作成日:2026/08/04
【解釈】“着替え”は労働時間? 厚労省がパンフレットで考え方を明示
| 労務トピックス 労働時間管理 |
“着替え”は労働時間? 厚労省がパンフレットで考え方を明示 |
| ── 研修・仮眠・待機時間まで、該当する例・しない例を整理 |
| 2026年8月4日|社会保険労務士法人T&M Nagoya |
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おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。
「始業前の着替えは労働時間に入るのか」「任意参加の勉強会に賃金は必要か」──労働時間の範囲をめぐるご質問は、労務管理の現場で最も頻度の高いテーマの一つです。
このたび厚生労働省が、労働時間に関する考え方を整理したパンフレットを公表したことが報じられました(労働新聞2026年7月17日付ニュース)。着替え・研修・仮眠・待機といった「グレーになりがちな時間」について、労働時間に該当する例・該当しない例を具体的に示した点が特徴です。本記事では、報道内容と厚生労働省の公表資料をもとに、経営者・人事担当者が押さえるべきポイントを解説します。 |
📌 この記事の要点
・厚労省が労働時間の考え方を示すパンフレットを公表したと報じられました(労働新聞2026年7月17日付) ・着替え時間:制服・作業着の着用が任意、または自宅からの着用を認めている場合は労働時間に該当しないと整理 ・研修・教育訓練:業務上義務付けられていない自由参加なら労働時間に当たらない一方、「形式上任意」でも実質強制なら算入が必要 ・仮眠・待機時間:電話・来客対応の必要がなく実際に業務を行わない場合は労働時間としなくてよいと整理 ・判断の物差しは一貫して「使用者の指揮命令下に置かれているか」。形式ではなく実態で決まります |
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労働新聞(2026年7月17日付ニュース)によれば、厚生労働省は労働時間の原則的な考え方とともに、労働時間に該当する例・該当しない例を挙げたパンフレットを公表しました【報道ベース】。
厚生労働省はこれまでも、リーフレット「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」において、労働基準監督署への問合せが多い場面(研修・移動時間・更衣・仮眠待機)ごとの相談事例を公表してきました。今回報じられたパンフレットは、こうした考え方を冊子形態で整理し、事例を拡充したものとみられます【解説ベース】。
重要なのは、行政の示す判断の物差しが一貫している点です。すなわち、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に該当する──この枠組みは、最高裁判例(三菱重工業長崎造船所事件・最一小判平成12年3月9日)以来、行政解釈・裁判実務を通じて確立されたものです。 |
| 報道および厚生労働省の公表資料で示されている考え方を、場面別に比較表で整理します。 |
| 場面 |
労働時間に該当する例 |
労働時間に該当しない例 |
着替え (更衣時間) |
事業場内での所定の服装への着替えを使用者から義務付けられ、または余儀なくされている場合(労働時間適正把握ガイドライン・最高裁判例の枠組み) |
制服・作業着の着用が任意である場合や、自宅からの着用を認めている場合 |
研修・ 教育訓練 |
形式上は自由参加でも、業務で取り扱う商品の説明が主な内容で、受講が正社員登用の要件とされ、参加できるよう使用者がシフトを調整していたケース──事実上参加が強制されているとして算入が必要【報道ベース】 |
業務上義務付けられていない自由参加のもの。終業後の夜間勉強会で、弁当の提供はあるが参加の強制はなく、不参加への不利益取扱い(ペナルティー)もない場合 |
仮眠・ 待機時間 |
呼び出しへの即応が求められるなど、労働からの解放が保障されていない場合(裁判例の一般的傾向) |
電話や来客対応の必要がなく、実際に業務を行うことがない場合。夜間の緊急対応当番でも、社用携帯を持って帰宅した後は自由に過ごすことが認められている場合の待機時間 |
⚖️ 判断枠組みの原点──三菱重工業長崎造船所事件
最高裁(最一小判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁)は、労働時間該当性は労働契約や就業規則の定めいかんではなく客観的に定まるとしたうえで、業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から義務付けられ、または余儀なくされたときは、特段の事情のない限り労働時間に当たると判断しました。
今回のパンフレットが示す「着用が任意」「自宅からの着用を認めている」場合に労働時間に該当しないという整理は、裏を返せば、事業場内での着替えを義務付け・余儀なくさせていれば労働時間になるという、この最高裁の枠組みと表裏の関係にあります。 |
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今回の整理で実務上最も重要なのは、研修・教育訓練に関する「形式上は自由参加であっても、実態として参加が強制されていれば労働時間に算入しなければならない」という考え方です【報道ベース】。
