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作成日:2026/09/24
【裁判例】体調不良で欠勤した従業員を「シフトゼロ」にした対応はシフト決定権限の濫用 東京地裁 令和7年10月30日判決(ティーエッセンス事件)
裁判例解説
体調不良で欠勤した従業員を「シフトゼロ」にした対応はシフト決定権限の濫用
申請のない期間も含め賃金の支払を命じた東京地裁 令和7年10月30日判決(ティーエッセンス事件)
2026年9月24日|社会保険労務士法人T&M Nagoya 三重 英則(特定社会保険労務士)

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

飲食店や小売店では、欠勤や早退が続く従業員を、次のシフトから外すという対応が珍しくありません。「シフト表により」としか書いていない契約書なら、何日入れるかは店の裁量だと考えている経営者も多いはずです。

今回取り上げる東京地裁の判決は、その考え方に正面から答えを出したものです。裁判所は、契約書に労働日数の定めがなくても週20時間以上という最低労働時間数の合意があったと認定し、店長が従業員の体調を確認することなくシフトを一切指定しなかった対応をシフト決定権限の濫用と評価しました。そのうえで、従業員がシフトの申請をしていなかった期間まで含めて、月額9万6000円の賃金請求を認めています。

📌 この記事でわかること

✓ 契約書の「シフト表により」という記載だけでは、労働日数がゼロでもよい契約にはならないこと。裁判所は、社会保険への加入を前提に採用した経緯と実際のシフトから、週20時間以上の最低労働時間数の合意を認定した

✓ 欠勤・早退が多い従業員への注意指導そのものは否定されていないが、体調の確認をしないままシフトを一切指定しない対応は、シフト決定権限の濫用として違法とされたこと

✓ 会社側の受領拒絶の意思が明確であれば、従業員がシフト申請をしていない期間についても、民法536条2項により、認定された最低保障分の賃金を全額請求できると判断されたこと

✓ グループLINEからの一方的な退会処理が、会社による「積極的な排除行為」と評価されたこと

✓ 2026年10月以降に本格化する社会保険の適用拡大が、この判決の射程を広げると考えられること

「シフト表により」という契約書の空白は、会社の自由裁量として扱われるのではなく、採用時の事情と勤務実態によって埋められます。

1 事案の概要

本件は、おにぎり等を提供する飲食店に、シフト制勤務の期間の定めのない従業員として採用された労働者が、体調不良を理由とする欠勤と早退をきっかけに店長からシフトを外され、その後の賃金を請求した事案です。労働新聞社の掲載記事に基づき、経過を整理します。

時期 出来事
採用時 従業員は、社会保険への加入が可能であることを確認したうえで、シフト制による労働契約を締結。時給は1200円。雇用契約書の「始業・終業の時刻等」と「休日」は、いずれも「シフト表により」と定められているのみ。店長も社会保険の加入手続を進める準備をしていた
勤務開始から3か月弱 体調不良を理由に6日間の欠勤と2日間の早退
店長との面談 店長は冒頭で欠勤・早退が多いことを注意指導し、体調の自己管理を疑問視する発言をした。従業員がこれ以上の体調管理はできない旨を述べると、店長は「だとしたらシフトにそんなもん入れられないね。」と発言。面談の最後には、人手が足りなくても従業員ではなく他の人を入れる旨を発言した
令和6年6月10日〜7月21日 従業員はシフトの申請をしたが、店長はシフト勤務日を一切指定しなかった
令和6年7月5日 会社が、従業員をシフト決定用のグループLINEから一方的に退会させた
令和6年7月22日以降 従業員はシフトの申請をしなくなった
令和7年10月30日 東京地裁が、令和6年6月10日以降について月額9万6000円の賃金請求を認容する判決

なお、面談の日付、店舗の規模、判決が認容した賃金の終期、控訴の有無については、掲載記事からは確認できていません。判決文の原文も当法人では確認できていないため、本記事は労働新聞社の掲載記事に依拠して解説します。

2 「シフト表により」だけの契約書で、何が争点になったのか

使用者がシフトを入れなかったことについて賃金を請求する法的な根拠は、民法536条2項です。債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労務提供)を履行できなくなったときは、債権者は反対給付(賃金)の履行を拒むことができない、という規定です。労働基準法26条の休業手当が平均賃金の6割以上を保障するのに対し、民法536条2項が適用されれば賃金の全額を請求できます。

