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作成日:2026/08/05
【裁判例】「相談には応じた」のに会社が敗訴? ― ジャパンチキンフードサービス事件にみるセクハラ事後対応の落とし穴
裁判例解説

「相談には応じた」のに会社が敗訴?
― ジャパンチキンフードサービス事件にみるセクハラ事後対応の落とし穴


東京地判令和6年10月22日 ― 当事者へのヒアリングを欠いた対応は不十分

2026年8月5日|社会保険労務士法人T&M Nagoya

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

従業員からセクハラの相談を受けたとき、「相談に応じ、証拠となる資料も本人に渡した。会社としてやるべきことはやった」――そう考えてはいないでしょうか。

今回ご紹介するジャパンチキンフードサービス事件(東京地判令和6年10月22日)は、会社が相談に応じ、店内の録画データを提供するなどの対応をしていたにもかかわらず、当事者からの詳細な聞取り調査をせず、加害者への指導も被害者への謝罪もなかったことから、会社の対応として不十分と判断された事案です。「協力はしたが、調査と事後措置をしなかった」ことの重さを示す判決といえます。

📌 この記事の要点

・飲食店店員が店舗でセクハラを受けたとして会社に慰謝料等を請求。東京地裁はセクハラの事実を認め、使用者責任と安全配慮義務違反の双方を認定し、合計60万円の慰謝料等の支払いを命じました。
・会社は「相談に応じ、店内の録画データを提供した」として安全配慮義務違反はないと主張しましたが、当事者から詳細な聞取り調査をせず、加害者への指導や被害者への謝罪もなかったことから、対応として不十分と判断されました(この点に係る慰謝料は30万円)。
・解説記事は、均等法上の措置義務の内容が民事上の安全配慮義務を構成すると指摘された点に注目しています。措置義務化から約18年、体制未整備の企業は民事責任を問われうる段階にあります。
・相談対応は「要請に応じる」だけでは足りず、双方ヒアリング→事実認定→行為者への指導等の事後措置、という一連のプロセスが求められます。

1. 事案の概要 ― 深夜の店舗で起きたセクハラと会社の対応

労働新聞社の判例解説記事によれば、事案の概要は次のとおりです。

原告は、ダイニングバー・居酒屋等の飲食店を営み都内に複数の店舗を有する被告会社に、令和3年3月に従業員として雇用され、都内の複数の飲食店で勤務した後、令和4年11月下旬頃から本件店舗での勤務を開始しました。

原告は、令和5年4月に「ご連絡」と題する書面を会社に送付し、令和4年11月27日午前4時頃、本件店舗において、同店の外国人スタッフから性的嫌がらせを受けたと主張して、使用者責任(民法715条)または安全配慮義務違反を理由とする債務不履行責任に基づき、慰謝料300万円および遅延損害金を請求しました。

争点は、@性的嫌がらせの事実の有無、A事実がある場合の使用者責任の有無、B安全配慮義務違反の事実の有無、C損害額です。会社は、相談に応じ店内の録画データを提供したなどとして、安全配慮義務違反はないと主張しました。

2. 判決の結論 ― 使用者責任と安全配慮義務違反の双方を認定

東京地裁は、セクハラの事実を認定したうえで、被告の使用者責任に基づく損害賠償と、安全配慮義務違反に基づく損害賠償をそれぞれ認定し、合計60万円の慰謝料および遅延損害金の支払いを命じました。

安全配慮義務違反の判断において裁判所が問題としたのは、会社の対応の中身です。会社は相談に応じ、録画データを提供するなどの対応はしていましたが、当事者から詳細な聞取り調査をせず、加害者への指導や被害者への謝罪もなかったことから、セクハラの訴えがあった会社の対応として不十分と判断され、この点に係る慰謝料は30万円とされています。

3. なぜ「協力していた」のに不十分なのか ― 証拠開示≠事実調査

解説記事が特に注目するのは、この点です。事実認定からは、店舗の録画データが原告に渡されており、原告が訴えたセクハラ行為を客観的に示す資料があったことがうかがえます。それでも本判決は、録画データを本人の要請に応じて開示するのみでは、事実調査として不十分と指摘しました。

