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作成日:2026/08/27
【裁判例】日東電工事件・最高裁令和8年2月13日判決 一時金の不払いは「不法行為」になるのか
最新最高裁判例 同一労働同一賃金 有期雇用
日東電工事件・最高裁令和8年2月13日判決
一時金の不払いは「不法行為」になるのか

契約社員の一時金をめぐる請求構成に最高裁が示した重要判断と、企業が今すぐ確認すべきポイント

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

2026年2月13日、最高裁判所第二小法廷は、有期雇用労働者の待遇をめぐる実務に影響する注目判決を言い渡しました。日東電工事件(最高裁第二小法廷令和8年2月13日判決・令和6年(受)第2399号)です。有期雇用契約社員らが会社に対し、一時金等が支払われなかったことによる損害賠償を求めた事案で、最高裁は「労働契約上の一時金請求権があるなら、その不払いを理由に一時金相当額を不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として請求することはできない」と判断しました。

本記事では、この判決の内容と、企業が読み違えてはいけないポイント、そして人事労務実務への影響を解説します。

📌 この記事の要点

  • 最高裁は、労働契約に基づく一時金の具体的請求権があることを前提とする場合、その不払いは契約上の金銭債務の不履行にすぎず、一時金相当額を不法行為に基づく損害賠償として請求することはできないと判断した
  • 「有期雇用労働者に一時金を払わなくてよい」「待遇差は自由」と読むのは誤読。本判決は請求の法的構成に関する判断である
  • 扶養手当・特別休暇に係る損害賠償請求に関する会社側の上告は却下されており、待遇差の問題自体が消えたわけではない
  • 企業がまず確認すべきは「その労働者に、どの就業規則・賃金規程が適用され、どのような賃金請求権が発生しているのか」という雇用区分と規程の整合性である

1.事案の概要 ― 亀山事業所の契約社員が起こした待遇格差訴訟

【事実】本件は、日東電工株式会社に有期雇用契約社員として雇用されていた労働者らが、会社が労働契約に基づく一時金を支払わなかったことなどにより損害を被ったと主張して、会社に対し、不法行為に基づき一時金相当額および弁護士費用相当額の損害賠償を求めるなどした事案です。第一審は労働者らの請求を一部認容し、双方が控訴しました。

【報道ベース】報道によれば、本件は三重県の同社亀山事業所の従業員らが正社員との賃金・手当等の格差を争った訴訟であり、一審の津地裁は計約3,200万円の賠償を命じ、控訴審の名古屋高裁(令和6年9月12日判決)はこれを一部変更して計約3,500万円の支払いを命じていました。

【事実】控訴審は、本件の有期雇用契約社員と正社員との間には職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな差異があり、「同一労働」ということはできず同一労働同一賃金の前提自体を欠くなどとして第一審判決を変更しており、これに対して会社側が上告したものです。

💡 訴訟の経過

第一審 津地裁 ― 請求を一部認容(報道ベースで計約3,200万円の賠償命令)
控訴審(原審) 名古屋高裁 令和6年9月12日判決 ― 第一審判決を一部変更(報道ベースで計約3,500万円の支払命令)
上告審 最高裁第二小法廷 令和8年2月13日判決 ― 一時金に係る損害賠償請求に関する会社敗訴部分を破棄

2.最高裁の判断 ― 「債務不履行」と「不法行為」の峻別

【事実】最高裁が今回判断を示したのは、次の問題です。

労働契約上、一時金を請求できる具体的な権利(賃金債権)があるのなら、その不払いについて、一時金と同じ金額を「不法行為による損害」として賠償請求できるのか?

【事実】最高裁の結論は「できない」です。労働者らが賃金債権を有するのであれば、会社がその支払債務を履行しなかったとしても、それは契約に基づく金銭債務の不履行となるにすぎません。したがって、会社による一時金の支払債務の不履行を理由として、一時金相当額を不法行為に基づく損害賠償として請求することはできないと判断しました。

【事実】そのうえで最高裁は、これと異なる判断をした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして、原判決のうち一時金に係る損害賠償請求に関する会社敗訴部分を破棄しました。

【事実】他方で、扶養手当および特別休暇に係る損害賠償請求に関する会社側の上告は却下されています。つまり、本件で争われた待遇差のすべてについて会社側の主張が通ったわけではない点にも注意が必要です。

3.この判決をどう読むべきか ― 3つの「誤読」に注意

【解説ベース】本判決は結論だけを見ると「会社側の逆転勝訴」と映りますが、次のような理解は判決の射程を誤るものです。

❌ 誤った読み方 ✅ 正しい理解
有期雇用労働者に一時金を支給しなくても問題ない 本判決は一時金の支給義務の有無そのものを否定したものではない。むしろ「労働契約上の具体的請求権がある」ことを前提とした場合の請求構成を論じている
正社員と有期雇用労働者の待遇差は自由に設定できる 不合理な待遇差の禁止(旧労契法20条、現在のパート有期法8条)の枠組み自体は何ら変更されていない。現に扶養手当・特別休暇に関する上告は却下されている
未払賃金の問題は今後争えなくなる 契約上の賃金債権があるなら、賃金請求(債務不履行構成)として請求する道は当然に残る。封じられたのは「不払いをそのまま不法行為に置き換えて同額を請求する」構成である