ただし、この規定を使うには前提があります。そもそも「履行できなくなった債務」が何であったのか、つまり従業員は本来どれだけ働く義務を負い、どれだけの賃金を受け取る契約だったのかが確定していなければ、賃金の額を計算できません。本件の雇用契約書は「始業・終業の時刻等」も「休日」も「シフト表により」と書いてあるだけでしたから、会社側からすれば「働く日数は約束していない」という主張が成り立ち得ます。

そこで争点は、次の2段階で構成されました。第1に、所定内賃金の有無と額、言い換えれば週の所定労働日数や月の最低労働時間数の合意があったのか。第2に、シフトを指定しなかったことが使用者の責めに帰すべき事由による履行不能といえるのか。第1の争点で合意が認められなければ、第2の争点に進む前に請求の土台が崩れる構造です。

3 週20時間以上の合意が認定された理由

東京地裁は、第1の争点について、契約書の文言ではなく採用時の経緯と勤務の実態から合意の内容を認定しました。

従業員は、社会保険への加入が可能であることを確認したうえでシフト制による労働契約を締結し、店長も社会保険への加入手続を進める準備をしていました。裁判所はここから、当事者は従業員のシフト勤務について社会保険の加入要件を満たす内容とすることを前提として契約を締結したものと認めました。短時間労働者が健康保険・厚生年金保険の被保険者となる要件の1つが週の所定労働時間20時間以上であることは、経営者の方にもなじみがあると思います。そして現に、従業員に指定されていた1週当たりのシフト勤務日の労働時間数は合計20時間以上となっていました。

その結果、本件の労働契約では1週当たりの労働時間数を20時間以上とする最低労働時間数の合意がされていたと認めるのが相当であり、所定月額賃金は少なくとも月額9万6000円(時給1200円×20時間×4週)を下らないと認定されています。

この認定の意味を、使用者側と労働者側の両方から見ておきます。使用者側からすれば、契約書に一切書いていない労働時間数が、採用面接でのやりとりと社会保険の手続準備という事実から契約内容に取り込まれたことになります。「社会保険に入れる」という説明は、単なる待遇の案内ではなく、週20時間以上働かせるという約束として読まれたわけです。労働者側からすれば、契約書に日数の定めがなくても、採用時の説明と実際のシフト実績を記録しておけば、最低保障となる労働時間を立証できる道が示されたことになります。

4 「シフトゼロ」が権限の濫用とされた理由

第2の争点について、裁判所はまず、従業員がシフト申請をしていた令和6年6月10日から7月21日までの期間を検討しています。結論は、店長がシフト勤務日を全く指定しなかったことは労務提供の受領拒絶に当たり、それによって労務は履行不能になった、というものです。そして、その受領拒絶に正当な理由がないことを、次の3点から導いています。

1 面談で、あらかじめ受領を拒む意向を示していた
店長は面談の中で「だとしたらシフトにそんなもん入れられないね。」と言い放ち、最後には人手が足りなくても他の人を入れると発言しました。裁判所は、この面談を通じて、以後のシフト表で従業員から申請があっても勤務日を指定しない意向が示され、労務提供の受領があらかじめ拒まれていたと認定しています。

2 正当な注意指導を逸脱した独自の見解を繰り返した
店長は、従業員が服用していた解熱鎮痛剤の名を挙げて、それを服用している時点で体調不良を治す気がないように見える、強力な解熱鎮痛剤を服用してでも出社するようでなければ重要な時間帯のシフトは指定できない、といった発言をしていました。裁判所はこれらを、正当な注意指導を逸脱した不合理な独自の見解と評価しています。

3 体調の確認をしないままシフトを指定しなかった
面談の後も、店長は従業員からのシフト申請を認識していながら、体調管理の状況や体調の改善状況などを確認することなく、シフト勤務日を指定しませんでした。

裁判所は以上から、店長にはシフト決定権限を濫用して正当な理由なくシフト勤務日の指定をしなかった違法があるとし、労務の履行不能は会社の責めに帰すべき事由によるものと結論づけました。

ここで見落としてはならないのは、裁判所がシフト決定権限の存在そのものは否定していないことです。欠勤や早退が多いことを注意指導する行為も、それ自体が違法とされたわけではありません。問題とされたのは、権限の行使のしかたです。合理的な理由なくシフトを大幅に削減することがシフト決定権限の濫用に当たり得るという考え方は、シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日判決)でも示されており、本判決はその延長線上にあると考えられます。