厚生労働省のセクハラ指針は、事後の迅速かつ適切な対応として、相談者・行為者の双方から事実関係を確認すること、その際、相談者の心身の状況や、言動が行われた時の受止め方などにも配慮することを求めています。解説記事は、ハラスメント調査においては、客観的な行為の確認のみならず、行為者については動機や理由を、被害者については行為を受けた時の心情を、その主観も含めて詳細にヒアリングし、行為の悪質性等を評価することが重要だと述べます。それが、セクハラと認定された後の適切な事後措置を実施するためのポイントになるからです。

本件では、行為者のヒアリングを行っておらず、事後措置として行為者に対する指導等を何もしていないと指摘されました。ハラスメントの申告に対し、単に相談者からの要請に応じたというだけでは、適切な事実調査や、それに基づく適切な事後措置の実施は困難である――解説記事はそう総括しています。

4. 均等法の措置義務が「民事上の安全配慮義務」になる

本判決のもう一つの重要な意義は、男女雇用機会均等法11条が事業主に課すセクハラに関する雇用管理上の措置義務の内容が、民事上の会社の安全配慮義務を構成することを指摘した点です。

▼ 均等法11条・セクハラ指針が事業主に求める措置(骨子)

@ セクハラを容認しない方針の明確化と周知・啓発
A 相談に適切に対応するために必要な相談体制の整備(相談窓口の設置等)
B 事後の迅速かつ適切な対応(相談者・行為者双方からの事実確認、事実が確認された場合の被害者への配慮措置・行為者への措置、再発防止策)
※あわせて、プライバシー保護や、相談を理由とする不利益取扱いの禁止の周知等も求められます。

解説記事によれば、均等法改正によりセクハラに対する雇用管理上の措置が事業主の義務となったのは平成19年であり、現時点で約18年が経過しています。このような現状にあって、セクハラに対する体制が十分構築されていない企業は、自らが安全配慮義務の責任を問われることを、本裁判例は端的に示しています。「措置義務は行政指導の話」ではなく、損害賠償という民事責任に直結する段階に入っているということです。

5. 実務への示唆 ― ハラスメント申告を受けたときの対応手順

✅ CHECK POINT ― 申告対応の基本プロセス

@ 相談者ヒアリング:事実関係(いつ・どこで・誰が・何を)に加え、行為を受けた時の心情・受止め方まで丁寧に聴取する。心身の状況に配慮し、記録化する。

A 行為者ヒアリング:本件で欠けていたのがこの工程です。行為の有無だけでなく、動機や理由も含めて聴取し、行為の悪質性等を評価できる材料を揃える。必要に応じて第三者(目撃者等)にも確認する。

B 事実認定と事後措置:客観資料とヒアリング結果を突き合わせて事実を認定し、事実が確認された場合には、行為者への指導・懲戒等の措置、被害者への配慮措置(謝罪の場の設定、配置転換等)、再発防止策を実施する。

C 「本人の要請に応じる」だけで終えない:証拠の開示や店舗変更等の個別要請への対応は、それ自体は誠実な対応でも、調査・認定・措置のプロセスの代わりにはなりません。会社が主体的に調査を設計・実行することが求められます。

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🔎 本記事の確信度について

本記事は、労働新聞社の判例解説記事(ジャパンチキンフードサービス事件・東京地判令和6年10月22日)を主たる情報源とし、労働新聞社公式サイトで事件の実在と要旨(合計60万円の認容、うち会社対応の不十分に係る慰謝料30万円)を確認のうえ執筆しています【解説ベース】。判決原文は参照できていないため、判旨の詳細な表現は解説記事に依拠しています。均等法11条の措置義務とセクハラ指針の内容は法令・告示に基づく一般的な整理です【確認済み】。個別事案への適用にあたっては、必ず判決原文および専門家の助言をご確認ください。

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【根拠法令・裁判例】
・民法715条(使用者責任)、415条(債務不履行)
・労働契約法5条(労働者の安全への配慮)
・男女雇用機会均等法11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
・事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)
・ジャパンチキンフードサービス事件(東京地判令和6年10月22日)

【出典・参考資料】
・労働新聞社「ジャパンチキンフードサービス事件(東京地判令6・10・22)」(令和7年8月11日第3508号14面掲載)
・労働新聞社公式サイト・同事件紹介ページ https://www.rodo.co.jp/precedent/203500/
・厚生労働省「セクシュアルハラスメントに関する主な裁判例」 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/04/s0408-4i.html

【免責事項】
本記事は執筆時点で確認できた公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。ハラスメント事案への対応は事実関係により適切な措置が異なるため、具体的な対応にあたっては弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
WRITTEN BY
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号第160175号)