【解説ベース】最高裁が明確にしたのは、あくまで請求の法的構成に関するルールです。契約に基づいて支払われるべき金銭が支払われないのであれば、それは契約の問題(債務不履行)として処理すべきであり、同じ不払いを民法709条の不法行為として構成し直して同額の「損害」を請求することはできない――この整理が本判決の核心です。

4.会社側から見た実務上のポイント ― 問われるのは「規程の整合性」

【解説ベース】本判決を実務に引き付けたとき、企業が確認すべきなのは「賞与・一時金を支払うかどうか」だけではありません。より手前にある問題、すなわち「その労働者に、そもそも一時金について労働契約上の具体的請求権が発生しているのか」です。

【解説ベース】この判断は、雇用契約書だけを見ても完結しません。就業規則、賃金規程、賞与規程、雇用区分ごとの規程、労働条件通知書、過去の支給実績、労使間での説明内容などを総合して確認する必要があります。特に複数の雇用区分を設けている会社では、次のような状態になっていないか点検が必要です。

✅ 雇用区分・規程整備のチェックポイント

  • 「正社員」「契約社員」「準社員」「パート社員」「嘱託社員」など、雇用区分ごとに適用される就業規則・賃金規程が明確になっているか
  • 賞与・一時金・各種手当について、「支給する」「支給することがある」等の文言が適切に使い分けられているか
  • 雇用契約書・労働条件通知書と就業規則との間に矛盾がないか
  • 有期雇用労働者と無期雇用労働者との待遇差について、待遇の性質・目的に照らして説明できる状態になっているか(パート有期法8条・14条2項)
  • 「昔からこの運用だから」という理由だけで待遇差を維持していないか

【解説ベース】労働条件をめぐる紛争では、会社が考えていた雇用区分と、実際の契約書・就業規則の内容が一致していないケースが少なくありません。どの規程がどの労働者に適用されるのかが曖昧なままでは、想定外の賃金請求権が発生していると評価されるリスクを抱えることになります。

5.当法人からの実務コメント

【解説ベース】本判決について、「会社側が勝った」「非正規社員に賞与を払わなくてもよい」という単純な理解は適切ではないと思料いたします。最高裁が明確にしたのは、労働契約上の具体的請求権の不履行を、そのまま不法行為に置き換えて同額の損害賠償を求めることはできないという、請求構成に関するルールです。

【解説ベース】会社にとってより重要なのは、その前段階にある「そもそもどの就業規則が適用され、どのような賃金請求権が発生しているのか」を明確にしておくことです。本判決は単なる「一時金の事件」として読むのではなく、雇用区分と就業規則・賃金制度の整合性を改めて点検する契機となる判決として捉えるべきでしょう。

当法人では、雇用区分ごとの就業規則・賃金規程の整備や、同一労働同一賃金対応としての待遇差の点検・説明資料の作成を支援しています。「うちの契約社員規程はいつ作ったか分からない」「正社員規程しかない」という会社様は、この機会にぜひ一度ご相談ください。

▶ 就業規則・雇用区分の点検について相談する

関連サービス:就業規則作成・改訂労働紛争解決

📋 判決情報

日東電工事件
最高裁判所第二小法廷 令和8年(2026年)2月13日判決
事件番号:令和6年(受)第2399号
原審:名古屋高等裁判所 令和6年9月12日判決(第一審:津地方裁判所)
参照法条:民法709条、旧労働契約法20条(現・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条)

根拠法令・出典
・民法709条(不法行為による損害賠償)
・旧労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条・14条2項
・最高裁判所第二小法廷令和8年2月13日判決(令和6年(受)第2399号)の判決要旨:TKC「LEX/DBインターネット」新着判例(https://www.tkc.jp/law/lawlibrary/saishin/?list=41)
・原審(名古屋高裁令和6年9月12日判決)・第一審(津地裁)の賠償額に関する報道:中日新聞Web 2024年9月12日(https://www.chunichi.co.jp/article/957116)
※最高裁判決全文の裁判所ウェブサイト掲載URLは本稿執筆時点で未確認です(裁判所「裁判例検索」https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html にて要・人手検索)。
【免責事項】本記事は2026年8月時点で確認できた判決要旨・報道・法令に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を構成するものではありません。判決全文の公表により記載内容に補正が必要となる可能性があります。具体的なご対応にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
WRITTEN BY
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員

名古屋市中区を拠点に、就業規則整備・労働紛争対応・IPO労務監査など、企業の人事労務を幅広くサポート。経営者と共に歩き、最善の解を導き出すことをモットーに、実務に即した助言を提供しています。