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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。 飲食店や小売店では、欠勤や早退が続く従業員を、次のシフトから外すという対応が珍しくありません。「シフト表により」としか書いていない契約書なら、何日入れるかは店の裁量だと考えている経営者も多いはずです。 今回取り上げる東京地裁の判決は、その考え方に正面から答えを出したものです。裁判所は、契約書に労働日数の定めがなくても週20時間以上という最低労働時間数の合意があったと認定し、店長が従業員の体調を確認することなくシフトを一切指定しなかった対応をシフト決定権限の濫用と評価しました。そのうえで、従業員がシフトの申請をしていなかった期間まで含めて、月額9万6000円の賃金請求を認めています。 |
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| 1 事案の概要 | ||||||||||||||||
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本件は、おにぎり等を提供する飲食店に、シフト制勤務の期間の定めのない従業員として採用された労働者が、体調不良を理由とする欠勤と早退をきっかけに店長からシフトを外され、その後の賃金を請求した事案です。労働新聞社の掲載記事に基づき、経過を整理します。 |
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なお、面談の日付、店舗の規模、判決が認容した賃金の終期、控訴の有無については、掲載記事からは確認できていません。判決文の原文も当法人では確認できていないため、本記事は労働新聞社の掲載記事に依拠して解説します。 |
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| 2 「シフト表により」だけの契約書で、何が争点になったのか | ||||||||||||||||
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使用者がシフトを入れなかったことについて賃金を請求する法的な根拠は、民法536条2項です。債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労務提供)を履行できなくなったときは、債権者は反対給付(賃金)の履行を拒むことができない、という規定です。労働基準法26条の休業手当が平均賃金の6割以上を保障するのに対し、民法536条2項が適用されれば賃金の全額を請求できます。 ただし、この規定を使うには前提があります。そもそも「履行できなくなった債務」が何であったのか、つまり従業員は本来どれだけ働く義務を負い、どれだけの賃金を受け取る契約だったのかが確定していなければ、賃金の額を計算できません。本件の雇用契約書は「始業・終業の時刻等」も「休日」も「シフト表により」と書いてあるだけでしたから、会社側からすれば「働く日数は約束していない」という主張が成り立ち得ます。 そこで争点は、次の2段階で構成されました。第1に、所定内賃金の有無と額、言い換えれば週の所定労働日数や月の最低労働時間数の合意があったのか。第2に、シフトを指定しなかったことが使用者の責めに帰すべき事由による履行不能といえるのか。第1の争点で合意が認められなければ、第2の争点に進む前に請求の土台が崩れる構造です。 |
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| 3 週20時間以上の合意が認定された理由 | ||||||||||||||||
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東京地裁は、第1の争点について、契約書の文言ではなく採用時の経緯と勤務の実態から合意の内容を認定しました。 従業員は、社会保険への加入が可能であることを確認したうえでシフト制による労働契約を締結し、店長も社会保険への加入手続を進める準備をしていました。裁判所はここから、当事者は従業員のシフト勤務について社会保険の加入要件を満たす内容とすることを前提として契約を締結したものと認めました。短時間労働者が健康保険・厚生年金保険の被保険者となる要件の1つが週の所定労働時間20時間以上であることは、経営者の方にもなじみがあると思います。そして現に、従業員に指定されていた1週当たりのシフト勤務日の労働時間数は合計20時間以上となっていました。 その結果、本件の労働契約では1週当たりの労働時間数を20時間以上とする最低労働時間数の合意がされていたと認めるのが相当であり、所定月額賃金は少なくとも月額9万6000円(時給1200円×20時間×4週)を下らないと認定されています。 この認定の意味を、使用者側と労働者側の両方から見ておきます。使用者側からすれば、契約書に一切書いていない労働時間数が、採用面接でのやりとりと社会保険の手続準備という事実から契約内容に取り込まれたことになります。「社会保険に入れる」という説明は、単なる待遇の案内ではなく、週20時間以上働かせるという約束として読まれたわけです。労働者側からすれば、契約書に日数の定めがなくても、採用時の説明と実際のシフト実績を記録しておけば、最低保障となる労働時間を立証できる道が示されたことになります。 |
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| 4 「シフトゼロ」が権限の濫用とされた理由 | ||||||||||||||||
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第2の争点について、裁判所はまず、従業員がシフト申請をしていた令和6年6月10日から7月21日までの期間を検討しています。結論は、店長がシフト勤務日を全く指定しなかったことは労務提供の受領拒絶に当たり、それによって労務は履行不能になった、というものです。そして、その受領拒絶に正当な理由がないことを、次の3点から導いています。 |
