| 裁判例解説 |
育休から復帰した店長を副店長に降格、「3か月たっても戻せない事情はない」 男性の育休を契機とする降格を育児介護休業法10条違反とし、約152万円の支払を命じた津地裁 令和8年3月27日判決 |
| 2026年10月1日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士) |
|
|
おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。
育児休業から復帰した社員を、いったん別の役職に就けて様子を見る。そのうえで、下がった基本給は調整手当で補い、受け取る額は変えない。こうした処理は、復帰時の配置に悩む会社で実際に検討される選択肢の1つです。
今回取り上げるのは、この処理が裁判所でどう評価されたかが分かる事案です。三重県四日市市の携帯電話販売店で店長を務めていた男性が、約1年の育児休業から復帰した際に副店長へ降格されたことを違法として、名古屋市の会社を訴えました。津地方裁判所(小川貴寛裁判官)は令和8年3月27日、降格は育児休業を契機とする不利益な取扱いに当たると判断し、会社に慰謝料等の支払を命じています。
原告が男性であること、会社が名古屋市の会社であることから、東海地方の事業主にとって身近な事案です。判決原文は確認できていないため、報道と解説記事で確認できた範囲に限って整理します。
|
| 📌 この記事でわかること |
|
✓ 育児休業から復帰した店長を副店長に降格し、基本給の減額分を調整手当で補ったものの、約3か月後に調整手当を打ち切った会社について、津地裁が育児介護休業法10条違反を認めたこと
✓ 解説記事によれば、裁判所は、育休を契機とする降格は原則として不利益な取扱いに当たり、業務上の必要性が法の趣旨に実質的に反しないといえる特段の事情がある場合に限って例外になり得るという枠組みを示したこと
✓ 報道によれば、裁判所は復帰直後に店長とすることの困難さは認めつつ、復帰後3か月を経ても店長に戻さなかったことに疑問を示し、人事評価からも店長として不適格な事情は認められないと判断したこと
✓ 支払額は報道で約152万円(読売新聞の配信記事では152万7,500円)とされる一方、慰謝料額は報道が110万円、解説記事が100万円と記載しており、判決原文で確認できていないこと。控訴の有無も確認できていないこと
✓ 会社が備えるべきは、復帰前に配置と処遇を検討して本人に示すこと、一時的な別ポストに期限と原職相当職への復帰の見通しを付けること、降格の理由を人事評価の記録と整合させることであること
調整手当で受取額を守っても、降格そのものの問題は消えません。
|
|
| 1 事案の概要 |
|
伊勢新聞の報道、読売新聞の配信記事、弁護士JPニュースの解説記事で確認できた経過を整理します。解説記事にのみ記載がある事項は、その旨を表に付記しています。
|
| 時期 |
出来事 |
| 入社から店長まで |
新人スタッフとして入社後、副店長代行、副店長、店長代行を経て、入社から約3年で店長に昇格。その後も複数の店舗で店長を務めた(解説記事) |
| 1回目の育児休業 |
店長昇格から約5年後、第1子の誕生に伴い取得。復帰時にいったん役職のないスタッフとなったが、翌月には店長に戻った(解説記事) |
| 2回目の育児休業 |
翌年、第2子の誕生に伴い、店長であった令和5年(2023年)6月から約1年取得(報道) |
| 復帰(2024年5月) |
副店長として復帰。基本給が2万2,500円減額された(報道)。解説記事によれば、同額の調整手当が支給され、受取額は変わらなかった |
| 復帰から約3か月後 |
調整手当2万2,500円が打ち切られた(解説記事。読売新聞の配信記事は「復帰後しばらくして」と報道) |
| その後 |
店舗の店長は2回交代したが、男性は副店長に据え置かれた(報道) |
| 令和8年(2026年)2月 |
男性が退職(報道) |
| 令和8年3月27日 |
津地裁が会社に支払を命じる判決 |
|
|
原告の年齢は報道で33歳とされています。1回目の育児休業では翌月に店長へ戻しており、2回目とで会社の対応が異なっています。この点について会社がどのような事情を主張したのかは、確認できた資料からは分かりません。
|
| 2 争点 ― 復帰時の降格は「不利益な取扱い」か |
|
育児介護休業法10条は、事業主が、労働者が育児休業の申出をしたことや育児休業をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることを禁じています。争点は、復帰時の副店長への降格がこの不利益な取扱いに当たるかです。
解説記事によれば、会社は、男性に店長として不適格な事情が複数あったと主張していました。受取額を調整手当で維持していたことも、会社の対応の一部として事案に含まれています。
あわせて押さえておきたいのが、同法22条です。同条は、育児休業後の就業が円滑に行われるよう、労働者の配置その他の雇用管理に関して必要な措置を講ずる努力を事業主に求めています。これを受けた厚生労働大臣の指針は、育児休業後は原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮することを求めています。読売新聞の配信記事によれば、判決は、会社が育休後の就業が円滑になるための雇用管理上の措置を講じていたとはいえないとも述べています。
|
| 3 津地裁の判断 |
|
(1) 判断の枠組み
