会の独立性は、調査の質を保つための社内の工夫であって、組合に対する説明義務を消す仕組みではないということです。

3 「約束を重ねて、最後に断る」対応が不誠実とされた理由

使用者は、団体交渉に応じるだけでなく、必要に応じて自らの主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団体交渉に応じる義務を負います(誠実交渉義務。山形大学事件・最高裁第二小法廷令和4年3月18日判決)。

本命令は、法人が第1回団交で「対応経過をどこまで出せるか検討する」、第2回団交で「防止対策委員会の議事録等を確認する」、第3回団交でも「委員長に確認する」と約束したのに、最終的に文書で説明を拒否したことを捉え、後日に審議経過の資料を提出したことを考慮しても、組合に誠実に対応していないとしました。さらに、被害申立てから決定通知まで約2年かかり、組合員が放置されているのではないかと考えていたこと、決定通知にハラスメントと認定しなかった根拠が示されていなかったことから、組合が当時の資料を示したうえでの説明を求めたことには相応の理由があるとし、議事録の開示や結論の根拠の説明に応じなかった対応は誠実交渉義務を果たしていないと判断しています。

4回目の申入れについても、法人が提出した審議経過の資料は、調査委員会の開催から防止対策委員会への報告までの1年以上の経過について「専門家への意見聴取」「事情聴取内容の整理、検証」など具体性のない事項が並ぶだけで、いつ、誰により、どのような手続が進められたのかが一切不明だったとされ、その説明を求める組合の要求には相応の理由があるとして、交渉事項になじまないとの理由で拒否したことは正当な理由のない団体交渉拒否(労働組合法7条2号)とされました。

4 秘匿してよいもの、説明すべきもの――命令が示した線引き

本命令は、使用者に何もかもを開示せよと命じたものではありません。命令は、委員会の審査における議論の公正性を維持し、審査の過程で扱われた個人のプライバシーを保護するために一定の情報を秘匿する必要があり、その観点から説明を拒んだとしても不誠実団交と評価すべきではないと明言しています。問題とされたのは、秘匿事項を限定せず、委員会の手続に関することを一律に義務的団交事項でないとした点でした。

論点 法人の主張 命令の判断
委員会の独立性 委員会の手続は法人から独立しており、法人は関与できないので処分可能でない 委員会も法人の組織の一部で、その審議・対応は法人自らのもの。運用も法人の権限と責任で行える
秘匿の必要性 委員会の手続に関する事項は一律に義務的団交事項でない 公正性維持とプライバシー保護のための一定の秘匿は許される。しかし秘匿事項を限定しない一律の拒否は認められない
説明が可能だった範囲 (手続は委員会で審議済みと説明している) 少なくとも、委員会の開催日程や、調査委員会がどのような根拠に基づきどのような事実を認定して結論を出したのかの説明は可能で、秘匿の必要性は認められない
守秘義務と法令 委員会には守秘義務があり、資料の開示は個人情報保護法や市の情報公開条例にのっとる必要がある 個人情報保護法78条1項の不開示情報の提供を拒むことには正当な理由があり得るが、求められた事項は必ずしもそれに当たらず、該当しない範囲での提供は可能。情報公開条例は、条例の手続によらない情報提供を禁じていない
雇用問題の説明 ― 勤務時間の削減理由や再雇用は義務的団交事項だが、説明がされなかったのは組合の交渉の進め方による時間切れが大きな要因で、不誠実団交ではない

なお、本件は公立大学法人の事案であるため、個人情報保護法の行政機関等に関する規定や市の情報公開条例が論点となりましたが、民間企業でも、調査で得た関係者の個人情報の取扱いと、組合への説明の範囲の調整は同じように問題になります。また、命令ダイジェストの範囲では、組合員の雇用関係が終了した後の4回目の申入れについても正当な理由のない団体交渉拒否とされており、雇用終了後であることは論点として取り上げられていません。

5 民間企業への示唆――ハラスメント調査と団体交渉の4つの点検

労働組合法7条2号の団体交渉拒否の禁止は、民間企業にもそのまま適用されます。また、民間企業には、職場のハラスメントについて相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整える措置義務があります(労働施策総合推進法30条の2など)。ハラスメントの申立てをした社員が合同労組などに加入して団体交渉を申し入れてくる場面を想定し、点検項目を整理します。以下は、本件の事実関係を離れた一般的な整理です。

点検1 調査の経過を「いつ、誰が、何をしたか」で記録しているか

本件では、1年以上の経過が「専門家への意見聴取」「事情聴取内容の整理、検証」などの抽象的な記載でしか説明できず、それ自体が説明を求められる理由になりました。調査委員会の開催日、聴取の日時と対象者の区分、検討した事項、結論の確定日を、関係者を特定しない形でも外部に説明できる粒度で記録してください。調査が長引く場合は、申立人に途中経過と見通しを伝えることも、放置されているという不信を防ぎます。

点検2 結論の通知に、認定した事実と判断の根拠を書いているか

本件の決定通知には、ハラスメントと認定しなかった根拠が示されていませんでした。命令は、どのような根拠に基づきどのような事実を認定して結論を出したのかは説明可能だったとしています。通知書には、申立ての内容ごとに、認定した事実、認定できなかった事実、ハラスメントに当たるかの判断とその理由を、関係者のプライバシーに配慮した表現で記載してください。根拠のある通知は、その後の団体交渉や紛争の範囲を狭めます。