報道で紹介された事例では、@研修内容が業務で取り扱う商品の説明であること、A受講が正社員登用の要件とされていること、B参加できるよう使用者がシフトを調整していたこと──という事情から、事実上の強制参加と評価されています。「任意参加」と規程に書いてあるかどうかではなく、不参加が事実上許されない状況を会社が作っていないかが問われるのです。
着替え時間についても同様です。「着替えは各自の判断」と説明していても、更衣室での着替えを事実上義務付ける運用(制服での通勤禁止、衛生管理上の着替え必須など)があれば、労働時間と評価されるリスクが残ります。就業規則・運用実態・現場への周知の三点セットで整合を取ることが不可欠です。 |
✅ 自社チェックポイント(今日から確認できます)
□ 制服・作業着の着用ルール(任意か義務か、自宅からの着用可否)が就業規則や運用で明確になっているか □ 「任意参加」の研修・勉強会について、不参加者への不利益取扱い(評価・登用への影響を含む)が本当にないか □ 研修参加のために会社がシフト調整をするなど、実質的に参加を前提とした運用になっていないか □ 仮眠・待機時間中に、電話対応・来客対応・呼び出し対応の義務が課されていないか □ 当番制の緊急対応について、待機中の行動制約の有無を確認し、賃金の要否を整理しているか |
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| 本記事で解説した考え方の基礎となる厚生労働省の公表資料は、以下から直接ダウンロードできます(いずれもPDF・厚生労働省公式サイト)。 |
📥 厚生労働省 公表資料
| ※ 報道された2026年7月公表の新パンフレット本体は、本記事執筆時点で厚生労働省サイト上の掲載URLを確認できていません(URL未確認)。厚生労働省ホームページの新着情報または最寄りの労働基準監督署でご確認ください。掲載を確認でき次第、本記事にリンクを追記します。 |
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| 5|まとめ──「実態」で判断される時代の労働時間管理 |
着替え・研修・仮眠待機をめぐる労働時間の判断は、賃金不払(未払賃金)リスクに直結します。賃金請求権の消滅時効は労働基準法上5年(当分の間3年)とされており、判断を誤ったまま運用を続けると、後から数年分をまとめて請求されるおそれがあります。
今回のパンフレット公表は、行政の判断基準が「規程の文言」ではなく「運用の実態」にあることを改めて経営者に示すものです。近時は着替え時間・待機時間の労働時間性が争われる裁判例も相次いで報告されており、就業規則の定めと現場運用のズレを放置しないことが、最も費用対効果の高いリスク対策になります。
当法人では、就業規則の作成・改訂や給与監査顧問を通じて、労働時間の範囲設定と賃金計算の整合性チェックをサポートしています。「うちの着替え・研修・待機はどう扱うべきか」と迷われた際は、実態確認の段階からお手伝いいたします。 |
🔎 本記事の確認状況
・パンフレット公表の事実および事例(正社員登用要件の研修等)は労働新聞2026年7月17日付ニュース(労働新聞 令和8年7月27日第3554号2面掲載)に基づく【報道ベース】です。 ・着替え・任意勉強会・仮眠・当番待機の各事例は、厚生労働省リーフレット「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」(上記ダウンロードリンク)で原文を確認済みです【事実・確認済】。 ・報道された新パンフレット本体の掲載URLは執筆時点で未確認です(本文4章に記載のとおり)。 |
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【根拠法令・判例】 ・労働基準法第32条(労働時間)、第37条(割増賃金)、第115条・第143条第3項(賃金請求権の消滅時効:5年〔当分の間3年〕) ・三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁)
【参考資料】 ・労働新聞社「“着替え”扱いを明示 労働時間の考え方で冊子 厚労省」(2026年7月17日・労働新聞ニュース/労働新聞 令和8年7月27日第3554号2面) ・厚生労働省リーフレット「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」 ・厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定) |
【免責事項】 本記事は、公表時点の報道・公的資料に基づく一般的な情報提供を目的とするものであり、個別事案に対する法的助言ではありません。労働時間該当性の判断は個別の事実関係により結論が異なり得ます。実際の対応にあたっては、当法人または労働基準監督署等へご相談ください。 |
執筆者
三重 英則(社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員) 特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員 SRP認証番号第160175号 名古屋市中区を拠点に、労働時間管理・就業規則整備・IPO労務監査など中小企業の労務課題を支援しています。 |
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