解説記事が紹介する判示によれば、裁判所はまず、降格は育児休業の取得を契機として行われ、労働者に不利な影響をもたらすものであるから、原則として不利益な取扱いに当たるとしました。そのうえで、復帰後の配置が円滑な業務運営や人員の適正配置といった業務上の必要性に基づき、その必要性の内容や程度が同条の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情があるときは、不利益な取扱いに当たらないと解する余地があるとしています。
(2) 本件では特段の事情なし
裁判所は、本件に特段の事情はないと判断しました。伊勢新聞の報道と解説記事から確認できる理由は、次の4点です。
|
| 判断の要素 |
裁判所の評価(報道・解説記事による) |
| 復帰後の期間 |
復帰直後に店長とすることが困難であったことは認められるが、復帰後3か月を経てもなお店長相当職に戻せないほどの事情があったかは疑問である |
| 調整手当の打ち切り |
仮にそうした事情が続いていたのであれば、3か月で調整手当を打ち切ったことの合理性に疑問がある(解説記事) |
| 人事評価との整合 |
会社は店長として不適格な事情を主張したが、直近の評価はB評価が続いており、評価シートのコメントを踏まえても不適格な事情は認められない |
| 復帰前の検討 |
会社は復帰の時期をあらかじめ把握していながら、復帰後の配置や労働条件を事前に検討した様子がなく、本人にも周知していない(解説記事) |
|
|
注目すべきは、裁判所が復帰直後に元の役職へ戻すことが難しい場合があること自体は認めている点です。違法と評価された理由は、一時的な措置であるはずの降格が、期限も見直しもなく続いたことにあります。
(3) 支払を命じられた額
支払額の報道には、記載の違いがあります。どれが正確かを判決原文で確認できていないため、記載をそのまま並べます。
|
| 資料 |
慰謝料 |
賃金等 |
合計 |
| 伊勢新聞(2026年3月28日) |
110万円 |
賃金の差額 約42万円 |
約152万円 |
| 読売新聞の配信記事(Infoseekニュース掲載) |
記載は「慰謝料など」 |
― |
152万7,500円 |
| 弁護士JPニュース(2026年8月17日) |
100万円 |
調整手当 |
記載なし |
|
|
解説記事によれば、慰謝料の算定にあたり裁判所は、会社が訴訟に至っても違法な措置をやめず、男性が不公正な評価と不当な処遇を受け続け、その結果として退職に至ったことなどを考慮しています。
|
| 4 広島中央保健生協事件との関係 |
|
妊娠・出産等を理由とする降格については、広島中央保健生活協同組合事件(最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決)があります。妊娠中の軽易業務への転換を契機とする副主任からの降格について、男女雇用機会均等法9条3項が禁じる不利益な取扱いに当たるかが争われ、原則として違法であり、労働者の自由な意思に基づく承諾があったと認められる合理的な理由が客観的に存在する場合、または業務上の必要性に基づく特段の事情がある場合に例外となるという枠組みが示されました。
本判決が示した「原則として不利益な取扱いに当たり、特段の事情があれば例外となり得る」という構造は、この最高裁判決の枠組みと同じ発想に立つものと考えられます。ただし、最高裁判決は均等法9条3項に関する判断であり、本判決は育児介護休業法10条に関する地裁の判断です。本判決が最高裁判決を引用したかどうかは確認できておらず、両者を同列に扱うことはできません。また、確認できた資料からは、本判決が「本人の承諾」という例外をどう扱ったかも分かりません。
|
| 5 今回の記事で確認できていないこと |
|
確認状況
判決原文は確認できていません。本記事は、伊勢新聞の報道、読売新聞の配信記事、弁護士JPニュースの解説記事に依拠しています。判断の枠組みと4つの理由のうち、調整手当と事前検討に関する部分は解説記事のみに基づく記述です。
事件番号、会社の商号、控訴の有無と判決の確定の有無は確認できていません。
慰謝料額は、報道(110万円)と解説記事(100万円)で記載が異なります。請求額と、請求のうち認められなかった部分の有無も確認できていません。
就業規則や賃金規程上の役職と基本給の関係、復帰後の勤務時間(育児短時間勤務の利用の有無)、会社が主張した不適格事由の具体的内容、1回目と2回目の育児休業で対応が異なった理由は確認できていません。
|
|
| 6 企業が点検すべきこと |
|
本判決が問題とした点を裏返すと、育児休業からの復帰時に会社が備えるべきことが見えてきます。
|
|
点検1 復帰の前に、配置と処遇を検討して本人に示しているか
育児休業は、開始の時点で復帰の予定時期が分かります。本判決は、会社が復帰時期を把握しながら事前に検討も周知もしていなかったことを、特段の事情を否定する理由の1つとしました。復帰の前に、復帰後の役職、職務、賃金、勤務時間を検討し、本人と面談して書面で示す手順を定めておくことが考えられます。
|
|
点検2 一時的に別の役職に就けるなら、期限と見直しの時期を決めているか
本判決は、復帰直後に元の役職へ戻すことが難しい場合があること自体は認めています。問題とされたのは、その状態が続いたことです。やむを得ず一時的に別の役職とするのであれば、原職または原職相当職に戻す見通しと、見直しの時期を定め、その時期が来たら実際に判断して記録に残します。本判決の事案では「3か月」が1つの指摘点になりましたが、これはあくまで本件の事実に即した判断であり、3か月以内なら常に許されるという基準ではありません。
|
|
点検3 降格の理由と人事評価の記録が合っているか
能力や適格性を理由に役職を下げるのであれば、直近の人事評価がそれを裏づけている必要があります。本件では、B評価が続いていたことが、会社の主張を退ける理由になりました。