点検3 団体交渉で開示できない範囲を特定し、理由を具体的に説明しているか

「委員会事項だから」「交渉事項になじまない」という形式的な理由で一律に断ることは、本命令の判断からすれば正当な理由とは認められにくいと考えられます。組合の要求を項目ごとに分け、説明できるもの(手続の日程、認定事実と判断の根拠の概要など)は説明し、説明できないもの(関係者の供述内容、関係者を特定できる情報など)は、なぜ開示できないのか、開示すると調査の公正さや関係者の権利にどのような影響があるのかを具体的に示すことが重要です。

点検4 団体交渉での「検討します」を、期限と担当を決めて回答しているか

本件で不誠実とされた大きな理由は、3回の団体交渉で検討や確認を約束しながら、最終的に説明を拒否したことでした。持ち帰る事項は、交渉の場で回答期限と担当者を明らかにし、期限内に、応じられる範囲と応じられない理由を書面で回答してください。約束した検討の結果が「やはり説明できない」であるなら、その理由まで示さなければ、約束を重ねたこと自体が不誠実の評価につながります。

6 当法人の視点

ハラスメントの調査規程を整備するとき、当法人が重視しているのは、「調査の独立性を守る規定」と「申立人や組合に説明する規定」を、最初から対にして設計することです。独立性と守秘だけを定めた規程は、調査の公正さは守れても、結論に納得しない申立人や組合との関係では、説明を拒む理由として使われ、かえって紛争を長引かせることがあります。

当法人の見解

当法人は、本命令の実務上の意義を、ハラスメント調査委員会の独立性と守秘の要請を正面から認めたうえで、それを理由とする一律の説明拒否を否定し、少なくとも手続の日程と、認定事実および判断の根拠の説明は可能だという具体的な目安を示した点に見ています。委員会を設ける企業にとって、「何を守り、何を説明するか」を事前に決めておく必要性を示す命令だと考えます。ただし、本命令は都道府県労働委員会の初審命令であり、再審査や取消訴訟の有無は確認できていません。

反対の見方もあります。掲載誌の評釈(西本良輔弁護士)は、本件のような結論にはやむを得ない面があるとしつつ、命令の判断過程を一般化することには慎重であるべきだとし、ハラスメントと認定するよう求めるような委員会の判断自体の変更は義務的団交事項ではないのではないか、との見解を示しています。当法人も、委員会の結論そのものを団体交渉で変えるよう求められた場合と、手続や根拠の説明を求められた場合とは区別して考えるべきだと考えます。本命令は、ハラスメントと認定することを求める要求も含めて法人に処分可能でないとはいえないとしましたが、主文は委員会の手続に関する事項であることを理由とした団体交渉の拒否を禁じたもので、結論の変更に応じることまで命じたものではありません。ただ、いずれの場合も「交渉事項になじまない」と門前払いすることは危険で、応じられない理由を具体的に説明して交渉のテーブルに着くことが、使用者にとって最も安全な対応だと考えます。

簡易な確かめ方を1つ挙げます。直近に結論を出したハラスメント調査について、申立人に送った通知書を読み返し、「どの事実を認定し、どの事実を認定できず、なぜハラスメントに当たる又は当たらないと判断したか」が書かれているかを確認してください。書かれていなければ、組合から団体交渉を申し入れられたときに、説明の準備から始めなければならない状態だと考えられます。

まとめ

京都府労働委員会は2026年3月25日、ハラスメント被害申立てについての組合の団体交渉に対し、防止対策委員会の手続に関する事項であることを理由に説明や交渉を拒んだ公立大学法人の対応を、不誠実団交と正当な理由のない団体交渉拒否に当たると判断しました。委員会も法人の組織の一部であり、その審議・対応は法人自らのものだという理由です。一方で、委員会の公正さとプライバシーを守るための一定の秘匿は許され、問題は秘匿事項を限定しない一律の拒否にあるとしています。

当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。ハラスメントの調査は、結論を出すことと同じくらい、その結論を説明できることが大切です。守るべき情報を見極めたうえで、説明できることを丁寧に説明する。その姿勢が、申立人、関係者、そして組合との信頼を保ちます。ハラスメント防止規程と調査手続の整備については就業規則作成・改定支援、団体交渉を含む労働紛争への対応については労働紛争解決支援のページもご覧ください。

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【根拠法令】

労働組合法7条2号(団体交渉の正当な理由のない拒否)/労働施策総合推進法30条の2(雇用管理上の措置等)/個人情報の保護に関する法律78条1項(保有個人情報の開示義務)

【参考判例】

本件:公立大学法人京都市立芸術大学事件・京都府労働委員会令和8年3月25日命令(令和7年(不)第1号、労働判例1354号161頁)/山形大学事件・最高裁判所第二小法廷令和4年3月18日判決

【出典・参考資料】

労働判例1354号(2026年8月1日・15日合併号)161頁〜164頁(命令ダイジェスト)、182頁〜183頁(評釈)/中央労働委員会 労働委員会関係 命令・裁判例データベース「京都市立芸術大学不当労働行為審査事件」

【免責事項】

本記事は2026年10月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。本記事は判例誌に掲載された命令の要旨(命令ダイジェスト)に基づいており、命令書の全文は確認していません。命令にない事実や当事者の心情を補ってはいません。本命令は都道府県労働委員会の初審命令であり、再審査申立てや取消訴訟の有無は確認できていません。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。不当労働行為救済申立てへの対応や団体交渉の代理は弁護士にご相談ください。当法人は、ハラスメント防止規程と調査手続の整備、調査記録と通知書の様式整備、団体交渉の回答方針と説明資料の準備を支援し、紛争化した局面では提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDENORI MIE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。