本件で決定的だったのは、確認の不在です。体調不良で欠勤が続く従業員に対し、会社が取り得る手段は本来いくつもあります。現在の体調を聞き取る、医師の受診や診断書の提出を求める、当面のシフトを減らす理由と回復後の見通しを本人に説明する、といった対応です。本件の店長はそれらを経ることなく、面談での発言をそのまま実行してシフトをゼロにしました。裁判所が「正当な理由なく」と評価した背景には、この手順の欠落があると考えられます。

5 シフト申請をしなかった期間まで賃金が認められた理由

本判決の中で、実務への影響がとりわけ大きいのがこの部分です。従業員は令和6年7月22日以降、シフトの申請をしていませんでした。通常の考え方では、労働者が労務提供の申出をしていない期間について、使用者が受領を拒んだとはいいにくく、賃金請求は認められにくい場面です。

しかし裁判所は、この期間についても会社の責めに帰すべき事由を認めました。理由は、会社が店長による度重なる違法な受領拒否を正当なものとして是認していたうえ、自ら7月5日にグループLINEから従業員を一方的に退会させるという積極的な排除行為に及んでいたことです。会社の受領拒絶の意思が明確であり、そこに正当な理由がない以上、従業員が申請を続けていなくても履行不能は会社の帰責事由によるものと評価されています。

グループLINEからの退会処理は、会社の側では連絡先の整理程度の認識だったのかもしれません。この点は掲載記事からは分かりません。しかし裁判所の目には、シフト決定の手段そのものから従業員を締め出す行為と映りました。シフトを申請する手段を会社が奪えば、申請がないことを労働者の不利益に扱うことはできない、という論理です。店舗運営でLINEやシフト管理アプリを使う会社にとって、退会や権限削除の操作が法的な意味を持つことは、知っておくべきと考えられます。

6 企業が点検すべきこと

この判決を自社に引きつけて読むなら、確認すべきは次の点です。

点検1 契約書が「シフト表により」だけになっていないか

厚生労働省の「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(令和4年1月7日公表、令和8年6月19日改正)は、労働条件通知書等に「1か月○日程度勤務」「1週間当たり平均○時間勤務」といった目安や、最低限労働する日数・時間数を定めることを示しています。本判決を踏まえると、目安を書かないことは会社の自由を守ることにはならず、裁判所が採用時の事情と実績から契約内容を補充する余地を残すだけだと考えられます。

点検2 採用時の説明が契約内容になることを意識しているか

「社会保険に入れます」「週○時間くらい入ってもらいます」という採用面接での説明は、本判決の論理では最低労働時間数の合意の根拠になります。説明した内容と契約書の記載が食い違っていれば、説明のほうが契約内容として認定されるおそれがあります。面接で伝える勤務条件は、契約書に落とし込むところまでを1つの手続として設計する必要があると考えられます。

点検3 体調不良で欠勤が続く従業員への対応手順があるか

本件で裁判所が重視したのは、体調の確認をしないままシフトを外したことでした。欠勤が続いたときに、現在の体調を聞き取り、必要に応じて医師の受診を勧め、勤務可能な範囲を本人と確認し、その記録を残す。この手順を店長任せにせず会社として定めておくことが、シフト削減に「正当な理由」を備えるための前提になると考えられます。

点検4 シフトを減らす前に、理由と見通しを本人に説明しているか

安定して出勤できる従業員を優先してシフトを組みたいという店舗側の事情は、それ自体は不合理ではありません。ただし、いきなりゼロにするのではなく、段階的に調整し、その理由と回復後の見通しを本人に説明した記録があるかどうかで、濫用と評価されるリスクは大きく変わると考えられます。面談の発言内容が判決でそのまま引用されている本件は、店長の言葉が証拠になることも示しています。

点検5 連絡手段からの除外を安易に行っていないか

在籍している従業員をシフト決定用のグループから外す行為は、本判決では受領拒絶の明確な意思の表れと評価されました。退職が確定していない従業員をグループから外すことは、会社が自ら労務の受領を拒んだ証拠になり得ます。退会処理の権限と手順を定めておくことが望ましいと考えられます。

7 当法人の視点

本判決を読んで当法人が最も重要だと考えるのは、「社会保険に加入できる」という採用条件が、週20時間という最低労働時間の合意に読み替えられた点です。この論理は、本件に固有のものではありません。