|
|
点検4 調整手当を、不利益を消す手段として使っていないか
調整手当で受取額を維持しても、役職を下げたこと自体が不利益な取扱いに当たるかの問題は残ります。本件では、その調整手当を約3か月で打ち切ったことの合理性が問われました。調整手当は、支給の目的、期間、終了の条件を定めずに使うと、かえって会社の説明と矛盾する材料になり得ます。
|
|
| 7 当法人の視点 |
|
本判決は、育児休業からの復帰時に元の役職へ戻すことを、どんな場合でも直ちに求めたものではありません。代替の人員を置いた後で、復帰の日にポストが空いていないという状況は、店長や課長のような役職では現実に起こります。裁判所もその困難さは認めています。
分かれ目になったのは、困難さを理由に始めた措置を、会社が自ら見直さなかったことです。見直しの時期を決めず、人事評価の記録と合わない不適格の理由を主張し、受取額を守るための手当も途中で外した。個々には社内の判断として起こり得ることでも、並べてみると、降格が一時的な措置であったという説明を支える事実が残っていない経過になります。
男性の育児休業の取得は、公表義務の対象が2025年4月から常時雇用する労働者300人超の企業に広がったこともあり、今後さらに増えると見込まれます。ライン管理職の男性が1年近く職場を離れる場面を想定した復帰の手順を、あらかじめ用意しておく必要があります。
|
|
当法人の見解
育児休業からの復帰時の配置は、復帰の日に考え始めるのでは遅いと当法人は考えます。休業に入る時点で、代替の人員をどう置き、復帰の時点で何を本人に示すかを決めておくことが、社員のキャリアを守ると同時に、会社の人事判断の正当性を守ることになります。
一時的な措置には期限を、処遇の変更には評価の裏づけを、手当には目的と終了条件を。この3点を復帰の手順に組み込むことで、本判決のような紛争の多くは予防できると考えられます。
|
|
| まとめ |
|
津地裁令和8年3月27日判決は、育児休業から復帰した店長を副店長に降格し、調整手当を約3か月で打ち切った会社について、育児介護休業法10条違反を認め、慰謝料等の支払を命じました。報道と解説記事によれば、裁判所は、復帰直後の困難さは認めつつ、3か月を経ても店長に戻さなかったこと、人事評価と会社の主張が合わないこと、復帰前に配置を検討していなかったことなどから、特段の事情を否定しています。判決原文、慰謝料額の正確な記載、判決の確定の有無は確認できていません。
当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。育児休業の取得から復帰までの手順と規程を、代替要員の配置や処遇の設計まで含めて一緒に整えてまいります。
|
|
育休からの復帰手順、見直しの時期まで決まっていますか
育児休業の復帰前面談と配置・処遇の設計、育児・介護休業規程と賃金規程の点検、 人事評価と処遇変更の整合性の確認まで、社会保険労務士法人T&M Nagoya がご相談をお受けします。
▶ 無料相談のお申し込みはこちら
|
|
|
【根拠法令・出典】
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条(育児休業の申出等を理由とする不利益取扱いの禁止)、22条(雇用管理等に関する措置)/子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号)/雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条3項/伊勢新聞「育休後の降格は違法 津地裁、勤務先に支払い命令 三重」(2026年3月28日)/読売新聞の配信記事(Infoseekニュース掲載、2026年3月29日)/弁護士JPニュース「男性が育休復帰後『店長→副店長』に降格…“手当で賃金補填”も3か月後に打ち切り 『不利益な取扱い』訴えた結果、裁判所の判断は?」(2026年8月17日)
【参考判例】
津地方裁判所令和8年3月27日判決(本記事で取り上げた事案。報道および解説記事に基づくものであり、当法人は判決文原文を確認できていません。控訴の有無・確定の有無は未確認です)/広島中央保健生活協同組合事件・最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決(妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格と男女雇用機会均等法9条3項)
【免責事項】
本記事は2026年9月17日時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。本記事は判決原文ではなく報道および解説記事に基づいて執筆しており、判断の枠組みの記述は解説記事が紹介する判示に依拠しています。慰謝料額は資料により記載が異なり、事件番号・確定の有無は確認できていません。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。当法人は、育児・介護休業規程と賃金規程の整備、復帰時の配置・処遇の手順設計、人事評価との整合性の点検を担い、交渉代理・訴訟対応が必要な局面では提携する弁護士と連携して対応いたします。
|
|
| この記事を書いた人 |
|
三重 英則(HIDENORI MIE)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)
法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。
|
|