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ここで見落としてはならないのは、裁判所がシフト決定権限の存在そのものは否定していないことです。欠勤や早退が多いことを注意指導する行為も、それ自体が違法とされたわけではありません。問題とされたのは、権限の行使のしかたです。合理的な理由なくシフトを大幅に削減することがシフト決定権限の濫用に当たり得るという考え方は、シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日判決)でも示されており、本判決はその延長線上にあると考えられます。 本件で決定的だったのは、確認の不在です。体調不良で欠勤が続く従業員に対し、会社が取り得る手段は本来いくつもあります。現在の体調を聞き取る、医師の受診や診断書の提出を求める、当面のシフトを減らす理由と回復後の見通しを本人に説明する、といった対応です。本件の店長はそれらを経ることなく、面談での発言をそのまま実行してシフトをゼロにしました。裁判所が「正当な理由なく」と評価した背景には、この手順の欠落があると考えられます。 |
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| 5 シフト申請をしなかった期間まで賃金が認められた理由 | ||||||||||||||||
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本判決の中で、実務への影響がとりわけ大きいのがこの部分です。従業員は令和6年7月22日以降、シフトの申請をしていませんでした。通常の考え方では、労働者が労務提供の申出をしていない期間について、使用者が受領を拒んだとはいいにくく、賃金請求は認められにくい場面です。 しかし裁判所は、この期間についても会社の責めに帰すべき事由を認めました。理由は、会社が店長による度重なる違法な受領拒否を正当なものとして是認していたうえ、自ら7月5日にグループLINEから従業員を一方的に退会させるという積極的な排除行為に及んでいたことです。会社の受領拒絶の意思が明確であり、そこに正当な理由がない以上、従業員が申請を続けていなくても履行不能は会社の帰責事由によるものと評価されています。 グループLINEからの退会処理は、会社の側では連絡先の整理程度の認識だったのかもしれません。この点は掲載記事からは分かりません。しかし裁判所の目には、シフト決定の手段そのものから従業員を締め出す行為と映りました。シフトを申請する手段を会社が奪えば、申請がないことを労働者の不利益に扱うことはできない、という論理です。店舗運営でLINEやシフト管理アプリを使う会社にとって、退会や権限削除の操作が法的な意味を持つことは、知っておくべきと考えられます。 |
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| 6 企業が点検すべきこと | ||||||||||||||||
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この判決を自社に引きつけて読むなら、確認すべきは次の点です。 |
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| 7 当法人の視点 | ||||||||||||||||
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本判決を読んで当法人が最も重要だと考えるのは、「社会保険に加入できる」という採用条件が、週20時間という最低労働時間の合意に読み替えられた点です。この論理は、本件に固有のものではありません。 短時間労働者の社会保険の適用範囲は、これから段階的に広がります。厚生労働省の公表によれば、月額賃金8.8万円以上という要件は2026年10月に撤廃される予定であり、企業規模の要件も2027年10月に従業員数36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上へと引き下げられ、2035年10月には撤廃される予定です。つまり、これまで社会保険の対象外だった中小規模の店舗でも、週20時間以上のパート・アルバイトは社会保険に加入することが標準になっていきます。 そうなると、「社会保険に入れる前提で採用する」場面は確実に増えます。本判決の論理に従えば、その採用は週20時間以上の最低労働時間を約束したものと評価され得ます。シフトを減らす自由は、その最低ラインの上でしか働かないことになります。適用拡大は保険料負担の問題として語られることが多いのですが、本判決はそれがシフト運用の自由度にも直結することを示したと考えられます。 |
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| まとめ | ||||||||||||||||
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東京地裁令和7年10月30日判決は、「シフト表により」としか定めのない雇用契約について、社会保険への加入を前提とした採用経緯と実際のシフトから週20時間以上の最低労働時間数の合意を認定し、体調を確認しないままシフトを一切指定しなかった店長の対応をシフト決定権限の濫用と評価して、従業員がシフト申請をしていなかった期間も含め、月額9万6000円の賃金請求を認めました。 シフト制は、店舗の事情に合わせて柔軟に人員を配置できる制度です。その柔軟さは、契約書の記載、採用時の説明、そしてシフトを減らすときの手順が整っていてはじめて、法的にも守られます。当法人は「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」ことを使命としています。目先の欠員対応ではなく、有事に会社の判断を説明できる運用になっているかという観点から、シフト制の契約と運用を一緒に点検してまいります。 |
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