短時間労働者の社会保険の適用範囲は、これから段階的に広がります。厚生労働省の公表によれば、月額賃金8.8万円以上という要件は2026年10月に撤廃される予定であり、企業規模の要件も2027年10月に従業員数36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上へと引き下げられ、2035年10月には撤廃される予定です。つまり、これまで社会保険の対象外だった中小規模の店舗でも、週20時間以上のパート・アルバイトは社会保険に加入することが標準になっていきます。

そうなると、「社会保険に入れる前提で採用する」場面は確実に増えます。本判決の論理に従えば、その採用は週20時間以上の最低労働時間を約束したものと評価され得ます。シフトを減らす自由は、その最低ラインの上でしか働かないことになります。適用拡大は保険料負担の問題として語られることが多いのですが、本判決はそれがシフト運用の自由度にも直結することを示したと考えられます。

当法人の見解

「シフト表により」という契約書の記載は、会社に裁量を与える文言のように見えて、実際には契約内容の空白です。空白は会社の自由として尊重されるのではなく、採用時の説明、社会保険の手続、実際のシフト実績といった事実によって埋められます。本判決はそのことを明確に示しました。シフト制の柔軟さを守りたいのであれば、契約書に目安と最低ラインを自ら書き、シフトを減らすときの手順を決めておくほうが、結果として会社の裁量は広く保たれると考えられます。

体調不良で欠勤が続く従業員への対応は、排除から始めるのではなく、確認から始める。これは従業員を守るためだけの話ではありません。確認の記録があってはじめて、会社はシフト調整の正当な理由を説明できます。本件で会社が失ったのは、シフトを減らす権限ではなく、その権限を正当に行使したと証明する手段でした。

まとめ

東京地裁令和7年10月30日判決は、「シフト表により」としか定めのない雇用契約について、社会保険への加入を前提とした採用経緯と実際のシフトから週20時間以上の最低労働時間数の合意を認定し、体調を確認しないままシフトを一切指定しなかった店長の対応をシフト決定権限の濫用と評価して、従業員がシフト申請をしていなかった期間も含め、月額9万6000円の賃金請求を認めました。

シフト制は、店舗の事情に合わせて柔軟に人員を配置できる制度です。その柔軟さは、契約書の記載、採用時の説明、そしてシフトを減らすときの手順が整っていてはじめて、法的にも守られます。当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。目先の欠員対応ではなく、有事に会社の判断を説明できる運用になっているかという観点から、シフト制の契約と運用を一緒に点検してまいります。

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【根拠法令】

民法536条2項(債権者の責めに帰すべき事由による履行不能)/労働基準法15条(労働条件の明示)、26条(休業手当)/労働基準法施行規則5条1項2号(始業及び終業の時刻、休日等の明示)/健康保険法3条1項9号、厚生年金保険法12条5号(短時間労働者の被保険者資格)/厚生労働省「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(令和4年1月7日公表、令和8年6月19日改正)

【参考判例】

ティーエッセンス事件・東京地方裁判所令和7年10月30日判決(本記事で取り上げた事案。労働新聞社の掲載記事に基づくものであり、当法人は判決文原文を確認できていません。控訴の有無は確認できていません)/シルバーハート事件・東京地方裁判所令和2年11月25日判決(合理的な理由のないシフトの大幅な削減をシフト決定権限の濫用として民法536条2項に基づく賃金請求を認めた事案)/ノース・ウエスト航空事件・最高裁判所第二小法廷昭和62年7月17日判決(民法536条2項と労働基準法26条の「責めに帰すべき事由」の範囲の違い)

【免責事項】

本記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

なお、紛争性のある事案の交渉代理および訴訟代理は、弁護士法72条により社会保険労務士の業務範囲外です(特定社会保険労務士による個別労働関係紛争のあっせん代理等の法定の例外を除きます)。当法人は、雇用契約書および就業規則の設計、シフト決定ルールの整備、欠勤が続く従業員への対応手順の設計、社会保険の適用拡大への対応支援を担い、交渉代理・訴訟対応が必要な局面では提携する弁護士と連携して対応いたします。

この記事を書いた人

三重 英則(HIDE)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員(特定社会保険労務士)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)

法律事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を経験。年間350件以上の相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決の実績を持つ。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度案件を専門とし、「経営者と共に歩き続ける」伴走型の支援を提供している。